フルメタル・アクションヒーローズ
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第37話 ヒーローにピンチは付き物
「くそっ! どういうことなんだよ、コレはッ!」
俺は黒い帯で締め付けてくる古我知さんに向かい、精一杯の虚勢を張って怒鳴り付ける。そんなことをしても向こうは涼しい顔をしているだけで、のれんに腕押しに終わっているのだが。
そうこうしているうちにも、俺は縛られた格好のまま「解放の先導者」達に取り囲まれていってしまう。そして彼らに連行されるように、俺は機械人形共の輪に放り込まれた。
マズイな……こんな状態じゃ「待ち蹴」くらいしか出来そうにないぞ。そもそも、反撃出来るような状況にも見えないけどさ。
「察しの通り、それが『解放の先導者』を製造する『プラント』だ。この町に持ち込めるようにと小型化したせいで、量産能率の方は思わしくないんだけどね」
古我知さんは「解放の先導者」に道を開けさせると、俺の前に進み出る。
……やっぱり、そういうことだったんだな。俺を「プラント」の場所から引き離したのも、大事な発生源を守るためだったのか。
「『呪詛の伝導者』や『解放の先導者』を作り、樋稟ちゃんのご両親をさらって日本に逃亡した後……。僕はやがて追ってくるであろう彼女を迅速に迎え撃つために、早急に最寄りの町へ根を下ろす必要があった」
「それが松霧町……か」
一瞬「プラント」の辺りに見えた人影が気になったが、今はそれどころじゃない。俺はハラワタがにえくり返るような気持ちで、古我知さんにガンを飛ばす。
「ご名答。――特にこの廃工場は、施設として使われなくなったとは言っても……機能事態は生きてる部分が僅かにあったからね。小型化した『プラント』を生きてる工場機能につなぎ止め、『解放の先導者』を生産できる体制を作ったってわけ」
手品の種を明かすように、得意げな口調で彼は語る。これが「技術の解放を望む者達」の全貌ってわけか……!
そこで、俺は黒い帯に縛られる前に感じていた、一つの仮定を思い出す。
「救芽井の両親をさらって……じゃあやっぱり、ここで寝てる二人は!」
「よく気付いたね。君は勉強が出来ないとお兄さんから聞いていたが……なかなか頭自体は回るようじゃないか」
「やってくれたもんだな……! あのカプセルは何だ! 救芽井の親御さんに何をしたんだ!」
「メデックシステムのカプセルを冷凍保存用に改修したものさ。アレの設計図は救芽井家の研究所に置いてあったからね。自分で手心を加えることくらい、なんてことないさ」
……着鎧甲冑のためだろうが何だろうが、こんなの度が過ぎてる。救芽井の両親をこんなへんちくりんな棺桶にぶち込みやがって!
「別にこれといった危害は加えていないさ。ただ、あまりにも強情な上にやたらと暴れるものだから、少しの間だけ眠って頂いているだけだ」
「目は、ちゃんと覚めるんだろうな……!?」
「彼らを催眠から解放すると言うのなら、稟吾郎丸さんや樋稟ちゃんに頼むといい。もっとも――それを『僕ら』が見過ごすはずもないけどねッ!」
どうやら、向こうは容赦を捨てる覚悟らしい。俺を完全包囲した上で、『呪詛の伝導者』を筆頭に全ての『解放の先導者』が銃口を向けてきた。
こんなドーナツ状に囲んだ状態から発砲なんてしたら、相打ちくらい起こりそうなもんだが……連中にためらいの気配はない。機械なんだからためらう方が不思議だけど。
「解放の先導者」だけがそうであるならまだしも、一応は中身が人間である「呪詛の伝導者」までもがピストルを向けている。自分は撃たれても平気だと踏んでるのか、それとも撃たれてでも俺を「討つ」つもりなのか……。
いずれにしろ、俺がピンチなのには変わりない。とうとう年貢の納め時……かなぁ?
「君の――君達の健闘は、よく覚えておくよ。『呪詛の伝導者』の売り込み先に宣伝しておきたいくらいだ」
「そんなもんどーだっていいんで、助けてください……とか言っちゃダメか?」
「悪の組織と戦う正義の味方が、それを口にしたらおしまいだろう? 却下だ」
「……ま、そうだろな。マジで言う気もさらさらねーし」
ヒーローというモノほど、実現するには程遠い仕事はないらしい。下手すりゃ、増えすぎた人口を宇宙に移民させる方が簡単なのかもな。
漫画やラノベのような、カッコよくみんなを助けるヒーローになるってのは……俺にはキツかったのかね。変態呼ばわりの汚名くらい、返上したかったなぁ……。
――悪いな、兄貴。ちょっと、ゲームオーバーみたいだわ。
「よく言ったね。じゃあ――さよならだ! 撃てえぇーッ!」
「呪詛の伝導者」の手中にあるピストルが火を噴き、俺の眉間に命中する。
「ぐぅぅッ……!」
割と距離があったおかげで、脳は着鎧甲冑の装甲が守ってくれたが――強いショックを受けたせいか、体が思うように動かない。脳みそに弾丸撃ち込まれたんだ。衝撃の影響がないはずがない。
それに加え、今度は「解放の先導者」の一斉砲火が来るわけか……さすがにコレには耐えられないんだろうなぁ。
きっとこの後、俺はダメージを受けすぎたせいで着鎧を解除され、気がついた頃には全てを忘れているんだろう。恐らく、救芽井や矢村も。……ひょっとしたら、兄貴までも?
……あぁ、やっちまったなぁ。
安易に深追いするんじゃ、なかった……。
俺はこのあとに襲って来るであろう激痛と気絶に備え、ギュッと目を閉じた。
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