FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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愛しているから
シリルside
時刻はまもなく日の出だろうかと言う頃、俺たちはリオンさんたちの待つマーガレットへと戻ってきていた。
「モンスターは全部引き返したようだな」
「助かったぞ」
「おおーん」
「よかったぁ」
「ま・・・当然だね」
モンスターの襲来によって多少街に被害が出ているものの、彼らの防衛によってそれは最小限に食い止められている。住民の皆さんにもケガはないようだし、本当によかったな。
「暴れ足りねぇ」
「十分暴れたよ、ナツ」
意識を取り戻したナツさんは不満そうにそう言う。モンスターの群れに飛び込んでさらにはブルーノートまで倒したんだもん、十分暴れたと思うけどね。
「暴れ足りねぇからレオン!!俺と勝負しろ!!」
「最初はグーでいい?」
「じゃんけんじゃねぇ!!」
殴られたことと引き摺られたことを根に持っているのか、彼を敵対視しているナツさんだが取りつく島もない。ナツさんが1人騒いでいると、ルーシィさんが辺りを見回しながらある疑問を投げる。
「ウェンディとシェリアは?」
一緒に来ていたはずのウェンディとシェリアの様子が見えない。ついでに言うとシャルルとセシリーの姿も見えないが、おおよそ何をしているかは簡単にわかる。
「あと3年もすれば僕の―――」
あらぬことを口走ったロキさんを睨み付ける。それに彼は気が付くと、歩み寄ってきて顎を持ち顔を上げさせられる。
「大丈夫だよシリル、君のことも忘れてないから」
「いや、ホントに結構です」
女たらしの気がある彼は相手が誰であっても気にしない・・・って!!俺は女じゃねぇよ!!
「自分に突っ込むなよ」
レオンの冷静な突っ込みで正気を取り戻す。もしかして今の口に出てたかな?だとしたらすごく恥ずかしい。
「2人で話があるってさ」
ユウカさんからそう言われ全員が納得した。彼女たちの別れの挨拶・・・それを邪魔する野暮なものは誰もいない。
「俺ら1回家に戻ってもいい?」
「あぁ。準備しなきゃいけないだろうしな」
リオンさんから帰宅の許可が出るとすぐさま俺の手を取り走り出すレオン。俺たちは人影のないところまで走ってくると、家までの道のりを歩き始める。
「そう言えば・・・」
「どうした?シリル」
その道中俺はあることに気が付いた。どうせだったらここで確認しておくべきだろうと、彼の顔を見る。
「レオン、ナツさんと何話してたの?」
モンスターの群れに飛び降りていった彼は、街から走ってきたナツさんと何か会話をしたように思った。それが気になって問い掛けると、彼は右手で目を隠す。
「ふつつかな娘たちですが、よろしくお願いします、と」
「頭かち割ってやろうか?」
本気なのか冗談なのかわからないボケに拳を固め息を吹き掛ける。それに気付いたレオンはすぐさま距離を取り宥めてくる。
「冗談だよ、半分は」
「どの辺が本気なんだよ!?」
「ふつつかな娘たちですが、のところ」
「お前は俺らのお父さんか」
なんでお前に父親面されなければならないのかと怒り狂っていると、彼はなおも距離を置いたまま、真面目な顔で語り出した。
「『まだまだ2人とは遊び足りませんが、この1年は今までで1番早く感じました。これから妖精の尻尾たちを集める上で2人は大事な仲間だろうから、何がなんでも連れ帰ってください。でも、もし2人があんたたちに嫌気が差したと思ったら蛇姫の鱗全員で奪い返しに行くのでそのつもりで』ってね」
急に面と向かってそんなことを言われるとどこか恥ずかしくなり赤くなる。それに気が付いていないのか、彼はこちらに一瞥もくれることなく話を続ける。
「俺はこの1年間すげぇ楽しかった。シリルもウェンディもずっと一緒で、毎日こんなに幸せだったのは初めてかもしれない」
今まで辛い思いや苦労をしてきたからこそ、この時間が楽しく思えたのかもしれない。そう思っていたが、彼は「でも」と言葉を続ける。
「でも、何か違うとも感じた」
「違うって・・・何がよ」
「俺とお前が同じギルドにいること」
前に向かっていた足を思わず止めてしまった。彼の言葉の意味がわからず呆然としていると、彼も立ち止まり小さく笑う。
「お前といるのは楽しかったよ。それは間違いなく俺の本音。でも、俺もシェリアも感じてた。ここにいるお前たちはお前たちであってお前たちじゃない。強いて言うなら、俺たちが知ってるお前たちじゃないんだ」
頭もよくない癖に難しいことを言おうとして自分も何がなんだかわからず頭をかきむしる。彼はしばらく悩んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「俺たちが好きなのは、妖精の尻尾にいるお前たちなんだよ。お前ら的には俺たちといるときも“素”なんだろうけど、どこかギコチなく感じててさ」
そんな風に思っているなんて全然気が付かなかった。俺は妖精の尻尾も蛇姫の鱗《ラミアスケイル》も同じように楽しい。そう思ってたけど、周りから見ればそれは偽りの楽しさでしかないように思われていたらしい。
「それに、あの約束を果たすのに、同じギルドにいると不便だろ?」
ニヤッとイヤらしい笑みを浮かべた彼に思わずムカッと来てしまった。俺とレオン、いずれ力が付いた時に全力でやりあおうと誓ったことは決して忘れていない。
「俺がいないからってサボるなよ、レオン」
「精々ナツさんにお守りでもしてもらうんだな」
そう言って握手を交わす。そして俺はレオンたちの家から自分の荷物を持ってナツさんたちの元へと駆け出したのだった。
第三者side
「ダメだったなー」
「え?何が?」
街の中心部から離れた、草木が生い茂るその場所でシェリアは残念そうに体育座りしている。
「ウェンディの前であたし1人でも大丈夫って見せたかったんだ」
「・・・」
シェリアはウェンディとシリルがギルドに残ると聞いた時、何とも言えないような表情をしていた。そして彼女から、いとこのシェリーがギルドを出ていって1人になってしまうことを心配していると知り、余計悲しくなった。
そんな時に今回の騒動が起き、自分に見せ場が来たと躍起になったのだが・・・
「でも、ナツにめちゃくちゃにされちゃった」
「ナツさんだからね」
2人して顔を見合わせ笑い合う。その笑い声が途絶えると、シェリアは寂しい気持ちを抑えながら口を開いた。
「ウェンディたちはナツと一緒にいなきゃダメだよ」
「え?」
「“愛”してるでしょ」
「えぇっ!?」
考えもしなかったシェリアの爆弾発言に顔を赤らめあたふたするウェンディ。
「そんな・・・私は・・・」
首をブンブン振って否定してから、1つ間を置いて、心を落ち着かせて話し始める。
「私にはシリルがいるもん!!ナツさんは・・・憧れとか・・・お兄ちゃんみたいな・・・」
恋人であるシリルが1番なのは間違いないが、ナツにもどこか惹かれるものを感じている彼女は、自分の中のその気持ちをよく考え、彼女に話してみた。
「それも“愛”だよ」
優しげな笑みでそう答える友人にキョトンとする。シェリアは昇ってきた朝日を見ながら、自分の考えを述べていく。
「行かなきゃ後悔するよ。ナツ言ってた、『妖精の尻尾は潰れない』。ウェンディとシリルを“愛”してるから、妖精の尻尾を“愛”してるからここまで来たんだよ」
帰ってきて早々にギルドの解散を知った彼は、誰よりも早く行動に出た。みんなを集めてもう一度、笑って騒いでケンカして、最高の妖精の尻尾を復活させたいとここまでやって来たのだ。
「私・・・」
ウェンディもそのことには気が付いている。それでも彼女は自分がどうするべきなのか迷っていた。
「素直になって、ウェンディ」
顔を俯かせる友の手を取り体を寄せるシェリア。
「ギルドが違ってもあたしたちはずっと友達」
「シェリア」
お互いの手を握り合わせ体を預け合う。2人は目を閉じると、相手の体温が伝わってくるかのようだった。
「友達だよ」
「うん」
微笑んでいるシェリアと涙を浮かばせながら彼女の指に自身の指を絡ませるウェンディ。その様子を木の影から見ていたシャルルとセシリーは、ただ静かに2人のことを見守っていた。
それから時間は過ぎ、辺りが明るくなった頃、シリルたちは蛇姫の鱗の前でお別れをしようとしていた。
「長い間お世話になりました」
「色々とご迷惑をおかけしました」
「本当だよ」
「元気でな、シリル、ウェンディ」
頭を下げているウェンディとシリルに対し、レオンがニヤニヤしながら返答し、リオンが2人に兄のように声をかける。
「私も一応礼くらいは言っとくわ」
「元気でね、ラウル~」
「また遊びに来てね、シャルル、セシリー」
相変わらずのツンデレキャラを最後まで貫き通すシャルルと固いハグを交わして別れを惜しみ合っているセシリーとラウル。
「本当に・・・なんて言ったらいいのか・・・私・・・自分勝手で・・・」
「ウェンディ、泣かないの」
そんな中ウェンディはお世話になってきたギルドに別れを告げるのが辛いのか、涙が止まらない。それをシリルが慰めていると、リオンがあることを口走った。
「元からそういう約束でウチに入ったんだろ」
「「・・・」」
「そうだったのか!?」
リオンの言葉に耳を疑うナツ。彼らはかこのギルドに加入する時、妖精の尻尾が復活するまでの間お世話になると言っていた。そのことをレオンやシェリアも覚えており、いつか来るこの日のために覚悟を決めておいた。
「でも・・・」
「ウェンディ~、いつまでも泣かないの~」
「ホントよ・・・もう・・・シャキッとしなさい」
いつまでも泣き止みそうにない彼女にセシリーとシャルルが苦言を呈する。そんな彼女たちを見てルーシィは、ギルドのことを忘れてしまったわけじゃないのだと安堵していた。
「ウェンディは泣き虫だな~」
「だって・・・うぅ・・・」
泣き虫ウェンディをシェリアがからかうが彼女の涙は止まることを知らない。いつまで続くか気になっていたが、シリルがあることを思い出してレオンの方を見る。
「あれ?そういやサクラは?」
彼の弟子であるサクラの姿がどこにも見えない。そう問い掛けると、レオンは人混みの中へと消えていき、何かを持って戻ってきた。
「ほれ、師匠になんか言うことあるだろ?」
「うぅ・・・」
彼が持ってきたのはウェンディ以上の号泣を見せているサクラの姿。彼女を初めて見たナツやルーシィは何が起きているのかといった顔だが、彼女は涙ながらにシリルに話しかける。
「シリル先輩とウェンディ先輩の代わりに天空シスターズ頑張りますぅ!!」
「そこ!?」
シリルの弟子であるにも関わらず付いていく気はサラサラないといったような彼女に唖然とする師匠。号泣するサクラはレオンに背中を擦られながら目をゴシゴシ拭っていた。
「もう1人は俺がやるからさ!!」
「やめとけよ」
「出番か」
「オババもやめとけよ!!」
トビーとオーバが最後の1枠に入ろうとするのを必死に止めるユウカ。するとシェリアはサクラとレオンの腕を掴む。
「これからはこの3人で天空シスターズやろうかな!!」
「任せてくださいぃ!!」
「絶対ぇやだ!!」
巻き込まれたレオンが怒り笑いが起こる。それが落ち着くと、シリルたちはようやくお世話になったマーガレットの街に別れを告げることになった。
「妖精の尻尾の復活頑張れよ」
「おー」
「グレイによろしくな」
「そういえば足取りがわからなくなってるのよね」
「気をつけてなー」
「おおーん」
見送る蛇姫の鱗の一同に背を向ける。
「元気でね、ウェンディ」
「うん!!シェリアも!!」
「シリル先輩のステージ衣装は後で送ります!!」
「いらねぇ!!捨てとけ!!」
手を振って見送る天神に涙ながらに手を振るウェンディ。泣きながらブンブン腕を振るサクラに怒声を上げたシリルは、さらっと手を振っている氷の神にほくそ笑み、ナツたちの後ろを付いていく。
「行っちゃいましたね」
「もう泣いてもいいぞ」
シェリアの頭に手を置いて、ここまで泣かなかった少女に優しく声をかけるリオン。シェリアはそれに涙を溢しそうになるが、必死にこらえる。
「泣かない!!あたしも妖精の尻尾が復活してほしいから」
目を潤ませつつも笑顔を見せるシェリアを見て成長したと実感するリオンは笑顔を見せる。
「これからはレオン先輩を師匠にしますぅ!!」
「うわっ!!くっつくな汚い!!」
一方師匠を失ったサクラがレオンに飛び付くが、彼は鼻水まで流して泣いている彼女にビビって逃げ回る。その様子に落ち込んでいたギルドの雰囲気は一変し、笑い声が巻き起こった。
シリルside
次なる目的地を目指して山道を行く俺たち。そんな中、いまだに涙を流し続ける者がいた。
「いつまで泣いてるのよ、ウェンディ」
「そんなに寂しい?」
すでに街を出てかなりの時間が経つのに、ウェンディは涙が止まる気配がない。
「だって・・・妖精の尻尾なくなっちゃった時・・・ラミアの皆さんにはとてもよくしてもらって・・・
ナツさんたちにも会えたし・・・あーん!!」
どうやら彼女は悲しいのとうれしいので今も泣き止まないらしい。俺?俺はさすがに泣かないよ。男の子だからね。
「まだまだこれからだ!!全員集めるんだからな!!」
「はい!!」
「楽しみです」
まだ旅は始まったばかり。これからギルドの皆さんを全員集めなきゃいけない。どれだけ時間がかかっても、必ず成し遂げないと。
「ねー、次はどこ行くの?」
「そうね」
地図を取り出し現在地を計算するルーシィさん。彼女のそれを俺とウェンディは後ろから覗き込む。
「ここから東に行くと“アメフラシの村”っていうのがあるのね」
「雨・・・ですか?」
「そこ・・・雨が降り止まない村なんだって」
「そのまんまですね」
雨が降っているからアメフラシの村。何の捻りもないけど、それだけで誰がいるか予想できるから恐ろしい。
「よーし!!じゃあそのあめなんちゃらに行くぞ!!」
「「「「「オー!!」」」」」
拳を突き上げアメフラシの村へと向かう俺たち。早くみなさんと会えるように、はりきって行くぞ!!
後書き
いかがだったでしょうか?
これで蛇姫の鱗とは完全にお別れです。
次はジュビアですね、よろしくお願いします。
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