【仮面ライダー×SAO】浮遊城の怪盗
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仮面ライダースナイプー飛散するestimate!-
前書き
パラドが三日天下してるあたりで書きました
一体どーなってんのよ、もう!」
廃病院に響き渡る少女の声。それだけ聞けば想像をかきたてられる要素ではあるものの、あいにくとその廃病院の内部は少女の趣味らしいファンシーな小物と装飾で占められており、もはや少女の私室と言っても過言ではなく、廃病院のような要素などどこにも感じなかった。そもそも少女の私物が持ち込まれる前から、その部屋は普通の病院と遜色ない清潔さを保っていたが。
「『M』を倒すとか言ってる場合じゃねーな」
その廃病院の主も、最初は日に日に増えていく少女の私物に難色を示していたが、もはや諦めたのか何も言うことはなく。唯一その主のみのスペースとして許されている、リクライニング式の椅子にゆったりと腰かけてPCに目を向けながら、からかうように少女に声をかけていて。
「そっ……それは後でアイツに謝るから! それよりどうするのよ、大我!」
「……」
少女――西馬ニコが慌てて問いただしてくるのも道理で、流石の大我も株価を表示しているPCを閉じると、身体ごと椅子をニコの方に向けた。仮面ライダークロニクルの発売、ポッピーピポパポの離反、エグゼイドとパラドの関係、パーフェクトノックアウト。そして仮面ライダーゲンムの復活に、大我たちを取り巻く環境は急激な変化を見せていて、ニコの動揺もそれによるものだろう。
「オレたちのやることは変わらねぇよ。仮面ライダークロニクルの攻略だ」
「え? だってパラドとか、ゲンムとかはどうすんのさ?」
「そっちはエグゼイドと坊っちゃんに任せる。むしろあっちに目がいってる今こそ、仮面ライダークロニクルの攻略チャンスだ」
「なるほど! ……まあパラドはともかく、ゲンムはキモくて近づきたくないし」
ゲンムに関わりたくねぇしな――という言葉は飲み込んだ大我だったが、似たような言葉が心底嫌そうな顔をしたニコから放たれて、思わず鼻で笑ってしまう。しかして一瞬のうちに、そんな嫌そうな表情とは180度ほど変換され、気をよくしたニコが大我の背中を叩く。
「そういうことなら、他のバグスターはあたしが全部倒しちゃうからさ! 援護射撃よろしくね、主、治、医さん!」
「よせ! やめ……あ」
「あ?」
相変わらず表情がコロコロ変わる女だ、と大我が思うよりも早く、椅子から叩き落とすほどの威力がこもった激励が放たれて。主治医扱いも含めて止めようとした時、ふと大我はあることを思い出して、ピタリとその動きを止めていた。
「どうしたの?」
今度は不審げな表情に変わったニコに見つめられたまま、大我は肌身放さず身につけている、ライダーに変身するための道具兼武器である、ゲーマガシャットを全て取り出した。まずは変身用の《バンバンシューティング》、そして武器を召喚する《ジェットコンバット》の二種類のゲームで――以上だ。
「あ……ちょっと大我。まさか……」
「……ああ」
普段よりも更に青白い顔になった大我の様子に、ニコもどうやら事態の深刻さに気づいたようだった。現在、大我が持つガシャットの《バンバンシューティング》と《ジェットコンバット》はそれぞれ、レベル2、レベル3相当のガシャット。
――対するバグスターのレベルは、下級でも現在40ほど。それに対抗すべく主に使っていたレベル50相当のガシャット《バンバンシュミレーションズ》は、先のパーフェクトノックアウト戦でブレイブの手に渡っている。手持ちのガシャットでは明らかに力不足だった。
「……どうする? デュアルギア借りにいく?」
「んなこと出来るか!」
一応、レベルが劣っていようと絶対に勝てないという訳ではない。現に大我が《バンバンシュミレーションズ》を用いてる間、ブレイブはレベル5相当の《ドラゴナイトハンターZ》で戦果をあげている。問題はその《ドラゴナイトハンターZ》がレベル5とは思えない火力を持っているからこその戦果ということと、その《ドラゴナイトハンターZ》もブレイブの手にあることだが。
「ならどうするの?」
「……やるしかねぇだろ」
だからといって諦める訳にもいかず。机に置いたガシャットを懐にしまいつつ、ブツブツと何やら呟きながら思索にふける大我の横顔を見て、ニコは満足げにニンマリと笑う。脳内でどうバグスターと戦うか、そんなシュミレーションの邪魔にならないように、彼女としては珍しく静かにそこを離れようとした――ものの。
「ジェットコンバット、か……」
「大我……?」
思索にふける大我の横顔は、ニコが気に入った普段の横顔とは少しだけ異なるものだった。ニコの疑わしげな声も聞こえていないようで、大我は自らが持っているガシャットの名前を呟いた。これが不敵に呟いたのならば、何かいい作戦でも思いついたのかとニコも思うところだが、その呟きは――どこか弱気なもので。
「ちょっと――!?」
ニコがさらに追求しようとしたその時、緊急事態を知らせるブザーが鳴る。もちろんこの廃病院にではなく、盗聴しているCRの方へのバグスター出現報告であるが。
「チッ……行くぞ! CRの方にはこっちに任せろって連絡しとけ!」
「オッケー!」
その音声に大我は素早く思索を打ち切ると、掛けてあった白衣をコートのように羽織り、バグスター出現の通報があった場所を確認し、バイクのキーを持って部屋を出ていった。ニコがCRに連絡する為のモニターの電源を入れるまでの一瞬の出来事であり、こういう時に大我は凄腕の医者なんだと思い知らされる。
『なんだ!?』
「仮面ライダークロニクルはあたしたちに任せてればいいから! アンタたちはMの方をどうにかしなよ!」
恐らくはあちらも似たような状況だったのだろう、多少なりとも苛立った言葉がモニターから聞こえてきたので、こちらも言いたいことだけ言ってさっさと電源を落とすと。ニコも自らのガシャットを持っているかと、最低限の時間で身だしなみをざっと確認すると、駆け出すように廃病院を出ていく。
「早くしろ!」
「はいはい!」
そして廃病院の前には、CRに配備された――ものを無理やり持ってきた――現場急行用のバイクに跨がった大我が既に待っていて、ペイントされたニコのヘルメットを投げて寄越してくる。そうしてバイクに取り付けられた後部座席にニコも乗ると、大我の小さい声の警告とともにバイクは急発進していく。マナー違反も甚だしいが、緊急事態ということで走る車を無理やり追い抜いていき、すぐに目的地へとたどり着いた。
「うぁぁぁぁ!」
『ふん!』
水が多少なりとも流れている川にかかった橋の上にて、一般人が変身する《ライドプレイヤー》がバグスターに立ち向かっているが、明らかにその動きは戦闘においては素人だ。やはりバグスターの相手にはなっておらず、適当に弾かれて吹き飛ばされてしまっている。
『己が名はカイデン。位は五十段! もう終わりか貴殿!』
「カイデンバグスターか……悪くない」
橋の上で剣を構えて仁王立ちする漆黒のバグスターは、まるで伝説の武蔵坊弁慶のようなただずまいだった。それもそのはず、《カイデンバグスター》は侍たちが居合い抜きで切りあうゲーム《ギリギリチャンバラ》のバグスターであり、侍のような出で立ちなのは道理だ。
「ぃよっし! いこ!」
「お前はトドメだ。まだ待ってろ」
対してこちらの主武器は銃。相性は決して悪くはないはずだと、大我はニコを制止しながらガシャットを取り出した。その腰には既にゲーマドライバーが巻かれており、ガシャットを銃のようにカイデンに構えると。
『バンバンシューティング!』
「第弐戦術……変身!」
『 ババンバン! バンババン! バンバンシューティング! 』
ガシャットをゲーマドライバーにセットするとともに、ゲームエリアが現実世界を侵食するように広がっていく。それと比例するように大我の身体にはアーマーが装着されていき、閃光とともに大我は仮面ライダースナイプに変身する。漆黒のボディに黄金のエネルギーライン、さらに身体の大部分を覆うマントと片目に装着された前髪のようなパーツは、スナイプという名に相応しい狙撃手のような様相で。その手に召喚された銃、ガシャコンマグナムを手に持つと、まずは吹き飛ばされたライドプレイヤーに向けた。
「どいてろ」
「で、でも……」
「オレがゲームオーバーにしてやろうか!」
「はっ、はい!」
『……貴殿は!』
多少以上に手荒だが時間が惜しい。ガシャコンマグナムの銃口を向けてさっさとライドプレイヤーを退かせると、橋の上に立つカイデンへと向き直った。
『四十の位の時、己と剣で勝負しなかった……!』
「あ? ……ああ。今回もそうさせてもらうぜ」
激昂するカイデンに言われてから大我も思い出したが、以前に遠距離からの射撃で制圧したことがあった。言葉を交わすのもそこそこに、橋の上を決闘の地とでも設定しているのか、そこから動かないカイデンに向けガシャコンマグナムを発砲するものの。
『ぬん!』
「チッ……」
カイデンの振るう二刀の剣に対して、発砲した弾丸はあっさりと全て切り落とされてしまう。そんな予想通りの結果にも舌打ちをしながら、ガシャコンマグナムのボタンを操作すると、単発式だった銃弾がマシンガンのように発射される。
『ぐぬっ……』
「今だ……!」
流石にその物量の前に全てを斬り払うのが難しくなるのを見ながら、大我はガシャコンマグナムのモードをハンドカンからライフルモードへ移行。威力の高い一撃をマシンガンのように撒いた弾丸に紛れさせ、切り払い損ねた弾丸とそのライフルモードの一撃がカイデンに叩き込まれた。
『ぐっ!』
その一撃は胸部に吸い込まれるように炸裂し、カイデンは明らかに痛みに怯んで後ずさる。元々の《ギリギリチャンバラ》はその名の通り、斬るか斬られるかの一発勝負。そんな設定を加味しているのか、他のバグスターと比べてもカイデンの装甲は脆い傾向にあった。
『ん~……美しくない戦いですねぇ……』
しかして次弾を装填するより早く、そんな甘ったるい声が聞こえてきた。仮面ライダークロニクルとは関係のない、実体化した完全体バグスターの声として聞き覚えのある。
「テメェ……!」
このまま倒せるか、と一瞬でも思っていた大我は、自分で自分の甘さを呪いたくなると。カイデンの背後からゆったりと姿を現したのは、恋愛ゲーム《トキメキクライシス》のバグスター、ラブリカ。巨大な薔薇を模したふざけた身体が目立つものの、その戦闘力は完全体という名が相応しいもので。先の戦闘では雑魚バグスターを大量に連れていたものの、今回はどうやら単独のようだったが、理由を誰何する前にライフルモードによって文字どおりに先手を撃つ。
『このような戦いとも呼べない、ワンサイドゲームをレディたちに見せたくない……故に今日は、愛がない攻撃も私に届くだろう……いや、届くはずなのだがね?』
「くっ……」
カイデンに手傷を負わせたライフルモードによる一撃が直撃したはずが、挑発を隠そうともしないラブリカにはまるで通用しておらず。今はラブリカの固有能力である障壁は、取り巻きのバグスターがいないから適応されていないにもかかわらず、だ。先の戦いであの障壁を謀らずも唯一突破した大我を、どうやら向こうもつけ狙っていたらしい。
『さて、行こうか。カイデン』
『御意』
「大我!」
さらに橋の上を決闘の地として陣取って動かないでいたカイデンも、上位存在であるラブリカの命によってか動きだす。明らかにレベル2のままではどうしようもない局面に、大我も備え付けのガシャットホルダーから《ジェットコンバット》のガシャットを取り出すと。さらに大我を庇うようにして、ニコが自らのガシャットを構えつつ前に出てきていた。
『おや。ガールフレンドも一緒かな?』
「バカ! 死にてぇのか!」
「そんなことより、早くそのジェットコンバット貸しなって!」
「あ?」
ラブリカがこちらの様子を面白がって観察しているため、攻撃が来ないのは幸いだったが。飛び出してきたニコを怒鳴りつけると、大我はさらに大きな声で怒鳴り返されてしまう。確かに大我が使おうとしている《ジェットコンバット》を始めとする、武器を召喚するためのゲーマガシャットであれば、ニコにも使うことが出来るが……
「……何言ってやがる。オレが使うに決まってんだろうが」
「大丈夫大丈夫! あたし、リボン付きにも死神にもなったことあるんだから!」
「何の話だ!」
『うーん……痴話喧嘩なら、余所でやってもらえるか……な!』
「ッ!」
いい加減に痺れを切らしたらしいラブリカの掌から、こちらに向かって飛来する光弾が発射される。ラブリカからしてみれば適当に放った牽制だろうが、レベル差によって大我たちには一撃必殺の威力を誇るものとなっているのが見てとれて、大我は素早くニコを庇うように位置を入れ換える。
『キメワザ!』
こうでもしなければ防ぎきれないと瞬時に判断し、ガシャコンマグナムに《バンバンシューティング》ガシャットをセット。全てのエネルギーをガシャコンマグナムに充填されていき、反動で吹き飛ばされぬように足をしっかりと抑えると。
『バンバンクリティカルフィニッシュ!』
文字通りの必殺技として、ガシャコンマグナムからレーザー砲が放たれたものの、威力としてはラブリカの光弾と大差なく。どちらもぶつかり合った結果、お互いの間で相殺されて周囲に爆発を撒き散らした。
『ふむ……?』
爆発は土煙となって周囲に広がっていったが、ここは橋の上という屋外のフィールド。すぐさま風によって土煙は晴れていくものの、そこにはラブリカとカイデンの姿しかなく、大我とニコの姿はどこにもなかった。辺りは隠れるようなスペースもなく、大我たちがここまで乗ってきたバイクも、衝撃によって横転はしているがそのままだ。
『おのれ! 逃げおったか!』
「……んな訳あるか」
とはいえトリックは単純で、大我はニコを連れて橋の下に降りただけだった。頭上から聞こえてくるカイデンの怒りの声に、橋の上からは見えない位置に陣取った大我は、スナイプの変身を解除しながらそう呟くと。足下に流れる川の冷たさを感じながらも、隣でばつの悪そうな表情をしているニコの肩を掴んだ。
「……さっきのは、どういうつもりだ」
「だって……」
橋の上にいるラブリカたちにバレないような小声で、しかして同時に怒りを込めた低い声でニコを問い詰めた。こいつが来てから、こんなことを毎度している気がする、などと、大我は頭の片隅で思いながら。とはいえニコにはニコなりの考えがあるのも毎度のことで、反論を口にしようと大我をしっかりと見返してきていた。
「だって大我、ジェットコンバット使いたがらないじゃん……!」
「っ……」
ニコから告げられた言葉を受け止めながら、大我は動揺を内心で留め置くことに全力を尽くしていた。もはやニコも長い間と呼べるほどに大我の戦いを見届けて来ており、明らかに《ジェットコンバット》の使用率が低いこと――いや、大我が《ジェットコンバット》の使用を避けていたのに気づいていたのだろう。
ジェットコンバットガシャット。追加武装をライダーに召喚するタイプのガシャットであり、その追加武装とは大空を自由自在に飛翔する翼。十個の基本的なガシャットでも空中を飛翔出来るのは、他には《ドラゴナイトハンターZ》ぐらいのものであり、いくらレベル3相当のスペックだろうとその優位性は計り知れない。
――ただし、空中を飛翔するという人間の手に余る能力を十全に扱うには、入手した大我は完全な適格者ではなかった。プロトカジャットの反動を含めた長年戦い続けてきた影響で、大我の身体は長時間の飛翔に耐えられるほどに万全ではないのだから。
「……バカ、使いどころがなかっただけだ。テメェが来る前にどんだけ戦ってきたと思ってんだよ」
「……本当?」
「ああ。主治医の言うことを疑うんじゃねぇよ」
「こんな時だけ主治医面すんな!」
「んなことより、テメェはさっさと逃げろ」
……そんなことをニコに悟られるわけにはいかず。やたら勘のいいニコに気づかれぬように、ポーカーフェイスを見せることに大我は全力を発揮しつつ。さらに話を巻き返されないように、すぐさまニコが食いつきそうな次の話題を出すと。
「はあ!? んなこと出来るわけないじゃん!」
「最後まで聞けよ……作戦がある」
まずラブリカを含めた二体をまともに相手して、万全の状況ですら戦えるか危うい。大我は何とか絞りだした作戦をニコに伝えると、よろしく頼む、とばかりに肩をポンと叩くと、隠れていた場所からラブリカたちに姿を現した。
『おや?』
そしてそんな大我の横を、水しぶきをたてながらニコが全力で走っていく。橋の上から見下ろすラブリカたちからしてみれば、ニコを逃がすためにあえて一人残った大我、というような状況だろうが。
『美しくないねぇ……そういう英雄気取りの行動は、生き残る者がすることだよ?』
「何言ってんだ。死ぬ奴だから出来るんじゃねぇか」
見解の一致しないラブリカと短く言葉を交わした後、二本のガシャットをそれぞれ両手に持った大我に、またもやラブリカの掌から光弾が放たれる。人間が受ければ怪我では済まない一撃だったが、ゲーマドライバーから発せられる変身の際の障壁が弾いてみせ、大我は爆発を背後に受けながら二本のガシャットをゲーマドライバーにセットする。
「第参戦術……変身!」
『 ジェット! ジェット! イン・ザ・スカイ! ジェットジェット! ジェットコンバット! 』
まずは《バンバンシューティング》によって変身した後、さらに放たれた光弾をバックステップしつつ避けると、空中から召喚された装甲がスナイプの上半身に換装される。一瞬にして狙撃手から航空機へと様変わりするように、片目を隠していた頭部はヘルメットとゴーグルが、背中には翼と肩には演算装置と、オレンジ色のジェットコンバットが装着される。
「どうした? 来ねぇのか?」
『是非もなし!』
『やれやれ、水も滴るいい男になるとしようか!』
武装も拳銃から背中に装備された二丁のガトリングガンに変わり、近接攻撃手段しか持たないカイデンは元より、流石に撃ち合いでは不利と考えたか、ラブリカも橋の上から川へと飛び降りてくる――
「そうか。じゃあな」
――のを見た後、スナイプは背中の飛翔翼を展開し、川から空中へと浮かび上がった。もちろん川で足を取られながら撃ち合いなどする気はさらさらなく、カイデンの刀が届かない程度の高度で上空からガトリングガンの雨を二体のバグスターに降り注がせた。
『ぐっ……なんという卑劣な!』
カイデンも数十発は弾丸を切り裂いてみせるものの、ジェットコンバットのガトリングガンが放つは秒間においておよそ数千発。まるで対応することは出来ておらず、負けじとラブリカから放たれる光弾は、自由自在に飛翔するスナイプには届かない。よしんば惜しくも光弾が迫ったところで、スナイプのバックパックから飛来するチャフに惑わされ、見当違いな方向に飛んでいくのみだ。
――ただしその飛翔は、大我の肉体を徐々に蝕んでいた。しかして、確かに表情は苦痛に歪んでいたものの、そんな苦悶の表情は『仮面ライダースナイプ』という『仮面』にて外側の誰にも晒されることはない。
「……ミッション開始!」
さらにいくら一方的に攻撃出来ているとはいえども、スナイプの放つガトリングガンの攻勢は、カイデンはともかくラブリカには致命的な一撃とはなり得ない。ともすれば、先に大我が力尽きるのみの千日手となるだけだが、ここから大我の狙い通りになるか否かのミッションだった。
『カイデン!』
『御意!』
そしてラブリカが前に出たかと思えば、カイデンの文字通り盾になってガトリングの斉射をその身に受けた。いくらレベル差があるとはいえ、全てを直撃すれば多少以上のダメージはあるらしく、ラブリカの身体がぐらついた。
『一刀両断!』
ただしラブリカが盾となったことにより、自由となったカイデンが飛翔するように跳躍した。その跳躍力は一瞬にして空中のスナイプに肉薄するもので、ジェットコンバットと言えども避けられる速度ではなかった。もちろん今までの光弾とは違い、チャフなどが通用するわけもなく、カイデンの二刀がスナイプの胴体を切り裂くべく迫り――
「大我!」
『何!?』
――戦闘の推移は、大我の作戦通りに進行していた。大我にとっては忌々しいがバグスターたちには仲間意識が強く、必ずラブリカはカイデンを守るだろうという状況を作り出し、目論見通りにラブリカとカイデンの距離は離れていた。そんなバグスターたちとは対称的に、橋の上には一人のライドプレイヤーが立っていて。
『鋼鉄化!』
『ぬう!』
そして振るわれたカイデンの二刀は、ライドプレイヤーに変身したニコによって投げて与えられた、《鋼鉄化》のエナジーアイテムによって弾く。先にニコを逃していたのは、ゲーマー目線からフィールドのどこかからこの《鋼鉄化》を探しだしてもらうためだ。
『キメワザ! ジェット! クリティカルストライク!』
『やめたま……っ!』
そうして空中で身動きの取れなくなったカイデンの目前で、ジェットコンバットガシャットをキメワザホルダーへとセットし直すと、全身を駆け巡っていたエネルギーが右足に集中していく。同時に邪魔しようとしたラブリカに、バックパックから発射された小型ミサイルが炸裂し、目潰し程度ながら隙を作る。
「だぁぁぁぁぁ!」
本来ならば《鋼鉄化》のエナジーアイテムを使った代償に、身体が重く動けないというデメリットはあるものの。右足を前に出せれば、後はジェットコンバットの翼が無理やり吹き飛ばしてくれる。エネルギーを集中した蹴りがカイデンの腹部に炸裂し、蹴りつけたまま空中を飛翔していく。
『ぐぅぉぉぉ……離せぇぇ……!』
「そうしてやるよ」
虫の息ながらもまだ抵抗しようとするカイデンに、そろそろ《鋼鉄化》のエナジーアイテムの効果が消えてしまうスナイプは、何の躊躇いもなくカイデンを地上へと叩き落とした。そうして自らは空中を飛翔して離脱していくが、飛翔手段はないカイデンは、そのまま地上へと自由落下を果たしていき。
「ニコ!」
「オッケー!」
『うぉぉぉぉぉ!』
落下地点には、既にライドプレイヤーとなったニコが控えていた。無防備なカイデンにハンマーの一撃をくらわせると、そのまま抵抗も出来ずにカイデンは爆散していった。
『Game Clear!』
「やったー!」
「ラブリカの野郎は……逃げたか」
カイデンを倒した証である音声とガシャットロフィー入手に、万歳と全身で喜びを表現するニコの隣に、空中からラブリカがいないことを確認したスナイプが着地した。少なくない手傷を負った上に、カイデンもやられたとなればラブリカも戦う意味もないのだろう。先の戦いのことを警戒してか、取り巻きのことを連れていなかったのが、大我にとっても幸いだった。
「っ――」
「大我! レベル3でもやれるじゃん!」
そうして隣のニコと同様に変身を解除して一息ついた大我だったが、ジェットコンバットの反動に身体がフラりと倒れかけてしまう。すると喜び勇んだニコがその感動を表すために、偶然にも倒れてしまった大我を支えるように寄りかかってきたため、大我も倒れてしまうことなく立てたままで……大我にとっては、偶然として。
「まだ下級バグスターは残ってる。油断は出来ねぇ……が、まあ、そうだな。何とかなるもんだ」
「なに大我、今日は素直じゃ~ん」
「……帰るぞ」
寄りかかってきたかと思えばそのまま肘をグリグリと脇腹に押し付けてくるニコから逃げるように、大我は横転していたバイクを適当に起こすと。試しにエンジンをかけてみても何の問題もなく、どうやら横転しただけで済んだようだ。怠い身体を無理やり動かしながら、ファンシーな方のヘルメットをニコに渡しながら、大我もバイクに跨がって住み処の廃病院へとエンジンを吹かすと――
「ねぇねぇ大我! さっきの戦いの時さ、ニコ! って呼ばなかった? いつもはおい! とかお前! とか、酷いときにはテメェ! なのに」
「……気のせいだろ」
「うわ! 大我もしかして照れてんの!? ってか、主治医の癖に患者の名前呼ばないとかおかしくない?」
「……呼んでほしいのかよ、名前」
バイクで走り抜ける風の音に紛れながら、大我の背後からやかましい声が響き渡る。どこからそんな元気が出ているのかと、対して全身に倦怠感を感じている大我が適当に返答していると、気づけばピタリと言葉が止まっていた。バイクから叩き落としてしまったかと、大我は一瞬だけ考えてしまったものの、背中に感じる無駄に強い手の感触はそのままだ。
「……別に、好きに呼べば? 大我の好きにさ!」
「あいよ……」
その後、すぐさま響き渡ってきたいつもの声色に、なんら心配する必要はなかったな、と大我は多少ながら後悔しつつ。それでも、いつもより背中を掴む手が少しだけ強い気がして――
後書き
ゼビウスゲーマー? バンバンタンク? 知らない子ですね。ジェットコンバットのDEBANが少ないのはきっと予算とかいう最大の敵のせいじゃないってガタキリバ先輩が言ってた
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