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ラピス、母よりも強く愛して

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20優人部隊突入開始

 火星地上、コミンテルン総決起集会会場。
 火星では、暴力革命を成功させた左翼ゲリラ達が臨時政府を名乗り、そんな組織が雨後の竹の子のように生えた。
 コロニー数*2~8、思想的に同じ集団や反政府組織の細胞として繋がりも有った所は集合するため、会議を開催してユートピアコロニーで決起集会を開いていた。
 ラピス達が用意したサマリン博士も、改造前からリベラルな思想家で、小さな政府が最小限の管理をして公共の役割を果たし、インフラまでを用意して、足りないものは市民同士で分け合うような体制にすれば良いと考えているので、以前のような軍事政権が全てを掌握、形だけの議会が軍の圧力で決定をゴリ押しするような体制を嫌っていた。
 もし上で戦っている木連が勝ってしまえば、解放軍とはならず、同席して会談しただけでこの世で一番嫌っている人物だとすぐに分かる。
 報道の自由も言論の自由も無し、一神教で他は認めない、まず国家と神があり、その下で神の赤子(せきし)である臣民が国家に奉仕するような理想郷を唱えたりすると、その場で殴り合いの大喧嘩に突入し、銃で撃ち合ってプチ内戦が発生する楽しい状況になる。
 もちろんラピス達はそうなるのを願っていたが、今回は革命軍を統合させて、続々とやって来る地球軍の物量に対抗させて、ゲリラ活動も破壊活動も継続させないといけない。

「革命同志諸君! 我らジャコバン派革命会議は、発電所管理を任されているプロレタリアート革命同盟をサポタージュの罪で告発する! 彼らの管理不足により、電力供給が停止し、生命維持の危機に晒されている人民や同志が多数存在する!」
「技師は逃げた、父親として子供達の食料を探すためだ、食料の配布を停止して独占を図り、国家を牛耳ろうとしているのはお前たちだっ!」
「黙れブルジョアの手先めっ! 電力がなければ食料製造プラントは動かないのだっ! 輸送車をどうやって動かすのか? 電力が無いのが諸悪の根源なのだ!」
 イラついている議長の近くに座って、会議の行方を見守っているラピス母は、楽しそうな子供の口喧嘩を見守っていた。
「議長! ジャコバン派革命会議は虚偽の告発をした。食料プラントは独自のエネルギーシステムによって動作しているはずだっ、外部からの供給は不要っ、彼らこそ革命の癌であり病巣だ!」
 テレビやネットで発表されたような、夢のエネルギーサイクルを信じている夢想家達が、子供の理論でゴネ始め、収拾がつかなくなった会議。
 相転移炉も反物質炉も実在するが、ラピス達が管理する「ネルガル」の独占技術である。
 ラピス母は会議堂を退出して、トイレにでも行くような顔をしながら、こう呼びかけた。
(戦闘指揮官は退出せよ、会議は政治屋の好きにさせるといい)
 革命家全員に取り憑いていた命令機能で、戦う覚悟がある人物だけ呼び出され、リーダーから会議への出席を拒否されたような戦争屋、仕事や補給の手配屋は別室に集められ、会議が行われていた会場は「旧政府軍によるテロ」で爆破された。
 今はまだ宮廷闘争で成り上がって独裁するスターリンやカストロ議長は不要で、戦争や革命が下手すぎる孫文先生も不要、それよりは太平天国の乱の教主、政治下手でも魅力的なチェ・ゲバラ、人格最低でも毛沢東やナポレオンになる人物が必要な時期だった。
「発電所、水道施設、配電所、食料製造プラントの技師、作業員を徴発。脱走できないよう「タピオカ」でも植え付けてやれ。直ちに行動せよ」
「「「「「「「「了解しました」」」」」」」」
 ラピス母の命令によって、逃げ去った技師たち、作業員も連れ戻され「テッカマンブレード」とか「パペットマスター」みたいに、首の後に何かを植え付けられ、ラピスの駒として働くよう命じられて、犬の喜びを与えられながら世界の支配者に奉仕する生活を始めさせられた。

 幾つか指示を出して、火星人?の生活を安定させる方策を取らせて解散した後、ラピスの前に常人とは足の運びが違う人物が数名現れた。
「ラピス様、お迎えに上がりました、木連の者です」
「あら? 私は火星を離れませんよ、皇帝が木星から離れないように、私もここを守ります」
「しかしっ、政府が倒れて指名手配が有耶無耶になったとは言え、地球人から狙われる身であるのは変わりませんっ、どうかご自愛頂いて、一旦木星までお下がり下さいっ」
 相手が相転移砲でも持ち出さないと破壊できない人形の化け物とは知らず、か弱い女性だと思って保護を申し出る木連潜入工作員。
「貴方達の皇帝を暗殺できたヒトがいる? あの子と私は同じ存在。私達を殺すには相転移爆弾でも用意しなさい、もしこの体が破壊できても、太陽系の施設を全部破壊しないと、すぐに予備のボディーを起動させて活動再開するわ」
「は?」
 木連史上、皇帝暗殺に成功した人物はおらず、目の前で爆発があっても跳躍空間や次元歪曲断層に阻まれ、実行者や命令者はいつもの植木鉢から首だけ出して、永遠の地獄をさまよっている。
 100年前の暗殺者達は、普通人が老衰で死んだ後でも死ねずに泣き叫び、今日も強制収容所の入り口で「殺してくれ」と泣いて、壮絶な悲鳴を上げ続けている。
「どうしても信じられないのなら、ボソンジャンプで木連に跳躍して、貴方達の皇帝とツーショット写真でも撮ってきてあげましょうか? 貴方のカメラを貸しなさい」
 工作員から愛用のカメラを受け取ったラピスは、ジャンプして消えると本当に皇帝とのツーショットを自撮りしてから戻って来た。
「こ、これは……」
 迷惑そうな顔をして、いつもの拗らせた顔で睨んでいる皇帝と、満面の笑顔で肩を組んでいるラピス母。
「私は自分の命より大切な人を守り続けています、ですから木連には行けません」
 二千年前から稼働しているラピス01は、ただ一人の主、テンカワアキトを思って、母よりも怨念の篭った笑顔で微笑んだ。
 曰く「きゅい~ん、ご主人様は一人です~」な鋼鉄天使で、今もエンゼルハートが唸っているらしい。
 木連の女神様ご本人と、生き神様の左半身の救出には失敗した工作員達。本来、救出作戦自体が不要だったのを知ったモノは、記憶を調整された。

 火星上空。
 火星の駐留艦隊、地球艦隊は大半が役に立たなかったが、全自動の防衛用要塞は非常に有能だった。
 老朽化していたが、腐り果てた最近の製品や兵器と違って加工精度もよく、問題点も洗い出されて実働し、木連の先行艦隊に雨のようにミサイルを打ち込んでいた。
 もしこれが接近中に発砲許可が出ていて、大気圏内で減速している時に発射されれば、先行艦隊の大半は沈められ、地球側の勝利に終わっていたはずだった。

 火星の大気で減速を成功させても、まだ第一宇宙速度を超えるスピードで減速を続ける先行艦隊。
 減速せずそれを追い抜いて行った艦載機は、火星駐留艦隊に向かって突入した。
「突貫!」
 無人機におおよその指示を出し、自機からも誘導弾を発射する小型艇。
 地球側の準備は何も終わっていなかったが、スイッチを入れるだけで動作する、自動の対空兵器は動作した。
 只、撃ち尽くした弾丸を補充する人物もおらず、整備も行き届いていないので、電磁投射であっと言う間に高熱になって動作不良を起こして、製造元でも隠している不具合も多発、考慮されていなかった想定外の事態でも故障し、自艦に弾丸や破片を叩き込んで壊れ、爆炎で自軍の邪魔をして索敵できないように混乱させ、さらに「ケイン号の反乱」のように船員に恨まれていた上級士官や艦長は、兵士が仕込んだ罠に掛かって、逆方向に飛ぶ自軍の誘導弾を、迎撃する暇もなく艦橋に食らって死んだ。
「トラトラトラ、我奇襲に成功せり」
 防御力の弱い小型艦は第一波攻撃でも大被害を受けたが、中型艦以上は実弾攻撃も電磁波防御や対爆装甲で防御し、物理攻撃には不得手なディストーションフィールドも爆破を阻み、船体を傷付けられなかった。
 地級艦隊を通過した小型艇は、内蔵された特異点をスクリューのように回転させ、空間を掻き分けて方向を変えながら、第二次攻撃のため再装填した。
 どの船もロケットモーターなどは存在せず、EMドライブの発展型すら無い。
 艦艇の推進力も遺跡の船に似た推進装置で、ロケットのように一度発射したら推進剤で方向を変えるより、別のものを発射した方が早いのとは違い、何の取っ掛かりも無い宇宙空間でも方向転換ができた。

「砲~雷撃戦開始~、主砲~、はな~て~」
「対艦魚雷発射~、甲板員退避よ~し」
 人員の配置すら出来ていない地球側とは違い、訓練通り、何も変わらず平素の動作のように魚雷を装填し、主砲を発射する木連の一戦隊。
 当然後続の本艦隊も訓練が行き届き、装填を失敗して自爆するような者はいない。
 ビームやレーザー攻撃はディストーションフィールドで防がれ、対艦魚雷も対空防御が動作している間は大半が撃ち落とされる。
 小型艦はほぼ無力化されたが、中型大型艦は、火力より防御力が高い鉄甲艦同志の戦いのように決定打が無いので沈まなかった。
 そして何より地球側は主砲と対艦ミサイルを発射できなかった。数カ所人間の判断が必要な場所に、必要な人員が間に合わなかったためである。
 やがて木連の戦隊が高速で通過して長円軌道に入り、超重量を転回させながら再度会敵を目指す間、優人部隊も突貫した。

「速度調整、相対速度、地球人艦隊に合わ~せ~、出現地点確定、敵旗艦右舷、発動機付近」
 鉄神を三次元空間に戻した九十九は、零距離で右腕をフィールド内に捻り込んだ。
「敵機! 右舷に取り付いています、撃てっ! 撃てーーっ!」
「あんな直近、どうやって攻撃するんだ? あれもどうやって近付いた?」

「ゲキガンパンチ」
 正式名称は次元歪曲断層障壁貫通腕だが、聖典の通り発音される。
 叫んだりすると体力と酸素を消費するので、戦闘記録に音声を残すためだけに呟いた。
 敵ディストーションフィールドを、次元歪曲断層で中和浸透させ、金属の腕を貫通させてから、敵艦内に反物質弾を投棄して時限信管で点火、自機は跳躍で退避し、敵を対消滅や量子論的爆発で沈める零距離特殊攻撃である。
「跳躍」
 九十九も元一郎も明人も、アドレナリン過多でくしゃみも瞬きもしない状態で、流れ作業のように跳躍、索敵、降下、中和、貫通、投棄、点火、跳躍、の手順を繰り返した。
 右腕が鈍れば左腕、左腕の装薬が尽きれば足へと変更し、中大型艦を爆殺して行く三機。
「ハー、ハー、ハー、ゲキガンキック、ハー、ハー、ハー」
 元一郎は既に魔神の片腕を失い、足で貫通して爆薬を挿入する。引き抜くことが出来ない場合が多いので、跳躍しても着いてこない場合は膝下が投棄される。
「第一回攻撃終了。未確認なるも装薬十二発によって大被害を与えたものと思われる、第二回攻撃の為、装填を必要とする、跳躍」
 腕と足に装填された弾薬を使い終わった九十九は、狙い撃ちされないように、艦隊決戦で次元歪曲断層を失った敵艦の、格納庫らしき広い空間に向けて跳躍、降下した。
「なっ、なんだあれっ? 敵なのか?」
「地球人め、失せろ、ゲキガンストーム」
 開口部から熱線を吐いて周囲を焼き尽くし、背中に背負った追加爆薬を腕、足を開いて装填する。
 通常このような危険物を剥き出しで運ぶなど有り得ないが、自爆攻撃中なので撃墜された場合は背負った装薬とともに散華する。
「開口、両腕損傷、手甲を剥いで装填す」
 もし生き残りでもいて、艦内でロケットランチャーを撃てるほどの蛮勇があれば、船もろとも無敵の鉄神を葬ることも出来たが、地級艦内にそんな危険物も人物も存在しなかった。
 もう鉄神の両腕の爪は鈍り、装填部も裂けて爆薬を排出できないので次には腕を投棄する必要がある。
 足は先程一本失った。自分の命の残りを数えてから、九十九は次の目標に向かって跳躍した。

「ゲキガンフレアー!」
 秋山の雷神も短距離跳躍で合流し、攻撃を開始したものの、歪曲断層が搭載されていないので敵ディストーションフィールドを中和できず、力技で叩き込んでフィールド内に到達した所で掴んだ爆薬を使用、専用弾でもなく時限信管を作動させる回路もないので、爪で点火ボタンを押した瞬間に跳躍して逃げる。
「貫けっ!」
 両腕と動力炉、外部装甲だけの機体で、腰下は最初から無く、跳躍と姿勢制御以外に推進装置すら無い機体だが、秋山は予備パイロットとして艦に残って無為に過ごすより、自殺機でも出撃できたのを喜んでいた。
「持ってくれよ、雷神!」
 実体弾に弱いディストーションフィールドを破りながら、敵前での爆破作業を続ける。
 対艦魚雷を落とすための小口径の対空兵器が雨のように降り注ぎ、左腕で守った爆薬にも当たる。大口径の砲を当てられればここで爆散するしかない。
 神経を削られる作業なので大声で気合を入れてフィールドを破りきって、退避に失敗した瞬間に玉と砕けるが、そこは気にせず狂った笑顔で点火釦を押した。
「跳躍!」
 幸い爪から離した爆薬は、跳躍空間にまで着いてこず、三次元で爆発した。
 他のジンシリーズより少ない爆薬と装備で戦っている秋山機だが、三郎太機に至っては跳躍能力すら無い機体で艦隊と共に行動している。
 背後からの銃撃で爆発するのを嫌い、コクピット前の腹に巻いている装薬から次の爆薬を出して握りしめると、秋山は次の目標に降下した。

「こちら雷撃隊、第二波攻撃を開始する! 優人部隊は跳躍空間に退避されたし!」
 雷装した無人有人の小型艇が装填と転回を終了して再来した。声は掛けたがそんな長時間退避できる場所ではないので気休めであり、「今からお前たち諸共攻撃するが勘弁してくれ」という挨拶でしか無い。
「「「「了解」」」」

 白鳥九十九は退避ついでに半壊した敵艦内で休養して、美味い果汁を飲み、軽い食事をした後、思い立って席を立ち、ハッチを開けて機外に出た。
「よくここまで戦ってくれた、感謝する」
 満身創痍の鉄神は既に両手足がなく、創意工夫してみたが、機体の障壁を押し当てて点火後の爆薬を敵断層内に残して去るのは困難で、一度やっただけで機体が全損してしまった。
「父上、母上、これまでありがとうございました。最後の一発は自分のために使います」
 航法がしっかりしていた九十九は、正確に木星の方向を向いて敬礼した。
「雪菜、達者でな」
 別れ際、自分よりも明人にしがみついて「アタシの皇子様~~、デヘ、デヘヘ」と懐いていたので、明人さえ生きて帰るなら、自分は死んでも構わないと悟った。
 最後に残った爆薬の点火時間を最大遅延に設定して点火、コクピットに戻って瞑想し、先程仕留め損なった敵旗艦を認識後跳躍した。
 推進装置まで破壊した旗艦は、航行不能にはなっていたが、居住区、戦闘区画は別構造になっていて、後ろ半分が吹き飛んだだけで艦橋は生きていた。
 仕留めるなら敵艦隊の幕僚全てだと考え、鉄神は障壁で跳躍を防げられていない艦橋内に出現した。

「うわああああっ!」
「退避っ! 艦橋を分離っ!」
 その士官は船を守るためにブリッジを切り離したのか、自分が逃げるために敵機が目の前にいる所から離脱しようとしたのか、脱出用の艦橋を切り離した。
「逃げ惑え、地球人、我らの祖先がそうさせられたように」
 熱線を斉射して幕僚を焼き払ってやろうとしたが、ゲキガンストーム用のブラスターも破損していて発射できなかった。
 そして幕僚がいたと思われる豪華なテーブルは、誰一人として残っていなかった。
「くそっ、仕留め損なったか、卑怯者め」
 木連人の思考回路で、艦長が船を捨てたりするはずが無く、幕僚が旗艦を捨てるなど有り得ないと思ったのが間違いで、フクベ提督以下全員が、最初の爆発で真っ先に病院船に逃げ出していた。
 鉄神は最需要鹵獲禁止兵器である、脱出は許されない。もう別の場所に跳躍する動力も時間もなかったので、九十九は満足して目を閉じた。
「女神様万歳、木連に勝利を」
 最後の爆薬が着火し、旗艦の艦橋は跡形もなく吹き飛んだ。

「くそおっ、俺としたことが、手足を全部失うとはっ、これでは歪曲断層で敵の断層を破れんっ」
 魔神の手足を使い切ってしまった元一郎。敵艦の中に退避して装填作業をしようとしたが、最後の足も跳躍の際に千切れて失ってしまい、装填できる場所がない。
 照明も消えた敵艦内で、クレーンなどを使って頭部か肘、膝上に取り付けようかと思ったが、動力がなく動作しなかった。
「最早これまで、肉弾攻撃を行って女神様の御恩に報いるのみ」
 魔神に背負わせている装薬に取り付き、時限信管の発火時間を調節し、敵艦に飛び込む準備をしている間に、鉄神の残骸を背負った電神が跳躍して現れた。
「月臣、弾薬をくれ。俺は弾を使い切った。お前は手足がない、いいだろう?」
 電神は特別製と聞いてはいたが、それでも手足が全て揃い、装填された弾薬と予備弾を使い切って尚、無傷に近い僚機を見て嫉妬した。
 口さがない噂では、この男は皇帝が産んだ皇子で、姫様とは異母兄弟の身でありながら愛されて結ばれたとも聞いた。
 九十九の妹とも出撃前に一夜の妻として結ばれ、多数の同級生まで孕ませた最低の男だと聞かされ、その全てに嫉妬した。
「流石皇子専用機、無傷とは恐れ入ったな。白鳥はどうした? まだ生きているのか?」
「ああ、こいつもさっき旗艦で自爆して死に損なった所だ。弾薬をくすねてやろうと思ったのに、点火済みだったから九十九だけ外して逃げてきた」
 隊長である九十九も、弾薬を使い果たすまで敵を沈めて、旗艦まで破壊したと聞かされて胸が熱くなる元一郎。
 しかし影山と名乗る皇子は、さらにその上を行って爆発までの瞬間に九十九と鉄神の残骸を救い出したと言った。
「俺の弾薬はやれん、これから死出の旅立ちをする所だ、邪魔をしないでくれ、お前たちは帰投しろ」
 戦友の立派な戦果を聞いて、自分も大輪の花を咲かせて散ろうと思ったが、こう言われてしまった。
「もう九十九は跳躍できない、自爆して死んだつもりだろうから、今頃三途の川でも渡ってる頃だろう。誰かが背負って帰らないと見殺しだが、それはお前にもできる、残った弾薬は俺が有効に使わせてもらう、どうだ?」
「ぐっ」
 無傷に近い電神なら、まだ数隻を沈められる。自分が自爆した所で中型艦一隻を道連れにするのが限度。誰が考えても九十九を帰投させる役は自分しかいなかった。
「草壁隊長じゃないが「ジンはお前たちの命よりも遥かに高価である、お前が死んでも必ず機体だけでも帰投させろ」って話だ」
「良かろう、貴様の言う通りだ。白鳥は俺が連れて帰る、弾薬もやろう。だが死ぬなよっ、雪菜も姫様も、貴様の帰りを待っている」
「ああ、泳いででも帰るつもりだ。まあ、あっちに帰っても殺されそうだがな、ははっ」
「はっはっはっ!」
 案外話せる快男児なのを知り、高笑いする元一郎。明人の死に場所は木連で、腹でも切って「責任」を取る羽目になりそうな男だが、自分でやったのではなく「一服盛られて縛り上げられてから女達に輪わされた」と言ったのも、案外嘘では無いと思えた。
「さらばだ、その腕で鉄神と魔神を連結させてくれ、弾薬は好きに使うと良い」
「ああ、母艦で会おう。予備の腕は秋山と三郎太にやったが、足ぐらい残ってるだろう、再装填して一休みしてから出直して来てくれ」
「分かった、秋山と三郎太も頼む」
 既に死んでいると思われる戦友も、機体だけでも回収するか、骨でも拾ってくるように頼む。
 母艦も火星を一周して戻ってくるとは思えないが、奇跡的に生き残った艦に拾われるか、本艦隊が到着して、その時まで生きていれば拾ってもらえる。
 もし地級艦隊が勝利すれば、魔神、鉄神の鹵獲は許されておらず、自分達の肉体まで鹵獲禁止兵器なので、残った動力で自爆しなければならない。元一郎も帰路は長い旅路になると思った。
 
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