【仮面ライダー×SAO】浮遊城の怪盗
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仮面ライダーブラーボ/仮面ライダーグリドン
前書き
OVA第三弾希望の短編。時系列的に言うなら、メロンニーサンが崖から落とされた~デェムシュ来襲辺りまでに合ったらいいなぁ、という話
廃墟のように閑散とした野原。都市開発が進むこの地域でそこだけ忘れ去られたか、もしくはタイムスリップでもしたかのような、そんな雰囲気を感じさせる場所だった。気持ちのいい風が木々を揺らし、草花も文明のゴミに遮られることなく陽の光を浴びる。
……そんな自然が繁茂する野原の片隅に、不似合い極まりない物が二つ。
一つは大地に刺さった簡素な十字架。花が添えられているところを見るに、どうやら墓であることは分かるが……現代にはまるで似合わない、無縁仏をそのまま埋めたような簡素な代物だった。
二つ目は野原に佇んでいる一人の人物。彼――いや、彼女というべきか――の名は、凰蓮・ピエール・アルフォンゾ。この沢芽市で一番の人気を誇る洋菓子店、《シャルモン》のパティシエと店長を勤めている、という人物でありながら、無駄のなく引き締まった筋肉を持った戦士、という印象を抱かせる。それもその筈だ、彼は元々戦士だったのだから。
そんな彼がこの無縁仏の墓の前に立っている理由は、数日前に起きたある理由に遡る――
「さあ、今日も始めますわよ!」
シャルモンの一日は店長のその一言で始まる。パティシエ志望の店員たち――何故かイケメン揃い――が復唱し、少し遅い時刻に店舗は開店する。1ヶ月待ちともされる完全予約制のソレは、いつでも『本物』を提供することをモットーとしている。
「こら坊や! サボらないの!」
「うぇっ! すいません!」
客入りも多くなってきた午後、凰蓮はバレないように上手くサボろうとしていた店員の一人、城乃内秀保を怒鳴りつける。城乃内は怒鳴られた途端に背筋をピッタリ伸ばすと、凰蓮が作ったデザートを客に給仕する作業へと戻る。
「まったく……」
転がり込んできてからあまり変わらない城乃内にため息をつきながら、凰蓮は新たな商品の制作に取りかかる。ここ、沢芽市の一等地に設えられたシャルモンの日常は、このように過ぎていく。
――だがこの沢芽市は、日常を安心して過ごせる環境にはなかった。
「――――!」
新作のケーキの制作に取りかかろうとしたその時、凰蓮の戦士としての勘が何かを訴える。クリームが入ったボールを近くの店員に渡しながら、突如として凰蓮は入口まで走りだす。
その入口には、今まさに帰ろうとしている客がおり、その扉を開けると――
「ひっ……キャァァァ!」
――そこには《インベス》の姿があった。今、この沢芽市を最も危険たらしめている怪生物。一般市民に対抗できるものではなく、客を襲おうとその獰猛な爪を振りかぶり……
「ふっ!」
お客様に当てないように調整された凰蓮の跳び蹴りがインベスに炸裂し、インベスは店外へと吹き飛ばされる。お客様に非礼をわびながら店内に避難させ、凰蓮はベルトと《ロックシード》を取り出した。
「悪いけどアテクシの店は予約制なの。飛び入り参加は認めないわ」
『ドリアン!』
ドリアンロックシードを解放、音声とともに空中で異空間に繋がるチャックが開き、そこから巨大なドリアン状の機械が現れる。解放されたドリアンロックシードをベルトにセット、ポーズを決めながら『その言葉』を叫び、ロックシードを自身にロックオンさせる。
「変身!」
『ロック・オン』
空中に浮かんでいたドリアン状の機械が鳳蓮に装着され、ベルトから全身に鎧のようなアーマーが装備される。さらに頭部のドリアン状の機械が展開していく。
『ドリアンアームズ! ミスター・デンジャラス!』
この沢芽市で唯一インベスに対抗できる存在。皮肉にもインベスを召喚するロックシードで変身する、アーマードライダー――凰蓮が変身するアーマードライダー、ブラーボ。ドリアンアームズが完全に展開しきると、緑色の装甲や鋸状の双剣《ドリノコ》を持った、中世のグラディエーターのような様相を見せる。
「坊や! アータはお客様を守りなさい! 傷一つつけるんじゃないわよ!」
「は、はい!」
店の守りを、同じく変身用のベルトである戦極ドライバーをつけた城乃内に任せ、凰蓮は――いや、ブラーボはインベスと相対する。敵は下級のインベスが三体。相手は理性のない動物同然とはいえ、紛れもなく『本物』の命の取り合いである。
「ふん……お客様を怖がらせた罪は重いわよ!」
しかし凰蓮はそれに怯むことはない。過去、フランスの外人部隊で戦っていた凰蓮にとって、命の取り合いなど今更だ。ブラーボのパワーを活かして三体で固まっているところに突撃し、一番端にいた下級インベスをドリノコで突き刺し、あっという間に縦に一刀両断してみせる。
接近してくる残り二体ももう一本のドリノコで切り裂きながら、ラグビー選手のような肩を用いたタックルで吹き飛ばし、その隙に戦極ドライバーに装備されたカッティングブレードを一回倒す。
『ドリアン・オーレ!』
ドライバーの力でロックシードの力をさらに解放。エネルギーをドリノコにチャージすると、タックルで吹き飛んだインベスが起き上がる隙に、そのエネルギーを飛ぶ斬撃のように放つ《ドリアッシュ》を炸裂させる。倒れていた下級インベスにそれらを避ける暇はなく、エネルギー弾に直撃したインベスはあっけなく爆発四散する。
「やった! 流石鳳蓮さん!」
店を守っていた城乃内から歓声が飛ぶが、凰蓮は疑問に思っていた。何か嫌な予感がする、と。あからさまに弱すぎるソレに、自身の勘がけたたましく警鐘を鳴らすが、その違和感の正体を掴むことは出来なかった。自分の考えすぎか、と下級インベスの亡骸に背を向け、店内のお客様にパフォーマンスの一つでも――と思ったその時、その背後からブラーボを銃撃が襲った。
「うっ!?」
「凰蓮さん!?」
先とは真逆の城乃内の悲鳴にも近い声とともに、ブラーボの背中から白煙が漂っていた。変身を解除していたら即死だったソレに、自身の油断を噛みしめてブラーボは背後を振り向くと、店外の森の木の上から『奴』はこちらを見ていた。
全身を鎧のように包む青い鎧に、まるでヒーローのマントの如くたなびくたてがみ。右手には人類の発明たる銃剣が装備されており、動物の特徴である鋭い爪と牙、ここまで聞こえてくる程の唸り声。凰蓮にとって始めて見ることになるインベス――その身体は獰猛な獣を思わせ、《オオカミインベス》、とでも誇称されるべきだろうか。
オオカミインベスは森の中からブラーボがいる場所まで降り立つと、油断なくドリノコを構えるブラーボを再び撃ち抜かんと、その右手に持った銃を構える。今まで野生生物に等しかったインベスが、銃のような代物を持っていることに驚きを隠しきれない凰蓮だったが、そんなことを考えるのは後でもいい。
何より今は、その銃弾を客と店に向かわせないこと。ならば撃たせる前に先手必勝――とばかりに切りつけようとしたその時、森の奥からさらに増援が現れる。全く同じ姿をしたインベスがさらに二体――三体の《オオカミインベス》は、ブラーボを取り囲むように接近していく。
「凰蓮さん! 俺も――」
「アータはそこにいなさい! お客様を守れるのはアナタだけなの!」
加勢に加わろうとする城乃内を声で制していると、オオカミインベスの三方からの一斉射撃が開始される。いくらパワー型のブラーボとはいえ、とても防げる威力ではない……!
『ドリアン・スパーキング!』
ドリアンの装甲が一旦解除され、周囲にエネルギーを纏わせながら旋回する。その果汁のようにも見えるエネルギー波により、放たれたオオカミインベスの銃弾は全てブラーボには届かない。そして装甲が再展開されると――
「ッ――!」
――するとブラーボの直前には、木の上にいたはずのオオカミインベスの首領が、その鋭い手を貫手にして迫っていた。三方向からの一斉射はあくまで囮であり、本命はこの回避不能の一撃――!
「ふん!」
だがブラーボは、ギリギリのタイミングでドリノコと貫手をぶつかり合わせてみせ、何とか痛み分けという形にしてみせた。首領も含めた四体のオオカミインベスは、ブラーボに対してインベスらしからぬフォーメーションを取り、銃口をブラーボに向けて牽制する。
「そのフォーメーション……今のアタックパターン……やはりアータ……」
『――――』
ブラーボの問いかけに答えることはなく、オオカミインベスの一団はどこかに消えていく。本物の獣のような俊敏な動きに、ブラーボは追う手段もなく変身を解除する。
「厄介なことに……なったわね……」
「凰蓮さん……?」
店の入り口に立ち尽くした城乃内が見たのは、今まで見たこともない凰蓮の横顔だった。いつも厳しい教えを問いかける師匠ではなく、それはどこか寂しげなような――
「そう。迷惑かけて悪かったわね。スパシーパ、また訓練つけてあげるわ」
凰蓮は誰もいなくなった店内で――何しろインベスに怖がってお客様がいなくなってしまった――1人、ため息を吐きながら国際電話の受話器を置いた。それから作りかけだったケーキに目を置くと、放っておくわけにはいかない――と気晴らしにケーキ作りを再開する。
あのインベスらしからぬインベスたち――最初に敵戦力を測るような様子見の数体、こちらを取り囲んで銃弾のようなものを叩き込んでくる個体、そして……一斉射を囮にした正面突破による本命の一撃。それを凰蓮が防ぐことが出来たのは、とても簡単な話だった……身を持って体験したことも、そのフォーメーションに参加したこともあったからだ。
「ヴォルク……」
かつての傭兵仲間のことを、凰蓮はふと呟いた。フォーメーションを尊ぶ傭兵には珍しい人格者で、共に激戦を潜り抜けた仲間であり――甘いモノが嫌いだった。先程の電話は、そのヴォルクの安否を確かめるものであったが、返ってきた答えはMIA――作戦行動中の行方不明とのことだった。
そしてヴォルクとそのチームが最後に挑んだ任務は、厳重にロックがかかっていたらしいが……電話先の旧友は出来る範囲で調べてくれていた。
彼らの最後の任務はコードネーム《ヘルヘイム》。それが何であるかは……今更調べるまでもなく、つまり、あのインベスたちは――
「凰蓮さん」
「……ボーヤ、今日は帰りなさいって言ったはずよ」
その結論に思考がたどり着こうとした瞬間、いつの間にか店内にいた城乃内に声をかけられた。思考に夢中になって気配を見失うなんて、自分らしくない――と思いながらも、城乃内にそれがバレないように平静を装って話しかけた。
「凰蓮さん、昔、あのインベスと何かあったんですか」
「アテクシがインベスを見たのは最近よ。そんなことあるわけ――」
「嘘ですよね」
凰蓮の言葉を遮るほどの勢いの籠もった声とともに、城乃内は眼鏡の奥から鋭い眼光で鳳蓮を射抜いた。
「俺がこんなに近くまで来てるのに、凰蓮さんが気づかないなんて、何かあったかしないとありえないですから」
「……やるじゃない、ボーヤ」
「策士ですから」
久々に言ったな、と城乃内は自嘲するように笑う。ポカンとした表情の凰蓮という、これまた珍しいものを睨みつけるように見ていると、遂に凰蓮は観念して語りだした。
「確かにアレは……多分、昔の傭兵仲間でしょうね」
「傭兵仲間、って……相手は……」
「ロックシードの元の実。アレを食べるとインベスになる……この前、水瓶座のボーヤから聞いたわ」
凰蓮は真剣そのものの表情でそう語る。冗談などと決して口に出来ない、傭兵だった頃のままの雰囲気の中……城乃内は、インベスに襲われて傷口から植物が生えてきて、ユグドラシルの専用病棟に搬送されていった患者のことを思いだす。
「初瀬ちゃん……まさか……」
「だからワテクシが引導を渡してやるわ。ボーヤの出る幕じゃないの」
無意識に行方不明になったままの友人のことを口に出す城乃内をよそに、凰蓮は作りかけだったケーキを完成させ、丁重に冷蔵庫に入れておく。すると机にベルトやロックシード、街の地図などを並べていった。
「大体は場所の見当もツいてるわ。まあアイツなら……この辺でしょう」
街のまだ緑が繁茂する未開発地域へと、凰蓮はひとまず大きく丸を書いていく。それから腕を組んで作戦を脳内で考え始める凰蓮に、意識を取り戻した城乃内はくってかかった。
「凰蓮さん! それなら俺も……」
「黙ってなさい! アータの出る幕はないわ!」
俺も戦う――という宣言を最後まで発することは出来ずに、城乃内の申し出を凰蓮は考える間もなく却下する。そのまま腕を組みつつ熟考に入る凰蓮に対し、城乃内は机の上にあった地図とロックシードを奪い取った。
「ボーヤ……!?」
「あのインベスは……俺が倒します!」
驚愕する凰蓮にそう宣告して、城乃内は店から飛びだしていく。すぐさまロックシードから専用バイク《ローズアタッカー》を取り出すと、凰蓮が地図で目印をつけていた場所に疾走する。
「待ちなさい! ボーヤ! 待ちなさい!」
凰蓮も同じくバイクで追おうとしたものの、城乃内がバイクを取り出すロックシードも持ち出していたことに気づく。弟子となって初めてかつ最大の城乃内の反抗に、凰蓮は自分のいつにない迂闊とともに舌打ちし、とにかくベルトを持って走っていった。
「くそっ、なんでこんなことしてんだよ、俺……」
ローズアタッカーを走らせながら、城乃内はそう毒づいた。無理やり自分を鍛え上げるとか言って、パティシエの修行までさせている勝手なおっさん。プロの大人を気取ってる癖に、喧嘩っ早くて頑固で意地っ張りで、インベスゲームにも乱入してくるような変なおっさん。
「そんなおっさんでも……俺の師匠なんだよな……」
最初は確かに無理やりだったけど、最近はパティシエ修行がひどく楽しい。自分が作り上げた品物が客に喜んで貰えるという、ある意味ビートライダーズのダンスにも似た快感。愚痴を言い合える修行中のパティシエ仲間も出来たし、男としても少し成長した気がしていた。
「そんな師匠に……仲間を殺させる訳にいくかよ……!」
何でもないように振る舞っていたが、こうして自分に地図やロックシードを盗まれるほどの隙を見せている時点で、ひどくショックを受けているのは確かで。あんな怪物になっていたとしても、昔の仲間だと確定してしまえばそうもなるだろう。師匠の人間らしい弱さを初めて見るとともに、なんて師匠思いの弟子なんだ俺は――と自嘲しながら、城乃内はその場所に着いた。
未開発地域の廃墟。確かにインベスが潜むにはもってこいの場所で、証拠に建物には例の植物のツタが生えている。鳳蓮の辺りをつけた場所を、元チームインヴィットのメンバーに調べてもらったところ、すぐさまこの場所を探し当ててくれた。どうやらチームインヴィットだけじゃなく、元ビートライダーズ総出で手伝ってくれたらしい。
「…………」
その協力にありがたがりつつ、城乃内はローズアタッカーを降りてロックシードにしまいながら、戦極ドライバーを腰にセットする。そして最も使い慣れたドングリロックシードを手に掴み、自らを鼓舞させるようにポーズを取っていく。
『ドングリ!』
「変身!」
『ロック・オン』
わざと目立つように足音をたてながら、城乃内はインベスが待つであろう廃墟に走っていく。その頭上から落下してきた、ドングリ状の物体が城乃内の頭に装着され、アーマーとして展開されるとともに城乃内の身体全体を白銀のライドウェアが覆う。
『ドングリアームズ! ネバーギブアップ!』
そしてアーマーが完全に展開し、城乃内は完全に《アーマードライダーグリドン》への変身を果たす。茶色いアーマーに全身を包み込む重装甲の騎士となり、右手には片手用のハンマーとなる《ドンカチ》を手にしていた。そのまま廃墟に向かって行こうとした城乃内――グリドンだったが、その前に廃墟から三体のオオカミインベスが飛びだしてきた。
「そっちから来てくれたかよ……」
銃口を向ける三体のオオカミインベスに対して、グリドンは少し引けた腰で距離を取る。もう一体のオオカミインベス――首領がいないことを確認すると、グリドンは果敢にもオオカミインベスに向かって行った。
「うおりゃぁぁぁあ!」
半ば裏返った叫び声を伴って、グリドンはオオカミインベスにドンカチを振りかざす――ものの、オオカミインベスはその名の通り俊敏な動きにて、あっさりと鈍重な動きのグリドンから退避し、すぐさま取り囲んでみせる。
「……ならこいつだ!」
グリドンを包囲したオオカミインベス達から、三方向から銃口が放たれていく。それをジャンプして避けてみせると、ベルトにセットされたロックシードを新たな物と入れ替えた。
『ロック・オン』
新たなアーマーが空を切り裂くジッパーから現れ、空中に飛翔したグリドンへと狙いを付ける。このイチゴロックシードは、城乃内が自前で手に入れたAランクのロックシードだったが、凰蓮に使用を禁じられていたものだ。Bランクの自分に合わないドングリより、このAランクのイチゴの方が強いはずだ、とずっと思ってはいた。
『イチゴアームズ! シュシュッと! スパーク!』
そしてドングリアームズの重装甲から、忍者のような軽装甲に装備を変換。グリドン・イチゴアームズとなり、着地したとともに、一足飛びでオオカミインベス達の包囲から抜けだしてみせる。
「オルァ!」
イチゴアームズの武器はクナイ。物体に当たることで起爆されるソレを、グリドンはやたらめったらオオカミインベスに投げていく。
「はぁ!?」
――ただし、それらはまるでオオカミインベスに通じず、放ったクナイは全て銃弾に撃ち落とされていた。しかも爆発の白煙が周囲に立ち込めたために、グリドンはすっかりオオカミインベスを見失い、がむしゃらに起爆性のクナイを投げるしかなかった。
「うわっ!」
しかし目標も分からず投げたクナイが当たる訳もなく、さらに煙幕が広がっていくだけに終わる。そして煙幕を利用して、いつの間にか背後に接近していたオオカミインベスに、グリドンは不意をつかれて蹴り倒されてしまう。そして倒れてゴロゴロ転がっていくグリドンに、オオカミインベスの右腕と一体化した銃が火を吹き――
「ぐぁっ!」
かなりの衝撃に伴った痛みがグリドンを襲う。アーマードライダーになって初めて感じるほどの痛みに、敵の銃はこんなに威力があるのか――とグリドンは戦慄したが、すぐさまその事実に気づいた。
「そうか……」
今、グリドンが纏っているのはいつもと違うイチゴアームズ。確かに俊敏な動きを可能とするが、代わりにその装甲は非常に薄い。故にオオカミインベスの一撃だけでも、異常にダメージを受けるのだ。
「分かりづらいんだよ……!」
だが、これが普段のドングリアームズならば、その重装甲は城乃内を守ってくれていただろう。鳳蓮がドングリから装備を変えるな、といった理由は――つまり、そういう訳で。そう悪態をついて起き上がったグリドンは、こちらに蹴りをかましてきたオオカミインベスに立ち向かう。
背後に回ってくる作戦を取ってくれたおかげで、今ならオオカミインベスはただ一人。厄介なフォーメーションはないと、撃ち放たれた銃弾をクナイで弾き落としながら接近し、城乃内はまた新たなロックシードをベルトにセットした。
『ロック・オン』
装甲を解除されたイチゴアームズが銃弾を弾き、新たなアームズがグリドンに装備される。緑色の装甲をした、まるで中世のグラディエーターのような格好をした騎士――
『ドリアンアームズ! ミスター・デンジャラス!』
――そう、鳳蓮がいつも使っている、ドリアンアームズである。先程地図で奪って来たそのロックシードは、グリドン・ドリアンアームズによる双剣とオオカミインベスに肉迫する隙を与えてくれた。またもや飛び退こうとしているオオカミインベスを、左手のドリノコで突き刺して止めると、右手でベルトを一回操作する。
『ドリアン・オーレ!』
ロックシードから響き渡る音声とともに、両手のドリノコにエネルギーが貯まっていく。既に突き刺していた左手のドリノコはもちろん、右手のドリノコによる一撃は中心を捉え、オオカミインベスの一体を見事に斬り裂いてみせた。
「猿真似でも……やってみるもんだな……」
オオカミインベスの爆炎に晒されつつ、既に肩で息をしながらも、グリドン・ドリアンアームズは一体を仕留めた。そしてイチゴクナイによって生じた白煙も風に流されていき、煙幕によって動きの取れなかったオオカミインベスも姿を表した。
「どうだ! 次はお前らのば――」
白煙の中にいたオオカミインベスは一体。二体はいたはずだ、もう一体はどこに消えた、というその思考は、グリドンの動きを一瞬にして決定的に止めた。
「うわっ!」
そしてグリドンが見たものは、廃墟から銃を構えるオオカミインベスの首領と、そちらから飛来した銃弾。かなり離れた距離のため、本来ならばドリアンアームズを纏ったグリドンにダメージを与えられる訳もないが――その銃弾は、超精密にロックシードのみを狙ってみせた。
「っつ……次のわっ!」
オオカミインベスの狙撃によってドリアンロックシードが吹き飛ばされ、グリドンは装甲を失ったライドウェアのみの姿となってしまう。すぐさま新しいロックシードを装着しようとしたが、その隙にどこかに隠れていたもう一体のオオカミインベスに体当たりをくらい、持っていたロックシードを取り落としながら吹き飛ばされてしまう。
「ッ――――!」
そしてさらに迫り来る銃弾。煙幕の中に立ち尽くしていた一体の銃が火を噴き、装甲のないグリドンに多大な衝撃を与えた。その一撃にたまらず倒れ伏したグリドンに、鋭い爪を振りかざしてオオカミインベスが迫る。
その光景を、グリドンの装甲内でまるで他人事のように眺めていた城乃内は、自分に残された最後のロックシードに気づく。どんなロックシードかを確認している暇もなく、とにかくベルトに装着した。
『ロック・オン』
グリドンを所有者として認めたように、装甲が空中から降り注ぐ。しかしオオカミインベスは地上を恐るべきスピードで駆け抜け、装甲が展開するまでに食い殺すべく接近し――
『マツボックリアームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウ!』
――結果として、それが彼の死期を早めることとなった。
「ぇ……?」
その光景を理解するには、城乃内にも少しだけ時間を要した。装甲の展開はオオカミインベスより早く、一か八かのタイミングでグリドンは新たなアームズに変換した。そしてそのアームズの武器は槍――腕に自動装備されたその槍が、一目散に接近してきたオオカミインベスの腹部を突き刺したのだ。
「……うぉぉっ!」
『マツボックリ・オーレ!』
グリドン・マツボックリアームズに再変身し、状況を理解した城乃内は、腹部に突き刺さった槍《影松》にエネルギーを送る。その威力に腹部が貫通したオオカミインベスは耐えきれず、影松の一撃に爆散した。
「ハァ、ハァ……初瀬ちゃん……」
今、全身に纏っているのは、彼がずっと纏っていた装甲だ。彼に助けられたように感じて仮面の裏で笑いながら、影松を杖のようにして立ち上がった。残るは首領を入れて二体、ようやくあと半分といったところだ。
「諦めちゃ……ダメだ!」
「よく言ったわボーヤ。戦場では諦めた奴から死んでいくんだから」
「え……?」
グリドンが影松をオオカミインベスに構え直す前に、その圧倒的な威圧感を伴った声がその空間を支配した。草むらを踏みしめて歩いてくるその者に、オオカミインベスもグリドンからそちらに攻撃目標を変更する。
「でも今は寝ていなさい。アテクシが戦い方の見本を見せてあげる」
『ドングリ!』
足元にあった、先に吹き飛ばされたロックシードの一つを拾い上げ、解放。それをベルトに装填するとともに、大見得を切って変身ポーズを取ってみせる。
『ロック・オン』
その者の名は凰蓮・ピエール・アルフォンゾ――頭上に装甲が浮かび上がり、凰蓮の全身がパワードスーツ《ライドウェア》に包まれる。そして、空中に浮かんでいた装甲が装着され――
「……変身!」
『ドングリアームズ! ネバーギブアップ!』
――アーマードライダー ブラーボ。ドングリアームズへと変身を果たす。グリドンが変身した時と違うのは、装甲の下のライドウェアが黄緑色なところだけで、グリドン――城乃内は驚愕を露わにする。
「な、なんで……」
「黙って見てなさい、ボーヤ」
何でここが分かったのか、何でドングリアームズで変身するのか。二つ――いや、それ以外にも様々な疑問の意志がこもった城乃内の『なんで』だったが、凰蓮は全く意を返すことはなく。
「あっ……凰蓮さん!」
だがその疑問の片方、どうしてドングリアームズを使ったのかは、城乃内にも合点がいった。凰蓮がいつも使うドリアンロックシード、それは先の戦闘でオオカミインベスの狙撃によって吹き飛ばされており、また違う場所に落ちているからだ。ただし城乃内の心配もよそに、ドングリアームズを身に纏ったブラーボは戦闘を開始していく。
「…………」
片手にハンマー《ドンカチ》を持ったブラーボは、何も言わずにゆっくりとオオカミインベスに近づいていく。もちろん廃墟にいるオオカミインベスの首領の狙撃には当たらぬように、目の前のオオカミインベスを上手い位置どりで盾にしながら。ただしゆっくり近づいてくる敵など、オオカミインベスにとっては獲物にすらならず、グリドンを相手にその銃が火を噴いた。
「…………」
ブラーボの胸部装甲にクリーンヒット。ただしブラーボの歩みは止まらず、まだゆっくりとオオカミインベスに歩を進めていく。さらに二発、三発とブラーボに銃弾が着弾するものの、その重装甲の前には効いていないのも同じだった。
「……ふんっ!」
たまらずオオカミインベスは接近戦に移行し、その鋭い爪でブラーボの装甲を切り裂こうとした瞬間、爪以上に鋭い一撃がオオカミインベスの腹部を襲った。瞬時に放たれたドンカチによる一撃に、オオカミインベスは反応すら出来なかった。
「ふん!」
そのまま頭部に向けて一振り、二振り、顎にも一振り。腹部への強烈な一撃から、人型である以上変わらず急所である部分を炸裂され、オオカミインベスは昏倒するようにフラフラとなり。
『ドングリ・オーレ!』
「せりゃぁ!」
ドンカチにエネルギーを凝縮。強く打ちつけられたそれは、オオカミインベスの体組織を内部から崩壊させていく。そのまま衝撃によってバラバラとなっていき、オオカミインベスなど、まるで最初からいなかったようで。
「すげぇ……」
知らず知らずのうちに城乃内の口から感嘆の声が漏れたが、その間にオオカミインベスの首領が廃墟からブラーボに飛びかかった。それをブラーボは紙一重で避けながら、カウンターのようにドンカチを叩き込むものの、俊敏な動きでそれを避ける。ドングリアームズの武器や速度では、オオカミインベスの動きについていけないのだ。
「凰蓮さん! 俺が……!」
「アータは引っ込んでなさい!」
それでも凰蓮は持ち前の技量でもって、オオカミインベスと互角に立ち回ってみせる。それでも城乃内がここに来た理由は、旧友であるオオカミインベスを凰蓮に殺させないためだ。何とか影松を構え直して凰蓮の加勢に行こうとした瞬間、後ろに目がついているかのような凰蓮に制止された。
「だって、その人は凰蓮さんの……」
「だから解放してあげるんでしょうが! あの化け物の姿からね!」
「……!」
ドンカチの一撃が遂にオオカミインベスに炸裂し、オオカミインベスは草むらをゴロゴロと転がっていく。城乃内はそれを見届けた後に変身を解除すると、一瞬だけ迷うような表情を見せた後、ベルトにセットしていたマツボックリロックシードを握りしめた。
「凰蓮さん! これ!」
そして力一杯で投げ込むと、ギリギリ戦闘中の凰蓮の元に届く。マツボックリロックシード――変身用のロックシードの中では、最下級のランクではあるが、城乃内がこれを託したのには理由がある。
「使ってください!」
「Ладно、ボーヤ……終わらせてあげるわ」
『ロック・オン』
もちろん、凰蓮にもその理由は伝わっていた。ベルトに装着していたドングリロックシードから、新たにマツボックリロックシードを装填。オオカミインベスと距離を取っている隙に、装甲を変換し――ている暇はなく。
「ッ!」
オオカミインベスは、その装甲が解除される一瞬を見逃さず、銃弾を転がりながらもブラーボに向け発射していた。装甲が解除されるその一瞬、弾薬が着弾するような最高のタイミングで。凰蓮はその銃弾に気づくのが遅れ、吸い込まれるようにブラーボに着弾する――
「変身だらぁっ!」
『ドリアンアームズ! ミスター・デンジャラス!』
その銃弾の全ては、オオカミインベスとブラーボの前に割って入った城乃内――グリドンに着弾した。落ちていたドリアンロックシードを拾いながら変身し、ブラーボの盾になったのだ。
「ボーヤ!」
「チームワーク……だろ、初瀬ちゃん……」
そのままオオカミインベスの次弾から続いて盾になる城乃内に、凰蓮はたまらず心配する声をあげる。しかし、それは城乃内には届いていなかったようで、代わりにうわごとが返ってきた。凰蓮にその言葉の意味は分からなかったが、自らがやるべきことを思い出させ――それとともに、凰蓮の下に装甲が飛来した。
『マツボックリ・アームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウ!』
そしてブラーボ・マツボックリアームズに再変身した凰蓮は、その装甲の軽さと俊敏さに驚かされ――これなら敵を捕らえられる、と確信する。目の前に立つグリドンの肩を踏み台に、ブラーボは空中に跳んでいく。
『マツボックリ・スカッシュ!』
そしてベルトを二回操作すると、その手に持った影松をオオカミインベスに投げ槍の要領で放ち、見事足を捉えて動きをそこに封じ込める。そして空中を跳ぶブラーボは蹴りの体勢を取り、エネルギーを足に集中させていく。
「セイッ……ハァァァァァッ!」
そのままオオカミインベスに向けて跳び蹴りを放っていくその姿は、奇しくも、ブラーボが妨害したグリドンと黒影の特訓姿と同じで。城乃内は仮面の裏で笑みを浮かべると、ブラーボの一撃がオオカミインベスに直撃した。
「Прощайте.」
別れの挨拶――それも永遠の別れへの挨拶を込めた祈りを凰蓮が口にすると、跳び蹴りに直撃したオオカミインベスは爆散していった。最期までただの化け物に過ぎなかったが――それでも。ブラーボの仮面は、爆炎に晒されても何も変わらなかった。
「……アータは甘いのがキライだったからね。ビターに作ってあげたわ。部下と食べなさい」
そして後日。廃墟を臨む草むらに、無縁仏の墓に凰蓮はケーキを供えていた。世界的に機密であろうヘルヘイムに関わった者の末路として、彼らは誰にも知られずに永遠を過ごすのだろう。その境遇に同情していた凰蓮だったが、ため息まじりにあるロックシードを手にしていた。
『バッカモーン!恥を知りなさーい!』
「痛ぁっ!?」
凰蓮がロックシードを解放するとともに、木の陰からそんな悲鳴が聞こえてきたとともに、タライと城乃内がそこから出て来た。解放した凰蓮ロックシードは、弟子が粗相をした時にどこからともなくタライが頭上に落ちてくる、という効果を発揮するのだ。
「凰蓮さん! だからそのロックシードどうなってんすか!?」
「企業秘密よ。それより、ボーヤには店を任せてきた筈だけど?」
「それはまあ……ハハ」
誤魔化すように笑う城乃内に、凰蓮はもう一度大きくため息を吐きながら。とはいえ無関係ではないのだから、と城乃内にもその無縁仏の墓を見せた。
「それ……」
「ええ、あいつの墓よ。死んだ後は人間に戻れますようにってね」
とはいえ、あまり豪勢な墓を彼は望まないだろうから、そこら辺りの石を積み重ねて十字架を乗せただけだけれど。城乃内が無意識に手を重ねる姿を見せ、凰蓮ももう一度墓に向かって拝んでおく。
「いくら強くなろうが、最期がこんなんじゃ意味がないわ。アータにはそれを教えたいの。……いいわね、ボーヤ」
「……はい」
どんなに恵まれた力を得たとしても、最期が独りきりでは何も報われない。ならば重要なことは、とにかく諦めずに足掻いて生き残ることだと、凰蓮は傭兵生活から学んでいた。その果てに、自分のように夢を掴めれば最上だ、とも。
「つまりネバーギブアップよ。さ、シャルモンに戻りま――」
今度ばかりは何かを神妙に考えている城乃内に、凰蓮は肩を叩いておどけてみせる。準備は墓参りまでに全て済ませているとはいえ、そろそろシャルモンに戻ろうとしたところ――遠くから爆音が響き渡り、その方向からは黒煙が上がっていた。
「……でも、男には戦わなくちゃいけない時があるわ」
「凰蓮さんは……どっちなんすか? 性別」
いつもの憎まれ口を叩くぐらいには調子が戻った城乃内をはたきながら、凰蓮はその黒煙が上がった方向を見て、大体の位置の見当をつける。さらに空中を飛翔する量産型のアーマードライダーの姿を見て、やはりあの爆音と黒煙はインベスの仕業だと確信する。
「いくわよボーヤ」
「……はい!」
そして二人はあの戦いに合流する。インベスたちの長とも言える、オーバーロードの一種との戦闘中、城乃内は上級インベスに飛び蹴りをかましてみせた。そのまま着地してメガネをかけ直すと、大胆不敵にそう宣言してみせた。
「パティシエ、なめんなよ」
後書き
小説版、ニトロがアニメ化でもいいのでしてくれませんかね
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