エアツェルング・フォン・ザイン
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そのろく
「で…その子は何?」
夕飯を食べた後でアリスに聞かれた。
「その子?玉藻の事か?」
「ええ、そうよ、外の世界に居た筈のあなたが何故大妖怪を従えているのか。
外の世界にそんな大妖怪がまだ居たのか…
聞きたい事は色々あるわ」
えぇ…なんか面倒な事に…
と思っているとミルクを飲んでいた玉藻が顔を上げた。
「私はご主人の使い魔です。それ以上でもそれ以下でもありません」
「そう…大妖怪のあなたが一人間であるザインに従う理由は何?」
「ご主人に負けたからです」
と、勝手に話が進んでいく…
「アリス、俺から話すよ」
「ええ、そうしてちょうだい」
さてと…どこから…いや、簡単にでいいか…
「玉藻は俺が前世でやっていたゲームのキャラクターだ」
「ゲーム?」
「ああ、で、そのゲームの中で俺は玉藻を仲間にした」
「そう…そのゲームのキャラクターがここに居る理由は?」
「さぁな…多分俺の能力だろうな」
アバターである程度の能力…つまりゲームキャラクターである程度の能力
「そう…わかったわ」
アリスは取り敢えず納得してくれたようだ。
「玉藻」
「はーい」
ピョイ、と俺の膝に乗った玉藻を撫でる。
「ふふ…あなた達…仲がいいのね」
「まぁ、数十年ぶりに会って一年だからな」
「え?」
おっと…
「あなた…そんなに生きてたの?」
えーと?
「まぁ…魂だけならそうだな…50…いや60はいくんじゃないか?まぁ本当はもっと行ってる筈だがな」
帰って来てから精神年齢図ったらそのくらいだった。
詳しい年数はしらん。
もしかしたら一瞬だったかもしれないし、一千年だったかもしれない。
俺とキリトとアスナはもう、時間の感覚が常人と違いすぎる。
色々あったな…レジスタンスやったりとか…
「それにしては幼いけど…」
うーん?
「精神が体に引っ張られてるのかもな…」
「そう…あなた年上だったのね…」
「そういうアリスは?」
「私?そうねぇ…今年で…五十かしら?」
うわ、みえねぇ…
「私は魔界人だから成長が遅いのよ」
そういえばそんな設定あったような…
「この年になると枯れはしないがおちつくんだよな…」
「それって枯れてるんじゃないのかしら?」
「いやいや、いろんな事への興味は在るよ?でもその過程をゆっくり落ち着いて楽しむクセがついたというか…」
「元人間妖怪の典型ね」
ひでぇ言い様だ、まぁ、キリトとアスナと整合騎士団もそんなカンジか…
「あなた達の事はわかったわ…じゃぁ、お風呂にしましょう?」
は?いやいやいやいや…脈絡無さすぎだろ…
「じゃぁ、お先にどうぞ…」
「そうね、私が溜めるからその後ね」
溜める?いまから?
「いまから溜めたら二時間くらいかかるだろ」
「魔法で熱湯出せば三十秒で出来るわ」
魔法すげー!
「あ、覗いたら殺すわよ」
「今更覗きなんてしねぇよ」
「あら?体に精神が引っ張られてるのでしょう?」
「恩人にそんな不貞は働かんさ」
「そう」
アリスは風呂場へ行ったようだ。
「玉藻…お前だけだよ…俺と居てくれるのは…」
「くぅ…くぅ…」
「ありがとな…」
その後玉藻を撫でていたらアリスが戻ってきた。
「お風呂空いたわよ…ふふっ…」
ん?
「どうかしたか?」
「あなた、とっても幸せそう。玉藻が出て来てから、暗い顔じゃなくなったわ」
「そうか…」
さて、俺も風呂に…って…
「アリス、玉藻見ててくれない?」
「わかったわ…起こさないようにね」
俺はゆっくりゆっくりと玉藻をアリスの膝にのせた。
「あら…本当にふかふかね…」
玉藻って逆撫でポなのだろうか?
「じゃぁ風呂入ってくる」
「私が入った後の風呂だからって興奮しちゃだめよ?」
「するかアホ」
騎士団時代は当たり前だったっつーの。
「そう」
アリスは幸せそうに玉藻を撫でていた。
俺は風呂場へ向かった。
風呂場は結構広かった。
「へー、いい風呂だな」
体と頭を洗って湯船に浸かる。
「幻想郷…か…」
忘れられた者達の楽園。
最後の理想郷…
俺が識っている人はたくさん居る。
でも俺が知っている人はいない。
「さみしぃなぁ…」
はぁ…UWの時はキリトとアスナが居た。
それに帰れる心算もあった…
「皆元気かなぁ…絶対泣いてるよな…」
葵…
「はぁ…せめて卒業(意味深)したかったな…」
あーふざけてないとやってらんねー…
「れーざーらんす…お、出た」
レーザーランス、心意基本技の一つ。
ベルクーリが得意だった『心意ノ太刀』の下位互換だ…
その後、心配になって様子を身に来たアリスが来るまでふざけていた。
「あーご主人もどってきたぁ…」
リビングに戻ると玉藻がテーブルの上でぐでぇーっとしていた。
「おー上がったぞ。玉藻」
玉藻が俺の頭に乗る。
「まったく…いくら妖精だからって溺死するのよ?」
アリスに怒られた…
「だぁいじょぶだって、人間だった頃も毎日一時間くらい入ってたし」
「あなた…六十なんでしょう?よく死ななかったわね…」
ん?
「いやいや、年くってるのは魂だけさ。人間だったときの実年齢は18だよ」
「?」
まぁ、そうなるわな
「俺はゲームの世界で精神を加速したまま二百数十年を過ごした。
加速率は500万倍で十数分」
「何を…いっているの?」
「だから、俺は精神だけが年をくった異端なのさ」
アリス目を見開いた
「因みに俺の相棒にして剣の主たる星王とその妃たる星王妃も同じだ」
俺達はUWでの記憶を消さなかった。
それは彼らに対する冒涜だからだ。
「そう、わかったわ…」
ああ、これは、気味悪がられたな…
ははっ…ショウにも話してないのに…始めてあった人に何言ってんだろ俺…
ふわりと、アリスに抱きしめられた。
「安心なさいザイン。幻想郷は、全てを受け入れるわ」
その言葉は何よりも俺の心を軽くした。
「幻想郷ではそんなの日常茶飯事よ。大抵の実力者は外見と中身が合致しないわ」
あぁ、こんな俺を…受け入れてくれるのか…
「あら?そんなに嬉しかったの?」
「なに…が?」
「気付いてないのね…あなた泣いてるわよ?」
ふと、頬に伝う物があった。
「あ、あれ?おかしいな…涙が…とまらねぇや…」
俺は溢れる涙を止められなかった。
UWにはキリトとアスナが居た。
でも俺がその中に入るのは気が引けて、
俺はずっと一人だった。
慕ってくれる団員もいた。
想ってくれる女性もいた。
でも、リアルワールドの事を分かち合える人は居なかった。
想う事が出来る女性も居なかった。
俺は孤独だった。
レジスタンスなんてやったのは、二人に構って欲しかったのかもしれない。
でも幻想郷はそんな俺を受け入れてくれるかもしれない。
「あり…がと…ありす…おれ…ずっとひとり…で…」
「はいはい…寂しかったのね…」
「ん…うん…」
「今日はもう寝ましょう」
「うん…」
そして俺はアリスと同じベッドに…
「入れるかバカ!何流れに乗せようとしてんだ!」
「あら残念、せっかく抱き枕にしようと思ったのに」
先にベッドに入っていたアリスは悪戯を失敗した子供のような顔をした。
「俺は男だぞ!?」
「あら?いいじゃない。さっき見せてくれた姿はほとんど女の子だったわよ?」
そらM9000番台のアバターを幼くしたら女の子になるよ!
「そういう話じゃないだろう!」
「ご主人…うるさい…カトラスさんと寝たりしてるんだからいいじゃん…」
とテーブルの上の玉藻に言われた。
むぅ…
「あら?女の子と寝てるの?」
「まg…妹みたいな奴さ」
危ねぇ…孫っていう所だった…
「そう、なら私もいいわね?あなたの年齢からしたら妹みたいな物でしょう?」
「いやいや、一応知り合ったばかりの他人だぞ?」
「その他人の胸で二回も泣いたのは誰だったかしら?」
「うぐっ!?」
「ほら、観念なさい」
とベッドに引きずりこまれた。
「え、ちょ、な、力強っ!?」
ふ、振りほどけない…
「肉体強化魔法っていうのがあるのよ」
魔法すげー!
じゃなくて!
「何すんだよ!?」
「玉藻、あなたのご主人を黙らせたいのだけど、どうすればいいかしら?」
「ご主人の顔を胸で挟んだら黙るよ」
ちょっとお前何言ってんの!?
「カトラスさんが言ってた」
あんのバカ女!
「あらそう」
で、俺はアリスの胸で挟まれた。
目の前にアリスの胸が…
って!
「もががもががががー!もがー!(マジでやるなー!バカー!)」
「あ、あんっ…もう、くすぐったいじゃない」
おい!ノーブラで何してんだよお前!
俺はクルリと体をよじった。
「はぁ…はぁ…なにしてんだよ…寝る前に疲れたんだが…」
「あらそう?なかなかカワイイ反応だったわよ?」
くそぅ…年上なのに…
ピョイっ…
「ご主人、私も眠いです」
と言って玉藻はベッドの中に潜った。
「ぷはぁっ!」
で、俺の目の前に出てきた。
「ご主人、寝よ?」
はぁ…しょうがない…
「わかったよ…」
俺は諦めた。
「じゃぁ、寝ましょうか…」
アリスが何かしたのか部屋の灯りが消えた。
月明かりが差し込む部屋。
灯りが消えて一分程して…
「ねぇ…ザイン…」
「どうしたアリス?」
「私の胸どうだった?」
「ぶふぉぁ!」
お前何言ってんの!?
「ねぇ…どうだった?」
アリスが後ろから抱きしめる力を強めた。
「って!胸当たってる!」
「当ててんのよ…」
そんな御約束は求めていない!
「ちょっ、マジで寝れなくなるからヤメテ」
「じゃぁ、こたえなさいよ…」
うぅ…
「すごく……柔らかかった…」
「そう…………おやすみ」
それっきりアリスは眠ってしまった…
………寝れない!
結局悶々として眠りについたのは三時間後だった…
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