世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
ドラゴン 覚醒
武道館周囲を、無数の車が取り囲む。
理由は簡単。
先ほどのマンティスによる、ネイティブ蜂起の放送のためだ。
同時に、これ以上近づけないのは、奴の呼びかけに応じてここに集り抵抗する、数十名のネイティブワームの為である。
だが、ここにいる誰もが安心しきっている。
たかだか数人。
厄介なネイティブワームだとしても、制圧は時間の問題。
ワームと言えば、対応機関のZECTがある。
仮面ライダーという者たちがいる。
そうでなくとも、この中にはあの「EARTH」の翼人、北郷一刀がすでにいる。
時間はかかるだろう。
手間取りもするだろう。
だが、彼らはきっと《どうせ》
いつだって《まあ結局は》
勝ってすべてを収めてくれる《何とかなるようになってるだろ》
そんな怠惰にも似た安心感が、この場を支配してしまっていたのである。
だが、それは「EARTH」にとっては誇るべきこと。
戦いに苦しまない世界。
戦うことが必要ない世界。
安心できる世界というのは、大切だ。
だが、彼らはこうして安心しきっている、そんな世界だが。
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「是ァァアアアア!!」
「おぉぉぉおおおお!!ご主人様ッ!!」
「行くぞ、翠っ!!」
そんな安穏とした彼らのすぐそこを、一刀と翠は気づかれない別の時間の世界の中で、マンティスとの死闘を演じていたのである。
「まさか、ここまで戦いの場を拡大させるとは思わなかったぞ」
「そっちこそ、ちまちま逃げんな!!」
「我、絆ヲ手繰ル――――!!」
「む」
マンティスを追って、十字槍・銀閃を振るう翠。
だが、マンティスは別段逃げているわけではない。
一刀と翠の猛攻があるからこそ、それに対応した動きがこれだけ広範囲になり、外まで出てしまっていただけのこと。
その中で、翠の猛撃の中から一刀の一手が伸びた。
「絶・・・光・・・」
「あれは・・・」
「――――閃ッ!!!」
「ぉうっ!!」
バチィ!!と、マンティスの装甲を弾き飛ばす一刀の絶光閃。
まだ蒔風ほどの練り込みはできていない故に、貫通するほどの威力はないがその速さは衰えていない。
高速移動中に弾かれたマンティスは、転がりながら肩、膝、背中を打って地面を跳ねていき、しかし最後に地面を殴り飛ばして反転、再び館内へと突っ込んでいった。
勢いよく扉が開かれ、その中へと向かうマンティス。
その後を追って、一刀と翠は駆け抜けていく。
狭い廊下を縦横無尽に跳ねまくり、先へ先へと進む三人。
その中でクロックアップは切れて元の時間に戻るが、彼らにとってそれは些細なこと。
ズシャ!!と地面に跡をつけながら、三人は停止して睨み合う。
ここ30分近く、こんなことの繰り返しだ。
そして、戻って来るたびに視線が増えていることに気付いたのは五回ほど前から。
ネイティブだ。
サナギ体の者もいれば、十数体の内3割近くは生体となっている。
しかもその全員が、ニタニタと笑っているかのような雰囲気を醸し出している。
手出しはしてこない。
敵に加勢するでも、援護するわけでもない。
ただ、眺めているだけ。
何故だ。こいつらも、この状況がわからない奴らではないだろう。
「いや?こいつらはよくわかっている。最後に勝利するのは誰かをな」
「なに?」
マンティスの笑い。
武器は気づけば、長いサイスから短いシックル―――手鎌へと戻っていた。
一対のその武器を、束ねて片手に握っている。
「勝つ方に手を貸す必要は、全くもってないだろう?」
「・・・・・」
この戦いは勝利しかない。
そう自負するマンティスだが、それはない、とも言い切れない一刀。
こいつの襲撃は、午後1時半ごろ。
それから三時間はここで、そして30分が、先ほどのような外に出たり入ったりの攻防。
すでに時刻は午後五時を回る。
空は薄ら暗い程だ。
そしてなにが問題なのかというと、それだけの時間をかけても一刀がこの敵に勝利できていないというのが問題なのだ。
「不思議か?お前がそれほどの力を持っていても勝てないのが」
「チ・・・・」
フフンと笑うようにおどけるマンティス。
その手に握る一対の鎌は、いつの間にかワイヤーでつながっており、プラプラと宙で揺れていた。
「人間は所詮、ネイティブのための奴隷でしかない。お前らのすべてはオレ達のものだ。ならば、その力すらも・・・・!!」
「ッ、まさか!!」
《1、2、3》
「終わらせようか」
一刀の冷や汗と、マンティスのスリータップは同時だった。
バチバチと爆ぜるタオキン粒子は、一度マンティスの頭部へと集約される。
そして行き場を定めぬエネルギーは、そのまま光を発しながら男の指示を待つ。
「翠ッ!!速くここ出て蒔風たちを連れてきてくれ!!」
「ご主人様ッ!?」
ダゥッ!!と、地面を蹴って駆けだす一刀。
すでに躊躇はしていられない。
腰に流星剣を取り出し、疾走と共にそれを振るう。
だが、相手のほうが一手速い。
「クロックアップ」
《clock up》
クロックアップは、先出のほうが勝つ能力だ。
何せ、その発動に手を伸ばしたところで、先手を打たれてしまえばその動きがどれだけ一瞬でも、彼らにとっては悠久だ。
一刀自身には、この速さに対応する能力はない。
ただ、仲間の力を自分の力として使用する能力だけだ。
故に、彼がそれを発動させようとすると「想起」「顕現」「発動」の段階を踏むことになる。
その段階の速さは短くなっているものの、それでもワンタッチで発動するクロックアップを相手に「よーいどん」では勝ち目は薄い。
だが、流石は一刀も翼人だけのことはある。
停止するはずの手の動き足の動きは、クロックアップの中で遅めのスローモーションで動き続けていた。
踏み込む足。
剣を握る手。
居抜かれる剣。
止まっているともいえるほどのクロックアップの中で、彼のそれらが動いていた。
「お前は気づいたようだな」
その中で、マンティスは届かぬ言葉を漏らす。
ライダークラッシュ、と短く告げ、ついにタオキン粒子が両手の鎌へと集まっていった。
そして、ワイヤーを手にして鎌を投げ付け、一刀の両肩に巻き付ける。
ガキィ!!とその体をロックし、さらに肩の裏に刃が刺さりそれを強化。
そこでクロックアップを解除し、一刀の眼前で立ち止まった。
「ッッ!!!」
「星の速度と同じか。なるほど、凄まじいな」
「まず・・・」
「その凄まじさ・・・・もらったぞ」
《rider crash》
「グァあっ!!」
ガツン!!と、身動きの取れない一刀の首筋に、マンティスのマスクのクラッシャーが押し付けられた。
そして、頭部にせり上がって逆三角形を形作っていた、左右の部位が、まるで打ち付けるかのようにガシュンッ!!と一気に落ちた。
その先端の鋭利な刃は、噛み付いたクラッシャーと共に一刀の肉に突き刺さる。
そして同時に、一刀の身体から力が抜けていく。
エネルギーがどんどんマンティスに吸い取られていき、そしてついに四肢から力が抜け、一刀は自らの足でたてぬほどに消耗してしまった。
「ガッ・・・!!」
「俺のこのツインスライサーは、通常使用であってもわずかずつ敵のエネルギーを吸収する」
「だから・・・か・・・・」
「ああ。お前は実に、俺の動きについてきてくれた。おかげで、かなりいいエネルギー源になってくれた」
「じゃあ・・・・あの、攻撃は・・・・!!」
「ふ。忘れたか?蟷螂の腕は、切り裂くためのものではない」
ガシリと、一刀の身体を掴んでステージへと放る。
そして、その胸を踏みつけて見下しながら告げた。
「蟷螂は戦闘する虫ではない。蟷螂はな・・・・捕食する生き物だよ」
戦い、ですらない。
戦闘、などではない。
ただそれは、食事というその一つの行為のために行われる付加行動に過ぎない、ということである。
ステージに放られた一刀に、同じく倒れていた天道が聞く。
「大丈夫か?」
「あ、ああ・・・・天道さんは?」
「身体的には大丈夫だ。だが、この場を後にできるかと言われると・・・・な」
「そうですか・・・」
敵は、強い。
何の形容も必要なく、ただ単純に強い。
この場を打開できるのは、誰か。
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「なに・・・・「EARTH」の翼人がだと!?」
「はぁ、はぁ・・・ああ、やられた。ZECTに連絡して、他のライダーを呼び寄せてくれ!!」
「とはいってもな・・・・」
武道館から出てきた翠が、その場にやってきていた田所に詰めかかる。
だが、彼らの連絡できるライダーはもはや加賀美のみ。
しかし、彼とも未だ連絡が取れていない。
こうなれば「EARTH」、というわけになるが、そちらも今別件の事件を追っているらしい。
とそこに、噂をすればなんとやら、というタイミングでバイクが三台、滑り込んできた。
エンジン音をけたたましく鳴らしながら、そこにやってきた三人のうちの一人がヘルメットをとる。
「田所さん!!」
「加賀美!!」
チーフの元へと駆ける加賀美。
すみませんでしたと頭を下げてから、後ろの二人もメットをとる。
その顔に驚く田所だが
「お前らは・・・・」
「彼らと共に、中に侵入して天道と一刀君を救出して見せます!!」
加賀美の言葉に、それも遮られた。
やってきて、そのまま戦いに行こうとする加賀美。
その彼を諌めようと、肩を掴んで制止する。
「まて!敵はカブトとお前を同時に相手をして、さらには翼人を一人圧倒している。何か策を練らないと・・・・」
「策ならあります。俺には、これがありますから」
そう言って、彼が取り出したのはハイパーゼクター。
あの戦いの時、カブトが倒れる瞬間にこれを手放していたのを、爆発した乗用車の中から見つけ出したのだ。
「天道は俺にこれを託しました。あの天道が、です」
「・・・・・」
天道総司が、何かを託す。
そのことの大きさは、彼を知るこの場の人間にしてみればどれほど大きな信頼かがうかがえる。
「・・・・お前がやられれば、もはやあいつを止める奴はいない。わかっているな?」
「はい」
「よし、わかった・・・・行って来い!!」
「はい!!!」
そう言って、加賀美がゼクターを手にする。
男は、足を踏み出した。
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ドォン・・・という音が、振動とともに遠くから聞こえてくる。
パチリ、と瞑っていた瞳を開き、冠木が何があったのかを確認した。
「ぱ、パンチホッパーとキックホッパーのライダーが攻めてきました!!」
「そうか」
『左右からこちらに向かって攻めてきて―――グォァ!!』
「おい、どうした!!」
「・・・・・」
通信機を握り締め、返信がなくなったにもかかわらず叫ぶ配下のネイティブ。
それを眺めながら、冠木は静かに顎に手を当てる。
そんなに落ち着いているのは、冠木だけだ。
爆音と、そしてこの状況に騒然とし始める、ネイティブたち。
外の人間程度ならまだしも、ライダーなんてものは彼らにとっては天敵にも近い。
その彼らが攻めてきたとすれば、彼らとて慌てざるを得ないだろう。
だが、一人冠木だけは違った。
冠木は、肩を振るわせてそのことに歓喜していたのだ。
やっときた。
俺の敵が、ついに来た。
確かに最大の障害だろう。
だが、これを乗り越えた暁にはすでに俺の敵はない。
そして俺には、あいつに負ける自分が全く見えない!!
「敵は左右から攻めてきているんだな?」
「あ、ああ」
「ということは、これは攪乱だな。ここの守りを盤石にしろ」
「他のエリアの同志はどうする!?」
「迎撃しながらの撤退を命じろ。戦うべきは、この場であるとな」
そう言って、腰のベルトを露わにしながら手にゼクターを握る。
左右の対応でここの人員が削られている隙に、ここから天道と一刀を助け出すつもりなのだろう。
そして、敵がライダーというのならば自分も離れると思っていたのか。
「残念だったな。だがいいぞ。問題なのは、敵であるお前がここで俺と戦うことだからな」
そう言って、ステージの上で全方位をぐるぐると見回しながら待ち構える冠木。
その周囲を守るように、ネイティブのサナギ体や成体が取り囲む。
だが
「ふふふ・・・」
「・・・・」
「はっはっはっはっはっは!!」
「・・・・おい人間」
「っは、なんだ?ネイティブ」
「何がおかしい」
転がりながらも、突如として笑い出した天道。
その声を黙って聞く冠木だったが、ついにそれを聞いた。
「何がおかしい。お前の友である人間が、これから殺されるとついに悟り気でも違ったか?」
「ふふ、いや違うな。まさかお前たち、これが囮作戦だとかそういうものだとでも思っているのか?」
「・・・・なんだと?」
天道の言葉に、眉をひそめる。
まさかこれが、囮ではないというのか。
「お前はオレ達を明確に「敵」だと言っておきながら、何もわかっていやしない。加賀美新という男のことを、お前は何も知らないままだ」
「なに・・・?」
「アイツが一々そんな囮などという小細工をすると思うか?加賀美という男は、俺とは正反対の、俺にはないものを持った男だ。その男が取る戦術に」
バァン!!
「囮なんて、まずはないだろう」
「冠木!!!」
勢いよく、叩き付けられるように開くアリーナの扉。
そこに、ベルトを巻いた加賀美新が立っていた。
通信機からは、別の戦いの声がしてくる。
『ダメだ!!こいつら強いぞ!!』
『迎撃なんか無理だ!!背を向けても、やられるだけだ!!』
加賀美がとったのは、ただ一つの戦法。
左右正面の三方から攻めて、そのままその場の敵を倒す。
囮などない。
ただ単に、変身して左右に回り込んだ矢車と影山のほうが、加賀美が武道館に入るより早かっただけの話である。
それを見て、クックと再び笑い出す冠木。
そうだった。そうだったな敵よ。
お前は確かにそういう奴だった。
そういうお前だったから、この俺に突っ込んでくる者だからこそ、俺はお前を敵と認めたのだったな―――――!!!
「いいぞ・・・・掛かってこい!!敵よ!!お前はやはり、この俺の敵にふさわしかった!!!」
「幡鎌さんは連れてきていない。場所を知りたきゃ、俺を倒して勝手に探せ!!」
「「変身!!!」」
《《Henshin》》
「キャストオフ!!」
《cast off―――change stag beetl》
《キャストオフ確認。ライダーフォーム移行許可承認》
「キャストオフ」
《cast off―――change mantid》
ガタックの、変身してからのキャストオフ。
前回の戦いで脅威値を学習していたのか、それに対応すべくノーダメージでマンティスのキャストオフが実行される。
「さあ、掛かってこい。お前達の足掻きを、見せて見ろ!」
ドッ!!と突っ込んでいくマンティス。
その単純な徒手空拳の攻撃で、カブトやガタックの必殺技の2/3程の威力はある。
ただこのまま殴り付けるだけで、それだけでも勝負はつく。
しかしそれは
「フン!!」
ゴンっ・・・・ガシッ!!
「・・・・なに!?」
「行くぞおぉおおおァッッ!!!」
放たれた拳はガタックの胸部に命中し、しかしそれを掴まれて押し退かされた。
このパワーはまずいと距離をとるマンティス。
そして後退させられたマンティスに向かって――――否、その後ろにいる天道たちに向かって、というほどの勢いで、ガタックは一気に疾走した。
「チッ、なるほどな。だが!!」
力強く、直線的な動きだが、ならばその軌道も読みやすい。
突っ込んできた顔面に膝をぶち当て、振り下ろした拳で潰してやる!!
ガタックの動きは、確かに直線的だった。読みやすい。
そしてマンティスに変身している冠木ならば、その程度のことは軽くこなすだろう。
それは、まさしくその通りになった。
カウンター、というのが的確だ。
腰を低くし、マンティスの身体を掻っ攫ってそのままステージへと突っ込もうとしているガタック。
そのガタックの顔面に向かって、放たれるマンティスの膝。
当たる。
火花を散らし、マスクにひびを入れてそれはぶち込まれた。
膝の感触に、マンティスは確かな手ごたえを感じていた。
(中々強力なタックルだな)
グ
(だが、カウンターで入れたのだから)
ググ・・・・
(これで拳で叩きつけて!!)
ゴッ!!!ドンッッ!!
「ゲハッ!!?」
しかし、クワガタムシは止まらない。
膝をぶち当てたマンティスの腹部に、肩から突っ込みその体を掴み取ったのだ。
その背中に拳を当てて反撃しようとするマンティスだが、がっちりと掴まれたホールドは些かも緩まない。
そして、そのままガタックは上半身を捻りながらブリッジ、マンティスを後頭部から地面に向けて、全力を尽くして叩き付ける。
「ゴッ!?」
「ァアアォア!!!」
バチバチと爆ぜるガタックのマスク。
もう少し強めの一撃が入れば、おそらく破損して中から加賀美の顔が見えていただろう。
対して、マンティスはというとダメージはあったが外見的なダメージはない。
物凄い勢いで後頭部から落とされたために、脳震盪がひどいくらいだ。
だが、その外見のダメージ量に相反して両者の心象は全く異なっていた。
ガタックから見て、目の前のマンティスは倒すべき敵。
必ずしも勝てるとは限らない強敵だ。だからこそ、全力を尽くし、一部も油断せず、あらん限りの力を尽くしていた。
マンティスから見て、目の前のガタックは倒すべき敵。
必ず勝つべき相手であり、総てにおいてこちらが優っている。故に、相手の出方を見てからのカウンターという戦法をとった。
スペック、ダメージ、テクニック。
全てにおいて勝っているはずのマンティスだった。
だが、あの一掴みと一投げ。
高々その程度の攻防で、数多の優位を持つマンティスの絶対的優位性は、いともたやすく崩れ去った。
ガタックにとって、これは負けられない戦い。
マンティスにとって、これは負けるはずのない戦い。
その違いが、両者のこの短い攻防の勝敗を分けたのだ。
だが、それを自覚したうえでマンティスは嗤う。
いいぞ、いいぞと、グツグツと煮え立ってくるこの感情を、咀嚼し、噛み砕き、飲み込み、飲み干し、腹に溜め、全身に還元する。
「素晴らしい障害だ。凄まじい巨壁だ。だからこそ超える必要がある。だからこそ越えねばならない。いいぞ敵。いいぞ人間。お前はやはり、そこの人間よりもなお俺の敵に相応しかった!!」
「御託はいいだろ」
バッ!
「掛かってこい」
「ああ、その通りだ!!」
バッ
カチリ、ガシュッ!!
「「ハイパーキャストオフ」」
《《HYPER CAST OFF!!》》
片や、鋭利に
片や、分厚く
装甲を変貌させ、更なる進化を遂げる二人のライダー。
ガタックとマンティスのハイパーフォームは、その変身中にすでに戦いを開始していた。
おそらくは時間遡行。
変身後の彼ら二人の戦いが、フォーム移行中の彼らの周囲でいくつもの火花を散らしていた。
そして、彼らはそれを見ていた。
見ていた以上、その攻防はすでに不必要だと悟る。
ここの激突。
そっちの火花。
あそこの剣撃。
どこかの衝撃。
それら多くの攻防が彼らの周囲で時の中に爆ぜ、そして変身の完了と共にフッ、と消えた。
(相手の手の内は読めた)
(どう来るか、どういう対処か)
(だがそれがわかっている以上)
(相手もそれを知っている以上)
(それらの攻防に意味はない)
(ならば、放つのはただ一撃でいい)
((それらすべてを飲み込んだ、この一撃。それでいい))
幾多の戦闘で決着がつかないのならば、ぶつかり合うのはただ一撃に終わっていく―――――!!!
《MAXIMUM RIDER POWER》《1、2、3――――》
「ハイパーキック!!」
「ハイパー・・・キックッ!!」
《RIDER KICK》
ダゥッ!!と、地面を蹴って跳ねる二人。
30メートルは離れていたであろう二人の距離は、その一跳ねで一気に縮まった。
回転しながら飛ぶ、ガタックのライダーキックは、空中で放つ回し蹴り。
ガタックとは逆方向に回転するマンティスの蹴りは、空中で放つ後ろ回し蹴り。
その両者の蹴りが、足の表裏を合わせて、互いに最大の威力を発揮するタイミングで接地した。
そして
「う・・・ゴオオオ・・・オォオアッッ!!」
「ぬ・・・ゥりゃぁァアアア!!」
バァンッッ!!と弾けて、二人が飛んだ。
マンティスが客席に、ガタックがステージ上の機材に突っ込んでそれをめちゃめちゃに砕く。
その結果、立ち上がったのは。
「ハァッ・・・・ハァっ・・・・ハァア゛ッ」
客席の方の、男だった。
ぐったりと倒れたガタックは、ライダーフォームで機材の中で倒れ込んでいた。
だが、ハイパーフォームでのダメージはそのまま残っていた。
勇ましく立っていたはずのクワガタの角は、長さは違えど左右ともに見事に折れていた。
マスクの右顔面はやはり砕けて、加賀美の顔を露出している。
胸の装甲と、左腕、そして蹴りを放った右足からは火花が、バチバチと止まっては爆ぜを繰り返す。
「勝った・・・勝ったぞ!!俺の勝ちだ!!!」
そのガタックを見て、マンティスは勝利の雄叫びを上げた。
かく言う彼も、かなりのダメージを追っている。
後ろ回し蹴りを放った右足は、膝から下の装甲がはじけ飛んでむき出しだ。
更には全身の鋭利な装甲の先端が、その八割以上がバラバラと折れた。
こうして足を踏みしめるだけでも、パキンと音を立てて折れていく。
だが、それでも勝った。
もはや敵はない。
そう、たとえ、たとえ敵が
「行けッ!天道!!」
「ああ――――!!」
まだ、諦めていないとしてもだ。
「変身!!」
ガタックからハイパーゼクターを返され、今こそ勝機と一気にハイパーフォームにまで変身する天道。
カブトゼクターの飛来によって引きちぎられたワイヤーは、周囲に立っていた数人のネイティブを打ち付けて彼を開放したのである。
一気にステージから一階客席にまで飛んでいくカブト。
背の装甲から虹色の羽根を広げ、その手に飛来してきたパーフェクトゼクターを握り締める。
すると彼の突進を追いかけて、三つのゼクターがパーフェクトゼクターへと装着されていく。
ザビー、ドレイク、サソードの三つのゼクターは、それぞれ黄、青、紫の色を輝かせて一瞬にして集ったのだ。
そして、一切のブレーキもなく突っ込んだカブトが振るうのは、螺旋するエネルギーを振り抜き、眼前の敵を薙ぎ払う究極の暴風。
「マキシマムハイパータイフーン―――――!!!」
ブォッ!!と振り抜かれる大剣ともいえるパーフェクトゼクター。
その先端から延びる光子の刃は、高音を響かせ暴風を巻き起こす。
アリーナの地面を斬り、客席を斬り、そしてマンティスの腕に
「見えているぞ」
止められた。
バシュシュシュシュシュ!!と凄まじい蒸気を上げていながらも、パーフェクトゼクターに手を当てその振り抜きを止めたのだ。
マンティスは少し踏み込んでおり、ゼクターの柄に近い位置を抑えている。
なるほど。確かにこれなら、光子の刃の影響は少ないだろう。それでも、これだけの蒸気が上がるだけのことはあるが。
「―――――!!!」
グルッ、と踵を返しながら反転、バックステップ。
宙で逆さになりながら、今度は先端を向けるカブト。
今あるエネルギーを一旦ひっこめ、今度はそれを螺旋の疾風として撃ち出す。
この至近距離。放てばお前も無事では済まない――――――
「マキシマムハイパーサイクロン!!」
ガンモードになったパーフェクトゼクター。
だが、それを向けて引き金を引いた瞬間、それを通してカブトの手に衝撃が伝わった。
ゼクターの切っ先が逸れたのだ。
瞬時の判断でそれを蹴りあげたマンティスによって、ドームの上に向かってそれが逸れたのである。
最上部の客席を抉り取り、天井と屋根の一部を消し炭にして、それは延々と伸びていき、軽い放物線を描いてついに、東京タワーの先端付近の一部を軽く消し飛ばした。
「ッッ!!?」
「いいぞ・・・その足掻き!!貴様らのことは我々の歴史に永遠に刻もう。そして、やはり証明された。人類は、どうしたところで我々には勝てないとな!!」
マキシマムハイパーサイクロンは、逸れたとはいえその近くにマンティスはいたのだ。
しかし、無傷ではないはずのマンティスは尚もカブトを圧倒する。
《《HYPER CLOCK UP》》
ブシュッと、その発動と共に二人の姿が消える。
そしてその二秒ほど後に、マンティスの肘打ちを胸部に食らい、はじけ飛ぶカブトの姿があった。
ダァンッ!!と背中をしたたかに打ち、ズルズルと地面に落ちるカブト。
それを、肩で息をしながら見つめるマンティスは静かに息を吐き出す。
「さて!!では幡鎌の居場所を教えてもらおうか!!」
そう言って、決して悠々ととはいえない足取りで、それでも堂々とガタックのほうへと向かう。
足元に、ガタックが先ほどと変わらない体勢で倒れているところまで近づき、どうだ?と聞く。
だが、割れたマスクの下の顔は、力なく笑い吐き捨てた。
「言ったろ。勝手に探せ」
「そうだったな。ではそうしよう」
マンティスはそういって、カチャリとツインスライサーを取り出した。
大鎌のサイスタイプだ。
その刃をガタックの首の後ろに回し、胸に足を当て押し付ける。
何か言うことはないか?と、最後に聞いた。
「お前の言葉だ。残しておいてやる」
そういうマンティスは、敵に対する敬意があった。
人類は未だに自分にも劣る下等なものだが、その中にはこのような自分の敵に匹敵するものがいると知ったのだ。
「故に、人類にも繁栄の道は残しておいてやる。我らネイティブの下で、飼われるという形だが。今の牛や豚も、人に飼われ搾取される代わりに、その種を永らえさせているだろう?」
そう言い放ったマンティスに、ガタックは軽く笑った。
そして、一言だけつぶやく。
「左だ」
「なに?」
その一言に反応し、律儀にガタックの左側を見る。
すると、彼の後頭部に重い一撃がドスンと叩き込まれて吹き飛んだ。
「お前の、左だ・・・・」
「加賀美さん!!」
「一刀君・・・・助かったよ」
天道の脱出とともに見張りのいなくなった一刀が、その拘束を解いて彼を救ったのだ。
だが、窮地というのは変わりない。
ガラガラと崩れる地面の中から、マンティスが静かに現れる。
瞬間、ダゴォ!!という音と共に、マンティスが何かを握り捕まえて頭上で叩き付けた。
緑色の「それら」は、ついに周辺のネイティブワームを倒し切ったパンチホッパーとキックホッパーだ。
クロックアップのまま彼らはこの場に飛び込み、マンティスに奇襲をかけていたのだろう。
だが、なんということか。このマンティスは、その彼らの首根っこを掴まえ、シンバルのように頭上でお互いを叩き付けたのだ。
「グァッ・・・」
「グゥッ・・・!!」
「矢車さん!!影山!!」
「来ますよ!!」
ゴッッ!!と、次の瞬間には一刀の言う通り、彼のもとにマンティスは拳を突き出して突進してきていた。
とっさに取り出した剣でそれに対応していく一刀だが、あいてもまた 武器を取り出した。
ツインスライサー・シックルタイプの二刀流。
しかもワイヤーでつながったそれは、鎖鎌の速度で彼の制空権を覆い尽くしていく――――!!!
「クッ、チッ!!!」
ズドドドドドッ!!と、一刀の振り払った剣の一撃が、十五の刃となってマンティスに襲い掛かる。
劣化版ソラウス・キング・フィフティーンとでもいうべきその刃が、マンティスを追って地面に着弾していく。
しかし、一刀のそれはすべて回避され、逆に土埃の中を襲い掛かる鎖鎌を見失うことになる。
「ッ!!」
ボッ!と、一刀が直感でしゃがみ込んだ後を、ワイヤーで投げられた鎌が真横に振られていった。
さらに二撃、三撃とそれは襲い掛かってきた。
腕や足の、太い血管を狙った攻撃。
だがその中で、一刀は冷静に気を整え、己の剣に集中していく。
そして、目の前の煙が揺れた瞬間にそれを一気に解き放つ。
「流星剣ッ!!」
「ライダーキック!!」
ドゴォ、バチィ!!と、一刀の抜刀とマンティスの後ろ回し蹴りが正面からぶつかった。
鎖鎌の音でかき消されていた起動音だが、それがなくともこの反応。
その一刀の対応力に、改めてマンティスは驚愕した。
「敵」とまで認めるわけではないが、この男もかなりの力を持った人間のようだ。
ガァンッ!!と、押し負けた方が吹き飛んだ。
流石に流星の一撃。押し負けたのはマンティスだ。
しかし、一刀の右腕にはザックリと鎌が突き刺さっており、もはや右腕は使えまい。
「まさか・・・ここまでダメージを追うとは思えなかったぞ!!人類!!」
肩を抑える一刀。
倒れたまま動かないカブト。
立ち上がるも、膝が地面に付いて動けないガタック。
それらを見回し、一息つき、そしてどこともなくマンティスが言葉を放った。
「出てこい幡鎌。いるのだろう?今この瞬間も、この俺を倒せるのではないかとな」
「なっ!?」
マンティスの言葉に、ガタックは驚愕する。
そんな馬鹿な。
ここに来る前に、しっかりと話していたはずだ。
アイツは、幡鎌を狙っていた。
もしもここに彼が来ればマンティスの優位となり、そしてそれは自分たちの不利になると。
だから、彼には身を隠していてくれと言い、彼もそれに了解していたではないか――――!!
「・・・・やはりさすがだな。冠木」
「その名は仮だ。だがいいだろう。お前なら許すぞ」
「何を言っているのか。俺の仲間を殺しやがってさ」
どこに潜んでいたのか。
客席の影から、幡鎌がのそりとその身体を晒した。
コツコツと緩い階段を下りながら、アリーナに立つマンティスへと言葉を掛ける。
「まさか太陽の神、戦いの神のみならず、翼人まで倒してしまうとは」
「当然だ。俺は竜だぞ。雲上を渡り、空を駆けるドラゴンだ」
そういって、かの男のように天を指す。
ただそれは、そっ、と指す彼のようにではなく、ガッ!!と天を突くかのようなものだったが。
「人間ならば地べたがお似合いだ。天を往くのは龍である!!」
「だからオレ達ネイティブも、人間も、総ては等しく塵芥だと?」
「等しくとはいわない。ネイティブが上で人間は下だ。それが俺の国の階級制度だ。ただ一つの、な」
「天の階級か・・・・くだらないな」
「・・・・なに?」
幡鎌は嗤う。
確かに、言葉は震えていた。
だが、笑いではない。恐怖故にだ。
しかし、その声は間違いなく、目の前のライダーを嘲笑っていた。
「お前は、そうやって階級を定めようとする。そんなものは、お笑い草だ!!」
「人類に混ざり、安穏というなの怠惰に身を預けるお前が何を言う?これは支配に必要なこと!!」
「お前はただ怖いだけだ。混ざり合うのが怖いだけだ。変化するのが怖いだけだ。支配していないと怖いだけだ」
「俺が・・・怖いだと・・・?」
「天を往く、お前の国の階級?笑わせるね。天は自由だ。それを縛るのは人に過ぎない。お前は、ネイティブや人間にかかわらず、彼らの持つ「自由を追い求める心」が怖いだけだ!!」
「なんだとォ・・・・・」
だからこそ、彼らの同志もかつては恐れた。
こいつは確かに強大だ。
だが、その意思はいずれ我々の自由すらをも奪いかねない、と。
「その証拠に、どうだ!!ここまで目の前に来てお前は最後の目的を果たそうとしない!!怖いんだろう?お前は、変わってしまうことが!!変化が!!混ざり合うのが怖いだけなんだ!!」
「黙っておけよその程度で!!」
ダンっ!!と、幡鎌の目の前にマンティスが踊り出る。
ワナワナと怒りに体を震わせ、目の前の男を睨みつけた。
「人にも、ネイティブにも!自由などいらない!!階級に、俺に従えばそれでいい!!それで皆、実り豊かな天を往くことができる!!それがなえわからないのか矮小め!!」
ガッッ!!と、マンティスの腕が幡鎌の肩を掴んだ。
同時に、その部位から輝いて二人の姿が光に消える。
「幡鎌さん!!!ダメだ!!」
ガタックは叫んだ。
それが、何を意味するかを知っていたから。
「・・・・まさか!!やめろ!!」
カブトも叫んだ。
彼の脳裏によみがえったのは、病院で言われた陸の言葉。
『コマチグモ、という蜘蛛を、君は知っているかね?・・・・ま、彼は蟷螂だが』
コマチグモ。
この蜘蛛は、卵から生まれるとすぐにすることがある。
彼らが生まれるまで卵を守っていた、その母親の身体を食べてしまうのだ。
自分達の、エネルギーとして。
それはつまり、この場合に置き換えると
「お前を吸収し、このライダーシステムは最高のスペックを発揮する!!」
「このシステムは確かに、俺のデータを基に作られた。俺が変身すれば最も強くなる。だが、お前がおれを吸収すれば確かにそれでも結果は果たせるだろう」
「俺ができないとでも思っていたのか?まさか、弱った俺からなら逃げられると思ったか?倒せると思ったか?俺はドラゴンだぞ!!お前ら程度の並のネイティブ、この状態でも問題ではない!!」
ゴォオ!!と、凄まじい光とエネルギーの果てに、ついに幡鎌の身体がだんだんと消えていく。
その中で、マンティスは確かに感じ取っていた。
漲る力を、充填されるエネルギーを。
「幡鎌さん!!」
『嘆くことはない。加賀美君』
「え・・・・」
ガタックは再び叫ぶ。
すると、今度は声が返ってきた。
『私は、ネイティブと人類は必ず共存できると信じている。それは、これまでの安定した生活や社会を見ても確実なものだ。今はまだ軋轢があるが、それはいずれ消えると、私は信じている』
『私はね。混ざるということは新たな進歩を意味することだと思う。乱れるだろう。荒れるだろう。それを、冠木すら恐れた。だが、私はそれを乗り越えることが進歩だと思う。もちろん、望んで乱したりすることはまた別だがね』
『だから、私は「混ざること」「共にすること」「新たな何かを信じる者」として、この男だけは認められないんだ。そして、それが!!!』
「ガッ・・・!?貴様!?な、なにを・・・・!」
『それが、例えこの身を亡ぼすことになっても。それは、新たな世界を生み出すための、新たな一歩となると信じている!!!』
「幡鎌!!お前は・・・・あえて俺と同化することで、俺を抑え込む気か――――!!」
『そうだ。加えて、俺はネイティブにとって毒素となるものを体内に取り込んでいる。お前の敗北は決定したんだ』
「うぉぉおおおお!!!」
幡鎌の、命を賭けた、未来に投じる反撃。
その反撃にマンティスの身体がよろけ、客席からアリーナへと落ちる。
マンティス――――冠木にとって、この毒素よやらや幡鎌の抵抗は苦しくはない。
ただ、自らの求めた繁栄と栄光が崩れ去っていくことが、何よりも恐ろしく彼の心を折り、そして膝を折っていくのだ。
「はは・・・はははは!!確かにすさまじいな幡鎌。混ざるということは、これほどにも!!」
吠えるマンティス。
幡鎌は言った。彼の敗北は決定したと。
だが彼はそうは思っていない。
確かに身体の自由は効きにくいし、毒素もじわじわと浸透している。
しかし、この身に満ち満ちているエネルギーもまた、確かに存在する。
パワーアップは、確実に為されている!!
「この俺はドラゴンワーム。天を駆ける竜だ!!」
ゴォオ!!と、マンティスから黒い煙が噴き出した。
これが、ドラゴンワームの持つエネルギーなのか。
装甲を突き破り、ドラゴンワームとマンティスの混ざった形となって、一番近場の一刀へと遅い掛かった。
「グッ!?」
「ダァッ!!」
強引に振り抜かれた拳を、一刀は左腕を咄嗟に上げてバリアを張る。
理樹由来のバリアだが、一刀のコンディションの悪さも相まって容易に砕けてしまった。
その衝撃に弾け飛ぶ一刀だが、その瞳はマンティスのその拳と、踏み込まれた右足をしっかりと睨みつけていた。
「縛!!」
「グッ!?」
バラバラと散っていたバリア片。
それが、マンティスの右の手首足首に取り付き、幾本かの細い柱を地面に伸ばして固定した。
そこに、カブトが全身の力を振り絞って立ち上がる。
もはやパーフェクトゼクターは手に持てない。
だが、今はいい。
何回かベルトのボタンなどを操作するだけの力さえあれば、今はいい!!
《MAXIMUM RIDER POWER》《1、2、3》
「ハァ・・・ハァ・・・ハイパー・・・キック・・・!!!」
《RIDER KICK》
ゆっくりと、一歩一歩踏みしめてマンティスへと近づくカブト。
一つ一つの操作を、しっかりと、確実に、踏みしめるかのような動作で行っていく。
カブトはただ、これらを必死になってやっているだけだ。
だが、その動作が何よりも、マンティスの危険信号にアラームを鳴り響かせる。
バチバチと爆ぜるタオキン粒子が、カブトの右足へと集約されていく。
対し、マンティスは右半身が動かない状態。
だがしかし、今のこの身体ならば。ライダーシステムの操作はなくとも、生まれ持ってのワームの力で対抗できる!!
「おぉおお!!」
「俺の勝ちだッ!!」
カブトの咆哮。
マンティスの宣言。
カブトの蹴りは、当たれば確かに自分を倒せる。
だが、そこに攻撃が入れば?
そう例えば、自分の口から爆炎弾が放たれたりすれば、直撃は避けられる。
直撃さえしなければ、次の一撃でこいつを倒せる!!
マスクが割れ、ガパリと開かれるマンティスの口。
ドラゴンの口とも思えるその闇の穴倉から、光とも思えるような高温の焔が躍り出る。
しかし、カブトはそれが見えていないのか。
ユラリと体の重心を傾け、左脚をしっかりと踏み込んでいた。
ググッ、と右足を溜める。
まるで足の裏が、何かで接着されているかのように、溜める。
そして、それが解放される直前でマンティスドラゴンの喉がうねり
「ぉぉおおおお!!!」
ザクッ!!!と、ガタックのダブルカリバーが顎を挟んでその口を閉じた。
マンティスの右斜め後方から、ワンステップで跳ねたガタックは飛来してきた。
思い切り体を捻って、半ば投げつけるかのようにそれを振るい顎を見事に挟み込んだのだ。
刃は食い込み、炎が吐き出せない。
ユラァ、とカブトの右足の踵が浮き、最後の砦と言わんばかりに、そのつま先が地面を蹴って放たれた。
ダゴォッ!!
「ぐぉぉおおおああああ!!!」
「ぁぁあああああああああ!!!」
グォォッ!!とカブトが、全体重を右足に預けた。
更には、右手でその太ももを掴んで押し込んですらいる。
「俺は天の道を往き、総てを司る・・・・だが天においては、誰もが自由。そこへ階級や支配を持ち込む時点で、貴様は負けていた。俺は、皆を自由な世界へと導く!!支配など、必要ない!!!」
ググッ、とマンティスの身体が傾き、ストッパーだった一刀の拘束にひびが入っていく。
その状況で、冠木が叫んだ。
瞳に映るのは、目の前の太陽ではなく、蒼き戦いの神で
「おのれ・・・・オノレぇ!!貴様は・・・やはり、俺の敵・・・・ッ!!!加賀美っ!新ァァアアアア!!」
バキン!!と、一刀の拘束がついに砕ける。
ストッパーだったそれが消え、マンティスの身体が勢いよく蹴り抜かれ、身体がすっ飛んで行って客席下へ。
そして、マンティスの装甲がはじけ飛び、その口内のエネルギーも相まって、凄まじい爆発を遂げて木端微塵となって消え去った。
やはり、奴も死ねばワームか。
あの独特のギュゥゥン・・・という爆発の余韻の音と、緑色の炎をパチパチを上げている。
「はぁ、はぁ・・・や、ったな・・・・」
「ああ・・・・」
ドサリと、腰を下ろしてその場に座り込む二人。
少し離れたところには、変身を解いた矢車、影山と一刀もいる。
「幡鎌さん・・・・・」
「嘆くな。彼は、立派な男だった」
「ああ」
そうして、その場を後にしようとする一同。
だが、後方から風がした。
五人は振り返った。
ここは室内だ。
確かに穴は空けたが、後ろから来た風はそんな感じではなかった。
濁った緑色の風が、何かのエネルギー破を纏ってその場に満ちたのだ。
ブァッ!と広がったそれは、矢車と影山によって撃破されたネイティブたちの燃えカスや残っていた炎に流れ込み、その体を次々と再生させていく。
だが、それ以上に彼らは恐れていた。
振り返った先。その先に居るのは、きっとあいつだ。
あの男は、爆発し、変身すら解けた。
だが体の一部が燃え、消滅していきながらも、今だに絶頂たるエネルギーを蓄えていたマンティスゼクターを噛み砕いたのだ――――!!!
「ゴルぉォォォオオオオオオオオオオ!!!」
それは、咆哮。
雄叫びではない。絶叫でもない。
大地に着くは四肢。
そして巨大な、太い尾。
バサリと広がった翼は悪魔の如し。
肉体は黒く、全面が鱗に覆われて光沢を放っている。
瞳は異様にギラついて、赤一色に染まって理性の欠片も見られない。
それはまさしく、ドラゴンだった。
龍、ではない。
こちらの意味では、それは神として崇められる存在だ。
この場合の竜はまさしく、破壊や破滅、悪魔の象徴として描かれた幻想の化物。
「ガアァァァアアアルルルルァァアアアアア!!!」
ギラッ!と、その瞳が天道と加賀美を睨みつける。
周辺のワームは、こいつの影響かドラゴンの因子を持って復活している。
「ここは俺と天道がいく」
「お前たちは、周辺の雑魚を任せる」
加賀美と天道の言葉に、矢車と影山は頷いた。
自分たちは影を生きる者。ならば、その程度の梅雨払いはむしろ光に近いというものだ。
「じゃあせめて、これくらいは回復してください」
そういって、一刀は観鈴やシャマルの力を借りて、最低限二人の身体を回復させる。
そして五人の体勢が整ったところで、ついに敵は動き出した。
「行くぞ!!!」
それに合わせて、五人も動く。
邪竜降誕。
戦いは、一旦交錯する。
to be continued
後書き
えー、なんといいますか・・・・
実はカブト編、終了ですよ!!
天道、加賀美
「「んなにぃ!?」」
そう、これは・・・・例えるならば!!!
~~~~~
士
「オールライダー最強フォームでドラスやっつけたぜ!!」
ユウスケ
「ディケイド編、完!!」
海東
「ちょっと待って。マンモスメカが」
「「「うわぁー!!」」」
みたいな感じですね。
そうです。
今回の最終戦は、他のライダーとクロスします。
したりしなかったりですねー、ホント今回は。
ちなみに次回はファイズ編。
実を言うと、ファイズ編はめっちゃ短くなると思うんです、私。
巧
「は?そうなのか?」
ええ。
なんせ敵のライダー、強いっちゃ強いけど、変身者はただのチンピラだから!!!
巧
「・・・・」
三原
「・・・・」
海堂
「・・・ンだよ。何で俺見んだよ!!」
いえ、海堂なんかよりもっとあれです。
脈動編みたいな「新たなる者達」に出てきたあのあんちゃんですよ?
蒔風
「あー」
ショウ
「あー」
ではこの辺で。
やたらめったら長くなったなァ・・・・
カブト編は難産でした。
海堂
「次回。ン?なんだオメェ」
ではまた次回
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