銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第五十三話 エル・ファシル真の英雄・中編
第五十三話 エル・ファシル真の英雄・中編
宇宙暦788年帝国暦479年8月22日
■同盟領エル・ファシル星域 エル・ファシル本星 同盟軍駐屯基地
エル・ファシルへ逃げ帰ったリンチ司令官達は直ぐに増援を求めた。
リンチ司令官は落ち着かない様子で参謀達に指示をし始めている。
「増援はいつ来ると言っているか?」
「返答はしばし待てと」
「ええい、ハイネセンは我々を見捨てる気か!」
有る参謀が小さな声でボソっと言った。
「一端勝利だと報告したから増援の話がすっ飛んだんじゃねーのか?」
多くの士官達がハッと見た。幸い指令官には聞こえなかったようだ。
そんな状態をヤン・ウェンリー中尉は暇そうに見ていた。
喧噪が続く中、絶望な事が起こった、
帝国軍の増援が到着したとの連絡が入ったのだ。
最早エル・ファシルの失陥は免れない状態になった。
民間人300万人が状況の切迫に恐怖し軍部に交渉して、
民間人全員の脱出計画の立案と遂行を求めた。
「司令官閣下民間人の代表者が脱出について相談があると来ていますが」
「なんだと、今忙しいのだ。誰か適当で暇な士官に任せろ」
「はっ」
取り次いだ士官が司令部を見回すと丁度壁際で暇そうにしている新米中尉を見つけた。
ヤンはどうなるのやらと喧噪を聞いていたが、突然参謀の少佐から呼ばれた。
「ヤン中尉民間人300万人の脱出計画の立案を行うように」
「小官がですか?」
「そうだ頼むぞ」
「諒解しました」
やれやれ司令官達は戦々恐々してるし年金を貰うまでは捕虜になる訳にもいかないし頑張りますか。
■同盟領エル・ファシル星域 エル・ファシル本星 同盟軍宇宙港
多くの住民が集まり喧噪が凄まじく五月蠅いぐらいだ。
住民の代表者がMPに掴みかからんがばかりにエキサイトしている。
「 おい 早く代表者を出せ!」
「どうしたんだー!」
そこへ責任者として姿を現したのがヤン・ウェンリー中尉だった。
若い頼りなさそうな中尉の出現に代表者達は疑惑をいだいたが、
ヤンは頼りなさげに頭をかきながら
「皆さん心配なさらないで下さい、300万人一人残らず脱出出来ますので」と言い放った。
皆は若く階級も低い人間に軍部は真剣にやる気があるのかと思ったが、
やるべき事はやってのけた。
そのさなかヤン中尉にサンドイッチとコーヒーを持ってきてくれた少女がいた。
ヤンはコーヒーを受け取ると「紅茶の方が良いんだけどね」ととぼけた事を言っていた。
少女はその姿を心に留めたのである。
帝国軍が増援を得て侵攻間近の混乱の中で、
民間船と軍用船を調達し、脱出の準備を整えさせた。
直ぐに脱出を主張する民間人を宥めながら、
ヤンは時機をを待っているようであった。
■同盟領エル・ファシル星域 シュタイエルマルク艦隊旗艦フォールクヴァング
戦闘から10日後の7月31日イゼルローンからの増援2000隻が到着した指揮官はミヒャイル・ジギスムント・フォン・カイザーリング少将であった。
双方の艦橋間でモニター越しに話し合った。
「大勝利と言えるなシュタイエルマルク」
「まあ此方も200隻程損害があるからな喜んではいられんよカイザーリング」
「まあ俺が来たからにはエル・ファシル陥落も直ぐだな」
「ああ其れで地上降下は何時からにするかな」
「艦隊の準備からして明後日9月2日でどうだ?」
「ああ頼むよ、それと奴らが脱出しないように偵察艦配置をお願いしたい、
此方は数が足らんのでな」
「判った任しておけ」
「では」
カイザーリング少将が参謀長リヒャルト・パーペン准将に支持を出す。
「偵察艦を出して敵の動きを逐次知らせるようにせよ」
「諒解しました」
■同盟領エル・ファシル本星 同盟軍駐屯基地 アーサー・リンチ少将
最早300万人を連れて脱出は不可能だ残存艦艇も損傷艦が多数で戦闘に耐えうる艦は5割程だ。
敵は増援を受け3000隻程になっている100対3000完璧に我が方は負ける。
このままでは、300万人全員が捕虜の道しかない。
民間人300万人を帝国が連れ去るのは時間的には難しいだろう。
その前に正規艦隊が来てくれればエル・ファシルの奪還は可能だ、
此処は残存艦艇を持って敵陣を突破し後方にて増援を待つのが得策だ、
そうだそうしかない!決して敵前逃亡ではない!此は戦略的な撤退だ!
撤退ならば物資を敵に渡すのは利敵行為だ積めるかぎり積んで脱出だ!
参謀長に命令しなければならんが、民間人に知られると逃げたと思われるから、
密かに準備しなければならないな。
「参謀長一寸来てくれ」
司令官室へ参謀長を呼び込む
「司令官如何しましたか?」
「うむこのままだと数日中には敵が地上降下してくるだろう」
「確かに」
「このまま脱出したとして、300万人の乗った船を守って撤退は不可能だろう」
「敵が見逃してくれない限りは無理ですね」
「敵が民間船と言えども攻撃してこないとは限らない」
「帝国ならあり得ますな」
「従って民間人を残して残存艦隊で敵陣を突破し後方で味方艦隊の増援を得てから再度エル・ファシルを奪還する。ただし民間人に知られると逃げたと思われるので密かに準備する。
物資等も乗せられる限り持って行く、残していくと利敵行為に当たるからな」
「判りました準備を整えます」
「民間人対応の者達には悪いが300万人を守る為に残って貰おう」
「では知らせない訳ですか」
「仕方がないことだ、このままだと死者が多数出る」
「諒解しました」
同盟領エル・ファシル星域 エル・ファシル本星 同盟軍宇宙港
9月1日急報が人々を驚かした。
リンチ司令官と彼の直属の部下たちが民間人や他の部下を見捨て、
軍需物資を持ってエル・ファシル本星から逃亡しつつ有るというのだ。
騒ぎ立てる人々に、ヤンはようやく脱出の指示をだした。
「心配は要りません。司令官が帝国軍の注意を引きつけてくれます。
レーダー欺瞞をせず、太陽風に乗って悠々と脱出できますよ」
「ヤン中尉君はこの事を予測していたのかね?」
驚いた表情の代表者達。
「司令官をおとりにした訳か」
「さあ行きましょう」
彼の予言は的中した、リンチ少将以下は事あることを予測していた帝国軍に散々追い回されたあげく降伏して捕虜となったのである。
帝国軍がリンチ司令官を追い回している中、
ヤンの船団は悠々とエル・ファシルから脱出をしていた。
無論偵察艦によりその姿はレーダーに映っていたが、
脱出する宇宙船がレーダー欺瞞をせずに居る訳がないとの先入観から見逃してしまったのである。
■同盟領エル・ファシル星域 エル・ファシル警備艦隊旗艦グメイヤ
エル・ファシルを脱出し全速で敵の薄いところを狙って突破をはかったが敵艦隊は次々に追跡してくる又一隻沈んだこのままではいかん。追いつかれる駄目か参謀長が敵艦から発光信号が来ているといってきた。
「なんと言ってきている」
「最早貴官は我が艦隊の重包囲下にあり降伏せよ呵らずんば攻撃する」だそうです。
「最早無理か皆の命を救う為に仕方ないが降伏する。敵艦隊に受諾の返答を行え」
「はっ直ちに」
「司令官閣下、汚名が残りますね」
「仕方がないことだ、後は増援がエル・ファシルを奪還してくれるのを祈ろう。
済まんなみんなを巻き込んでしまって」
「司令官閣下・・・・」
■同盟領エル・ファシル星域 シュタイエルマルク艦隊旗艦フォールクヴァング
クリストフ・フォン・シュタイエルマルク
攻撃前日に敵艦隊が脱出を狙い突撃してきた、
民間人を見捨てて逃げる気かと当時は思った。
しかし其れが間違えだと気がついたのは戦闘後だった。
オペレーターの声が響く「敵艦隊が突破し逃亡しようとしています」
「参謀長逃げる気だな」
「民間人を見捨て逃げるのですかな」
「卑怯な奴だ、追撃するぞ!」
敵艦隊は散々我々をエル・ファシルから遠ざけたが、
遂に重包囲下に置かれ降伏した。
卑怯者はあっさり降伏する物だと思い。
捕虜にした敵司令官に会うのも馬鹿馬鹿しく感じたが取りあえずは会うことにした。
会ってみると堂々としており、
『自分の命はどうなっても良いから民間人の命を助けてくれ』と懇願された。
意外なことに武人ではないか、
自分の命を捨ててでも弱い存在を守るのはそうそう出来る物ではない。
私は出来る限り尊重すると言い会談を終えた。
その後カイザーリングと共に降下作戦を行ったが、仰天の事態が発生した。
なんと惑星上に人っ子一人いなかったのだ、300万人が影も形もなく消えていた。
再度リンチ司令官を尋問すると脱出計画を立てていた事は認めたが、
それ以外は知らないと言ってきた。
見る限り嘘は言っていないと思われた、
司令官はその若い中尉達に囮にされたのだと推測した。
しかしどうやって消えたのか。
情報を精査した結果隕石群と思い見逃した物が脱出船団だったことが推測された。
結果的に我々は敵司令官と共にその中尉に見事にだまされた訳だ。
勝利の酒が不味くなってしまった、グラスをたたき割る者達も居るぐらいだ。
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