インフィニット・ゲスエロス
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12話→社長の真意と始まりの鐘①
前書き
次号、鋭意制作してますのでお待ちください。
外国との取引のある会社では、時差の関係上、一部の部署は夜勤がある場合がある。
この会社も、同様の緊急な用件に備えるため、この時間に太郎が通っても、特に咎められなかった。
持たされているIDカードを通し、エレベーターで最上階へ。
特に問題なく、太郎は社長室の前までたどり着いた。
「入りたまえ」
確かめるようにノックをすると、特に返事を待たずに、声が返される。
そのことに少々の困惑を感じながらも、太郎は声に合わせて、ドアノブを引いた。
「失礼します。山田太郎、参りました」
一礼し、目の前の男を見ると、彼はそれに座ったまま答えた。
「ふむ、よく来てくれた。こちらに来て、楽にしたまえ」
神時法(ジントキノリ)、この会社のトップである男である。
苦労を感じさせる白髪の交じった髪をオールバックでまとめ、ヤクザの親分のように全体的に鋭すぎる顔立ちを、申し訳程度に口ひげがフォローしている。
先代が早逝したこの会社を自身の腕で維持、拡大してきた辣腕家であり、自身もその点に関しては尊敬している。
まあ、嫁が悪女であった事を見抜けず結婚したことに関しては、正直哀れんでるが。
さて、いよいよIS計画が始動、ISコアも初期ロットが製造されている。
俺に用事がある、というならば、心当たりはいくらでもあるが、シンデレラでもあるまいし、この真夜中に呼ばれるような用事は、心当たりがない。
では、何の用なのか。
指示通り机の前で直立して
、その真意を話すのを待っていると、ほどなくして社長は、口を開いた。
「君は、『亡国企業』という言葉を聞いたことがあるかね?」
「噂程度は。深く調べてはいませんが」
社長の口から出る予想外の言葉に、努めて平静を装って答える。
このじじい、何を考えてるんだ。
亡国企業、その名は経済界では二つの意味で避けられている。
一つは浅い情報を持った者達からの視点、子供の戯れ言、良くある『都市伝説』を大の大人が口にするのは恥ずかしいという侮蔑的な視点から。
二つめ、ある程度情報を収集すると分かる、『亡国企業』業務内容の危うさと、一定ラインを越えて調べた者達の末路から、興味本位で調べてはいけないという視点である。
ここで、このように二つの視点を脳内に並べていることから分かる通り、太郎はその後者に属する。
彼は世間一般でいう、悪人である。
が、同時に彼は暗殺された前世から、悪党に良くいるタイプ、俗に言う『調子に乗って足元を疎かにする』タイプとは無縁の男でもあった。
一定ラインを越えて『亡国企業』を追う相手に対し起こる事。
不審な事故死、急な病死等、まるで『警告』のように起こるそれらを無視して行動する事は、太郎には出来なかった。
そんな怪しい企業は打倒すべきだ?
そんな一銭にもならない事を嬉々として行うほど、太郎は善人ではない。
だから、個人的に束の協力の下、ある程度調べた後、他の誰にも言わずに知らないふりをして過ごして来たのに……
「社長、差し出がましいようですが、今は会社の重要なプロジェクトの最中です。不用意に余計な事に手間をかけるのは下策だと」
言葉こそ丁寧だが、はっきりと社長が出した言葉、『亡国企業』に関して触らないよう釘を刺す。
ただ、当然太郎には社長に命令する権限などない。
あくまで、お願いするだけ。
「ふむ……その反応を見ると、ある程度調べて止めたか……やはり君は賢明だね」
その答えに太郎は又混乱する。
事前に調べた?危険だと認識している?
では何故、ここで議題にだしたのだ?
意図が読めない話の流れに困惑をする太郎を尻目に、社長は、はっきりと答えた。
「困惑をする君に、先ほど、問いを投げた理由を言おう……なに、大したことではないのだが、ここまでわが社に関わり、息子によくしてもらっている君に黙っておくのも気がとがめてね」
社長は続けた。
「亡国企業の上層部、複数の大企業の役員等からなる幹部会に、我々の会社もかんでいる、それを伝えたかった。それだけの事だ」
再び太郎と社長の間に沈黙がおりた。
だが、太郎の脳内はその沈黙とは裏腹に、目まぐるしく動いていた。
さて、まず太郎が考えたのは自身の安全であるが、これは問題ない。
彼が今、左手に巻いている時計。
これは、束から最近誕生日に頼んで作ってもらったもので、自分に飛び道具、例えば銃弾等が放たれた場合、自動的に弾くことができる。
その間に、ISを起動させて逃げればよい。
千冬と束を拾って。
二人の安全?そもそも、俺にこの時計を作った束と、千冬には同様のタイプのアクセサリーを渡しているし、不意討ちなど、動物的な勘が異常発達している千冬や、そもそも俺達以外の人間を信用していない束には効かない。
唯一怖いのは一夏を人質にとられる事ではあるが、まあ、ここにちょうど交換しやすい奴(社長)がいるから誘拐してトレードすればよい。
おっと、まだ敵対が決まったわけではないのに気が逸ってしまったな。
不用意に喧嘩を売るのは早計だ。売るのは、社長の真意を聞いた後でなければ。
心を隠して、太郎は社長に改めて意図を問う。
「……お話の意図がイマイチ読めませんね。亡国企業に属しているから、何だと?別に此方に被害が及ばないのなら、問題はありませんが」
そう返す太郎に、今度は社長が目を見開いた。
「……君が亡国企業をある程度知っているのなら、その主な業務も知っているはずだが……」
「ええ、確か『兵器販売業務を通して、世界のミリタリーバランスを制御し、それをもって世界を裏から牛耳る』伝え聞いた情報の断片を繋いだ結果、彼等の主要な業務をそう認識しておりますが」
太郎は続ける。
「繰り返しますが、『それが何か問題がありますか?』。直接何かされたなら報復も考えますが、知らない所で知らない悪事を働く奴等にわざわざ手を出すなんて、俺にはとても」
苦笑と共に返す太郎に、社長はその固い顔に笑顔を浮かべた。
「ふむ、『やはり君を選んで良かった』。太郎君」
笑顔を浮かべたまま、社長は続ける。
「亡国企業に一枚かまないかね?君も?」
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