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儚き想い、されど永遠の想い

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319部分:第二十四話 告げる真実その八


第二十四話 告げる真実その八

 だがそれでもだ。伊上は言うのだった。
「しかしあの方はそこからだった」
「労咳になられてから」
「そうだというのですか」
「そうだ、それからだった」
 また言う。そしてだ。
 そのはじまったこともだ。周りに話した。
「命を燃やされ果たすべきことを果たされたのだ」
「もう少し生きていればと思うのですが」
 一人がだ。ここでこう彼に言った。
「僭越ですが」
「僭越ではない」
 これはいいとした。だが。
 それと共にだ。伊上は彼に、他の者達にもこのkとおを強調して言った。
「だが、だ。あの方は果たされたのだ」
「御自身の為されるべきことをですか」
「それを果たされたのだ」
 まさにそうだというのだ。
「あの方は。そしてそれはだ」
「他の方々もですか」
「長州の」
「長州だけではなく薩摩も土佐もだ」 
 ひいてはだった。彼はその言葉を続ける。
「幕府においても。全ての方々がな」
「されるべきことを果たされたのですか」
「高杉さんだけでなく」
「そうなのだ。人の運命は決まっているのだろう」
 ここでは運命論も出る。
「松陰先生にしてもな」
「ですがあの方は」
「残念ですが」
「確かに。処刑された」
 安政の大獄においてだ。吉田松陰は無惨にも刑死している。井伊直弼はこの大獄においてこれまでの幕府の慣習を破り評定での裁決よりもさらに重い刑罰を乱発したのだ。
 江戸幕府の刑罰は評定よりも軽いものにして幕府の仁政を示すのが慣習だった。だが井伊はそれを拡大解釈し多くの者を死罪にしたのだ。
 その結果だろうか。それとも伊上の言う運命なのだろうか。井伊は桜田門外の変で乗っている籠に刀を突きつけられそのうえで引き摺り出され首を刎ねられた。三十五万石の大名、大老としてはあまりにも無惨な結末であった。
 だがこの頃よりこの時代に至るまでこのことに同情する者は稀である。因果応報、自業自得、多くの者が当然の様に言うだけだ。
 その井伊に殺されたダ。松陰についてもだ。伊上は言うのだった。
「無念だが。それでもだ」
「果たされるべきことを果たされたのですか」
「松陰先生も」
「そう思う」
 こうだ。彼は言い切った。
「あの時はとてもそう思えなかったがな」
「御言葉ですが私は今もです」
「私もです」
「お話を聞く限りでは」
 周囲はだ。怪訝な顔になり彼に話す。
「松陰先生はまだ二十八でした」
「三十にもなっていませんでした」
「それで刑死とは」
 あまりにも若い死にだ。彼等は思えた。それが刑死なら尚更だ。
 しかしだ。それでもだった。伊上はだ。
 こうだ。彼等に話した。
「松陰先生はその生涯の殆んどを不眠不休で生きられたのだ」
「獄中においてもですか」
「そうされていたのですか」
「我々に対しても真摯に接してくれた」
 このこともだ。彼は話した。
「まだ子供の私にもな」
「公平な方だったそうですね」
「それでいて純真な」
「その誠実さ故にだ」
 どうだったかというのだ。吉田松陰という人物は。
 
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