名探偵と料理人
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第十一話 -エピソード ONE 小さくなった名探偵-
前書き
このお話は エピソード ONE 小さくなった名探偵 を元にしています。
「青、上段蹴り一本!青の勝ち!!」
わ―――――――――っ!
俺達は今、東京体育館メインアリーナに来ていた。今日は「高等学校総合体育大会 空手道競技会」が開かれていて、蘭ちゃんが出場しているのだ。今日応援に来ているのは俺と紅葉と…
「すごい、すごい!蘭すごい、次はいよいよ決勝ね!オジ様!!」
「はっ!楽勝楽勝、なんたって蘭の勝負強さは父親のオレ様譲りだからな!」
「……すぐ調子に乗って足元をすくわれるとこも似てないといいけれど。まあ、私の娘ですからね、心配はないけど」
「こっんのう……!!」
「ははは……」
俺達二人の前に座っている、園子ちゃんと園子ちゃんを挟んで座る毛利夫妻だ。……いや、間に娘の幼馴染み挟むなよ。新ちゃんも来ていたんだが準決勝が始まる前に席を立っていた。
「紅葉はこういう大会を見るのは初めてか?」
「ええ、ウチあんまり格闘技とかに興味なかったんよ。けど、蘭ちゃんはお強いなあ。今までの相手じゃ、相手が可愛そうやった」
「確かに蘭ちゃんは一つ頭が出ているね。このまま優勝まで行けるといいけど……」
「けど?何かありますん?」
「ああ、新ちゃんと賭けをちょっとね」
「賭け?」
その言葉に答えようとすると前に座っていて英理さんと口げんかしていた小五郎さんが振り返って
「そういや、龍斗君。会うのは久しぶりだなあ!あの探偵坊主とは何だかんだ見かけたりするがいつ振りだろうな!!いつの間にやらこんなに大きくなって!」
「そうね、私も会うのは久しぶりだわ。本当に大きくなったわねえ龍斗君。隣にはそんなに可愛らしい彼女も連れていて、私も歳を取ったものね。葵ちゃんたちは元気?それに彼女ができた事、知ってるの?教えてないならあの子、むくれちゃうわよ?」
「ええ。春休みは時間をとってこっちに帰ってきてましたし、電話やチャットをつないで話たりしてお互いの近況は共有しているので。ただ最近は母さんは、俺とより紅葉とチャットする方が多いみたいですけど」
1月に紅葉が転校してきて、緋勇家に下宿したらどうかと提案した際、俺は家長である父さんにすぐに連絡を入れた。日本は夕方で時差的に今いる場所は朝のはずだったがすぐに出てくれた。大岡家の事は流石に知っていてそのご令嬢のことだということで驚いていた様子だったが、父さんが母さんに電話を代わり、件の紅葉が今隣に居る事を聞くとすぐにビデオチャットを繋ぐように指示を出され電話は切れた。
チャットを繋ぎ、両親と紅葉は対面するとお互いがお互いびっくりしていた。そりゃそうか、化粧もしていない母さんはお世辞抜きで20代にしか見えないし、仕事モードに入っていない父さんも同様だ。両親も紅葉の容姿の良さに驚いたようだ。俺との距離も。その後、緋勇家+紅葉の会談は進み俺と父さんが外れて女性陣で幾分か話した後、下宿の許可をもらった。どうやら、気に入られたらしい。
その後も俺と一緒にチャットしているんだがどうやら個別でお互い話しているみたいで話している内容を聞いても「内緒♪」の一言できられてしまっている。
そう思いながら横目で彼女を見ると、
「あら、ウチの未来のお義母様になるひとですよ?仲ようなることはわるいことではありません?そう思うやろ?龍斗」
「お、お義母様!?おいおい、龍斗君、君はまだ高校生だろ?!なんでそんな話になってんだ?」
「あら、さっき紹介された時は恋人って聞いたけど?」
「えっと。まあ、結婚を前提としたお付き合いと言いますか……」
「ウチ、緋勇家に嫁入りするんが決まっとりますんで」
俺が曖昧に濁すと紅葉がきっぱりと言い切った。そんな恨めしそうな顔で見ないでくれ。小さい時から俺のことを知っている幼馴染みの親に高校生の時点で将来のお嫁さんの紹介なんてこんなとこで突発的にできるわけないだろう!顔を真っ赤にしていると、
「あら?龍斗君がこんなに恥ずかしがるなんて珍しいわね。小さい時からいつも余裕をもってなんでもできてた姿からは想像できないくらい。でも、結婚か」
「他の小僧どもが言うなら何をガキの戯言をと思うが、まあ龍斗君だしな。俺達も10年前に大人なのに子供の龍斗君の世話になったしな」
「そうね、別居したとき蘭がすごくお世話になったものね。まあこれは私達がどうこう言う事じゃなくて葵ちゃんに任せましょう?あのぽやぽやしているけど根はしっかりしている私たちの幼馴染みに」
「ああ」
俺と紅葉のことを話していると、蘭ちゃんが控室に一度戻るようだった。
「あ。らーん!決勝も気合入れてけー!……にしてもこんな時にどこにいたんだろあやつは」
そう、エールを送った園子ちゃんが応援席からいなくなった新ちゃんについてそうつぶやいた……ふむ?『耳』をすませてみると、新ちゃんは会場入り口の柱の裏で電話しているようだった。『では、待っとるぞ。工藤君』『はい、ではすぐにそちらに向かいます。警部……』あ、これは。
「それで?新一君はどこでなにしてるかわかりましたん?」
「まあね。こりゃ蘭ちゃんが怒るぞ」
「怒る?……ああ、事件で呼ばれたんですね?これから決勝なんやから見てから行けばええのにね」
俺が特殊な力を継承していて「耳」「目」「鼻」が異常にいいことを知っている(鼻がいいことを言ったときに一悶着あった)紅葉は俺が「耳」で新ちゃんの様子を探っているのに気付いて小さな声で聴いてきた。皆まで言わなくてもこの短い付き合いでも分かりやすい新ちゃんの行動原理を理解しているのですぐに察してくれた。
「では。これより、組手女子の部、決勝戦を始めます!」
相手の子は赤のグローブを付けた杯戸高校2年の和田陽菜選手。これまでの相手と違い蘭ちゃんと実力は拮抗していた。
「っは!」
「!やっ!!」
蘭ちゃんの右手正拳突きをかがんで躱した和田さんが、身をかがめた体勢のまま隙のできた蘭ちゃんの腹部に左中段蹴りを決めた。
「赤。中段蹴り、技あり!続けて始め!!」
和田選手は再開から猛然とラッシュをかけ、蘭ちゃんに圧力をかけていく。蘭ちゃんも反撃を行うが冷静に対処されてまた連続突きを掛けられてしまう。――あ!ダメだ!!
「やめ!」
状況の打開のためにはなった右中段の回転蹴りを間合いを潰されることにより威力を殺され、決まらなかったことによる反動で転倒してしまった。……ちょっと、焦ってるな。焦りがそのまま技の粗さに出てる。
「もう、なにやってるのよ…蘭っ!!」
え?園子ちゃん?立ち上がって何を。
「らーん!気合よ、き・あ・い!!根性!根性!!ど根性!!!」
身振り手振りを交えて大声で応援するその姿に、会場の観客は笑いがこぼれた。微笑ましいというより何やってんだあの子、というたぐいの笑いで気分は良くないが。
だが、蘭ちゃんはいい具合に気が抜けたかな。
「……ええ子やね、園子ちゃん」
「ああ、自慢の幼馴染みさ」
位置に戻り、試合の再開のために構えをとった蘭ちゃんだが、審判に帯がほどけているのを指摘され、帯をしめなおすことになった。その時、後ろを向いて試合会場入り口の方を見て……あれは新ちゃん?なになに『わりい、蘭。じ、け、ん』……そりゃねえぜ、新ちゃん。
「この推理オタクがああああああ!!!!!!」
蘭ちゃんは無事優勝した。あの後、黒いオーラを発して和田選手と審判団をドン引きさせた蘭ちゃんは先ほどまでの動きが嘘のような怒涛の攻めを見せた。オーラに気圧された和田選手にはそれをしのぎ切ることはできず結局蘭ちゃんが一本勝ちした。
「こ、これも愛の力っていうんやろか?」
「多分、違うと思うぞ」
「トロピカルランド?」
「ああ。明日の土曜日、蘭と一緒にトロピカルランドに行ってくるんだ。優勝したら連れて行くって」
大会のあった次の日の金曜日。連れションしたときに俺は新ちゃんにそう言われた。そっか、明日なのか。
「なあ新ちゃん」
「んー?なんだ?」
「俺はね、新ちゃんたちのことが本当に大好きだ。だから、大変なことが起きたら俺を頼ってくれ。迷惑なんて思わない。例えどんなありえないことでも」
「な、あんだよ急に」
「探偵ってのは死と隣り合わせなんだろう?最近の新ちゃんは調子に乗ってる感があるからね。余計なことにまで首は突っ込まないこと。もしそんな目に合ったらって思うとお兄ちゃんは心配なんだよ」
「はいはい、ンなことは分かってますよ。ありがたく忠告はちょーだいしとくぜ」
――新ちゃん、分かってないよ。忠告は、した。もし忠告を聞いて巻き込まれなければそれでいい。それで巻き込まれるなら俺は、俺の出来る事の範囲で君を助けるよ。
土曜日の夜快晴だった昼間とはうってかわり、雨が降り始めていた。
「たーつーと。浮かない顔しとるね。……今日なん?」
「ああ、そうだよ紅葉。今日が俺が言っていた新ちゃんの困難の始まりの日……になるかもしれない」
「そうなんやね……っ!爆発音!?また阿笠博士の実験の失敗かなんかか?」
「!!」
そうか。「耳」を、すませると『おしりのほくろから毛が一本生えてる!』『し、新一の奴ワシの秘密を言いふらしておるんじゃ?』……なーんで、この会話なんだよ。気が抜けてしまう。でも……ちいさくなったのか。
「龍斗?どうしたん?」
「なるかもしれじゃない、じゃなくてなるみたいだ」
「「力」を使って知ったんやね。そういえば龍斗。困難とか苦難とかごまかしとるけど新一君に何が起きるん?」
「あー……これは今から会いに行くか?」
「??」
そういうと、俺は紅葉を連れだって工藤邸へと向かった。
『いいか、君の正体が工藤新一である事は、ワシと君だけのもちろん、あの蘭君にも!』
どうやら博士と邂逅して方針を決めたらしい。
「紅葉、書斎に行くよ?びっくりしない…のは無理だけど現実離れしてるよ」
「いまさらやんか?いこ?」
「それもそうかじゃあ……」
「俺に位は教えてくれてもいいんじゃないか?」
「俺に位は教えてくれてもいいんじゃないか?」
突然、そんな声が聞こえた。ま、まずい。こんな姿を誰かに見られたら……って龍斗!!?
「た、龍斗君?!それに紅葉君も!!?どうしたんじゃこんな時間に?」
「いや、新ちゃんが大変なことになってる気がしてね。博士、新ちゃんはどこに?」
「おばんです、博士。そこにいる男の子は誰なん?」
「あ、いや。この子は……」
まずい、どうする!なんて誤魔化せばっ!!
「ぼ、ぼくは……えっと、その……」
「……っぷ。はははは!いいよ、誤魔化さなくても。ずいぶんと懐かしい姿になったね新ちゃん?」
な、なんだと?今なんて言った!!?
「お、おにいちゃん?な、なにをいってるの?」
「そ、そうじゃよ龍斗君。こんな小さい子が新一の訳ないじゃないか」
「んー?そうかい?見たら分かるよ。それに小さい時の新ちゃんのにおいもするしね」
に、においだと?そんなもんで判断したってのか?!い、いやこいつの嗅覚は馬鹿に出来ん。この顔、完全に確信している顔だ。……仕方ねえ。
「博士、これは誤魔化せねえよ」
「……仕方なさそうじゃな、これは」
そして一通りの説明を龍斗と紅葉さんに話した。
「……こら。おどろいたなあ。まさか人がちっちゃくなるなんて」
「人の忠告はしっかり聞いて実行しなよ?新ちゃん……」
く、昨日言われたことがまさか実際起こるとは夢にも思わねえよ。
「新一ー!いるの!?」
やばい、蘭が来た!!
「龍斗!オメーらにはばれたのはしゃーねえがこの事は蘭には!」
「ああ、俺から蘭ちゃんには黙っておくよ。紅葉もいいな?」
「そやね。これはウチらがどうこういうことやないね」
蘭がその後書斎に入ってきて、オレは阿笠博士の親戚の江戸川コナンということになった。
俺の預かり先の話になったが博士の機転で奴らの情報を探るのに有利な探偵事務所をやっている蘭の家に転がり込むことになった。蘭の家に帰る間際に「困ったらいつでも協力するよ」と、蘭に聞こえないように龍斗に言われた。わりいな、龍斗。
「まさか、こんなことになるんとは思わへんかったわ」
「そうだね。でもこれから色んなことが起こるさ」
新ちゃんもとい、コナン君が蘭ちゃんに連れられて毛利探偵事務所に帰って行った。新ちゃんの居場所に聞かれたが事件の調査があるからと荷物を持って出て行ったと伝えると、怒りが再燃したのかすごい表情になっていた。コナン君が怯えているのを見てすぐに抑えたが。
残っていた博士に挨拶をして、家に戻った。俺達は雨がいつの間にかやんだ空を見上げながら縁側に座ってさっきのことについて語っていた。
「そうなん?……たしかにそうなんやろな。でもここからは黙ってみてるわけやないやろ?」
「まあね。小さくなったことで不便なことが多々あるだろうしね……聞かないの?なんで知ってたか」
「龍斗が言わないってことは言う必要のないことってことやろ?なんでもかんでも共有することが美徳ってわけやないんやから無理にきかへんよ」
「……まったく、敵わないな」
さて、と。これから大変だろうけど、頑張れよ?新ちゃん。
後書き
何気に難産でした。
さらっと新一がばらしたのは龍斗の嗅覚のすごさを小さいころから知っていて誤魔化せないことを悟ったからです。
「鼻」のことでのひと悶着ってのはまああれです。女の子ですから。
紅葉に「力」について話したのでこれから龍斗は何かあったら「力」を使うようになります。
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