名探偵と料理人
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第十二話 -ジェットコースター殺人事件後-
前書き
このお話は 原作1巻 が元になっています。
すみません、主人公がいたために起こった変化を書いていたら事件に遭遇しませんでした。次こそは……!
「ったく、てんで使えねえぜ、あのへぼ探偵!」
「はっはは、そんなにダメかね?毛利探偵は!」
「新ちゃん、事実かもしれないけどもうちょい言い方変えよ?無能とか」
「……それはそれでどうなんだ龍斗?」
オレが小さくなってから、数日が経った。毛利探偵事務所に転がり込んだその日に黒尽くめの男による誘拐が発生して、その依頼を受けたおっちゃんにくっついていけば奴らの尻尾をつかめるチャンスだと意気込だのにその事件は執事とその家の子の狂言だった。
だが、その狂言から本当の誘拐事件に発展してオレは人質になっていた女の子の言葉から犯人の潜伏先を見つけた。何時もの通り追い詰めようとしたが、小学生の体では大人に対抗することが出来ず、逆にもう殺されるというところまでボコボコにされた。蘭が追いついてくれたおかげでぎりぎり何とかなったがこのままではどうしようもないということで、その日のうちに博士に連絡を取りどうにかできないかと俺は相談した。その進捗についてとあの日から話す機会がなかった龍斗に話を聞こうと言うことで龍斗の家に寄って誘ってみた。今日は紅葉さんが京都の実家のほうで用事があるとのことで一人で家でお菓子を作っていたので了承してくれた。……相変わらず美味そうなものを作るな。
「まあ、私立探偵なんてそんなもんじゃないか?小五郎さんはなまじ不労所得が結構あるから本格的に動かないってこともあるだろうし」
「不労所得?」
「ああ。10年前に別居を始めたろ?あのころしばらく俺が蘭ちゃんの家に通って料理とか買い物の仕方とか光熱費がかからない調理の工夫とか家計簿のつけ方とか諸々教えてたんだが」
「お、おう。料理関係は分かるし、買い物は下校ん時にオレも一緒についてってたから知ってるけど家計簿って。んなことも教えてたのかよ?」
「まあね。懐かしいなあ……でだ、家計簿をつけてるのを見て明らかに定期収入が入ってるのに気づいたんだよ。英理さんの養育費にしては多すぎる金額が入っていることがね」
「ほっほー?それは不思議な話じゃの?」
「でしょう?だから小五郎さんに聞いてみたんだよ。そしたら、さすがに色々世話になっている俺の疑問だったからかすんなり答えてくれたんだがどうやらあのビル、毛利家の持ちビルらしくてな。小五郎さんの親からもらった物で探偵の依頼が0でもテナント料と養育費で何とか親子二人で生きていく分には十分な収入になるんだとよ」
おいおいおい!そんな状況じゃあのダメ親父、積極的に探偵業なんてやるはずじゃねえじゃねえか!あの事件以降一件も依頼はこねえし、昼間っから良い歳したおっさんがテレビ見ながらビールなんてと思っていたがこのままじゃマジでやべえ!
「くっそ!このままじゃいつもとの姿に戻れるか分かったもんじゃねえ!」
「まあまあ新一君落ち着きなさい。焦ってことを仕損じたら元も子もないじゃろ?奴らも死んだはずの君の死体がなければ動き出すじゃろうし、それまでの辛抱じゃよ」
「ああ、そんなすぐに何とかなるようなものじゃないだろ?相手は新ちゃんが今まで相手にしてきたものとは比べ物にならない闇を抱えてそうだしね。あ、それと高校のほうには俺から「事件の調査にしばらく休みます」って言っといたよ」
「さ、サンキューな龍斗!それと蘭には……」
「ああ、それなんだけどね……」
なんでも龍斗に俺の事を聞き、連絡の取りずらい山奥の方に調査に行く(ナイスな設定だ龍斗!)と教えられた蘭は「あっの!推理オタクがーー!」と怒りを露にした後、心配した表情になったと言う。その後紅葉さんに相談があると言うことで龍斗とはそこで別れたそうだ。
「なんか、思っていたより心配されてない?」
「俺もそのことが気になって聞いてみたら、俺が学校をちょくちょく休んで世界を飛び回っているのを見てたからそういうこともあるんだ。って言ってたぞ。ただ、いきなり何も言わずに消えたからまだ感情の整理は出来てないって感じだな」
「……蘭。すまねえ龍斗。フォローを頼んでもいいか?」
「言われるまでもない。新ちゃんもだけど蘭ちゃんは俺の大切な幼馴染だからね。それにこの件については俺より適任な人がいたんだよ」
「適任?」
「紅葉だよ」
紅葉さん?なんでだ。確かに事情は知ってくれているがそれなら龍斗のほうが付き合いが長いしうまくいきそうなもんだが。
「紅葉に蘭ちゃんに何を相談されたことを聞いたんだけどね」
―――
「それで?蘭ちゃん相談したいことってなんなん?龍斗に外して貰うなんて」
「あのね?新一とトロピカルランドに行って殺人事件に巻き込まれて、それで事件が解決して一緒に帰るときにあいつ、先に帰ってくれって言って別れたの」
「……な、なんや、デートで遊びに行ってそうなるんやときっついなあ」
「で、デートじゃ!…それでね、新一別れるときに嫌な予感がしたの。このまま新一と二度と会えなんじゃないかって予感が」
「……龍斗が新一君に伝言頼まれているんやし、そんなことにはならへんやないか?」
「だって、あいつ。私に今まで何も言わずにいなくなったことなんてなくて。学校を休んでまでどこかに調査に行くって事もなくて……!」
「……蘭ちゃんは贅沢さんやなあ」
「え?」
「ウチは一回会っただけの龍斗にもっかい会えるまで5年かかった。好きになった相手が覚えているかも、真剣に考えてくれてるかもわからん約束を胸にな。それに比べたら10年以上一緒におった蘭ちゃんは贅沢さんよ?」
「で、でも……」
「ウチは会えない間龍斗への思いを募らせていった、蘭ちゃんも今までずっと一緒にいたからこそ見えてへんかったことに気づくいい機会やと思うで?だって、すでにまだ何日もたっていないのにそんなに心配になるってことがわかったんやから。まあ、ウチはもう龍斗から離れたりせーへんけどね」
「も、もう!……でも離れてからこそ見えるもの……か」
「そうそう、夫の留守を守るのも妻の役目やで?」
「だ、だから私と新一はそんな関係じゃないって!紅葉ちゃんまで園子みたいなこと言うの?そもそもあいつは……」
―――
「って事があったそうだ」
「……そっか。紅葉さんにも後で礼をいっとかなきゃな」
色んな人に迷惑かけてるな、オレ……
「龍斗君もいい人を恋人にしたもんじゃ。……お、そうじゃ!話に夢中になって忘れそうになっておったが新一君に頼まれていた役に立つメカを開発したんじゃった!」
「役に立つメカ?」
「おお!その名も蝶ネクタイ型変声機じゃ!」
「君が、あの毛利君を名探偵に仕立て上げるんじゃよ!そうすればばんばん依頼が入って奴らの情報もそのうち来るじゃろう!」
「オレがあのおっちゃんを名探偵にねえ……」
博士が開発した変声機を見ながらそうつぶやいた新ちゃんを見ながら、俺は苦笑していた。確かに今の小五郎さんを名探偵に仕立てるのは至難だよなあ。動かねえんだもの。
「ま、なんとかやってみっか……それはそうと龍斗」
ん?
「龍斗がオレに気づいたのはまあ納得できねえけど理解はできる。ガキん時からオメーの非常識は見てきたからな。だが、なんであのタイミングで現れたんだ?大変な気がして、なーんていってたけど改めて思い返せばあの時点でオレがあそこにいることを確信して訪問してただろう?」
おー、流石に不自然だったか。あんな時間に突然電話もいれずに訪問したことなんてこれまでなかったしな。胡散臭そうな新ちゃんに降参と手を上げながら
「分かった分かった。別に隠すことでもないから言うけど。俺の感覚が鋭いってのは知ってるだろ?」
「そりゃあ長い付き合いだしな。フツーガキのときのにおいと同じとか言う判断材料で確信してるってありえねえよ。それが理由になって納得できるのはオメーくれえだよ」
「ははは。まあ、それなんだけどね。鼻だけじゃなくて俺は五感すべてが人類の範疇を超えているのさ。分かりやすいのは聴覚、視覚、嗅覚だね。新ちゃんのハワイ旅行についてったことあったろ?」
「ああ、どっかのお偉いさんに呼ばれていくついでだとか何とか」
「そうそうそれ。そのとき射撃を習ってたろ?あの時な、俺は発射された弾丸の回転すら止まって見えたんだよ」
「……っは!!!?なんだそれ?!流石にありえねえだろ!?」
「まあそのありえないことがありえるんだなこれが。そんなわけで、耳もそれなりによくてな。博士が実験で爆発を起こしたのが気になって聞き耳たててたんだよ。そしたら聞こえたわけだ。薬で小さくなったって」
「……あの雨の中。家の中から……?」
「なんとまあ、ワシも運動神経がいいとはおもっとったが。そんなことが……」
俺の告白に呆然とする二人。まあそれもそうか。片や真実を追い求める探偵、片や物事の理を追及する科学者。こんな常識はずれなことがあるわけないと、でも事実として存在するわけだから混乱するよな……実際はもっとおかしい存在だけど。
「まあそういうわけさ。普段からそういうわけじゃなくて有事の際に開放するって感じだけどな。ON/OFFが切り替えられなきゃ俺は今頃廃人だよ」
「た、確かに人間の限界を超えとるからのう。パンクしてしまうか」
「ま、まあそういうことなら理解できなくも……ないか?コンクリに拳の跡をつけられる蘭といい、龍斗といいなんでそんな常識はずれな力を持ってるんだよ……」
なにかあきらめた表情な新ちゃんがそういって、疲れた様子で阿笠邸を後にした。
「じゃあ博士。俺もお暇するね」
「分かった。ワシもこれから新一の力になるメカの開発に移ろうとするかの」
「あんまり、爆発するようなものばっかり造らないようにね?」
「なにをいう!ワシの発明品は安全第一に!じゃ!!」
「なら、開発中も安全第一にね。これ、おやつにでもして」
「おお!久しぶりじゃな!龍斗君のお菓子を食べるのも!これは…フロランタンか!ありがたく頂戴するよ!!」
「あまり一気に食べないようにね。博士ももう若くはないんだから。なんなら俺が健康志向のメニュー考えて作ってあげようか?」
「ははは……それはまた今度にでも頼むことにしようかの。一度頼むと頼りっきりになってしまいそうじゃ」
「じゃあ、またおいおいね。今日は俺も帰るよ」
「それじゃあな、龍斗君」
次の日の朝刊を見ると、「人気アイドルの部屋で自殺?!その場にいた毛利探偵が巧妙に仕組まれた事件の謎を解く!」という見出しがトップを飾っていた。……ああ、そういやそんな事件もあるんだっけ?ダメだ、起きた後にしか思いだせないな。
「これ、蘭ちゃんのお父さんが解決したん?」
「多分、新ちゃんが誘導したかどうにかしたんだと思うよ」
「そうなん?」
俺の横から新聞をのぞき見た紅葉が聞いて来たのでそう答えた。
「昨日、変声機を博士に貰っていたからそれを駆使して事件の謎を解いたのかもね」
「なるほどなあ。……っと。龍斗、もうこんな時間や。はよう、がっこいかな」
「ああ、もうこんな時間か。じゃあ行くか」
「うん」
紅葉と一緒に教室に入るとちょっと上機嫌に見える蘭ちゃんが園子ちゃんと話していた。
「ふたりともおはよう。蘭ちゃん、機嫌よさそうだね」
「おはようさん、ふたりとも」
「おはよう、あのね!……」
どうやら、トロピカルランド以来に新ちゃんの声を電話で聞くことが出来たらしいのだ。なるほど、変声機を使ったのか。
そのことで不安が和らいだのか、今日一日はずっと上機嫌な蘭ちゃんだった。よかったね、蘭ちゃん。
後書き
原作改変事項
・近くによくどっかに行く人がいたので、蘭ちゃんの長期でいなくなるという言い訳の、違和感の軽減。
・相談相手がいることで不安の軽減。
です。前者は龍斗の、後者は紅葉がいることで起きたことですね。
五感の事はマイルドにして伝えられたので、今後それを使った場合の違和感をコナンが持たないようになりました。
視点変更における行間について、大きくあけてみました。
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