儚き想い、されど永遠の想い
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3部分:前奏曲その三
前奏曲その三
「それでなのですが」
「その恋のお話ですか」
「はい、そうです」
まずはこうだ。穏やかに笑って僕に話してきた。
「長くなりますが宜しいでしょうか」
「はい、是非共」
僕もだ。その穏やかな笑みに気持ちをほぐされてだ。明るく返した。
「御話下さい」
「わかりました。ですがその前に」
「その前に?」
「まずは紅茶を一杯飲みましょう」
こうだ。最初に紅茶だというのだ。
「そうしてから。お話を」
「紅茶をですか」
「ゆっくりと。落ち着いてとのことなので」
先程の僕の言葉を受けてのことだった。
「ですから」
「そうですね。それでは」
そしてだった。僕も笑顔で八条氏の言葉を受けた。そうしてだった。
僕達はまず紅茶を飲んだ。その時にだ。また八条氏が僕に言ってきた。
紅茶を飲みながらだ。こう僕に言うのだった。
「私の名前ですが」
「八条さんですね」
「そうです。下の名前ですが」
その名前はだ。何というかとだ。自分から話してきたのだった。
「義長といいます」
「義長さんですか」
「はい、そういいます」
下の名前をだ。僕に話したのだった。
「御存知頂ければです」
「わかりました。八条義長さんですね」
「はい」
あらためてだ。僕に対して言ってくれた。
「それで貴方のお名前は」
「はい、僕の名前ですね」
「宜しければ教えて頂けますか」
「わかりました。それでは」
僕もだ。八条氏に自分の名前を話した。当然下の名前もだ。そしてその仕事のことも話した。少なくとも人に話せない仕事ではないつもりだ。
そこまで話してからだ。僕達はお茶を楽しみながらまずは世間話等をした。話してみるとだ。八条氏の穏やかで気さくな人柄と深い教養、それに確かな洞察がわかった。立派な人であることは間違いない。
そうしたことがわかってきた頃にだ。お互い一杯目のお茶が終わったのだった。
それを見てだ。八条氏がテーブルの上にあった鈴を鳴らした。するとだ。
あのメイドさんが来てだ。僕達に尋ねてきた。
「御茶ですね」
「はい、御願いします」
八条氏がその笑顔でメイドさんに告げた。
「私は同じものを」
「わかりました。ではお客様は」
「僕もです」
こうメイドさんに答えた。
「同じロイヤルミルクティーを」
「わかりました。それでは」
「それとです」
ここで八条氏はメイドさんにさらに言った。
「お菓子はありますか」
「何が宜しいでしょうか」
「そうですね。今は」
八条氏は少し考えてからだ。このお菓子を言葉に出した。
「ケーキを」
「ケーキですか」
「チーズケーキがいいですね」
ケーキとしてはオーソドックスなものの一つだ。あの狐色の外側もいい。
「それを御願いします」
「わかりました」
「貴方はどうされますか?」
八条氏はメイドさんにチーズケーキも頼んでから。僕に顔を向けて尋ねてきた。
「お菓子はいりますか?いるとしたら何を」
「そうですね。僕は」
少し考えてからだ。これにした。
「さくらんぼのケーキを」
「それをですか」
「はい、それを御願いします」
僕はそれを頼んだ。そうしてだった。
そのうえでだ。僕達はそれぞれのケーキを食べながらだ。本題に入った。
八条氏はだ。こう僕に言ってきた。
「さて、それではです」
「そのお話ですね」
「大正時代の頃です」
時代はその時だというのだ。
「その頃の日本は」
「大正デモクラシーでしたね」
「第一次世界大戦に勝ち経済も上向いてきていました」
日露戦争と日韓併合による経済的、財政的な危機が何とか収まってだ。そうなってきたのだ。
「そのことは御存知ですね」
「そうした時代のことですね」
「そうです。あれは」
ここから話がはじまった。その恋の話のことが。
前奏曲 完
2011・2・12
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