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儚き想い、されど永遠の想い

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214部分:第十六話 不穏なことその六


第十六話 不穏なことその六

「あの紫の場所は」
「そうです。アスファルトです」
「なら余計にですね」
「ええ。これまでは見られなかったものです」
 この時代になるまではだ。見られなかったというのだ。その紫は。
「何しろアスファルト自体がなかったのですから」
「そうですね。ですから」
「この時代になりそして」
 そうしてだというのだ。その紫が見られるようになったのは。
「そう思うと余計にですね」
「この紫を見られることは幸せですね」
「そう思われますね。この紫は」
「とても特別な紫ですね」
「文明はこうした美も見せてくれます」
 その特別な紫をもだ。この時代になりこの時間にだけ見られる。そうした特別な紫なのだ。
 その紫を見てだ。真理は紅茶を口にした。そのうえでの言葉は。
「この紅茶は赤いですね」
「はい、赤ですね」
「赤いお茶。思えば」
「この赤い夕暮れの世界をそのまま」
「飲んでいるのですね」
「そうなりますね。今この時間を」
「時間を飲んでいるのですね」
 真理は微笑んでだ。それだというのだった。
「私達は」
「そうですね。時間ですね」
 義正も真理のその言葉でだ。気付いたのだった。
 そのうえでその紅茶をあらためて飲むと。その味は。
「この味は」
「時間の味ですね」
「そうですね。時間ですね」
 それだとだ。二人で話すのだった。
「私達は今時間を飲んでいるのですね」
「これまではただ美味しいとだけ思い飲んでいた紅茶も」
「そう思うと」
「特別な味がしますね」
「どうにも」
「美味しいです」
 そしてこの言葉も自然に出た。
「普通に飲むよりも」
「おそらくは」
 義正は夕暮れを溶かしたその紅茶を飲みつつ真理に話した。
「私達はただ美味しいものを食べるだけではないのです」
「それと共に時間をですね」
「食べるものだと思います」
「時間もまた」
「例えば朝食です」
 朝のはじまりのだ。それから話すのだった。
「起きて最初の食事というだけではなく」
「それだけではなくですね」
「朝を食べるものでもあるのです」
 そうだというのである。
「それが朝食だと思います」
「朝の。心地よいはじまりを」
「私達は食べるのです」
 朝食ではだ。そうだというのだ。
「朝もまた」
「そして昼には」
「昼を」
「夜もですね」
「そうです」
 全ての時間をだ。味わっているともいうのだ。
「そう思うと食事というものはです」
「味わいがありますね」
「はい、味は料理の味だけではなく」
「時の味もまた」
 そうした話をするのだった。そしてだ。
 
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