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Raison d'etre

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二章 ペンフィールドのホムンクルス
  4話 篠原華(2)

「ねえ。いきなりだけど姫野さんって強いの?」
 華、京子、愛のいつもの第一小隊のメンバーと食堂で夕食を食べていた時、優は何となく気になっていた言葉を口にした。
 華と京子がキョトンとした顔をする。愛は相変わらず無表情のままだ。
「そりゃあ……小隊長だし強いんじゃない?」
「小隊長の中ではどうなのかなって?」
 京子の答えに、質問を重ねる。
「んー、例えば黒木さんは近接戦闘に長けてるし、咲ちゃんは狙撃技術に特化しているし、そうやって皆戦い方が全然違うから一概には言えないけど、一番強いのは第六小隊長の白崎さんかも」
 華が悩んだように言う。小隊長である華が言うのだから、かなり信憑性が高い。
「白崎さん?」
「うん。何て言うか、戦い方が派手だね。高出力のESPエネルギーで一気に殲滅しちゃうの。でも……」
 華は何かに気付いたように言葉を続けた。
「そういえば、姫野さんが大きい怪我したところ一回も見たことないなぁ。あまり目立たないけど、もしかしたら白崎さんと同じくらい強いのかもしれないねー」
「へえ……一度も大きい怪我をした事がない、か……」
 集団戦において、全ての敵に注意を向けることは不可能だ。必ずどこかに死角ができ、そこからの攻撃にはどんな機動力を持っていても避けることは叶わない。
 一度も大怪我をした事がないという事は、常に全体を見渡せるような余裕を持っている、という事だ。
「何でいきなりそんな事を?」
「んー、昼に会った時、やけにESPエネルギーに詳しそうな話をしていたから、強いのかなって」
 京子の問いに少しぼかして答える。
 華がやや意外そうに眉をひそめた。
「……姫野さんとお話したの?」
「うん。ちょっとだけだよ」
「珍しいね。姫野さんって、いつも他人を避けてるような感じだから。同じ小隊長の私でもあまりお話した事ないよ」
「……逆ナン?」
 愛が首を傾げて、じっと見つめてくる。
 思わず苦笑して、首を振った。
「違うよ。屋上に行ったら、たまたま会っただけ。愛ちゃんは誤解を産むようなことばっかり言うんだから」
 視界の隅で華が不思議そうな表情を浮かべる。
「そういえば、桜井くんはいつから愛の事名前で呼んでるの? 私なんて未だに『篠原さん』のままなのに……」
「いや、それは愛ちゃんから――」
「あ、そういえば桜井って佐藤隊長のこともいつの間にか名前で呼んでなかったっけ?」
 何かに気付いたように、京子がぽつりと零す。
 それを聞いた華はジト目で優を見つめた。
「この差は何なんですか?」
「……いやいや。別に意図したものじゃないんだけど」
 視線を逸らして、誤魔化す。
「……呼び方は統一すべきだとおもいます」
「あ、じゃあ私もそれで」
 抗議を続ける華と、それに便乗する京子。
 優は二人をちらっと見て、首を傾げた。
「じゃあ、何て呼べばいいの? ……華ちゃん?」
 試しに言ってみると、華の顔が茹蛸のように赤く染まった。名前で呼ばれるのが恥ずかしいなら、無理に張り合わなければいいのに、と苦笑する。
「私は?」
「……京子?」
「……何で私だけ呼び捨てな訳?」
 不満そうに唸る京子。
「だって、ちゃん付けするタイプじゃないし……京子ちゃん、とかどう考えても似合わないと思うよ」
 そう言って、優はまだ半分以上残ってる親子丼に箸をのばした。さっきから話してばかりで一向に中身が減っていない。冷める前に食べきらなければ、とペースをあげる。
 それに合わせるように華は唐揚げ定食、京子はしょうが焼き定食に手をのばした。愛はさきほどから隣で黙々とミートスパゲティを食べ続けているが、あまり量は減っていない。食べる速度が遅いのだろう。
 そのまま食事を続けていると、優たちのテーブルの近くに一人の女の子が近づいてきた。華か京子の知り合いだろうか。
 チラ、と横目で見ると少女は優のすぐ隣で立ち止まった。
「あ、あのっ!」
 思わず、話しかけてきた少女に目をやる。
 ツインテールが特徴的な小柄な少女だ。恐らくは年下だろう。
 何故か、彼女の目は真っ直ぐと優に向けられていた。
 どこかで会った事があっただろうか、と記憶を辿るも思い出せない。
 キョトン、とする優に向かって、彼女が口を開く。
「す……す、す、すすす好きですっ! わ、私と付き合ってくださいっ!」
 その一言で場が凍った。
 視界の隅で華が石化しているのが見えた。
 誰かのスプーンが落ちる音。
「……らぶらぶ」
 愛の呟きが、妙に大きく響いた。 
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