ガンダム00 SS
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ep19 兄さんの機体
前書き
今回の主役は劇場版に登場したガンダムデュナメスリペアです。アロウズとの最終決戦後のミッションを描きました。
2313年 地上 元AEU領 A国軍事基地
ロックオン・ストラトスはMSのコクピットから作戦対象の基地を見下ろしていた。
「今のところは何もないが……」
山岳に囲まれた密林の中にあるA国の軍事基地は小さな飛行場と格納庫、司令塔で構成されている。軍が展開している様子はない。
音声通信で仲間の声が聞こえる。同じくMSに搭乗している刹那・F・セイエイだ。
『だが、ここは間違いなく戦場になる。敵がきたら俺たちは介入する』
「ああ。分かってるさ』
長年に渡って対立してきたA国とB国の和平交渉。今日はA国の首都で2国間の式典が行われる。
だが、ここには大きな問題があった。B国内では、この和平交渉について意見が二分化しているのだ。
国内経済の需給バランスが取れたA国と協定を結び、対外貿易を契機に国の推進を図りたい改革派と、軍事力が圧倒的に劣るA国を武力併合し、国内の労働・雇用問題を解決させたい武力派。B国は内部の意見統一をしないまま、今日に流れ着いてしまったのだ。
B国の首脳陣が改革派であるため、今日の和平交渉は彼らの強引な押し切りによって決定された。武力派がこれを許すはずがない。
今回のミッションは、両国の和平交渉会合を決裂させたいB国武力派の迎撃だ。武力派が準備した特務襲撃部隊が、A国軍事基地を強襲する。両軍の軍事力には隔たりがあり、ここで衝突が起きれば和平交渉は元より、両国の対立は以前よりも増してしまうだろう。
そこでソレスタルビーイングは、この裏切り行為に対応すべく作戦を展開している。ミッションは刹那とロックオンが担当することになった。
「それにしても、この機体で敵の数に耐えられるのか?太陽炉だって積んでいないのに」
ロックオンは刹那にぼやいた。彼が今使っているのは、ガンダムデュナメスリペアだ。資金繰りに困っているソレスタルビーイングは、過去に使っていた機体を再利用することで戦力を保持している。
刹那が淡々と答える。
『大丈夫だ。デュナメスは武力介入のために開発された機体。こういう作戦には打ってつけだ』
「武力介入ねえ……。兄さんの機体にケチはつけられない、か」
そのとき、山岳の開けたところから飛行MSの編隊が飛んでくるのが見えた。ロックオンはメインカメラの映像を拡大し、編隊がB国所属であることを確かめる。
「刹那!」
『見えている。エクシア、武力介入対象を確認。駆逐する』
刹那が乗るガンダムエクシアリペアⅢは、左腕に装着したGNロングライフルを展開する。機体が長距離射撃体勢に入り、銃口にGN粒子の煌めきが見えた。
ロックオンはデュナメスを操り、同じようにGNスナイパーライフルを敵に向けた。彼はガンモニターを上から下げてガシリと構え、敵を捉える。
「デュナメス、目標を狙い撃つ!」
一筋の閃光がB国所属のユニオンリアルドを貫き、爆発する。ロックオンは続いてトリガーを引き、敵MSを撃ち落としていく。
ピピっというセンサー音が鳴り、モニターが自動でアップされる。A国軍事基地に向けて接近するB国の地上部隊だ。
『作戦通り、俺が地上部隊を叩く。上は任せる。ロックオン』
「了解だ。頼んだぜ」
エクシアが飛翔し、山岳から地上へと降りていく。地上に足をつけたエクシアはロングライフルを敵部隊に向け、次々と戦闘不能にしていった。
「すげぇ当てるなあ、あいつ」
それを聞いたハロが目を点滅させながら声を発する。
『ロックオンマケソウ、ロックオンマケソウ』
「言うじゃないの、ハロさんよ。俺はお役御免ってか?」
ロックオンはヘラヘラと笑いながら再び射撃を始める。全ての攻撃が敵の中に吸い込まれていった。
「伊達に兄さんの弟やってるわけじゃないんでね」
空戦部隊はGN粒子の干渉でレーダーこそ使えないが、デュナメスに対して攻撃をしかけてくる。ロックオンはそれらを全て回避した。
「この機体には傷1つつけたくないのが本音だ。悪いが狙い撃つぜ!」
空戦部隊の残機が4機になったところで、彼らが撤退を始めた。地上を見ると、B国軍の部隊が基地から遠ざかっている。あちらも戦闘が終了したらしい。
刹那が言った。
『作戦完了。撤退しよう』
「ああ」
ロックオンは生返事で答えて、帰還ルートに入ったエクシアの後を追っていった。
無人島
ソレスタルビーイングが使用している無人島に帰ってきたロックオンは、コンテナに入れたばかりのデュナメスを見上げた。
かつて世界に対して喧嘩を売ったガンダム。まさか自分がこの機体に乗ることになるとは思ってもいなかった。
コクピットから降りた刹那が声をかけてくる。
「どうした」
「ちょっと兄さんの機体を眺めてただけだよ。年季入ってるなあと思ってね」
刹那もまたロックオン同様、デュナメスを見つめる。やがて彼は言った。
「今はあいつの機体じゃない。お前の機体だ。だから気遣いなんていらない」
刹那の言葉を受けて、ロックオンは一瞬言葉を失う。それから苦笑いを浮かべて呟いた。
「心を読むなっての、このイノベイターめ」
だが、刹那の言葉が自分の中にある柵を消してくれたような気がした。
ーーこいつの言葉にあやかるってのもあれだがな……。
ーーデュナメス。ありがたく使わせてもらってるよ、兄さん。
ロックオンはそれ以上は何も言わず、デュナメスに背を向けて歩き出す。
世界はいまだ戦いを止められない。だが、誰かが痛みを抱えることになっても、人類は戦いを終わらせる必要がある。全員がそう意識しなければ、この時代は変わらないままだろう。
ーー痛みを受けるのは俺たちで良い。俺はソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして、矛盾の中で狙い撃つまでだ。
無人島の空は水色に似た青に染まっていて、とても戦争の空気を感じられない。ロックオンはその色に想い人を重ね、目を瞑った。
彼女にも、戦争のない世界を見せたかった。それは叶わないが、そういう世界を目指すことはこの先できる。ロックオンは改めて自分の戦いを再確認し、コンテナの待機室に向かった。
終
後書き
オムニバス短編はこの回で終わりです。1stのファーストミッションを担当した2機がラストを飾る形となりました。意図はなかったのですが、良い締め方かと個人的には思っています。
予定としては、あと数話ほど書きます。投稿まで少々お待ち下さい。
舞台は2314年以降の世界。イノベイターと旧人類軍の統合戦争を背景に、オリジナルストーリーを書くつもりです。
おつき合いいただきたく思います。よろしくお願いします。
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