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ガルパン主人公に転生したけど、もう限界な件

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番外編 島田千代

西住流と島田流は日本戦車道を代表する二大流派。その事もあって常に戦車道においてライバル関係で仲が悪いと思われている。戦車道関係者から思われている事は実際にその通りであり、島田流と西住流がお互いに敵視しているのは間違いではないが、しかしそれは戦車道に限る話。近年では時代の流れもあって西住流との交流が増えてきた。中にはプライベートで接する機会のある子達だっている。私もそんなしほと現役時代は殺し合いに近い殺気を出しながら戦った記憶はあるものの今ではすっかり丸くなり、プライベートで私はしほをしぽりんと呼び、しほの方も私をちよきちと呼んでくれている。西住流と島田流は戦車道として関われば本当に仲が悪いが、私の代となってからようやく戦車道以外ではお互いの流派のいがみ合いをなしに交流を持つことが出来るようになった。

私の時代より前は戦車道以外でも西住流と関わる事はご法度とされており、今の西住流の交流に関して嫌悪感を強く持つご老人達は多く存在する。そのご老人達は確かに昔は戦車道で第一線で活躍した選手かも知れない。だが私から見たらもはや過去の栄光と伝統に染まりきって新たな価値観を受け入れない老害にしか思えなかった。私自身の本音としては直ぐにでも老害と化したこのご老人達を隠居させて島田流から追い出したいのだが、しかし始末が悪い事にご老人達の影響力は意外にも強く、島田流本家に属する私でも無視できない事だ。組織が大きい程派閥関係は深刻であり、この事をプライベートでしほと愚痴を零した事もあった。

影響力が強く無視はできない存在で目の上のたんこぶの保守派のご老人達。私が何回目かと思う程に老人達に呆れたのは日本戦車道の大改革のきっかけとなった第六十二回戦車道全国高校生大会に起きた一大事件の時だ。西住みほの事故死。これは戦車道に関わる人間だけではなく世間においても衝撃的な事件として報道された。西住流本家のご息女が戦車道の試合中に事故で亡くなった事は戦車道関係者にとって無視が出来ない程にとって衝撃的な事件であり、そして第六十二回戦車道全国高校生大会終了後の数日後に起きた黒森峰乱闘事件。一部の西住流信奉者による事故で亡くなった西住みほを罵倒して、それに怒った黒森峰女子学園現役生と黒森峰OG達による乱闘事件。

あの乱闘事件の後に更に黒森峰OG会会長の問題発言により黒森峰戦車道は壊滅的な打撃を受け、更に西住流も今回の騒動の発端として世間に知れ渡り、自分の血縁者に対して冷酷な対応は世間から非難された。次々と問題が続出する西住流に対して島田流の老人達は痛快と言わんばかりにご機嫌であった。

「まっこと痛快。西住流も地に落ちたの!」

「その通りです。西住流の現実が見えない馬鹿共は呆れるばかりですね」

「くくく。これからは島田流の天下よ」

私はご老人達やご老人達の腰巾着の話を聞いて人の事が言えるのかと言いたかった。確かに西住流の現実を見ない一部の信奉者によって大騒動を引き起こしたが、それは島田流にも同じ状況が生まれるというメッセージだと私は今回の騒動を見て思えてしまった。何しろ西住みほの事故死は必然的に起きたものだ。第六十二回戦車道全国高校生大会より前から現在の日本戦車道の安全基準の甘さから戦車道の試合中に大きな事故に繋がる事は日本戦車道連盟から指摘されてきた。しかし、日本戦車道に大きな影響力を持つ西住流や島田流の保守派により安全基準に対する見直しが今まで実行されていなかった。これにはご老人達の意地でもあった。近年の戦車道はヨーロッパやアメリカで行われるプロリーグ設立に加えて安全の厳格化により、ヨーロッパやアメリカでは戦車道は安全なスポーツとして認識されつつあった。

しかし、それがご老人達には許せないるものではないらしい。ご老人達は戦車道は凛々しい帰女子を育成する武道である認識が強く、ヨーロッパやアメリカで行われるプロリーグや誰も安全にスポーツとして認識して誰もが安全に行われては戦車道はただのエンターテインメントになる。そうなっては自分達が築き上げた戦車道が廃れてしまう事を恐れて、現状の戦車道のルールに固執する傾向が強かった。

だが、それでも時代の流れというものがある。確かに伝統も大事にする気持ちは私にもわかる。しかし、変わらなければいけない現実というものもある。あの事件の後に西住流の不祥事や戦車道連盟が特に動きを見せなかったせいで世間や戦車道関係者達より不信感が強くなった。この戦車道連盟や西住流に対する不信感により警察の方も遂に本腰を入れて戦車道連盟に対して調査が行われた。それはもう、長い事ご老人達とやりたくもない腹芸を経験して黒い案件にもかかわった私でも正直いって反吐が出る程の黒い案件が続出した。

この当時はまだ島田流の家元としてではなく島田流の師範代として、戦車道連盟に深く関わった島田流の人間に対しての事故処理に追われた。そのとき西住流師範代であったしほとも連携するように私は動いた。最後に出会った時は高校戦車道連盟理事長に就任してより一層に硬くなった印象を受けたが、現在のしほは他人から見れば感情を表に出さない鉄仮面という印象を受けるが、長いこと公私共に付き合いのある私はしほが変わった事に気がついた。まるで何かに取りつかれたように必死なような印象を受けた。私は、やはり次女のみほさんが亡くなった事が影響していると思った。私は少しでもしほの助になろうと思い、お互いに落ち着いたら二人で話がしたいと約束を取り付けた。

そして二人で話すように私の実家にしほを招いたが、あの時のしほは今でも私は忘れる事が出来ない。

「私は西住流を根本から変えるわ」

しほが最初に言ったこの言葉は私にとって衝撃的だった。しほにとって西住流が全てといっていい程に信奉していたのに、西住流を根本から変えるという言葉は今までの西住しほからは考えられないからだ。やはり自分の娘が戦車道の試合で事故死した事がそれだけしほにとって衝撃的な事だとこの時わたしはそう思った。だが、しほはそれだけではないと私に呟いた。

「みほを失った悲しみは確かにあるわ。でもね千代。貴女は現在の日本の戦車道に未来があると思っているのかしら」

未来があると言われてしまえばあるとは言えない。日本の戦車道は黎明期より日本の戦車道を支えてきた西住流と島田流の影響力が強い。日本戦車道の基礎を築いたといっても良い程に貢献してきたのは戦車道の歴史を知れば誰もがわかる事実。

しかし、古くから西住流と島田流を支えてきたご老人達は日本戦車道を支えているとは言い難い。ヨーロッパやアメリカでは戦車道のメジャーな競技にするため大規模な改革がちゃくちゃくと進んで安全基準や選手のメンタルケアに力を注いでいる。しかし、昔からの伝統を崩したくない保守派達は武道としてではなくスポーツと定義されつつあるヨーロッパやアメリカの戦車道に嫌悪感が強く、私達より先代は特にヨーロッパやアメリカの戦車道文化を取り入れる事にも嫌悪感を強い。世界選手権があと数年で日本で開催されるというのにご老人達は伝統を蔑ろにする気かと怒りを露わにして一向に改革が進んでいない。このまま戦車道改革を進めなければ日本の戦車道が衰退してしまう事は島田流の時期家元の私は嫌というほど理解している。

「このまま西住流と島田流のご老人達やご老人達の腰巾着の保守派を好きにさせてはいけないのよ」

「言葉にする事は簡単よしほ。でも、ご老人達を簡単にどうにか出来ると思っているのかしら」

ご老人達の戦車道に対する影響力がとても強い事は戦車道連盟と関わりあれば誰もが知る事実。第六十二回戦車道全国高校生大会から戦車道連盟や西住流に対して警察が調査を開始して世間に知れ渡った黒い案件。逮捕された人間の多くは西住流の関係者だったが、島田流も黒い案件に関わったせいで島田流の人間も逮捕された。しかし、それでもやはり保守派の本命は逮捕できないでいた。理由は簡単で明確な証拠がないというのが表向きの理由だが、政治家達の一部がご老人達と事を構えたくないというのが本音。ご老人達は今でこそ現実が見えない老害だが、ご老人達の血縁は無視できない。西住流も島田流を支えているご老人達の血縁者達は西住流と島田流を支えるのに欠かせない存在。その影響力は一部の政治家や経済界の重要人物が事を構えたくないほどだ。そんな強力な血縁者を味方につけているご老人達を排除すれば西住流と島田流の影響力低下は免れない。

「ご老人達を排除すれば西住流に致命的な深手を負うわよ」

「理解しているわ千代……でもね」

あの時のしほの表情と隠し切れない殺意に私は恐怖を覚えた。そして私は西住流のご老人達は、とんでもない人物を本気で怒らせた事を私は察した。

「私は西住流の時期家元であると同時に『母親』なのよ」

ご老人達はしほを伝統を重んじる自分達に都合のいい人物が家元になると喜んでいただろうがとんでもない。しほが本気で怒った時を私は思い出す。しほが本気で怒った時はどんな人間が相手であろうと相手が精神崩壊寸前まで恐怖を与える。しほが本気で怒った時の戦車道の試合は数える程だが、相手が戦車道の選手としては外道に分類される人物。そういう人間は基本的に相手を怒らせて冷静な思考を奪う事に長けているが、しほの場合は冷静で静かに冷たい殺気を放っていた。試合が終わればしほの圧勝。試合終了後の相手はしほに怯えてまともに目を合わす事も出来ずに、しほがその場を去るまで動くことが出来ない程に恐怖していた。あの時のしほの殺意と表情が現役時代のしほを思い出させるほどであった。

あの凄まじい殺意を纏ったしほを見て私は第六十二回戦車道全国高校生大会以降の西住流の対応にしほが許容できる範囲を西住流のご老人達は超えさせてしまったと理解した。しほは基本的に不愛想なせいで冷たい人物と誤解されがちだが本来はとても情に熱い女性。不愛想で冷徹なイメージが強いのは西住流本家の人間として対応しなければいけないと思いが強く、本人の自分に対して不器用すぎる性格も原因の一つだ。

だが西住流の人間としてではなく、母親として西住流を本気で変えると判断したしほは本当に止まる事はない。私はこの時しほとの話を聞いてしほの思いが本物で本気であることを理解した。

ーーー。

あのしほとの話し合いから五年が経過した。しほの西住流を変える決意を聞いて娘の愛里寿を大学に飛び級させる事を辞めさせた。愛里寿は確かに自他共に認める程に天才だが、しかしよくよく考えればまだ中学生にもなってまもない愛里寿を大学にいれる行為は島田流の人間は優れているというアピールにはなるが、母親として考えれば娘の道を親のエゴで勝手に決めつけているという親として最低な行為をしている事に気がついた。島田流のご老人達のような人間にはならないと決めていたのに、私は知らずのうちにご老人達と同じ道を歩んでいたことにしほと話して気がついた。

あれからしほは、長女のまほさんと一緒に本当に西住流を根本から変えた。あの時の決意は本物であり、本当に実行して影響力の強いご老人達を短期間で排除した。西住流の実戦部隊の大半が保守派に属していたせいで影響力は低下したが、それでも西住流は存続している。確かに影響力は低下して西住流が衰退したように世間では思われているが私は長い目で見れば西住流は島田流を追い抜く可能性が高い組織にまでしほが成長させた事に気がついた。ご老人達は西住流の衰退劇に喜んでいるが、西住流は宿主に寄生した寄生虫を駆除した。しほの代では島田流を追い抜くことは難しいかも知れないが、しほの娘の長女のまほさんが家元になる頃には島田流も危ういかも知れない。そう思わせる程に西住流は変わった。

「でも、私もこのまま黙っている訳ではないわよ。西住しほ」

いずれ私は家元の地位を成長した愛里寿に譲る。でも、このまま何もせずに愛里寿に譲るつもりはない。西住流の衰退劇の発端を見ていた島田流の改革派が、次は自分達の番になるのではと恐れて着々と数を増やして私に協力してくれるように集まって来ている。時期が来たら私は一気に保守派とご老人達を排除する。西住流の衰退劇を見て島田流も次は自分の番になるのではと危機感を覚えているものは改革派以外にも多く存在する。そういった人達と協力して愛里寿が家元になる前に私は旧勢力を排除する。時間は長くかかるかも知れないが、私は西住流と同じやり方でご老人達は排除するつもりはない。私は私のやり方で島田流の膿を出し切るつもりよ、しほ。

 
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