東方死人録
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一章 薬師とか穢れとか
二話 人恋しいんだけど、いやマジで
<前回までのあらすじ!>
白髪紫目の美少女になった!
…死にたい。生き返ったんだけどもね。
二話 人恋しいんだけど、いや、マジで
状況を整理しようか。
まず、私は自殺した。これは謎もあるが取り敢えずOK。
次に生き返った。これも謎だがOK。
そして少女になっていた。よしOK…
んなわけあるかぁぁぁぁぁ!!!!
十数年積み上げてきた私の男としての矜持が儚く崩れ去る音が聞こえる。そんなものないだろって?うるさい。可愛い子を愛でるのは好きだけども自分が可愛い子になるなんて考えないじゃない?普通。ああ、とっても死にたい気分だ。生き返ったならどうせなら生きるかぁなんて思ってたけど無理だわぁ…辛み。
「いや。マジで辛いわぁ」
「ガルゥ」
「だよね。わかってくれる?こんなに可愛いのに自分だからか全く萌えられないし、しかも少女だって認識したからか、途端に思考がどんどん女の子っぽくなっていくんだけど…これも体と同じように最適化されてるのかなぁ…」
「ガルゥ」
「そうだよねぇ…って、ん?」
良いところで相槌を打ってくれるので話を止めなかったがその相手はどうやら人じゃないようだ。
…というかものすごく敵意を向けられている気がするんだけど。
「ガルゥ」
私は後ろの方を振り返る。その声の主達ははそこにいた。
それはまるで狼のような生き物だった。しかし、図鑑やテレビで見たそれより変な色であるし、何より禍々しい。そして明確な敵意…いや殺意をこちらに向けていた。怖い怖い怖い。
ほんとうに怖い。
「…もしかしなくても、これ絶対絶命じゃない?」
冗談抜きで全身が恐怖に包まれる。その化け物たちは目を光らしてこちらを睨んでいる。さっきの叫び声に反応して来たのだろうか。その目は確認できるだけで数十個。森の奥の方にも見える。まるでそれは群れで獲物を狩る様だった。当然獲物はこの私だろう。
あ、これは死ぬ。
そう直感で悟る。背後は湖。逃げる場所はない。そして何も力のない私。対するのは異形の怪物たち。当然為す術なんて無い。
「ああなるほどこれは罰なのかもね。」
勝手に死んだ罰。それを与えるためにワザワザ神様が私にこんな夢を見せたのだろう。そうに違いない。ああいや、毛ほども神のことなんて信じてないんだけどね。いやそれも含めての罰なのかもしれない。
私の心が一種落ち着き(諦観とも言える)をとりもどしたところでその狼もどきたちが一斉に飛びかかる。
今度こそさよならだ。世界。最後までお前はクソッタレだった…
<<死ぬな。諦めるな。君にその権利は無いよ。>>
突如脳内にその言葉が響く。
それと同時にこちらに向かっていた化け物たちが木っ端微塵になった。
思わず目を見開く。舞い散る異形の血がスローで地面に落ちていく。弾けるその獣の体がそのまま生命を感じさせる。
これ私がやったの?
そこで思考の速度が戻る。気づいたときには辺り一面は血の海だった。運良く湖までそれは到達してないらしい。湖面は綺麗なままだ。
…なんて今はどうでもいいか。そんな凄惨な光景に対し私は全く持って無傷。更に言えば着ている白ワンピースに血一つも付いていない。どこまでも真っ白な少女のままだった。
真っ赤な地面との対比がやけにに強調して感じられる。
数時間は呆けて居ただろうか。空はとっくにオレンジ色で一部が暗く染まり始めていた。
ようやく私は衝撃から立ち直った。何回目かわからないけど状況を整理しよう。
まず私が何をしたか。その疑問は瞬時に答えが出た。頭に急に次の言葉が浮かんできたのだ。
「あらゆる大きさと向きを操る程度の能力」
ナニコレ。一方○行かな?いや大きさ操れるから上位互換か…。そしてあらゆるって言うところが非常に臭い。
何故こんな力を持っているのか謎だ。ただの人である私にはありあまり過ぎる力な気がする。しかし、恐らく転生のせいなのだろう。要はこの能力を使って生きていけって事だろう。
次にあの声は一体何なのか。それについては何となく見当が付いた。まだ予想の範囲だけども、きっと私をこの世界に送った神何かだろう。
まあいいや気にしても仕方がない、か。
もう疲れた。今日一日だけで処理しなきゃいけない情報が多すぎた。
「今夜はどうしようかなぁ…」
寝床を探そう。
あれから数年間歩き続けた。随分いきなりだと思われるかもしれないがしょうがない。なにせ特に語ることが無かった。能力を駆使して木から紐を作りハンモックみたいな寝床を作ってみたりした。お腹は余り減らないがそこらにいる獣を介錯して調理もしたりした。異形のものを山ほど始末したりもした。お陰でこの能力の事が使い方が大分わかるようになった。あとは何故か一向に少女の状態から容姿が変わらないこともわかった。
が、それだけである。
それ以外に言語を話すものには会わなかったし、その痕跡も見つから無かった。見たことのない生物などは興味をそそられたが、それも一か月もすれば見飽きた。どうしようもなく何もない日々を過ごしていた。それはもう生きているのか死んでいるのか怪しい位。
しかし今日ついに森を抜けた。そして私は喜びに包まれた。
そこには村があった。周りは木の塀で囲まれていて、弓っぽいものをもった、おそらくは兵士が門らしきものを挟んで立っている。遠い昔歴史の教科書で見たような集落の姿。
つまり…
「人が居る!!!」
嬉しさの余り思わず声が出る。その声で門番らしきものがこちらを一瞥するがそんなことより私は数年ぶりの人の姿に感動したのだった。足取り軽やかに、それはもうスキップするくらいの感じで村の方に向かっていく。一体この村にはどんな人が居るのか。なにか美味しい食べ物はあるか。可愛い子は居るのかなど、今まで止まっていた思考が一気に溢れ出した。
「…お前。」
しかし、門番の近くまできて足を止めた。止めざるを得なかった。その門番から発せられるオーラのせいである。暗くてお互いによく顔は見えいていないがピリピリと伝わってくる。ああこのオーラ私知ってるわ。異形の物のそれとは全く比べ物にならないくらい小さいが、これはあれである。明確な
…敵意…
「あの…怪しいものじゃないです?」
何故か疑問形になってしまった。その言葉を最後に一瞬だけ沈黙が訪れる。
「…妖怪だ!!妖怪が来たぞ!!総員放て!!」
その門番がそう叫ぶと同時に至る所から矢が飛んできた。量がやばい。一体どこからそんなに飛んで来るんですかね…というか。
「なんでぇぇ!!」
逃げる。それはもうなりふり構わず。当たる矢だけ能力で相殺しつつ全力で逃げる。
私的には友好的に人畜無害に過ごすつもり満々だったのにあちらさんにその気は無いらしい。踏んだり蹴ったりこんちくしょう。
おーまいがー…
この世界に送ったのが神様なら私はお前を許さない。
「ひどい目にあった…」
また森に戻ってきました。めっちゃ精神的に疲れました。ええ。
しかし、どうしよう。敵意はないんだけどなぁ…近づけないと何も伝えられないし…
と、そこで無駄に良い耳に草を踏みしめる音が聞こえてきた。
「あんた面白いね。人里に真正面から入ろうとするなんてとんだ阿呆だよ。」
といきなり声を掛けられたその方を向くと人が立っていた。いや正確には人ではない。二十代くらいのお姉さんの風貌だが頭の上にあるイヌ科っぽい耳と腰のあたりに見える長い尻尾が人じゃない事を表している。服装はこげ茶色のコートみたいなものを上に着ていて下は黒いパンツ。胸元の赤いリボンが少し可愛らしい。動きやすそうな服装がそのカラッとした口調に合っていた。
「あんたの名前はなんだい?」
これが私の初めての妖怪との邂逅であった。
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