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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第五十話 空中訓練

 なのはのメイド騒動があったが無事にバイトを終え、いつものように高町家で夕飯を御馳走になり、なのはの夜のトレーニングとなった。

 ユーノに海上に結界を張ってもらって準備は出来ている。
 ちなみに俺はなのはに張ってもらった足場に立っている。

「士郎君が一緒なら何か特別なメニューをするの?」

 なのはが疑問に思うのも無理はない。
 実は俺がなのはのトレーニングに付き合う事はあっても参加する事は稀なのだ。

 元々、俺はなのはの訓練を見る事やアドバイスをする事はあっても模擬戦などはあまりない。

 原因として模擬戦などでも非殺傷設定がない俺とでは魔導師同士とは勝手が違う。
 なにより、なのはとの模擬戦となれば飛行できなければやりずらい。
 それに通常の訓練も飛行訓練と魔法による的への射撃訓練なのだ。
 訓練の場所が空で魔法の実施訓練となると俺が指導できることなどほとんどないので、ユーノに任せている。

「ああ、俺も暇を見つけて練習していたのもあるから今日は模擬戦だ」
「模擬戦……それって士郎君と?」

 なのはがものすごく嫌そうな顔をした。

「そんな嫌そうな顔をしない」
「だけど士郎君に勝てる気がしないもん」
「その気持ちはわからないでもないが」

 模擬戦で弓を使うと加減が難しい事もあり、なのはの飛行なしでの訓練。
 必然的には限られた空間を想定した模擬戦となるので、なのは自身が苦手としている。

「だが今日はなのはの方が有利だぞ。
 今日の模擬戦は空中戦だ」
「え、空中戦って士郎君はあの盾に乗ってするの?」

 ユーノもなのはと同じ事を思ったのか首を傾げている。
 確かにプライウェンでも空は飛べるし、空中の足場としてはいいのだが魔導師との空中戦をするという意味では小回りが利かない。
 それに盾に乗るという事で弓等を使う足場としてならまだしも接近戦という意味では戦いづらい。
 そもそも何らかの方法で盾から落とされたらそれまでだ。

 だが俺の中にはプライウェン以外にも飛べるモノはある。

「プライウェンは接近戦がし難いから今回はなし。
 今回使うのはこれだよ―――投影、開始(トレース・オン)

 履いているブーツに纏う様に靴が生成されそこから黄金の翼が生える。
 飛行宝具、旅人の羽靴(タラリア)

 なのはが用意してくれた足場からゆっくりと浮かび上がる。

「こんなのがあるんだ」
「これも宝具なの?」
「ああ、宝具と言っても必ずしも剣や盾とは限らないんだよ」

 ユーノとなのはが珍しそうにタラリアを見つめる。

 そう、俺が夜に暇を見つけては訓練していたのがタラリアによる飛行訓練。

 魔導師という空を飛ぶ者達を相手にする事を前提として訓練を行っていたのだ。
 もっとも才能のない俺がプライウェンのように乗るのではなく靴に生えた翼によって空を飛ぶのだ。
 簡単な話うまくコントロールできずに地面に墜落しかかった事がというか二度ほど海に墜落し、一度地面にも墜落した事がある。
 それでも無事なのはやはり吸血鬼の身体故である。
 だがさすがに半年もたてばコツを掴み始めるし吸血鬼という高い身体能力もあり、なんとか自由に飛べるようにはなっている。
 もっともこれでどれだけ魔導師と戦えるかが判断がいまいちつかない。

 今回の訓練はなのはの空中戦の訓練の成果と俺の訓練の成果を確かめるものなのだ。

「では今日の訓練の説明を行うぞ。
 まず俺が使うのは全部木製だから安心してくれ。
 レイジングハートも今回は訓練だから自動防御は本当に当たりそうになった時だけで頼む。
 レイジングハートが自動防御を使用した時点でなのはの負けだ。
 なのはは俺を迎撃をすれば勝ち」
「はい」
「All right」
「ユーノは結界の維持を頼む。
 なのはの砲撃系で万が一でも結界を破って街にでもあたったら目も当てられない」
「わかった」

 俺の説明になのは、レイジングハート、ユーノが頷き。

「では、距離を取ろうか」
「うん」
 
 俺となのは同時に距離を取り、20メートルの距離で向かい合う。
 足場を作り、魔力放出を使えば一瞬で間合いを詰めれる距離ではあるが今回はあくまでタラリアを使用した飛行能力の実証も兼ねている。
 そのため魔力放出はするつもりもないし、足場を出す気もない。
 もっとも空中でのタラリア以外の足場といえばプライウェンか大剣を空中に出すぐらいしかないのだが

 ユーノに頷いて見せるとユーノは右手を振り上げて

「レディ、ゴー!!」

 勢いよく振り下ろし、それが戦いの始まりの合図となった。




side out

 ユーノの開始の合図と共に間合いを詰めようと空を翔けながら右手に木刀を投影する士郎。
 対してなのはは距離をとろうと後ろに飛びながら三発のディバインシューターを放つ。

 剣を使う士郎が間合いを詰めようとし、魔法を使うなのはが距離を詰めさせまいとするのは当然の行動であった。
 
 三発の誘導弾を身体をひねりかわす士郎。
 だがなのはが扱えるディバインシューターの数は三発ではなく五発。

 残り二発はというと、なのはの身体の背後に隠れるように精製され、三発の誘導弾をかわした士郎に襲いかかる。

 そこで士郎が取った行動は回避ではなく迎撃。
 減速することなく左手に投影した木の短剣を投擲し一発を撃ち落とし、残る一発もすれ違いざまに右手の木刀で叩き落とす。

 さらに加速をみせるタラリア。

 飛行宝具、旅人の羽靴(タラリア)
 英雄ペルセウスがメドゥーサを退治する際にヘルメスから貸し与えられた道具のひとつで、履く事で空を自由に翔ける事が出来る宝具である。
 そしてその速度は鷲よりも速いという。

 だが今ここにあるのは衛宮士郎が投影した贋作。
 士郎の属性が剣である以上防具でもなく空を飛ぶ魔法の靴を投影すれば能力の低下は避けられない。
 それでも単純な直線での最高飛行速度はなのはとほぼ同等である。

 しかし今は状況が異なる。
 なのは自身も士郎から距離をとろうと後ろに飛んではいるがデバインシューターをコントロールしながらの状態である。
 速度が出るはずがなく、なのはは士郎の間合い入る。
 振り下ろされる木刀。
 だがそれは

「Flash Move」

 空を斬った。
 
 振り下ろされる木刀よりも速くなのはの桃色の羽が強く羽ばたき間合いを取る。
 瞬間的な加速ではタラリアとなのはではなのはに分がある。
 そのことを頭では理解していても、なのはとレイジングハートコンビの瞬間的な加速力に舌を巻く士郎。

 なのはを追うべくタラリアの黄金の翼が羽ばたくが、なのはが最初に放った三発のデバインシューターはまだ生きている。

「ふっ!」

 背後から迫るデバインシューターを振り返りながら木の短剣を投擲し迎撃する。
 だがそれと同時に

「ディバイン―――」
「ちっ!」

 なのはの言葉に一気に間合いを詰める事を考える士郎。
 だが

(間に合わんか)

 タラリアの加速力では、なのはのバスターの方が早いと判断するや否や海に向かって加速する。

「―――バスター!!」

 放たれる砲撃。
 なのはが得意とする砲撃魔法。
 それから逃れるように重力の恩恵を受けながら凄まじい速度で加速、いや海に墜落していく士郎。
  
 本来なら接近戦型相手に下手に砲撃を撃てば撃った直後の隙を突かれる。
 過去のジュエルシード事件の際にも、なのはは砲撃の直後の隙を突かれフェイトに敗北している。

 だが士郎にはそこまでの空戦能力はない。
 いや、正しくはプライウェンや魔力放出を使えば可能だろうがタラリアだけでは出来ない。
 そして士郎がいくら加速しようとディバインバスターの弾速を超える事は出来ない。
 出来るのはあくまで距離を稼ぐ事が精一杯だ。
 士郎もそれは理解している。
 
 士郎の背後に迫る砲撃。
 それをトップスピードの状態のまま

「ぐっ!」

 身体が軋むような音を耳にしながら無理やり身体をねじり方向転換をする士郎。
 その士郎を掠めるように海に着弾するなのはの砲撃。

 なのはも士郎がかわすと同時に追撃しようとするが士郎の右手に木刀がないのを見るや否や周囲に視線を奔らせる。
 放物線を描き回転しながら迫る木刀。
 それをかわそうとするなのはだが嫌な予感を感じ、背後を振り返ると背後からも迫る木刀。

「レイジングハート!」
「Round Shield」

 両手に描かれる魔法陣が木刀を防ぐ。
 その隙に最高速度を維持したままなのはに迫る士郎。

 勿論なのはも近寄らせまいと迎撃態勢をとろうとするも、それをさせないかのごとく放たれる三本の木製の短剣。
 三本の短剣を回避せずシールドを張り防御しながら、ディバインシューターを精製しようとするなのは。

 だがそれこそ士郎の狙い。

「きゃっ!」

 シールドに当たった瞬間木製の短剣は砕け散るがその衝撃波はなのはの体勢と集中を乱す。
 先の短剣は鉄甲作用で放たれたのだ。
 もっとも鉄甲作用で投擲されたとはいえ模擬戦用に多少力を抜かれている上に強化もかけていない木製の短剣のためシールドを破る事は出来ない。
 だが元々シールドを破るのが目的ではなくシールド越しの相手に衝突時の衝撃を与え時間を稼ぐのが士郎の狙いであった。

 さらになのはは体勢が崩された時になぜ衝撃がシールド越しに伝わったのか理解できずに思考してしまう。
 
(なんで、違う! 考えるのは後にしなきゃ、士郎君が!)

 即座に思考をやめて士郎への迎撃に移ろうとするが、もはや士郎は目前まで迫っていた。
 
 そして再び振り下ろされる木刀。

 なのはは一瞬再び避ける事を考えるが先ほどと同じ方法で避けるのを危険と判断した。

(もし読まれてて準備されてたら)

 なのは自身、士郎と出会ってまだ一年にも満たないが士郎の戦い方の巧さは理解している。
 だからこそなのはがとった行動は回避ではなく、あえて正面からの迎撃。

「しっ!」
「たあっ!」

 ぶつかり合う木刀とレイジングハート。
 
 結果はどうなるかというと至極簡単だ。
 魔力を纏うレイジングハートと強化もされていない木刀がぶつかり合うのだ。
 単純に木刀が耐えきれずに折れる。

 士郎もまさか一合の打ち合いで木刀が折れるとは思ってもいなかった。
 そして、折れた木刀の先端は士郎がなのはとぶつかり合った勢いのままなのはに向かう。

 ただの木刀の破片とはいえ空中で勢いがついた状態である破片が当たれば怪我を負いかねない。
 当然なのはの相棒がそれを容認する事はずもなく結果として

「Protection」

 主を守ろうとレイジングハートがプロテクションを張り破片を退けていた。




side 士郎

「あ~あ、負けちゃった」

 残念そうにするなのはだが

「いや、今回は俺の負けだ」
「え? だけど」
「アレは俺の読みのあまさだ。
 まさか一撃で折れるとは思ってもいなかった。
 もしレイジングハートが防御してくれなきゃ、なのはの顔に傷をつけるところだ。
 助かったよ。レイジングハート」
「You're welcome, friend」

 だがいまいち納得できていないなのは

「う~」
「今回の件は俺の負けだよ。
 実際の戦闘ならなのはの目の前で武器を失ったんだから、そこからのなのはの反撃に対応出来ないしな」
「う~ん。納得は出来ないけどわかった。
 でも今度は納得できるように勝つからね」

 改めてやる気を出すなのは。
 なのはって結構勝負に拘るよな。
 
 それにこちらとしてもまた空中戦の訓練を行うというのはありがたい。
 圧倒的に戦闘経験が足りていないのだから少しでも模擬戦という形でも増やしていきたいのが本音だ。

 あと予想はしていたが、なのはの戦闘スタイル上飛びまわる俺と迎撃するなのはという形になっている。
 空を縦横無尽に飛んで接近戦を行うとなるとフェイトのようなスタイルか。

 フェイトが海鳴に来た時にはフェイトにも付き合ってもらうとしよう。

 そんな事を考えながら本日のトレーニングは終了。

 なのはを高町家まで送り、人気のないところで鋼の鳥の使い魔を呼び、足に伝書を結びある場所に向かわせ、それを見届けて家路についた。 
 

 
後書き
少し遅くなりましたが無事更新。

今回登場オリジナル宝具
飛翔宝具『旅人の羽靴(タラリア)
メドゥーサを退治する際に英雄ペルセウスがヘルメスから貸し与えられた道具のひとつ。
 黄金の翼が生えた靴で、これを履くと鷲よりも速いスピードで空を飛ぶことができるという。

 性能としては最高速度も速く、旋回性も高いが瞬間的な加速は苦手とする。
 また本作で登場したタラリアは士郎の投影品のため飛行速度や旋回性は真作には劣る。

士郎がデバイスを手に入れるまでの飛行のためのもう一つの宝具ですね。
宝具設定一覧も合わせて更新しています。

それではまた来週お会いしましょう。

ではでは 
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