| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第七章 C.D.の計略
  鏡面の自分


高円寺健人
清明院大学香取研究室に所属する科学者だ。

彼の研究テーマは「生命」というものを、一つのエネルギーとして運用可能にすること。


だがそんな研究に資金を出し続けるほど、大学も金があるわけではない。
現在の世界はともかくとして、以前の世界ではそのような研究テーマはただの「おとぎ話」としか認識されなかった。

事実、研究室の責任者香取教授も、そして高円寺自身を含めた数人の研究員も、この研究にあきらめがつき始めていた。


あの時、あれに巻き込まれる、までは。




数年前

------------------------------------------------------------


あの時、高円寺健人は大学本館と研究棟とを何往復もしていた。



もうやめるか、という雰囲気の中、緩慢と進めていた研究室内の整理。
だがいくら緩慢につづけようとも、こちらの部屋に持ち込んだ資料の数は膨大だ。いずれ大きな塊が出てくる。

その日、高円寺はその塊を運んで研究棟と大学本館資料庫を往復していたのである。


「重・・・・」

ずり落ちそうになる紙の資料を、腰を揺すって抱えなおす。
腕が痺れてきたが、これで最後かと思うとまあいいか、とも思える。


そうして往復していく度に通過する、江島研究室の中をまた覗き込んだ。
とはいっても、近づいてみているわけではなく、横断する廊下の奥にある部屋のドア窓から中をチラ見するくらいだが。


なかで何の研究をしているのかはわからない。
あそこの研究は教授ではなく神崎という研究員が主導になって動いているらしいが、それ以上のことはうわさでも聞かない。

ただ、覗き込んだ時に壁一面に張られた大鏡だけは奇妙だと思った。


まさか鏡の中の世界とか?


そんな考えが脳裏に浮かび、鼻で笑って首を振る。
自分もあんな研究をしているから、そんなことが浮かんでしまう。

そんなものはない。あれはただの光の反射。
鏡の中の世界などある筈がない。メルヘンやファンタジーじゃないんだから。



だが、それは今となっては否定できる。
鏡の世界は、あったのだ。





最後の資料を運び終え、研究室に還って帰り支度をしようと歩いていたとき。
あの研究室の前を通った瞬間、彼の考えは変わった。

ちょっとした好奇心だった。
どんな研究をしているのかと。
さっきまでは荷物が重かったけど、今なら自然と脚が好奇心に従った。


ドア窓から向こうを覗こうと、扉に手を当てた、瞬間に



「うわっ!?」

その窓から、激しい光が飛び込んできた。
まるで何かのエネルギーでもあるかのようにその光に押されて後ずさる。

がたがたとドアや窓は揺れ、廊下にかかっていたカラスは落ちて割れた。


そしてついにドアも壊れたのか勢いよく開き、それに押されて高円寺は床に落ちた鏡に向かって倒れ込んだ―――――――






そこからは御想像の通り。
彼は、開通したミラーワールドへと足を踏み込んだのだ。

そこで見たのは、凄まじい光景。

おそらくは江島研究室の研究員だろうか。
その二人が、見たこともない異形の怪物に食われていた。

人気(ひとけ)のない世界。反転した文字。
先ほど鼻で笑った世界を目の前に突き付けられ、高円寺は目の前の捕食の光景にも関わらず、口元を引くつかせて皮肉気味に笑ってしまった。



だが、そこで彼は自分の身体の異変に気付く。

身体がだんだんと消え掛かっていっているのだ。
シュワシュワと、まるで炭酸か何かの中にいるかのように、身体が粒子のように消え始めかかっていた。


どうすればいいのか。
簡単に考えれば、入ってきたのは鏡から。ならば鏡に飛び込めばいいのか?

しかし、鏡面世界の研究棟のトイレの鏡に飛び込んでも出られない。
その時の彼は知らなかったことだが、どの鏡でも出入りできるのは契約を終えたライダーのみ。

入ったときはまばゆいエネルギーによって押されたために可能だったのだが、もはや彼に鏡面世界と現実世界を行き来することは不可能だ。




焦りを覚える高円寺。
と、そこに飛び込んできたのはまた別の光景だ。

建物の外にいる、二対のモンスター。
そのモンスターが戦いをはじめ、片方が敗れて爆散した。

するとどうだろうか。
その爆破跡から光の玉が表れて、それをモンスターが食ったではないか。



「まさか・・・あれは・・・・・」

自分が追い求めてきたものが、目の前にある。
ここでなら、自分の研究を飛躍させられる!?


だが、彼はこの世界での生存方法がわからない。
元の世界への戻り方もわからない。

どうしようかと、鏡に映る自分を見る。

自分自身が映っていた。
鏡の中の世界でも、鏡は鏡としてキチンと作用するのだなと、そんなどうでもいいことを考えてしまう。


すると



『なあおい、死にたくないよな?』

「・・・・は?」

その鏡面の自分が、しゃべった。
原理も何もわからない。

だがこれだけのことがあったのだ。
鏡に映った自分が喋るくらいでは特別驚きもしなかった。


「死にたくはない。ここでなら研究ができそうだ。でも、どうすればいいんだ」

『おお、互いの利害は一致したな。俺も死にたくない。お前がそっちにいるってことは、俺がこっちにいるってことだからな』


こいつは何を言っているんだ?
いや、まて・・・・


「そうか。俺がこっちの世界で消えそうってことは、お前はお前でそっちにいると消えんのか」

『ご明察。そこでだ、オレ達が一つになればどちらの世界も自由に行き来できる』

「・・・ってことはつまり?」

『互いに生き延びられる。なに、元々同じ人間だ。問題ないだろ?』


確かにそうだ。
自分は研究がしたい。それは、同じ自分ならあちらもそうだろう。


ならば、答えを出すのに時間はいらない。


「おっけ」



そうして、高円寺健人は一つになった。
鏡面と現実を自由に行き来し、思うがままに研究をしたのだ。

だが、ミラーワールドは危険な世界。
気を抜いてはモンスターに食われるし、何よりライダーバトルに巻き込まれてはかなわない。

よって、彼は自分のライダーデッキを作った。
途中から出てきた強化カードには驚いたが、それも戦いの経過とデータを用いて完成させた。


滅茶苦茶になっていたが、江島研究室には無事な資料もいくつか残っていた。それを参考にもした。だから作れたのだ。



ミラーワールドでのライダーバトルは最高だった。
面白いということではなく、戦いによってミラーワールドは活性化し、モンスターの数も増えた。

それは、彼の研究素体が増えることと同義。
ついには現実世界にまでミラーワールドは浸食し、この研究も完成するか、と思われた。




だが、最終的にそれは叶わなかった。
戦いは終わり、その勝者たる秋山蓮の願いでライダーバトルごとなかったことになった。

ミラーワールドは閉じられ、その中にいた彼は戦いの記憶や能力を失うことなく残された。




そして、数か月後。
ミラーワールドは再び開いた。

激しい戦いがあった。
その戦いの激しさは、またミラーワールドを残すほどの物。

前回のライダーバトル分とを加味すれば、十分に進められる時間は得た。


だが、ミラーワールドの存在だけでは意味がないのだ。
活性化してもらわねばならない。


だから、戦いを挑んだ。
戦いを求めた。


あくまでも、研究のために。
ミラーワールドを活性化させ、自分の研究を推し進めるために。



------------------------------------------------------------



「だのに、あれか・・・・お前はあれをわかっていたのか?」

自問する。
ミラーワールド内の自分の研究室。

そこの椅子に座った高円寺は、静かに自分に語り掛ける。



「この研究は人類のためになるものだ」

そう。
何も俺は、あいつらを倒したいんじゃない。

戦ってもらいたいのだ。
だけどあいつら同士じゃ戦わないから、俺自身を相手にしてもらうしかなかっただけだ。


そうだ。
そう、仕方がない。

この戦いは仕方がない。


だが仕方ないとはいえ



「楽しんじゃいけない・・・・ってことはないよな?」



歪む笑み。
物事は楽しんでやった方がいい。

その方が、進み具合も上がるというモノ。



その時、彼の何かがミラーワールド内の侵入者を感知した。





「仕方がない、ってことで」

ギギ・・・・



重い扉の音がする。
頭の中の耳鳴りとは別に、痛みにも似た重い音が脳内を揺さぶっていた。




------------------------------------------------------------


「おい城戸。大丈夫なのか」

「へーっきだって!観鈴ちゃんにも触ってもらったからな!!」

「おい、その発言やばいだろ」

「ん?」

「そいつに言ってもしょうがないでしょ。バカなんだし」

「お相手のいない北岡さんは口が悪いですねェー?」

「おまっ、それまだ言うかこのこいつ!!!」


ミラーワールド内。
昨晩の戦いから一夜明け、皆に止められながらも飛び出してきた城戸、蓮、そして引っ張り出された北岡の変身した三人のライダーが、スパイズを探してうろついていた。


相手は戦いを求めるライダー。
こうして固まっていれば、必ず相手から現れるはず。


「城戸。お前の言う敵の能力はわかった。だが」

「相手のカード対策。あれで本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だって!北岡も一回やったことあんだろ?」

「でもお前の考えることだからなぁ・・・・」

「おい!それはないんじゃない!?こっちだってなぁ」



「お揃い、で」




「「「―――・・・・!!!」」」


漫才じみた三人の会話が止まる。
声のした方向には、人影が。



周囲に並ぶのは、土管、鉄骨、重機が、整理されて並ぶ工事現場―――の道具が並ぶ地帯。
ブルーシートに覆われていたり、剥き出しだったりするそれらが並べられている。


その陰から現れた、高円寺健人。
その後ろには、従者のように付き従うディスパイダーが。



「出てきやがったな!!」

「戦いに積極的になってくれて感謝する。これで俺の研究も進みそうだよ」

「違う!!俺は、戦いを止めに来たんだ!!」


叫ぶ城戸。昔の彼とは違う。
今の彼の中には、しっかりとした「戦いを止める」という願いがある。



だが、今の彼にはそれは意味をなさないもの。
ただ、ただ、ただただただただただ―――――――――



「戦ってくれるのならば、俺は何でも構わない!!」

無表情で、倦怠感のある目が、大きく開かれて狂気にゆがんだ。
同時に振るわれる腕。それに応えて、ディスパイダーから糸が発射され、ゾルダの射撃がそれを打ち落していく。


無論、それ以上の弾丸が飛び、高円寺のすぐそばを通過していくが彼は意にも介さずにデッキを構えた。


「変身!!」

スライドして挿し込まれるデッキ。
瞬間、ライダーの鏡像が回転しながら彼の身体包み、飛来する弾丸を弾きながら彼に装着されていく。


そして、変身と同時に装備されたシュートベント・ディススナイパーの銃口を向けて、三人を狙って無数の光弾を打ち出していった。




------------------------------------------------------------




「さて・・・・今のところ、いくつかな」

『あー・・・・そっすねぇ。今んとこ四つ、今五つ目ですかね』

「おおよそ三分の一か。先は長いな」

『ッすねぇ・・・まあ旦那は特別焦らんでもいいですよ』

「そのつもりだ。こちらに敗北はない」



ジャラジャラと身体に巻き付いた鎖を鳴らしながら、真っ暗な闇の中を進む男。
会話は終わったのか、電話を切って携帯をしまう。

男は異形だった。
怪人と呼ばれる類の存在。


その闇の中に、外からの物か、光が指す。
そこを通過した男の姿は、足まで隠れた着物を羽織ったもの。

とはいっても、日本的な着物ではなく、何かというとギリシャ神話的な、片方の肩にかけるようなものだ。

紫色の身体から煙が吹き出し、男の姿を厳格そうな老人に変える。
その姿は、老人とは思えないほど力に漲った「何か」がある顔つき。

何かの達人?と思わせるような、厳つい顔つきだ。



彼が外に出ようと光の方向へ向かうと、脇道の通路をズルズルと這う異形がもう一体。
どうやらここは地下水道のようであり、彼らは偶然にも出会ったらしい。


その異形が、頭のような部分を上げ、老人を見る。
すると老人の後頭部あたりに透明な羽のようなものが現れた。


「やめておけ」

だが、老人の言葉に羽根が止まって消える。
異形は目の前の人物の何かを感じ取ったのか、すごすごと闇の中へと再び消えていった。


「・・・・・先の長い話、だな」




老人は再び、人間社会に消えていく。


その時が、やってくるまでは。





------------------------------------------------------------



「グゥッ!?」

唸り声を上げて膝を着くライダー。



龍騎、ナイト、ゾルダVSスパイズ


もはやイレイズベントに出し惜しみはしない。
召喚した武器は消され、攻防共に一方的だ。


だから、これまでそんな声を出していたのは彼ら三人だ。
だが、この一回については



「バカな・・・・何故カード・・・!!」

スパイズのものだった。




イレイズベントは間違いなく発動した。
だというのに、こいつの手には剣が握られ自分を斬りつけた。

なぜだ、なぜだ、なぜだ!!?



「くそ!!何故だ!!!」


斬りつけた龍騎が、剣を握りしめてスパイズににじり寄る。
背のバイザーを使ったガードと、ソードベントで召喚した双剣を手にして龍騎を相手にするスパイズ。

戦いに関して、龍騎というライダーは素人だ。
無論経験は多い。だが、どうしても戦いの練度という点においてはナイトに、センスにおいてはゾルダに劣る。


故に、このスパイズにも。


(いける、勝てる!!このままなら押し切れる!!だがそれは相手もわかっているだから!!)

フォンッ!!

(来たッ!!)


龍騎が一瞬でカードを取り出す。
スパイズを蹴り、それをバイザーに装填して発動させる。

前に


《erase vent》


消す。



だが

「おぉりゃ!!」

ゴゴォ!!

「ぐおっ!?」

龍騎の手には、ストライクベント・ドラグクローが。
噴き出した炎が、スパイズの身体を焼いていく。


「ふっざけんな!!」

《SAVIVE》


怒りに任せ、サバイブ発動。
強化変身したスパイズが、周囲に向かって弾丸を乱射し始めた。

それをガードベントで防御する龍騎たちだが、流石はサバイブ。その弾丸の威力はとてもノーマルの状態では耐えきれずに、五、六発で弾き飛ばされてしまう。


だが、優位に立ってもスパイズの苛立ちは消えない。



なぜ自分のカードの効果がこいつには効かないのだ?
一回使った相手には効かないなどというふざけたことはない。


何故だ・・・・




「あんたの最初のトリックと一緒だよ」

「ま、こんなことバカくらいじゃないと思わないかもだけど」

「ライダーバトルをしたことがないと、これには気づくことができないだろう」



ガラリと瓦礫を押しのけて立ち上がる三人のライダー。


能力、数字で見るに、勝っているのはスパイズ。
数では勝っても、勝てるか怪しい三人。

しかし、机上の数値とは裏腹にこの場の流れは三人にある。




「チッ!!関係ない!!お前らが何故消されたカードを使えるのかは知らないが、俺には勝てない!!」



取り出されるカード。
いくらどう思っていようとも、スパイズが優位なのは変わらない。

だが、それはまた逆に三人も思っている。






いくらスパイズが優勢でも、全く負ける気がしない。






あの戦いの参加者は、自分たちだけではなかったはず。
自分たちとは他のところで戦い、脱落したライダーもいるのだ。


つまり、スパイズは同時進行していたすべての戦いを見ていたわけではない。


13人のライダーバトル。
参加していないこの男には、彼らのトリックを見破れることはほぼないと言える。




「勝てる!!!」

「俺がだよ!!!」



叫ぶ両者。



この戦いは、あっけないほどの一撃で勝負がつく。






to be continued
 
 

 
後書き

次回で龍騎編は終わりになります。


高円寺ミラーワールドの秘密は、鏡面世界の自分との融合によるもの!!

城戸とリュウガの関係みたいですね。
で、改変時にミラーワールドにいたから置いてけぼりにされたから全部知ってるってことです。


ではこの辺で


城戸
「次回。え?わかんない?カードのトリック」

ではまた次回 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧