信じられない話
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第二章
「戦場は山も川もある、しかしだ」
「困難だからといって避けるとか」
「それではどうにもならない」
「だからか」
「そうだ、乗り越えてみせる」
絶対にというのだ。
「そして実家まで帰ってみせよう」
「本気なのか」
「本当にそうしてか」
「家に帰るのだな」
「貴様の実家まで」
「俺は今言った」
つまり約束したというのだ。
「必ず帰ってみせよう」
「遭難しなければいいが」
「そうだな」
「生きて辿り着ければいいが」
「そうなればな」
同期の者達はそんなことが出来る筈がないと思っていた、市ヶ谷から富山まで一直線に歩いて帰るなぞ。
だから辻とはもう会えないのではないかとさえ想っていた、しかし休暇が終わった時だ。
辻は無事に士官学校にいた、それで彼等はその辻に対してまさかという顔で尋ねたのだった。
「本当にやったのか?」
「ここから富山まで一直線に帰ったのか」
「そうしたのか」
「そうだ」
辻は彼等に胸を張って答えた。
「俺はやり遂げたぞ」
「本当にやったのか」
「富山まで歩いて一直線で帰ったのか」
「そうしたのか」
「そうだ、やろうと思えば出来るのだ」
今度は左手を拳にして言うのだった。
「そうしたこともな」
「よくやったものだ」
「それはまた凄いな」
「貴様は凄い男だ」
「実にな」
同期の者達は感心していた、だが。
このことからだ、彼等はあらためて言った。
「確かに凄いことだが」
「突拍子もないな」
「普通しない」
「確かに作戦では進軍で山も川も越えるが」
「普段はそこまでしない」
「あくまでそうせざるを得ない時だ」
その時だけのことだというのだ。
「それで何故今する」
「凄いことだが何かが違う」
「辻はそうした奇抜なことばかりする」
「そして己を決して曲げない」
だからこそやり遂げたのだが、というのだ。
「しかしな」
「それは前線指揮官としてはいいだろう」
「スパイにしてもな」
「しかし参謀としてはどうか」
「成績がいいと優先的にそちらになるが」
「あの男はどう考えても参謀に向かない」
「性格的にな」
「ああしたタイプは無茶な作戦を立てる」
「自分の身体を基準に作戦を考えてな」
そのうえでというのだ。
「あの男は参謀には出来ない」
「そこを人事が見てくれればいいが」
「幾ら成績優秀で能力が高くとも」
「正義感が強く平等にもこだわるが」
それでもというのだ。
「無茶ばかりしてそれを誇る」
「周りの雰囲気も全く見ようとしない」
「そんな奴を参謀にしたらどうなるか」
「言うまでもないが」
辻を知る者達は誰もが危惧していた、彼が参謀になれば大変だと。そして彼等の危惧は当たり。
辻は参謀になった、だが彼は負傷した時にだった。
右手に包帯を巻いて首に吊った状態でずかずかと部隊の整列のところに来た、それを見てだった。
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