世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
スパイズの最後
スパイズとの戦いは、そう長く続くものではなかった。
スパイズは強い。
その数値と、加えて所持カードの効果を鑑みるに城戸真司は蓮、北岡とともに仕掛けたとしても勝ち目はないだろう。
だが現実は違う。
スパイズ・高円寺健人にはバトルの経験がなかった。
知っているだけで、その中にはなかった。
ただ求めていただけで、それを得ようとすることをしなかった。
この男たちは違う。
自らの欲するモノのために、自らの命すら度外視して戦いの中に飛び込んだのだ。
その先に何が残ろうとも、何も残らずとも
それが悪であるか善であるかを問わず、一人残らず彼らはその願いに殉じた。
ならばその彼らに、戦うことを最後まで遠慮していたこの男が勝てるというのはないだろう。
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「一斉に消えてもらう・・・・!!!」
イラつくスパイズ。
使用したはずのカードが使えない。イレイズベントが効果を為さない。
なぜか。
言ってしまえば簡単なことだが、要はカードの交換である。
過去に一度、龍騎がゾルダ所有のカードをベントしたことがあった。
その効果はどうなったか。
龍騎にゾルダの装備が付加されたか?
答えは否である。
あくまでもゾルダのカードの効果はゾルダに。
龍騎はベント損というわけだ。
だが、今回はその機能がこちらに有利に働いた結果となる。
カードをベントしてそのままスパイズに突っ込んでいけば、当然イレイズベントの目標物は目の前のライダーだ。
だが、その視界の外でナイトかゾルダが龍騎のカードをベントすれば、無事に龍騎は武装を手に入れ攻撃が行える。
本当に、本当に単純なことなのだが「戦闘」に参加したことのないスパイズがそれに気付けるかといえば容易ではないだろう。
交戦内での一瞬の交錯。
ただえさえ相手の顔は仮面で隠れ、その表情を読み取ることは容易でないのだから、ライダー同士の戦いは表面上に見えるほど簡単なものではないことがよくわかるだろう。
だが、そこでスパイズは思考を捨てた。
スパイズにはわからない。
ならば悩むだけ無駄なこと。
なぜそうなるのかはもはや問題ではない。
スペック、スキルはこちらの方が高いのはすでに証明済み。
力で押せば、倒せることはすでに分かっている。
だからやることはただ一つ。
そも、戦闘衝動に駆られたこの男に、それ以上の思考はもはや――――――――
《ERASE VENT》
「来るぞ!!!」
「身構えたってな、もう遅いんだよ!!!」
イレイズベント 発動。
消え去っていく周囲一切の廃材、工具、鋼材。
更にはプレハブ小屋や、縁石などの一切がその場から消失した。
残るのはわずかな雑草、そして四人のみ。
そしてその残った命数個を手繰り、惨殺するのがこのカード。
彼のファイナルベントが発動される―――――
《FINAL VENT》
「今だッ!!」
《SAVIVE》
―――――と、同時に龍騎がサバイブへと強化変身。
間髪入れることなく
《FINAL VENT》
が、発動する。
相手に隙を与えない。
どの戦いにおいても、それは基本中の基本である。
だが、ライダーの戦いにおいてそれはさらに重要な意味を持つ。
ライダーにもよるが、彼ら(我々が一般的に平成ライダーと呼ぶ者)は基本的にはツールを使って技の発動を行う。
その発動の時間や動作に差はあっても、多少なりともある。
その時間分を、認識しているかどうかはともかくとして、彼らは間合いや隙を重視する。
だから、今回の龍騎もそうだった。
カード発動直後。それも、ファイナルベントだ。
通常そこから、新たなカードは取りださない。
ファイナルベントの発動に、全身全霊を費やすからだ。
だからこの一瞬にかけた。
とはいえ、元々考えていたわけではない。
いまだと叫んだのも、カードを速攻で発動させたのも、城戸自身の即時判断だ。
彼自身、元々考えて戦う男ではない。
その場その時の、自らの思いに従って、身体が動くままに突っ走る。
だから、今度も―――――!!!!
「ハハッ!!来るかよ龍騎!!」
「おぉォォオオオオオオ!!!!」
デッドパーティVSドラゴンファイヤーストーム
迫りくる糸の数は膨大。
しかも覆いかぶさるような軌道で来るものもある。
対して、龍騎の武器は炎。
相性は抜群のようであるが、問題は数の差だ。
最初の内は迫る炎を焼き払うモノの、次第に苦しくなってくる。
しかも、その一端でも引っ付けばそのままノコギリ切断でスッパリだ。
でも、それでも
(俺は――――――!!!)
「前に出ることしか、知らない!!!!」
突っ込む龍騎。
対して、スパイズの脳内には龍騎を捕まえるパターンが30はある。
「どれをどうかわしても、先にあるのは詰みだぞ龍騎!!!」
そう、やはりスパイズの勝利は揺るがないのだ。
スペック上、数値上では、間違いのない事実。
だが最初にも言ったが
「まったく、これだから素人は」
「フン。未経験者とバカだからな」
それだけで勝てるなら
《Shoot Vent》
《Sword Vent》
ライダーバトルは、もっと簡単に勝負がついていた。
「なに!?」
「オレ達を忘れちゃ困るっての!!」
龍騎に迫る糸を、ゾルダの砲弾銃弾が弾いていく。
それはただ弾くだけ程度の抵抗しか生まないが、龍騎のサポートには十分すぎる。
そして、ナイトもダークウィングを背に宙を舞い、同じく迫る糸を切り刻んでいった。
龍騎は何も考えない。
ただただ前に進んでいくだけだ。
その紅蓮の炎で相手を包み、その烈火の体躯で踏みつぶすまで――――――!!!!
スパイズの敗因はただ、戦闘経験の未熟さだった。
対多数戦闘を考慮し損ねていたのだ。
無論、考えてはいた。
だから、全方位を範囲にできるファイナルベントにしたのだ。
だが、悲しいかなそれはあくまでも机上の空論。
脳みその中だけの想定が世界のすべてではない。
それを容易に飛び越えるだけの力が現実にはある。
それは、全く持って予測不能にして、現実でしか役に立たない。
時に最も、現実で力を発揮するエネルギー。人間の行動原理。その根源。
スパイズもまた、確かにその本能、想いに駆られた。
だがつい数時間前、その流れに身を任せ、投じたばかりの男と彼らを比べるにはやはり―――――
「ハハハハハはァ!!!」
「うぉりゃぁあああああ!!」
ドッ、ォンッッ――――――
上がる爆炎。
昇る黒煙。
デッドスパイダーの身体が焼かれて崩れ、甲高い断末魔の叫びと共に紅蓮に消えた。
そしてその後に残った光――――おそらくはこいつの喰らった他の命も含まれるのだろう、複数あるそれらを、ドラグランザー、ダークウィング、マグナギガの三体が喰らっていった。
戦いは終わった。
仮面ライダースパイズ撃破。
高円寺は――――――――――――
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「ガはっ・・・・ゴホッ!!ゴホゴホッ!!!」
一体、どこまで吹き飛んだのか。
龍騎のファイナルベントを喰らって、あの爆炎の中ボロボロになっても生き延びた高円寺は、海の中に落ちてそこから下水道に入っていく巨大な横穴に這い上がっていた。
しばらく咳が止まらず、四つん這いになっていろいろなものを吐き出しながら何とか身体全部をコンクリートの上に引き上げる高円寺。
だが、同時に彼の中には苦しさと同等の喜びがあった。
確かに自分は負けた。
だが彼にとって勝ち負けはどうでもいい。
「結果的に、ミラーワールドが活性化すればいい・・・・」
そして自分の中のもう一人、好戦的なミラーワールドの自分も、これで幾分か満足しただろう。そんな気がする。
これでまた、自分の研究を推し進められる。
ライダーデッキのデータはあるから、また作ればいい。
まあ、またディスパイダーを探すという手間はかかるが。
(でも別にあのモンスターじゃなきゃダメってわけじゃないんだよな・・・・いや、でもあそこまで追求したんだし・・・・)
と、そんなことを考えながら、腰を下ろして一呼吸取る。
ズボンと海藻とが当たってべちゃりと言う嫌な音と感触がするが、まあ今は目を瞑るとしよう。
彼の顔には笑顔が浮かんでいた。
言っておくが、彼は決して悪人ではない。
戦闘の方向に若干暴走の気はあった者の、戦いだけでいい、というほどの強いものでもなかったからだ。
まあ、その域に行くより早く龍騎に倒された、というのが正しいのかもしれないが。
結果的に、彼の目的である「研究」が進めばいい。
というわけで、ライダーバトルに負けようなんだろがどーでもいいのである。
「さて、帰るか―――――」
そう言って、とりあえず鏡面から向こうの世界に入るため、何かガラス片でもないかと見回す。
だがここは海に面した排水溝。錆びた鉄ならいくらでもあるが、姿を映すような鏡面はない。
泳いで出ようにも、そんな体力はない。溺れてしまう。
「しょうがない・・・・奥に進む、か」
先は暗いが、下水口の中を進んでどこかから地上に出るしかないようだ。
そうして少し踏み込むと、一気に中は暗くなっていく。
もともと日も落ちかけていたので、奥ほど真っ暗だ。
だがミラーワールドを闊歩してきた彼だ。今更暗闇にビビるわけもない。
小さいライトなら持ってるから、これくらい暗いのは大丈夫。
だが、今回に限ってはそのライトがまずかった。
「点くかな・・・・っと、さすが防水性」
パチっ、と懐中電灯をつける高円寺。
さて、暗闇でライトを付けるとどうなるか。
無論、明るくなって周囲が見れる。
それは大きな利点だ。だが、もしそこに兇暴な、それこそ命を吸い上げるかのようなモンスターがいたら?
もしそんなところでライトをつければ、それは自分の居場所を知らせることにつながることは当たり前だ。
「グアッ!?」
高円寺の首元に、謎の管が突き刺さる。
ガラス細工のような材質の、何か羽のようなものが後部首元にドスッと突き立てられたのだ。
そして、何かが吸い上げられる感覚。
その感覚に、高円寺は覚えがあった。
過去、ディスパイダーが命のエネルギーを喰らった時に自分にも流れるエネルギー。
そんな感じのものが、今度は自分から吸い上げられている―――!?
「がっ、なんっ、だこれッッ!?」
ブンブンと腕を振ってそれを落とそうとしたり、掴んで抜こうとするが一向に取れない。
むしろ、どんどん力が入らなくなってこのままでは自分は死んでしまう。
そして
「ぐ・・・う?ぉあっ!!」
ドサッ!!と、高円寺が何かに押されたかのようにその場に転んだ。
なんだと体を起こすと同時に、首元の痛さがなくなっていることに気付いた。
そしてそのまま視線の先に、もう一人の自分がいるのを見た。
ただ一つ違うとすれば、そいつは首元に羽根のようなそれを突き立てられているということだ。
「お・・・おい?」
「今の俺たちにこいつから逃れる術はなかった・・・・二人とも死ぬくらいなら、てめえは生きろ」
「な・・・!?」
「あくまで俺は鏡面側だ。どっちが現実か本物かなんつーのは、おれにとっちゃあどーでもいいんだ」
「ま、待ってくれよ!!お前がいないと、俺の研究が・・・」
勝手に自分から離れる鏡面の自分。
その自分に、高円寺は手を伸ばす。お前がいないと、俺の夢はかなわない。
お前だってそのはずだろう!?なのになぜ!!
「あー、それは悪かった。んま、俺にとっては生きてる、って感じを実感して俺なりにエンジョイできればそれでよかったからさ」
「は・・・はぁ?」
「いやすまん!どーもこっち世界の住人ってのは身勝手らしくてな!!」
そう笑いながら言う鏡面の自分。
だがその身体が徐々に透き通っていき、最後には砕けてしまいそうなほどに希薄になっていく。
その自分に、高円寺は何も言うことができないまま、眺めることしかできなかった。
「おい俺。気を付けろよ?今回はいろいろと事が起こりすぎている。十分に気を付けとけ。さっさと「EARTH」にでも行けば、ミラーワールドの中から研究の一式持ってきてくれるかもだし」
「え、えと・・・・ありがとう」
「俺もだ。楽しかったぜ、相棒」
パキィ・・・・・
ぎこちない挨拶。
最後にそれだけをして、鏡面世界の高円寺は消えた。
そして高円寺はライトを手にしてその闇の中を走る。
あれが何だかわからないが、あのままあそこにいたら次は自分だということを悟ったのだろう。
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ようやく足りたか・・・・・
最後のエネルギーは素晴らしい命のエネルギーだったな。
ようやく俺もこの姿に戻れたか。
とはいえまだまだ戻れただけだ。
戦うにはまだほど遠い。
鎧を取りに行くのにも、あの城竜の中じゃなぁ・・・・
ま、いいさ。
俺はレジェンドルガ。時間はそれこそ今が神話になるくらいまで腐るほどある。
待っていろ。
いずれ、世界は俺のものに。
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「なにこれ?」
世界は輝きに満ちている。
希望にあふれ、可能性がひしめいている。
ああ、その通りだ。
確かにそんな景色を、僕はこの旅で知った。
でも
ぐちゃぐちゃの死体。
子を殺してでも生きる親。
生きるためと業務的に引き金を引く子供。その対岸で死ぬのは、同じような子供。
少し考えればわかる筈だ。
この世界に希望があり、可能性があるのなら、同じように悪があり、絶望があり、袋小路はどこにでもある。
こんなのが世界?
これが人間か。
なんだ、世界は美しいなんて言ったって、こんな現実のほうがよっぽど多い。
生まれたはずの少年は、世界のそんなところばかりを見てしまった。
そこからは、自ら好んでその場を回った。
結果、彼は
「父さん・・・・あなたと人間の賭けは・・・・おそらくあなたの勝ちですよ。いえ」
コォォォオオオオ―――――
「僕――――俺が、勝たせるよ」
少年の腰に、ベルトが現れる。
神の子が、悪に染まる。
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「これで!!財団も俺のことを見てくれるはず!!ガイアメモリ産業は、俺が復活させて見せる!!」
ミュージアムの研究室のあった島。
その地面から這い出てきた男が、ドライバーを手にして立ち上がる。
「よっしゃぁ!!データ小僧は逃げちまったらしいが、俺がいればミュージアムは再びガイアメモリ超作り放題!!待っててください、園崎館長!!」
男の持つベルトは、Wのそれと酷似したもの。
それと一緒に握っているのは一本のガイアメモリ。
どちらも「M」
その意味は彼のみぞ知る。
「よっしゃマキシマーム!!!」
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現れたライダーはすでに五人。
トーチ、絶鬼、マンティス、スクエア、そしてスパイズ。
次は三人。
対応するライダーは―――――――
to be continued
仮面ライダースパイズ
契約モンスターはディスパイダー
バイザーは背面部にある、鎧も備えた「ディスバイザー」
ファイナルベントはディスパイダーが糸で拘束した敵を放り投げ地上に叩き付けるのに向かってライダーキックを放つ「メテオカウンター」
変身者は高円寺健人
元々は神崎の研究室の隣の研究室いた科学者。実験に巻き込まれる形で消え、死亡されたかと思われていたが、実は生存していた。
ミラーワールド内で自身の鏡像と出会い融合を果たし、その空間内で生きながらえてきていた。
ライダーバトルそのものを消し去ったのは蓮の願いだったが、その瞬間ミラーワールドにいた高円寺は記憶を持ち越したままとなる(ライダーバトルは消えたものの、ミラーワールドという存在は消えていなあったため)
ミラーワールド内でつづけた研究内容は「命という存在証明」
だが最近はミラーワールドが沈静化してきたため、研究が続けられなくつつある。
ライダーバトルは観測しており、また神崎の資料を基に自分でライダーデッキを作成していた。
神崎に恨みはなく、哀れんではいるが同情はしていない。
この世界のミラーワールドは世界そのものが「奴」襲撃の際に龍騎、ゾルダ復活のために再起動させたためのもの。
よって契約モンスター(ドラグレッダー等)は飢えることもなく、契約は続けられる。
研究を続けていくために高円寺は、残っているライダーにバトルを仕掛ける。
そうすればミラーワールドも活性化し、モンスターも大量発生すると考えているからだ。
だが、研究一筋だった彼が戦いに手を出したために融合した鏡像が暴走し、次第に目的と手段が逆転。
「この研究は人類のためになるもの」
「誰も解き明かすことのできなかった神秘に、届く位置に俺はいる」
「戦えライダー!!貴様ら同士で戦わぬというのなら、俺が貴様らと戦うまでだ!!」
「研究のために戦う」だったのが「戦うために研究する」となり、戦うためだけに動き出してしまう。
なんのために戦うかも忘れた科学者は、野獣と化して彼らに襲いかかる。
「戦え・・・戦え・・・・・戦うために、俺と戦え!!」
所有カード
アドベント・・・ディスパイダー召喚
ファイナルベント・・・必殺技「メテオカウンター」発動
シュートベント・・・ディスパイダーの腹部を模したディススナイパーを装備。糸を打ち出す。
ガードベント・・・蜘蛛の巣を模したディスシールドを装備。
ソードベント・・・ディスパイダーの鋏を模した双剣ディスソードを装備
サバイブ「漆黒」
ライダーバトルを観察、解析し、自身に最も合うように新たに作り出したサバイブカード
追加カード
イレイズベント・・・カード効果にとどまらず、非生物ならばなんでも消滅させる。
ファイナルベント「デッドパーティ」・・・ひっくり返ったデッドスパイダーの上に展開される処刑台(円ノコ)で敵を切り裂く。
アドベント・・・デッドスパイダー召喚
後書き
まあ彼はほんと、悪人「では」ないです。
ちょっとマッド入っちゃってますが
とりあえずこの辺で
津上
「次回。ど、どうしたんですか!!」
闇の力
「私の子が・・・・グレた・・・・・!!」
ギャグっぽいでしょ?でも事実!!
ではまた次回
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