猫の手を借りると
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第二章
「だからこっちが言ってもな」
「手伝ってくれる筈がないわね」
「けれど手伝ってくれるなら」
「本当に手伝って欲しいわね」
「全くだな」
「まあ長靴を履いた猫ならともかく」
美幸は笑って大輔に言った、ペロー童話の中でも有名なこの話を出しつつ。
「ミミは普通の猫だから」
「手伝う筈がないな」
「そう、そんなことはね」
「そうだよな、けれど思うよな」
「あまりにも忙しいと」
「猫の手も借りたい」
「実際にね」
よく言われる言葉だがそう思うというのだ、こう話してだった。
二人は食べ終わってお茶を飲んで少し休憩をするとまた働きだした、子供達も起こして手伝わせた。だが。
ここでミミが起きてだ、そしてまずは身体を大きく延ばしてから欠伸を一つしてそれからであった。
動きだした、すると窓を拭いている大輔のところに来てだった。
窓を拭くその手に自分の前足をせっせと出してきた、大輔はこのミミの動きに気付いて彼女に言った。
「おいミミ何をしているんだ」
「ニャア」
ミミは応えずその手を出し続けてちょっかいをかけてくる、その顔は真剣なものだ。
だが大輔はそのミミにだ、また言った。
「止めろ、邪魔だ」
「どうしたの?」
夫の言葉を聞いてだ、美幸は今掃除をしているキッチンから尋ねた。
「ミミがどうかしたの?」
「傍に来て邪魔をしてるんだよ」
「お掃除の」
「そうだよ」
大輔は問うてきた妻にたまりかねた声で答えた。
「これがな」
「そうなの」
「邪魔だ、はっきり言って」
「じゃあどっかにやる?」
美幸は困っている声で自分に答えてくる夫に掃除を続けながら提案した。
「そうする?」
「いや、話しているうちにな」
大輔は窓を拭き続けながらそのミミを見て美幸に答えた。
「どっか行ったぞ」
「そうなの」
「急にどっか行ったな」
「何処に行ったのかしら」
「外に出る奴じゃないしな」
ミミは完全な家猫だ、家の中だけを縄張りと思っていてそこから出ることは決してない。このことは家族にとって安心出来ることだった。
「だからな」
「子供達のところに行ってもね」
「別にいいな」
「そうね、けれど起きたらね」
「邪魔をするからな」
「困った娘ね」
「全くだ」
二人で話す、しかしだった。
何とミミは美幸のところに来ていた、しかも掃除をしている最中のキッチンの上に堂々とした顔で四本足で立っていた。
そのミミを見てだ、美幸は顔を顰めさせて大輔に言った。
「ミミいたわよ」
「何処にいたんだ?」
「私の目の前よ」
こう夫に答えた。
「今お掃除をしているキッチンの上にね」
「おい、そこにか」
「いるわよ」
「掃除している場所にか」
「全く、お掃除してるのに」
よりによってその場所にというのだ。
「出て来てね」
「そしてか」
「そう、そしてね」
美幸はミミが自分のところに来たのを見つつ大輔に話した、見ればミミのその顔特に目の輝きは実に興味津々としたものだ。
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