東方死人録
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一章 薬師とか穢れとか
一話 輪廻転生と言うかなんというか
俺は死んだ。
あれ、なんで?
というのが現時点での感想である。いや、色々俺やり残してることあるじゃん。積んだゲームは終わってないし、まだ高校生活一年残ってるし、続編が決定したアニメもある。生意気な後輩のことは…まあいいや。
死ぬ直前は世の中なんかクソ食らえとか息づいていたが、よく考えると何故死んだかわからない。いや、さっきまで確かにそう思っていたし、自分に厭世的なところがあるのもわかる。それに死にたくなる位には退屈はしていたし、そんな感じの糞野郎だって自覚もある。
あれ、これだけ並べると考えるまでもなく死ぬべくして死んでない?
そう結論が出てしまった。どこまで来てもどうしようもないのが俺らしい。
しかし、である。
現にお分かりのように現在俺は思考(・・)している。思考と言うのは人間であれば当然脳が活動していないとできないわけで。
あ、そういえばどこかの大学の研究で意識は生物的なものに依存せず空気中に漂う粒子のようなものだなんて研究結果もあったか。
いやいや、そうだとしても、例えそうだとしなくてもこの事実は変わらない。思考だけでなく俺は視界を認識している。つまりものを、景色を姿を見ている。さらに言えば足は地に着いている感覚があるし頬は風を感じている。
さて、長々と回りくどく書いてきたが要約するとこうだ。
俺は生きている。
一話 輪廻転生と言うかなんというか
まあ、死んだか否かなんて自分的にはもうどうでもよかったりする。物事に程よく無頓着なのが俺の長所である。まさか生に無頓着になるとは思わなかったが、とりあえず生き返ったならこの世界で生きていくほか無いわけだ。
転生って言ったらなんかワクワクしてきたぞ。ライトノベル物でありきたりな設定としては強い能力を手に入れて可愛い仲間達と共に俺TUEEE!!しながら悠々と過ごしていくのが鉄板。
つまり、俺を待つのはハーレム生活!!?
テンションが上がったように思えるが、実際にはそんなに興奮してない。なぜなら、ハーレムを現実でやると大変なのだから。生前、今も生きてるけど友人が複数人から好意を向けられて胃を痛めていたのを見ている。ご愁傷様です。それに愛憎入り乱れる昼ドラ展開を避けられないでしょ、あんなの。
「しかし、全く分からないなぁ。ここどこだよ。」
そう呟いた言葉は周りの森に吸い込まれていく。人っ子一人居やしない。ハーレムどころの話ではないのである。
周りを見渡しても森、森、森、たまに岩。
ここはどうやら森の中らしい。上が開けていて、空も見えるのでそんなには暗くない。今は昼時だろうか?まだ日が高い。
キャオー
とその時上空を大きな鳥が飛んでいった。鷲なんかよりずっと大きい。そして鋭い嘴。
プテラノドンである。
…はあああああああ!?
何が「…である」だよ!落ち着いてる場合じゃねぇよ!意味がわかんないよ??
あれぇ、ああいう感じの生物って何千年か前に絶滅してなかったっけ?
ああでもそもそも違う世界の可能性があるのか…
しかしまずい。恐竜が人を食うのかどうかわからないが、もしこの世界がそういう世界だとするといきなりめっちゃハードモードである。生き返っていきなり美味しく頂かれるのはちょっと頂けない。なんとかして安全な場所を探そう。夜になる前に見つかると良いなぁ…
「誰も居ねぇ!!」
虚しき叫びが草木に吸い込まれていく。ひたすら歩くこと二時間くらい。時計はないので正確な時間はわからない。今の場所も周りは森でわからない。というか何もわからない。覚醒してから今まででわかったことは二つだけ。
その1…人が全く居ない。
その2…体が違う。
一つ目は言わずもがな。未だに誰にも会っていない。というより恐竜がいる時代に人類って居なくないか…?
二つ目は歩いてみて気付いた。まず背が低くなっている。普段もより目線が低い、気がする。どうやらこの体に最適化させられてるようで余り違和感は感じない。
そして声がやたら高い。成長期前なのであろうか。喉仏もない。
あとは髪が伸びている。肩に掛かるくらいだ。鏡がないのでわからないがきっと見た目は中性的になってるのかな?
そして、最後に体力がめっちゃ増えている、ということ。前世では休日は家から出ないが基本だったので運動不足が著しく、年に一度の持久走は勿論、登下校の徒歩15分でバテ気味だった。けれど今はずっと歩いても全く疲れを感じない。いや、精神的には疲れてるんだけどね。
あ、ちなみに服装は
以上今までにわかったことである。
…何も解決してないぞ。
某ゲームでひでんマシンがなくて大きな岩が動かせない時の気分に似ている。しかも、こちらは攻略本なんてありはしないわけで。
八方塞がりだけども歩く以外にやることはないのでひたすら歩いていく。
「…ん?」
その時耳に微かな音が入ってきた。さっきまでは草木のすれる音とたまに空を切る恐竜の音しか聞こえなかったが明らかに違う音だ。
「水の音だ…」
その音に引き寄せられるように足取りが早くなる。もしかしたら水辺に誰か居るかもしれない。そんな淡い期待を持ちながら。
結果としては結局人はいなかった。
ただ無駄ではなかった。
「きれい…」
森を抜けるとそこは清々しい程に開けていた。目の前に広がるのはあり得ないほど透き通った湖。日の光をキラキラ反射させていて少し眩しい。その透明さと周りを囲む木々のお陰か、とても神秘的に感じられた。
少しの間その光景に見とれて呆けていた。
「…そうだ。水でも飲もう。」
そういって湖に歩を進める。これだけ綺麗ならそのまま飲んでも大丈夫だろう。それに長く歩いてのども渇いている気がする。湖畔を歩き回り水の近くまで行けるところを捜して下りていく。
ちょうど良いところを見つけたので水際まで降りていく。
「しかし綺麗だなぁ…」
文字通り透き通っている水はキラキラと空を映し出していた。ぱっと見地面に鏡ができたのかと見間違うほどだ。
「さてお味の方はどうかな~?」
水際に座り込んだ俺は手を入れて水を掬おうとする。
「は…?」
そこで手が止まった。何故か?その理由は湖面に映り込むものにあった。先程まるで鏡と評した湖面には自分の顔らしきもの(…)が写り込んでいた。さて、何故らしきものと表現したのか疑問に思う人も居るかもしれない。が、わかってほしい。
そこに写っていたのは少女の顔だった。
十代前半だろうか。子供と大人の境目みたいな年頃。大きな目に柔らかそうな唇。それらが整ったバランスで配置されている。髪は肩口で切りそろえられていて、その髪の色は湖に負けないくらい透き通った白。目は紫と桃色を混ぜたような少し怪しい色。こちらもまた透き通っている。先程までは何故気づかなかったのか、服装は真っ白なワンピース。妖精とか人形とか言われても全くもって疑わないような外見である。
めちゃ可愛い。
だが。
だが、しかし。
中身は俺(元男子高校生)だ。
「意味わかんないんだけどおおおおおお!?」
俺…いや、私の叫びは湖面をほんの少しだけ揺らし、虚しく響き渡っていったのだった。
後書き
明日も投稿します。感想批評あれば是非。
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