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儚き想い、されど永遠の想い

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2部分:前奏曲その二


前奏曲その二

 聞いてみるとかなりの資産家らしい。この洋館に今は使用人達と共に住んでいるという。マンションを経営していて生活には困っていないという。その彼がだ。僕をこの洋館に案内してくれたのだ。
 そしてその時にだ。僕に話してきたのだ。
「恋でしたら一つ知っています」
「どんなお話ですか?」
 僕はだ。その時酒の力でだ。紳士の言葉に乗った。
「それで」
「御聞きになりたいですね」
「はい」
 その通りだとだ。紳士に答えた。
「今僕は恋をしています」
「だからこそですか」
「恋そのものに興味を持っていますので」
 いささか気取って言った。この時僕はフランスか何処かの詩人になったつもりだった。恋は人を詩人にするという言葉通りと言うべきか。
 その気取りのままだ。紳士の話に乗った。そういうことだった。
「ですから」
「わかりました。それではです」
「はい、それでは」
「今度。私の家にいらして下さい」
 こう僕に言ってきたのだった。
「その恋のことをお話させてもらいます」
「僕にですね」
「恋に興味がおありでしたら」
 紳士はまた僕に言ってきた。
「知ってもらいたいお話ですので」
「だからですか」
「はい、だからです」
 それでだというのだった。端整なその顔で。そこには邪なものは見られなかった。それで僕も頷いたのだった。
「では。今度の。日は」
「何時ですか、それは」
「日曜はどうでしょうか」
 休みの日にだ。ゆっくりというのだった。
「その日で」
「わかりました」
 僕は紳士の申し出にだ。素直に答えた。
 そしてそのうえでだ。微笑んでこうも述べた。
「それではその時をです」
「その時をですか」
「楽しみにさせてもらいますので」
「はい。是非共」
 紳士もだ。微笑で僕に応えてくれた。
 そうしてだった。僕はその日曜日に紳士の屋敷に行くことになった。
 そのことに素直に喜んでいるとだった。一人の淑女が僕のところに来てこう話してきた。
「これは凄いことになりましたね」
「凄いこととは?」
「あの方のお屋敷はです」
「この街にあるのですよね」
「はい、この街の。海の近くに」
 そこにだというのだった。
「あるのですけれどそのお屋敷、洋館でして」
「洋館ですか」
「大正時代からある古いお屋敷なのです」
「大正からですか」
 それを聞いてだ。僕はそこにある歴史に驚いた。大正といえば僕の祖父、もう亡くなったその人の生まれた頃だ。もうかなり昔のことだ。
 昔どころではない。歴史になっている話だ。その頃の家だというのだ。僕はその歴史を感じながら淑女のその話を聞くのだった。
「それはまた」
「その頃から。立派な家でして」
「洋館だけではなくですね」
「はい、あの方の家、八条家ですが」
「ああ、あの」
 八条家といえば僕も知っていた。かつての財閥であり今も世界的にその名を知られている一大グループだ。その家だったのだ。
「あの家の方だったのですね」
「そうです。マンションを経営しておられますが」
「そのマンションもですか」
「八条不動産という意味でして」
 八条グループの中の一企業だ。八条グループはとにかく様々な企業の集合体なのだ。その規模はあの三菱にも勝るとさえ言われている。
「あの会社の重役なのです」
「そうだったのですか」
「はい、そういう方ですので」
「わかりました。そうした方でしたか」
「はい、よくお話をされるといいと思います」
「わかりました」
 相手が誰かと言っても特に意識するつもりはないがそれでもだ。あの八条家、世界的なコンツェルンの経営一族の一人ということは意識せざるを得なかった。それでいささか緊張しながら洋館に入るとだ。その紳士、八条氏は穏やかに笑って気さくに僕に話してきたのだった。
 
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