インフィニット・ゲスエロス
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4話→プロトタイプIS
前書き
力が欲しいか?と聞かれたら、「リスクがないなら善悪関係なく是非」と答えるのがここの主人公。
その機械は、一言で言うなら『人の殻』であった。
四肢がある、頭がある、しかし中身がない。
あと一つで完成する絵のように。
この機械には、決定的な何かが欠けていた。
「で?これは何なんだ?人が着るものって感じだが」
そう口にして、束の方を見ると、束は笑顔で黒いウエットスーツのようなものを渡してくる。
着ろと。
だが、流石に正体の分からないモノをホイホイ着る気にはなれない。
「ふ……束、流石にお前の頼みでもこんな怪しい物を簡単に着る気には……」
「着てくれたら、後でバニーでサービスし……」
「やります!」
即答した。
仕方がない、気まぐれウサギが自分からエロコスしてくれるなら是非もないね。(強弁)
早足で鎧のようなものの近くに寄って着替える。
スーツは何の材質を使っているか不明だが、かなりピッチリとしていた。
少々の息苦しさを感じるほどのそれを、苦労して着終えると、再度束に問う。
「で、どうする?」
「ここに来て~」
間延びした声の方を見ると、片方のヒトガタが開いていた。
「この黒いのがタローちゃんのだよ。白いのがちーちゃん!」
別に色に拘りがあるわけではないので、束の指示通り黒のヒトガタの指定された場所に両手を広げて立つ。
すると、今までピクリとも動かなかった、機械が音を立てて動き始めた。
両手の指先から肩まで装甲が動き、はまっていく。
次いで胸から太ももまでを同様に覆うと、どうやって起こしているのかは不明だが、体全体が浮き上がった。
直後に、まだ鎧に覆われていない足の部分が足裏まで装甲でガードされ。
最後に首から顔にかけてを全て装甲で覆うと、何処からともなく声が聞こえた。
「complete!」
頭部装甲で見えなくなっていた視界が、バイザーに灯った光でクリアになる。
気づけば、彼の体は、メタルヒーローのようになっていた。
「おぉ!すげえじゃん!」
彼とて男の子、ヒーローに憧れた時期もあるし、リアルにア○アンマンのような姿に変身する事に、感動を覚えないわけじゃない。
感嘆の声を出し、適当に手足を動かしていく。
何らかのサポートが働いているのか、鎧の重さは全く感じない。
むしろ通常よりも早いスピードで、手足は自分が動きたい方向へ動く。
その面白さに数分、夢中になって体を動かす太郎。
束を無視して勝手に動いてしまった自分に気付き、慌てて謝罪するが、束は何故かご機嫌だった。
「悪いな、勝手に動き回って」
「んーん、いっつもクール系ムーブの多いタローちゃんがあんなに喜んでくれて、束さんはご機嫌だよ!」
どうやら束的に、今の俺の反応はアリらしい。
腰に手を当てて喜びに笑っている束に安心感を覚える太郎。
しかし、直後に大事な事に気づいた。
「全く気にせず着といてあれだが、これ何に使うの?」
それである。
自分や束、千冬が世間一般で言う『中学生』という枠からは外れているのは自覚しているが、流石に変身ヒーローにならなきゃいけない『敵』なんて、もってはいない。
昔束が、『そうだ、私の好みの人間だけを残して理想の世界を……』とかラスボスムーブしかけていた時には、珍しく千冬とコンビ組んでお話(物理)をしたんで、それもなし。
そうなると、他に理由が思い当たらないのだ。
首を傾げた太郎に、束は噛んで含めるように答えた。
「前に話した夢は覚えてる?」
「大魔王ムーブの事なら。私の好きな人間以外消えろ的な奴だろ。」
「ふふふ、珍しくちーちゃんとタローちゃんがタッグを組んでやって来たやつだよねぇ。一晩中お話しして楽しかったあ」
「お前はそうかもしれないが、俺は大変だったんだよ。流石に放任主義の両親にも怒られたしな。全く、こっちは世界征服を阻んだヒーローみたいな事してたのに、3○ーでやったみたいな疑いかけやがって」
ブー垂れている太郎を尻目に、束は言葉を続ける。
「そこで私は考えました!私の望み通りの世界がないなら、作れば良いって!」
そう言うと、束は天井に指を向けてその『世界』の場所を高々と謳い上げた。
「そう、宇宙に!」
「……うん?」
何、この鎧、そんな目的で作ったの?
ヒーロースーツかと思ったが、実情は宇宙服だったらしい。
それは別に良いんだが……
「ちなみに俺はそこまで宇宙に詳しくないんだが、宇宙にはシャトルで行くんじゃないのか?」
「凡人はね?私の作ったそのスーツなら、単独で大気圏離脱から突入、宇宙遊泳まで出来るよ!」
「怖すぎるわ!何、俺は一般的な科学知識しかないが、これで宇宙まで行くなんて、どんなスピードで打ち出されるんだよ!」
流石に天才の束とは比べられない浅い知識しかないが、このスーツ一つで宇宙に出入りというのがどれだけ無茶苦茶かは分かる。
正直、普通なら断るという選択肢一択だろう。
だが、同時に思う。
もしこの計画が成功すれば、すげえ利権が生まれないか。
山田太郎は凡人である。
『転生』という下駄を履かせても、成れるのは精々エリートサラリーマン。
ベンチャー企業の社長になって大金持ちとか、政治家なんて出来る才はない。
だから、自分の夢『自分の意のまま好き勝手生きる』という夢は、大きく制限がかけられるだろう、と半ば諦めに似た達観をしていたが。
(こいつは成功すれば、人類史に残る発明になる。しかも今のところ、計画段階で噛んでいるのは束と俺、千冬だけだ)
スポーツや勉強もそうだが、才能と同じかそれ以上に、『勉強(練習)時間』は、長ければ長いほどその道でのスペシャリストのランキング上位に食い込める確率は高くなる。
(こいつは『賭け』だ。しかし、束の天才ぶりは身をもって知っている、分の悪い賭けじゃない)
そして最も重要な点として、このスーツは当初勘違いしたように、軍事転用が容易く出来る。つまり身を守るにも、気にくわないやつに噛みつくにも、個人レベルでは通常絶対に手に入らないものが、頷くだけで手に入る。
「いいぜ、その夢、協力してやるよ」
「ホントに!やったぁ!」
「ただし!俺から三つお願いがある」
無邪気に喜ぶ束に、言葉を続ける。
彼女は自分の意見を汲む形でお願いすれば、俺と千冬の意見なら大概聞いてくれる。
「お前が天才なのは分かるが、事故で万が一があっちゃいけない。安全性を海や成層圏で確認してから宇宙へ飛ばしてくれ。これが一つ目」
目の前につき出した指の一つ目を下ろす。
「二つ目、折角だからこいつの操縦に慣れたい。可能な限り、俺にこのスーツの操縦時間をくれ」
二つ目のお願いと共に指をさらに一つ折ると、最後に最も大事なお願いをする。
「三つ目、決してチンピラ相手には使わないから、こいつを護身用に俺にくれ。代わりに出来る限り協力するから」
そう口にする太郎に、束は笑顔で答える。
「モッチロン!もともとタローちゃん専用機だもん。ヒーロームーブしたいなら武器も作ったげるね!」
流石束だ、中学生にオーバースペックの武器を与える(倫理的にヤバイ)姿勢、嫌いじゃないぜ。
「OK!なら文句はねえ。俺を好きに使いな!」
親指を上に立ててグッジョブ!とかえしながら、太郎はそう返した。
ここに、後に話を持っていったら『お前たちは常識がないのか!』と怒鳴った千冬を加えた三人。
後に正式名称インフィニット・ストラトスと呼ばれた兵器は、ここから始まった。
後書き
束「タローちゃんが勢いでチンピラ殺しても(私個人的には)構わないし」←ヒロイン
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