魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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真・四十九話 帰還する希望
前書き
予告詐欺ですいません。まだ出てこなかったよ、全君の理解者……。
なのはとアリサ、すずかが気絶してしまった全を守りながら戦っている頃。
全はどこともしれない所で深い眠りについていた。
ここは全の心象世界。人にはそれぞれ心の奥底に一つの世界を持っており、ある世界ではこの心象世界が現実を侵食する術があり、それを神達の間でいう大禁呪で固有結界という。
だが、人それぞれ別の世界を持っているが、全の心象世界には何もない。白一色だ。
それもその筈。全が何も求めていないからこの世界は白一色なのだ。
そしてそんな場所で全は横たわっている。これは別に絶望したという訳ではない。ただ、心に深い傷が出来、その傷の一部が治ったからここでさらなる回復を待っているのだ。
そして、そんな横たわっている全のすぐ傍に近寄る女性の姿があった。
青みがかった黒髪はストレートで腰の所まで伸びている。しゃがんでいるがそれでもその身長が高いのが目に見えてわかる。
「おぉい全。起きろぉ」
女性は全の頬をぺちぺちと軽く叩くが、全は起きる気配がない。
「うぅん…………」
「やっぱり起きる気配はないか…………仕方ない。これは最終手段を使うべきだな」
女性はそう言うと立ち上がり、どこからともなく、中華鍋とお玉を取り出した。
「右手にお玉、左手に中華鍋…………今、眠りの権化から汝を切り離そうぞ!」
そんな大仰なセリフを傍で大声で叫ばれているにも関わらず、全は起きようとはしない。まあ、それだけ深い傷が出来ていたのだろう。
しかし、女性はそんなのお構いなしとばかりに、伝統的なるあの技を放った。
「これぞ秘技、“死者の目覚め”!!!」
ガンガンガンガンガンガンガンッ!!!!!!
「うわぁ!!?な、なんだ、敵襲かっ!!??」
あまりにも大きな中華鍋を叩く音に堪らず全は心の傷の回復の事など考えずに起きる。
「やっと起きたか……お前ら、あまりにも眠りが深い時はこれでないと起きんからな」
「だって、疲れて……る…………か…………………ら……………………」
全は傍にいる女性を見ながら唖然としてしまった。自身の心象世界に他の人間がいるのにも驚いているが、それ以上に目の前の女性が今ここにいる事が信じられなかった。
「し、師匠………………?」
そう、彼女こそ緋村麻子。全の前世での師匠にして、世界最高にして最強の人間である。
それもその筈。全達の前世での裏の世界には強さのランキングとも呼ばれる物がある。別名「手を出してはいけない人物ランキング」だ。
麻子が死んでからは全がそのランキングで一位に輝いていたが、それまではずっと麻子の独壇場だったのだ。一位と二位の差は歴然であり、誰もが「一位の人間に手を出すくらいなら、喜んでその他のランキング保持者に戦いを挑む」と口を揃えて言った程だ。
それ程まで麻子は恐れられていた。まあ、全の家族を全員ボコって無傷で帰ってくる所からも麻子の化け物っぷりが見て取れるが。
「おう、お前の師匠緋村麻子様だぞ。さあ、もっと崇め奉れ」
麻子はどこぞの神のごとく両腕を広げ天を仰ぐポーズをとる。
「師匠、流石に崇め奉るまでは………」
「ほぅ、私に逆らうか?弟子の分際で随分と偉くなったもんだな……」
頭をぐりぐりと優しくされている全。そのやり取りに懐かしさすら全は感じていた。
「頭をぐりぐりされて喜ぶ奴なんざいないと思っていたが、いたなここに……」
麻子は呆れながらも頭をぐりぐりとしていた手はいつの間にか開かれており撫でる格好になった。
「ん…………」
気持ちよさそうな声をあげて目を瞑る全。それにまた呆れながらもまるで母親のような顔で撫で撫でし続ける麻子。そこには一組の師弟の姿があった。
「さてと…………」
「あ……」
約十分程撫でて、麻子は撫でるのを止める。だが、手が離れると全は名残惜しそうな声をあげる。
「お前な……女じゃないんだから、そんな声挙げるな……」
「でも、気持ちよかったし……」
「はぁ……いつもの勇ましいお前はどこにいったのやら……」
頭を掻きながらそう呟く麻子。
「そ、そうだ、師匠!何で、師匠がこんな所に?」
「あ?細かい事気にすんな!来れたんだからそれでいいじゃねぇか!」
「いや、まったく細かい事じゃないんですけど……」
死んだ人間がいる事もあれだが、それ以上に他人の心象世界に侵入するなど普通はあり得ない事なのだ。それを細かい事とは言わないだろう。
「ま、まあともかくだ……全、元気そうに暮らしてて私としては満足だよ」
「師匠「ただし」?」
「お前、あの体たらくはなんだ?早々に諦めやがって……私はお前をそんな風に鍛え上げたつもりはないぞ?」
「で、でも……」
「はぁ……心の方までは鍛えられないからな。こればかりは本人の問題だし……それにな、お前、彼女達の事を一切信用していないだろう?」
「え…い、いやそんな事は……」
何らかの方法で全の人生を見ていたのだろう麻子の言葉。しかし全は後半の言葉に待ったをかけようとする。
「黙れ」
「っ!」
突然の威圧感に思わず閉口してしまう全。
「見ていたからわかる、お前の師匠でなくともわかる。お前は彼女達を……お前の事を慕っている彼女達の事を全く信用していない」
「その証拠に。お前、彼女達の記憶が戻らなくても仕方ない事だと思っているだろ?それが間違いなんだよ」
「まち、がい……?」
「そうだ、彼女達の本来の記憶達だって元に戻りたい。全、それにはお前の協力が必要不可欠だ。だが、お前自身がそれを望んでいない。違うか?」
「それ、は……」
全は反論しようとするが、出来なかった。全部麻子の言う通りだからだ。
そこまで麻子は言うと、威圧感を解きしゃがむと優しく全を抱きしめた。
「し、師匠?」
「全、人はな一人じゃ生きていけない。生きていけるとか宣っているバカはため込まれていく物に気付いていないだけだ。お前は一人じゃない」
「師匠……」
「私はお前を助けて、お前を育てて、お前と一緒に……お前やあいつらと一緒に過ごせて本当によかった。悔いはない。だから、全。悔いのない人生だった。最後にそう言えるような人生をお前にも歩んでほしい」
「………………」
「彼女達はお前と共に歩んでいきたいと思っている。お前は彼女達を引き離すことで逆に彼女達を苦しめてしまったんだ」
「お、俺は…………」
「そうだよな。彼女達にも幸せになってほしいもんな、でもな全。お前だって彼女達を幸せに出来る。いや、お前にしか出来ないんだ」
「俺に、しか…………」
「ああ、そうだ。お前にしか出来ない。お前が、彼女達を幸せにしてやるんだ」
「師匠…………俺、俺…………!」
「ああ」
麻子はそう言うと、抱きしめるのをやめる。全は立ち上がり、麻子に向き直る。
「俺…………あいつらと、向き合ってみる。俺、頑張る……!」
「ああ、行ってこい全!東馬の分まで幸せになってこい!!」
「はいっ!!!!」
全はそう言うと泣きながら、その場から姿を消した。きっと、現実に戻っていったのだろう。
麻子を天を見上げる。そのまま数秒ほど見続ける。
そして息を吐くと
「それで?お前さんは出てこなくても良かったのかい?」
誰もいない空間に向かってまるで誰かに問いかけるようにそう声を発した。
すると麻子が声をかけた空間が歪み、その場から女性が現れた。
白とも銀髪ともとれる髪を足元まで伸ばし、おとぎ話に出てくる神様のような恰好をしている。
まあ、合っているのだろう。彼女は神なのだから。
「私が出て行っても、何も出来ないと思うし……励ますという点でなら貴女の方が適任でしょ?」
「いやいや、母親の言葉に勝てる言葉なしってな」
そう、今出てきた神こそ天照大御神。またの名を上月真白。東馬の実の母親だ。
「それでもです。私じゃ甘やかしちゃって……」
「ああ、お前も旦那さんも東馬に甘かったそうだもんな。東吾に聞いたよ」
「うっ、東吾のバカァ……何で東馬のお師匠さんにそんな事話しちゃうかなぁ……」
もはや神様の威厳などないに等しい位に落ち込む真白。
「はっはっは。まあ、親ってのは大概そんなもんですよ。私だってそうでしたしね」
「そう、なんですかね……」
二人で軽く談笑していると
『真白ぉ。早く帰ってこぉい。そろそろ限界だぞぉ』
そんな声が空間に響く。
「そろそろ限界みたいだから、帰らなくちゃね」
「そうだな。お前の旦那さんも待ってるみたいだしな」
「からかうの禁止!!」
麻子と真白はそんな会話をしながら、その空間から消えていく。
しかし真白は消える間際
「私はもうこの世界には干渉できない。だから後は頼むね、アトレ、秀二…………私の信頼出来る、天使達…………」
そう、呟いた。
現実世界。フェイト達はまだ状況が把握できていないのでどちらの味方にもなれない。
そんな中でもアリサとすずか、なのはは次々と襲い掛かる魔力弾を切り裂きながら、全を守る。
「………………………」
しかし、全部は捌き切れず一つだけ逃してしまう。
「しまっ!」
アリサがそれを斬ろうとするが、時すでに遅し。それは全に当たる……事はなかった。
「しっ!!」
全は瞬時に起き上がり、腰からシンを抜刀。魔力弾を切り裂いたからだ。
「全!」
「全君!」
「全君、良かった!!」
アリサが、すずかが、なのはが喜びの声を上げる。
「みんな、済まなかった…………もう、大丈夫だ」
そう応える全の顔には不安などまったくなく、透き通った目をしていた。
――――――――――――――――――――――今、希望が帰還する。
後書き
という訳で、全君完全復活。も全君は迷いません。自分の幸せを守る為に戦います。
しかし、敵にはまだ策があるようで…………やっと、次回出せる筈。と言っても最期らへんになる感じ、だと思う。
あ、後今後東馬さんのお父さんやお母さんは出てこないかもしれないので、一応ここで言っておきます。
東馬の父親は神憑家の分家にも該当しない完全なる一般市民……の筈でした。
しかし、神憑家の長い歴史の中でいくつか分家から外され路頭に迷った分家の血筋の人間がいて、その末裔が東馬の父親、上月孝弘さんです。彼は最後までそれを知らずにいましたが死ぬ直前、つまり家を襲撃された際に怒りによって目覚め、神憑きとなりました。
憑いている神は須佐能乎命です。
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