名探偵と料理人
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第四十一話 前編 -そして人魚はいなくなった-
前書き
このお話は原作第28巻が元になっています。
冬休みのあくる日、平ちゃんに「2,3日旅行にいかへんか?」と電話が来た。スケジュールを聞いたところ俺も紅葉も空いていた日程だったので了承の返事を返した。なんでも福井の若狭湾沖の美國島に来てほしいと調査の依頼があったらしい。とある事情で毛利探偵事務所の人たちにも誘いをかけたらしい。なんで俺達も?と聞くと、島だけあって漁業が盛んらしく「龍斗も誘ったろと思てな」とのこと…いいね。できれば自分で釣るか素潜りたいが新鮮なものを捌くのもいいもんだ。
「それで?探偵事務所に集合って事らしいけど電気ついてませんよ?」
「だねえ。おかしいな、この時間って言われたんだけど」
福井まで夜行バスでいくらしく夜の出発との事をつい数時間前に電話で教えてもらった。紅葉は初めての経験らしくとてもはしゃいでいたのだが待ち合わせの毛利探偵事務所の電気はついていなく、人影もない。んー、先に行ったとは考えられないしどうしたのやら…
「龍斗が明日の朝ご飯作ってたからおいてかれたんとちゃう?」
「んー。それなら連絡はいるだろうし多分違うと思うけど。ってあれ?」
「え?あ、向こうから歩いて来てるの蘭ちゃんたちやな。それに和葉ちゃんたちもおる」
「そうみたいだね…おーい!」
向こうも俺達に気付いたのか、少々小走りになってこちらに来た。
「龍斗!スマンスマン。実はな……」
なんと、静華さんが来ていたのか。平ちゃんのお母さんである服部静華さんが小五郎さんと関わると何かと怪我が多いのでどのような人物かを見極めるために正体を隠して小五郎さんにとある依頼をしたそうだ。その依頼により静岡に行っていて今帰ってきた。その静岡でも殺人事件に巻き込まれたらしいが、まあ早めに解決できたのは、俺達がたちっぱでそこまで待たされることがなかったという意味でも良かったよ。
「ホンマの事を言うと龍斗達にも静岡に来てもろてそのまま行こうと思てたんやけど…」
「オマエなあ!日帰り旅行じゃねーんだから着たきり雀になるわけにいかねーだろうが!」
……なるほど。ちゃんと話してなかったな。新ちゃんの方を見るとばつの悪そうの顔をしていたのでこれは新ちゃんには連絡はしていたが本気にしていなくて伝えていなかったパターンかな?それで着替えなどの荷物をまとめるために一度東京に戻ってきたと。
「もう、お父さん。帰ってくるまでに散々言ったでしょ。ほら、さっさと荷物まとめるわよ!」
「あ、ああ」
「じゃあ、みんな。ちょっと待っててね。すぐに荷物をまとめてくるから!」
そう言うと蘭ちゃんは二人を連れて事務所の三階に行ってしまった。
「もー。平ちゃん。こういう事はちゃんと連絡しないと」
「いや、オレはちゃんとしたで?」
「どうせコナン君だけに電話したんでしょ?こういう時は全員に、だよ。それにしても3Kで行ってたまたすぐにってこの事だったのな」
「あ、それはちゃう。依頼が来たのは二日前やからな。単純に元旦に会おうって意味やってん。それと電話やけどくど…あのボウズが後の二人に教えてくれてると思てん」
「なー平次。時間大丈夫なん?」
紅葉と話をしていた和葉ちゃんがそう聞いて来た。そう言えば静岡で合流してそのまま来るつもりだったはずなのに事件に巻き込まれたんだし、俺も気になるな。
「そりゃ、大丈夫や。オカンにオッチャン達が東京出る時に荷物持ってないことは電話できいとったし、時間通りに行かんやろと思て遅めのバス予約しとったからに。いやあ、すいとってよかったわ」
「時間通りに行かんって?」
「アイツはどこでも事件に巻き込まれるからな。まあまさか四朗はんが殺人事件で殺されるとは思わんかったけどな」
「アイツって毛利のオッチャンの事?」
「お、おうそやで?」
なんとまあ、手際のいいことで。なら心配ないかな。
「ごめん、お待たせ!」
「大丈夫や。ほないこか?」
毛利一行も準備を済ませ、俺達に合流し俺達は福井へと出発した。
――
バスに揺られ揺られて福井についた俺達はそのまま船に乗り美國島へと向かっていた。
船の上で平ちゃんは小五郎さんに文句を言われてやっと今回の調査の依頼について詳しく教えてくれた。なんでもあの島は三年前に不老不死のお婆さんがいてそれが観光の目玉になっている島らしい。それでその依頼主は「人魚に殺される、助けて」との手紙を送ってきたそうだ。その時に書いてあった電話番号に連絡するも明確な返事はかえってこなかったのこと。
その話を聞いた女性陣は不気味な内容からか、さっきまで永遠の若さと美貌にあやかるーとはしゃいでいたのが嘘のように静かになっていた…そう言えば三人が三人ともお化けとかホラー系が苦手だったな。新ちゃんはあくびしてるけど。
「コラ、マジメに聞かんかい。電話で言うたことちゃんと伝えへんからオッチャンに文句言われてんやぞ」
「にしたっていきなり冬休みに人魚探しに行くでと言われて本気にするわけねーだろ。なあ龍斗?」
「え?俺は日本海の今の時期の魚を堪能できるよってことで旅行のつもりでついて来たんだけど?」
「へ?」
「ああ、龍斗にはそう言って誘ったんや。料理人やしな、オレやお前とちごて」
「あ、そう…」
「まあ、ただの調査やったらオレらだけでとも考えたんやけどな。依頼人の手紙のあて名はウチやったんやけど文章の初めが「工藤新一様へ」になっとったんや」
「え?」
「あらま」
「最初はむかついて破いたろかと思ったけど工藤に関係するのかもしれへんからつれてきたんやで?感謝せえよ?」
「そして依頼人とは連絡がつかない、と」
「せや」
「こりゃ厄介なことになってねえといいけどな」
顔を突き合わせて小声で話していたが、島に到着するとのアナウンスが聞こえてきたので入島の準備に入った。厄介ごとね。無いといいなあ……
――
「ええ!?門脇沙織さんが行方不明!!?」
いきなり厄介ごとかいな……島についた俺達は依頼人の門脇さんの家を訪ねるために町役場を訪ねると彼女が三日前、平ちゃんの所に手紙が着いた頃から働き先に顔を出さなくなったそうだ。島の人は本土の方へ行ったんじゃないかと思っているらしい。
そして今日は年に一度のお祭り「儒艮祭り」があるらしく、町役場の人たちもその準備があるとのことで彼女が働いていたお土産屋を告げられ追い出されてしまった。
そして、お土産屋では人魚をモチーフにしたお土産が所狭しと並べられていた。そこで、お祭りで貰える儒艮の矢について教えてもらった。なんでも不老長寿のお守りでお祭りで毎回三本配られるそうだ。それを去年当てた沙織さんは一週間ほど前にそれをなくして錯乱していたとのことだ。彼女の幼馴染みという奈緒子と女性が店長のおばさんと話している俺達に、やけに確信した様子で不老長寿について語ってくれた。不老不死の命様の念が込められた髪の毛が結わえられた
「それで彼女の言っていた命様というのは?」
「この祭りの主役であり島の象徴である島袋の大おばあ様ですよ!」
「そんで?その婆さんのホンマの歳は何ぼなんや?」
「さあ。正確な歳はなんとも。島の人間も良くは知らないのよ。ただ、180とも、200とも言われているわね…なんなら祭りの会場になる島の神社に行ってみたらいかかがです?」
「神社?」
なんでも神社には沙織さんの幼馴染みである君恵という女性がくだんの命様と一緒に住んでいるから沙織さんの話も聞けて一石二鳥とのこと。
「はあ…」
「なんやオレらたらいまわしにされてへんか?」
そこは言わないお約束だよ平ちゃん。
――
「明治2年6月24日生まれの145歳!うちの大おばーちゃんの戸籍を調べればはっきりわかります!もう、ちょーっと長生きだからって皆大騒ぎしちゃって」
「ちょ、ちょっとって……」
「随分と長生きなお婆ちゃんやと思うけどなあ」
「せやねぇ」
神社に来てみると巫女服姿の君恵さんに命様の年齢を教えてもらった。はー、145歳。明治2年ってことは1872年、19世紀か。今が21世紀だから3世紀に渡って生きてるとはトリコ世界の住人でもないのにすごいな。彼女には矢が元々「呪禁の矢」で魔よけの物だったとか失踪前の沙織さんの様子を教えてもらった。四日前に君恵さんが歯医者に行く際に同行したらしいが沙織さんはどうやら相当怯えていたらしい。怯えている理由も矢をなくせば災いが訪れると矢を授けられたときに言われたからじゃないかと。
俺達が話しているとさらに新たな沙織さんの幼馴染みが現れた。その彼女、寿美さんが言うには命様は本物で、人魚も存在するのだと言う……3年前の異様な焼死体、か。あれが人魚の死体だって?
更に詳しく話そうとした彼女の後ろから禄郎と呼ばれた男性が止めた。ふむ、確かに島の事故をむやみやたらに外に話そうとするのはあまりいい事ではないか。彼は去り際に沙織さんの家に行ってみろと言ってきた。
「君恵さんも合わせて4人の幼馴染み会うたけど人が一人消えた言うのに心配せーへんのやな」
「ええ…沙織は良くお父さんとけんかして家出してたから」
「じゃあその沙織さんの家に案内してもらうのは……」
「いいですよ、祭り後でなら」
なんでも祭りと言っても命様が示す3つの数字を持っている人に儒艮の矢を進呈するだけらしい。
「なんなら、貴女たちも加わってみる?」
「「「え?」」」
「実は突然のキャンセル分が三枚余っているのよ。まあ、当たるも八卦当たらぬも八卦。もしかしたら皆が言うように永遠の若さと美貌が手に入っちゃうかもよ?」
そう冗談めかして告げた君恵さんは札を紅葉達に渡すと祭りの準備のために神社へと戻って行った。いや、人魚にあやかれるのは不老不死であって美貌は本人の資質によるんじゃ?まあこの3人ならそこは問題ないだろうけども。
「なんかラッキーやったね!」
「そうだねー。それにしてもお祭りのある日に来れるってことがまずラッキーだったよ」
「んー……」
「どうしたの紅葉?」
「いや、よく考えたら別に永遠の若さとかあんま良い事でもないんやないかなって」
「え?」
「ど、どういうことや?」
「だって一本だけしかもらえんし、龍斗がお爺ちゃんになってもウチだけ若いままなんやろ?その頃には子供や孫がいてもおかしゅうない。ウチが不老不死ならみんなを看取っていくのは辛いやんか。そんなら一緒に老いていきたいって、同じ時を生きていくのが幸せやってウチは思ったんよ」
「「……」」
(いや、女子高生の発想じゃねえぞそれ…流石は龍斗君の彼女というか)
「だ、そうやで。龍斗?」
「あ、うん。えっと、うん。そだね?」
(あ、珍しく龍斗が照れてるな)
離れて男女に別れて祭りの始まるのを待っていたが向こうの話し声は聞こえていた。いや、うん。とても嬉しいよ、嬉しいけどね?不意打ちは勘弁してほしいなあ。
「…っと、そろそろ始まるみたいや。さあ、命様って言うのはどんな姿をしとるんかね」
「で、出てきたみたいだね」
「あれが命様か」
そして障子が開けられ出てきたのは…なんといか真っ白な化粧をした小さな老婆だった。彼女は長い松明の先端をかがり火に近づけ火をともしその火で障子に当選番号を書いた…ってあれ?あの番号は。
「外れちゃったー」
「ウチもや」
「ら、蘭ちゃん紅葉ちゃん。ウ、ウチ。ウチあたってもうた」
あ、やっぱり和葉ちゃんの番号だったか。他に当たったっぽいのは…寿美さんか?すっごい喜んでるし。あと一人は分からないな。儒艮の矢は人魚の滝と呼ばれる所で受け渡されるらしく俺達はその滝の前まで移動した。
「永遠の若さや!美貌や!アタシのもんやー!」
「おいおい止めとけ。紅葉のねーちゃんもいうとったやろ?しわしわのばーちゃんになって孫に囲まれるのがええってな」
「んー、紅葉ちゃんの言う事ももっともやと思うけど若いままってのもええやんか。それに矢を手放せば災いでその効力もなくなるやろうし!」
「おーさよけ…」
「あ、さっき話してたけど美貌ってのは本人の資質によると思うよ?和葉ちゃん。だって不老不死と美貌って関係ないし」
「え?あーーーー!?」
「きづいとらんかったんやなやっぱり…」
「あははは……」
っと。そんな話をしていたら君恵さんに呼ばれた。あ、もう一人ってのは奈緒子さんだったのか。あれ?
「おかしいな。あんな喜んでたから」
「ああ、当てたのは寿美さんやと思たけど」
「誰だ?あの酔っぱらいの中年は…」
そう、新ちゃんの言う通り3人目に現れたのは酔っ払いの中年男性だった。その3人に君恵さんは矢を一本一本手渡し、譲渡が終わると滝の傍に用意されていた花火が打ち上げられた。え?
「おい!」
「あれって!?」
滝の方に観客の目線が行き、それに気付いた。滝の流水の合間にその肢体をゆらゆらと揺らせながらつられている寿美さんの姿に。
「お、おい龍斗!?」
俺はその姿を見た瞬間に走り出していた。
「え?」「なに?」「なんだぁ!?」「た、龍斗君?!」
矢の受け渡しの現場にいた君恵さん、奈緒子さん、中年男性、和葉ちゃんの声を無視して滝壺から崖を駆け上がった。前に調べてところ、首つりから10分以内なら蘇生の可能性がある…らしい。心音はもう聞こえないがその一縷の望みをかけて俺は彼女の体を回収し、揺らさないように注意しながら滝口の地面にそっと横たえた…ダメか、首の骨が折れてる。
それから10分たって、崖を登ってきた新ちゃんたち、君恵さん、禄郎さん、奈緒子さんが来た。
「龍斗!彼女は!?」
「ああ…平ちゃん。ダメだったよ。俺が地面に上げた時はまだ温かったから蘇生できると思ったんだけど…首の骨が折れててね」
「そうか…」
「龍斗君が上げた時に温かったってことは彼女は花火が揚がる直前に首をつったってことか……」
「そんな……まさか自殺?でも寿美が何で。それとも誰かに…」
「いや、そうとも限らん」
「え?」
そう言って寿美さんの首に巻きついていた縄について語る禄郎さん。彼が言うにはその縄は滝への転落防止のために張られていたロープらしい。つまり、川に落ちた寿美さんがロープをつかみそのまま滝に落ちていく過程でロープが首に絡まり首つり状態になったのではないかとのことだった。
「でもなんで祭りをやってる最中にこないな暗い森の中にこなあかんねん?」
「人魚の墓でも探してたんじゃない?」
その言葉に答えたのは奈緒子さんだった。なんでも寿美さんはその墓を異様に気にしていたらしい。そもそもなんで人魚と言えるかと平ちゃんが聞くと、君恵さんは中年女性の骨だと警察から説明があったらしいが実際に火事を消した禄郎さんはその遺体の腰から下の骨が粉々に砕け、その散らばった骨も人の足の骨があるべき場所に存在していなかったそうだ。それからメディアが囃し立て、人魚の死体が出たことになった。そして…
「墓荒らし?」
「そう、火事の後1年たっても身元不明だったのでうちの神社に埋葬したのよ。でも観光客が不老不死を求めてその骨を盗もうとしてね。なんでも骨でも不老不死は達成できるからって。だから大おばーちゃんが信頼できる人に頼んで森のどこかに移動してもらってらしいわ」
「その頼んだ人って?」
「さあ。私も知らないんです」
「まあ事故、自殺、他殺のいずれにしても寿美さんの遺体を下に降ろして警察が来てからだな」
小五郎さんのその言葉に禄郎さんは寿美さんを抱えて鼻で笑い、こんな時間にこんな場所に来た寿美さんの不明に冷たい言葉を吐いた…奈緒子さんが言うには寿美さんは禄郎さんの許嫁だったらしいが。それにしたって幼馴染みが死んであの言葉はないだろうに……
下に降りたところ、人込みの中から矢を得た中年男性とは別の中年男性が彼女に駆け寄り号泣していた。話によると彼女の父親らしい。
「おとうーさーん!」
「オウ、蘭か。本土の警察には連絡したか?」
「それが、海が荒れて船が出せるまで当分来られないんだって!」
「おいおい…」
「ええやないか、犯人をこの島から逃がさないですむんやから!」
「犯人?まだこれが殺人事件とは決まったわけじゃあ…」
崖を降りる途中にするっと抜け出した新ちゃんと平ちゃんはどうやら誰でも他殺を可能とする証拠を見つけてきたらしい。
「龍斗」
「ああ、紅葉」
「はいこれ」
「ん?コーヒー?」
「神社に戻って買っておいたんです。滝の水を被ってたのがうっすら見えたから」
「ありがとう紅葉。…あっち」
俺は紅葉の心遣いに感謝しながら冷えた体にコーヒーを流し込んだ。
結局、こんなことが起きた後では沙織さんの家に訪問というわけにもいかなくなり命様に会いたいと言う新ちゃんの言葉に君恵さんが答えたことで俺達一行は島袋家にお邪魔する事となった。
後書き
「老いていく龍斗(新一、平次)と若いままの紅葉(蘭、和葉)」。現時点で恋人同士である紅葉だからこそ気付けたって感じですかね。
不老不死の魅力ってなんなんでしょう。若返りならまだわかるんですけどね。よく年老いた権力者とかが不老不死を望むっていう設定を見ますがいや、その時点で不老不死になっても爺さんのままじゃんと突っ込んでしまいます。
あ、崖を駆け上ったのは(滝をスポットライトで照らしていたわけでもないので)滝壺に近い人たちくらいにしか見えてません。漫画では見えているような描写になっていますが、暗がりで二つのかがり火しかないのに見えるわけないんじゃないか?ということで騒ぎになってません。
まあ、あとで君恵さんから追究はありますが。
寿美さんは生かせそうだなーと思ったんですが、滝の半ばまで(漫画参照)落ちて首で全体重を支えたら骨折れるだろうなと思って断念しました。
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