【アンコもどき小説】やる夫は叢雲と共に過剰戦力で宇宙戦艦ヤマトの旅路を支援するようです
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閑話 観戦武官 その2
「で、どうしてこういう風になったのか、聞かせてもらうぞ」
この手の席だと当たり前のように場を仕切る古代守が当然のようにやる夫達に追求する。
庭園のテーブルに並べられた茶菓子は全部地球からの輸入品で、代用合成食品で無い所がポイント。
「ある時女神様が現れて……」
「やる夫。
とぼけるな。
それとも、言えない話なら言えないと言ってくれ」
古代守の強い口調にやる夫と叢雲が互いに目を合わせて同時にため息をつく。
そこからやる夫が口を開くまで、やる夫の紅茶のカップが空になるほどの時間を有した。
「友人の好で話すんだ。
機密は守ってもらうぞ」
そう言ってやる夫は用意された真実を口にした。
「叢雲がらみの話はどこまで知っている?
そうか。愛歌ちゃんだっけ?彼女が全部話したと。
じゃあ、まずはその前の話をしよう」
やる夫は一度叢雲の方を見て彼女が再度頷くのを確認してから口を開く。
「叢雲がムラクモ重工による人造人間であるという事は知っていると思うが、何の為にそれを作ったかまでは知らないはすだ。
そこは叢雲が徹底的に隠蔽したからな」
三人の視線が東雲愛歌に集まるが、彼女も首を横に振る。
彼女の誕生理由は叢雲製造の施設が残っていたからで、その施設が何の為に使われていたかは彼女を持ってしても知る事はできなかった。
「こいつの誕生の本当の理由はな、宇宙船の生体コンピューターとしてなんだよ」
専門的な話だからこそ科学者である真田志郎が異を唱える。
その有用性とデメリットに即座に気づいたからだ。
「待て。やる夫。
操作性向上の為に分からんではないが、彼女一人に負担を押し付けるのは危険すぎるだろう!」
「そうだよ。
本来の用途ならば、こいつはこんな船に使われるはすが無かったんだからな」
実に忌々しくやる夫は吐き捨てる。
これが芝居であると三人は見抜けない。
「『艦娘計画』。
元々はそういう計画の名前だったらしい。
太陽系に活動を広げようとする、人類の『単座宇宙艇』の支援システムが本来の目的なんだからな」
「単座……宇宙艇?」
新見薫の質問系の問い返しにやる夫がわざとらしく苦笑する。
肩をすくめてわかりやすく首を横に振って見せて、その計画のばかばかしさをアピールしてみせた。
「あの当時の地球と火星の移動日数を考えてみろ。
コンテナ船での移動日数とその輸送量の増大は当時から大変で、コンテナ船のパイロットの負担が問題になっていたじゃないか。
『艦娘計画』ってのは、それを解決する計画だったんだよ。本来はな」
やる夫の説明にさらりと鹿角が口を挟む。
もちろん打ち合わせどおりのカミングアウトである。
「ちなみに、私や控えている三河型、現在艦をコントロールしている武蔵等は叢雲お嬢様を生み出す計画の派生で生まれた『侍女計画』で作られた物です」
「えっ!?
鹿角さん人間じゃないの!?」
驚く新見薫を尻目に古代守が質問を挟む。
その質問に答えたやる夫の回答に人の業を感じられずにはいられない。
「なんでそこまで精巧に作られたものを世に出さなかったんだ?」
「精巧に造り過ぎたたんだよ。
老いず、男に忠実で、何でもこなすダッチワイフ。
対外受精で子供も可能とくれば、世の女性全否定だろうが」
「……」
「……」
やる夫の説明に思う所というか納得してしまった男二人に女性二人からの視線は冷たい。
そんな四人を苦笑しながらやる夫は嘘を重ねる。
「けど、それこそが艦娘計画の肝なんだよ。
どうしても宇宙は危険だし、そこに男性パイロットの数に合わせられるほど女性パイロットは用意できない。
コンテナ船故に、長期間単身で乗る事が多い男性パイロットの慰安用として作られたアンドロイド。
そしてアンドロイド故に、艦艇の操縦補佐を任せることができて……」
「……それならば、艦艇とアンドロイドを最初から一体化させれば、その運用はコスト的にずっと楽になるか」
最後の結論を真田志郎が忌々しくはき捨てる。
筋は通っているから、古代守が続きの質問を口にした。
「納得はしていないが、理解はした。
で、そんな荒唐無稽な計画がなんで秘密裏に進められたんだ?」
「あら。
それは簡単な答えよ。
軍事技術が民間技術に転用できるならば、逆もまたしかりってね」
「……」
「……」
「……」
黙りこむ三人に対して、踏み込んできたのは東雲愛歌である。
笑顔でそのどす黒い思惑をこの場にぶちまけた。
「あの時の火星自治政府は、地球からの独立を目指していた。
単身で艦艇をコントロールできる『艦娘計画』は、戦力、特に艦艇運用人員が確実に足りない火星自治政府にとって垂線の的だったでしょうね」
「その通りよ。
ムラクモ重工はこの計画をもって火星自治政府の支援をとりつけ一躍大企業にのし上がり、今のムラクモ・ミレニアムとなった。
そこから先は言わなくて分かるでしょう?
私はその最初のプロトタイプって訳」
叢雲の言葉にやる夫が続く。
ここまで100%嘘なんて誰が気づくだろうか?
そんな事を話しながら、やる夫は次の嘘に移る。
「あの時、宇宙船の事故で死ぬかと思ったが、その時にこの船のコルベットに偶然助けられた。
この船は別の銀河で作られた船らしく、その銀河を支配していた銀河帝国の旗艦だったらしい。
その銀河帝国は反乱同盟軍との戦いに破れ、銀河帝国の残党は銀河外へ逃亡。
その時にワープ事故を起こしたらしく、太陽系外の小惑星セドナに身を隠して艦の修復の資源をコルベットで隠れて集めていた時に拾われたという訳さ」
「その銀河帝国の乗員は?」
「居なかった。いや、作業用ドロイド達しか居なかった。
見つけたとき、この船は建造途中だったらしく、色々と作業をしていたよ。
反乱同盟軍にこいつを渡したくなかったんだろうな。きっと。
ここからだと確認すらできない銀河系の座標を示していたから、無人ワープで送り出して向こうで受け取るつもりだったんだろう。
それがワープ事故で太陽系に流れ着いた。
ありがたかったのがこの銀河帝国は人型の種族だったらしく、遭難者という事で俺達にゲストIDが与えられ、言葉が分かれば後は叢雲の出番だ。
言語を理解し、艦内ネットワークを掌握し、この船を乗っ取るまでそう時間はかからなかったよ」
ここまでの話に誰も異を唱えない。
唱える情報を持っていないというのもあるが、あまりに荒唐無稽過ぎてついて行けないのだろう。
それでも、ここにあるこの巨艦は本物だった。
「で、だ。
なんとか船を完成させて帰れるめどがついたと思ったが、それは同時にこの船を晒す事に繋がる。
さっきも言ったが、地球内部のごたごたからこの船を巡って世界大戦が勃発しかねないんだよ。
全部オーパーツの塊みたいなものだからな」
「とはいえ、こそっと戻る事もできただろうに?」
真田志郎の言葉を今度は叢雲が否定する。
宇宙船の事故は正真正銘の自作自演だが、その背後には数十もの暗殺計画の存在があった。
「無理よ。
あの時の私はムラクモ重工を率いていたのよ。
ムラクモ・ミレニアムの成立において私の存在はどうしても邪魔だった。
それは、ムラクモ・ミレニアム成立後も変わらないでしょうね。
ムラクモ・ミレニアムとウェンズデイ機関を、つまり、火星自治政府の裏をよく知っている生き証人なんだから」
「そうね。
あの時の火星は、お姉さまが居なかったらもっと早く独立戦争に踏み切っていたでしょうね。
そんなお姉さまがこんな超巨大戦艦の主となったなんて知ったら……」
そのから先を東雲愛歌は言わなかったが言わなくても分かる。
外に団結しないと中で共食いをするのが人という種族である。
「で、艦の修理過程で太陽系外の星系にも足を運んでな。
そこで異星人と接触したという訳だ。
ブローグ・コモナリティや、まだ地球は接触していないけど、モン・カラマリなんて種族もこの近くに居る。
地球と異星人との接触は時間の問題だった。
で、俺たちが予行演習をと買って出て、見事に失敗。
その後に、ガミラス艦隊の地球艦隊の先制攻撃から今に至ると」
「え!?
ガミラス艦隊からの先制攻撃じゃないんですか!?」
立ち上がって驚く新見薫に、やる夫は手を振り、叢雲はあの時の交信データを全て聞かせてみせた。
その生々しさ、特に開戦に反対した沖田提督を解任したくだりでは古代守だけでなく真田志郎すら激高しかかったのだが、とりあえずは回りの説得で落ち着いてくれた。
「なるほどな。
何でお前たちが姿を隠さなかったかやっと分かったよ。
こんなのがバラされたら、上の首が物理的に飛びかねん」
古代守が吐き捨てるが、やる夫は実にわかりやすく嘲笑を浮かべる。
そんな顔ができたのか。いや、しなければならなかったのかと三人はその変化を少し悲しんだ。
「ところが、地球側はまだこりていないらしい。
今回の観戦武官派遣についてだが、お前らとは違う系列で何やらこそこそと動く輩を確認できたよ」
叢雲がモニターに映すと、そこには観戦とは違うことをしている観戦武官の面々が映っていた。
そりゃオーパーツの塊だから、友好組織といえども多少の無理はして知りたいのだろう。
そんな面々を見て東雲愛歌がつぶやく。
「あら。
あの人達、芹沢提督の配下の人たちね」
「芹沢提督って、軍務局長の?」
東雲愛歌の言葉に真田志郎が反応する。
軍務局は軍政を担当する部署で、軍による政治的な動きに主として絡み、政治折衝の中心的な地位にある。
そして、東雲愛歌の義父であるゴップ提督の牙城でもあった。
「何でその芹沢提督がこんな事をしているんだ?」
古代守の質問に東雲愛歌はあっさりとその理由を告げた。
「私の義父のゴップ提督が統合国連軍統合参謀本部議長の職を退くから。
フォン・ブラウン条約発行に伴って、地球連邦発足の為の準備委員会が作られるのだけど、お義父様はそちらの準備委員長に就任するのよ。
で、その後釜を巡って椅子取りゲーム♪」
「うわぁ……」
わかりやすくどす黒い理由に新見薫が思わず声を漏らす。
そんな中、モニターに武蔵さんが現れる。
「失礼します。
やる夫様。
プローグ・コモナリティのT-elos提督から緊急通信が入っております。以上」
「ここまでみたいだな。
俺たちはCICに戻る。
鹿角さんは四人を部屋に送っていってくれ」
やる夫と叢雲が護衛メイドを連れて部屋を出る。
残った鹿角さんは真田志郎と古代守にそれぞれディスクを手渡す。
「これは?」
「長いこと友人達を騙してきたお詫びだそうです。
先程の開戦時の通信記録と『艦娘計画』の全データです」
それの意図する事に東雲愛歌が気づく。
歌うようにそのその意図を口にする。
「まぁ。
私に地球が作るだろう、旗艦級戦艦の艦娘になれという事ね♪」
「jud.
そこまで踏み込んで頂けるのでしたら、現在の地球技術でできる新型戦艦の設計図をお渡しします」
そう言って、鹿角さんはモニターに一つの設計図を見せる。
全長は1000メートル程度で旗艦級戦艦と呼ぶのにはふさわしくないのだが、プローグのローグ級と同じぐらいの大きさは現在の地球艦隊の次期主力艦に相応しいだろう。
「全長1000メートル以上、50万トンもの巨艦です。
ヤマト級戦艦とやる夫様は名付けておられました。
お納めください」
なお、この艦『土佐』と言うのだがというやる夫のぼやきは鹿角は聞かなかった事にしたので四人も知らずにこの新型戦艦を地球側は秘密裏に建造する事になる。
そして、叢雲一隻でガミラス艦隊全てを撃沈してみせた事で、地球も旗艦級戦艦というものに興味を持つことになった。
その建設に深くかかわるのが古代守・真田志郎・新見薫・東雲愛歌の四人になったのは言うまでもない。
後書き
戦艦土佐
元ネタは『超超弩級戦艦土佐--鋼鉄の宴--』中岡潤一郎 学研 2002年
なお、これでも1000メートルクラスである。
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