ガルパン主人公に転生したけど、もう限界な件
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番外編 赤星小梅
私、赤星小梅が戦車道を辞めた。理由は世間で知れ渡った第六十二回戦車道全国高校生大会がきっかけただ。あの大会から10年の歳月が立った現在。あの悲劇よりもう戦車に乗らないと決めたのにこうして戦車に乗っているという事は私は結局のところ戦車道に対してある程度のけじめがつけられたのだと思う。だけど10年前の私はとてもではないが自分から見ても情緒不安定だった。あの第六十二回戦車道全国高校生大会において中等部からの友達だった西住みほさんを目の前で亡くなった事から私の人生は絶望に変わった。
昔ほどではないが後悔の念が私の心に渦巻く。どうしてあのとき戦車が落ちなければ、あのとき流されたみほさんを助ければと、何度も思った。あの大会が終了後は私の他にみほさんに助けられた隊員達は副隊長であり黒森峰の太陽とも言うべきみほさんが自分の命と引き換えに助けたという事実が心を苦しめた。その時でさえ心が苦しくて逃げ出したかったのに、OG達の心もとない言葉でみほさんを罵倒した出来事はとてもではないが我慢できなかった。そして10連覇を逃した大会とOG達との乱闘事件により黒森峰は変わった。
OG達の人の命を何とも思わない心と自分の身内が戦車道の試合の事故で亡くなったというのに何の反応も示さない西住流に対して黒森峰の隊員達はついに我慢の限界が来たのか黒森峰を見限って機甲科の隊員達は次々と黒森峰を去ってしまった。自分達の上に立つ人間が戦車道の勝利以外を邪道として身内すら勝利のための消耗品としか考えていないのだから去っていくのも当然だ。
あれから黒森峰の取り巻く環境は本当に変わった。主力メンバーの半分以上が実戦部隊と整備班が黒森峰を去り、そして後援会でもあるOG会とスポンサーの半分以上が去ってしまい戦車道の資金源が劇的に減ってかつての全盛期程に戦力を整える事が難しく黒森峰戦車道は壊滅的な打撃を受けた。これだけ被害を受けても戦車道を続けるのが難しいと言われても黒森峰の戦車道を維持できたのは黒森峰の隊長の西住流まほさんとみほさんが亡くなってまほさんより副隊長に任命されたエリカさんの奮闘によるものだった。
それでもみほさんが亡くなった当初はとてもではないがまほさんは見ていられなかった。最愛の妹を亡くして一番傷ついていたのに間を置かずして西住流の非常ともいえる対応にまほさんは乱れに乱れた。初めは自殺も考えてみほさんの後を追おうとも考えたらしいが母親である師範代と家の家政婦の菊代さんに止められたらしい。その事をまほさんは「あの母が泣きながら止めてくれた」と、話してくれた。自分以上に鉄仮面のように感情を出さない母が泣いていたのは、母も人間だなと思い出させてくれたと笑って話してくれたが笑いごとではないと思う。だからこそ、私は今目の前にいるまほさんに話が聞きたかった。あれだけの悲劇を受けながらどうして戦車道を続けられるのか?そして今でも関わっていられるのかと……。10年もたった今になってようやくまほさんと対面して話す事が出来た。
こうしてお互いに大人となり忙しくなった身であるが時間をつくり喫茶店にてまほさんと対面している。あれから10年はたったがまほさんは相変わらず綺麗だった。無論、黒森峰の時でも男女問わず人気があった。しかし、黒森峰の時は人を寄せ付けない独特の雰囲気があったが今は優しそうな雰囲気を纏った女性になっていた。
そして私は10年越しでようやく話を聞くことにした。どうしてあれだけの事があった中で戦車道を続けられるのかと?
「黒森峰を変えたい。二度と妹の様な事が起きないようにするため。それがあの時の私が黒森峰で戦車道を続けた理由よ。だってあの時は私にしかできない責任でもあったのだから」
「……」
「無論、初めからそう思ったわけじゃない。もう話したと思うが当時の私はみほを失って戦車道にも西住流に対して絶望した。みほを失っただけでなくみほの行動に批判したOG達に身内が亡くなったのに何の反応も示さない西住流そのものにだ。私が信じていたものが根本から崩れ落ちた。みほも失い黒森峰を去る隊員も止める事が出来ず、西住流も戦車道にも絶望した私は心の拠り所を失って自殺しようと思った。」
まほさんはあの当時の黒森峰の隊員を引き留めようとした。だけどみほさんを失い西住流に絶望した隊員達を引き留める事が出来なかった。そして私も黒森峰戦車道から逃げ出した一人だった。
「だからこそ分かりません。どうしてそれだけ追い詰められた中で戦車道を続けられたのですか?」
「ふ、今の私があるのはエリカのお蔭だよ」
「エリカさんが……」
「母達が私の自殺を止めてくれて家で謹慎を受けた。しばらくして謹慎が解けて黒森峰に戻った私だが、それでもいつ自殺ても可笑しくなかった。そんな私を助けてくれたのがエリカだ。今でも思い出すが、黒森峰の隊長としての立場と西住流の後継者の自分に疲れて絶望した私の自殺をエリカは必死で止めてくれた。だけど私は子供のように泣き叫びながら『頼むから死なせてくれ、みほの所に行かせてくれ!』と、必死に止めてくれたエリカに叫んで言ったよ。今を思うと本当に恥ずかしい限りだ。」
笑って言っているが、それだけ当時のまほさんは絶望していた。肉親の必死な訴えも心に響かなかったのに、エリカさんはどうやってまほさんを立ち直らせたのか
「絶望した私に言った。『死んで逃げないでください。隊長が死んだら誰が黒森峰を立て直すんですか』とな。そして続けざまに『隊長にしかできません。黒森峰を変えて二度とみほと同じような事が起きないようにしてぐださい。私が支えますから、どんな事があっても隊長を見捨てませんから……お願いします。もう、私の目の前で親しい人間が亡くなって居なくなるのは嫌なんです!』そう言って泣きながらエリカは私に必死に説得したよ。まだ私を必要としてくれる人間がいると分かって私は目が覚めた。それから小梅も知っての通り、私はエリカと一緒に黒森峰を西住流を変える為に動いた。」
まほさんだって初めから黒森峰を立て直そうと動いたわけではない。もがき苦しみながら答えを出して動いたのだ。
「世間では私が黒森峰を立て直したと言われているがとんでもない。本当に称賛されるべきはエリカだ。エリカがいたからこそ私は立ち直れた。そして私は自分の道を決めた。エリカの様にどんな絶望に落ちても人を導いていける人間になりたいと、私と同じように絶望した人を救ってあげるだけの人間になりたいと思った。だから私は戦車道の講師という道を選んだ。」
「まほさん」
「それが今でも私が戦車道と向き合っている答えだよ小梅」
交じりっ気のない答えだった。実際にここまで来るのに辛い道のりだった事は私は聞いている。母親と一緒に西住流を変えようとして裏で旧勢力との戦いと、あらゆる戦車道の強豪よりオファーを全て断ってありもしない事を言われて叩かれた事もあった。それでも西住まほは自分の道を曲げなかった。自分の信じる道を進んで、望む先に辿りつくまで彼女は止まらない。
私、赤星小梅の人生は確かに順風満帆とは言えなかった。でも、それでも私はまほさんやエリカさんのように戦車道とようやく向き合えた。まほさんのように戦車道の講師でもなくエリカさんのようにプロリーグのスーパースターにもなっていない。今の私は資金も少ない人員も少ないないない尽くしの弱小の社会人チームに所属している。何年も戦車道から離れてブランクもあって周りの足を引っ張ってしまっているが、それでも私は戦車道を続けている。今は亡くなってしまった友達や尊敬する人達に少しでも追いつく為に……。
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