とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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remember memory
ep.0002 remember memory 騎城&七草 前編
前書き
どうもお久しぶりです。
「最低で最高なクズ」のほうに力を入れていて
中々こっちに来れそうにないので
気分転換も込めて急に過去の話を書きます。
メンバー全員分書くことを一応の目標にしてます。
空は今日も暗い。
当たり前と言えば当たり前か、だって俺に見えているあれは地面であって空じゃない。
ここは第0学区。
ここにいる俺は根本的に生きることを望まれていない。
平穏な天井に対して地下はまさしく地獄だ。
「いや、これでもまだ平和な方だわな。」
つい独り言がこぼれた。
本来なら誰も触れないと思うが、俺に過剰にコミュニケーションを取ってくる奴が一人いる。
「どうかしましたか?」
七草花夜だ。
自分から質問しておいてやや恐る恐るしているのが俺からすれば不思議なわけだが、俺は答えた。
「いやな、ちょっと昔を思い出してた。それだけだ。」
「............まだ、死体の臭いが離れませんか?」
彼女がまた不安そうに質問してくる。
俺はそんな彼女を少しでも安心させようと彼女の頭の上に手を乗せて髪の繊維をなぞるように撫でてやる。
彼女は目を閉じてそれに従うような素振りをする。
すると彼女はクスクスと笑い出す。
どうかしたのかと思った矢先、彼女が俺にこう言った。
「そう言えば昔もこうして優しく頭を撫でてくれましたね。いえ、あの時は少し乱暴でしたか?」
「フフッ....さぁな。」
彼女がそんなことを言うのには訳があった。
振り返れば10年以上は前の話かも知れない。
◆◆◆◆◆◆
約10年前。
俺は腐敗区のスラム街のような路地裏で暮らしていた。
まるで戦争後の廃墟のような今にも倒壊しそうな建物たちの隙間、その僅かな闇の中には動かない肉塊どもがゴロゴロと転がっている。
なぜ肉塊なんて表現をするのか。
それは単純だ。
彼らは葬られることがない。
やがて本当の意味で自然に還っていく。
地中のバクテリアだのなんだのに綺麗に消化されるのをただ待つだけのあれは本当に憐れな肉塊だ。
グゥーッと腹の音が鳴る。
空腹だと俺の体が俺に告げている。
じゃあ食べ物を取りに行こう。
無論、取引できるような金なんてない。
奪うことが全てだ。
こんな死臭漂う腐敗区にも食べ物を売る奴らがいる。
ほとんどの奴らがそんなもの買う金もないってのに、よっぽどたちの悪い悪徳商人たちだ。
俺はそんな奴らから食べ物を奪う。
奪ってでも、食って命を繋げなければならない。
2、3時間くらいしてもとの路地裏に帰宅する。
手には2つのパンが握られていた。
勿論、2つとも俺が食べるパンだ。
1つを手に取り貪るように食べる。
バターも何も付いていないシンプルなコッペパンだが、腹を満たすにはこれほどのご馳走もない。
ここには死体を貪る輩もいる。
そんなグールみたいなものになりたいとは思えない。
もう1つのパンを懐に入れて俺は眠りにつく。
このパンは俺の明日の命を繋ぐ糧だ。
翌朝。
ヌルっと起き上がる。
原因は鼻につく死臭のせいだ。
こんな劣悪な環境の中、少しでも眠りに付ければ幸運な方だろう。
焦点が定まり思考も働き出すと、俺は妙な感覚を感じて懐に手を入れる。
懐に入っていたパンを見ると3口ほどかじられていた。
「はぁ!?」
衝撃だった。
普通は取り出す時点で気付くと思った。
全く気付くことはなかった。
地面には申し訳程度に「ごめんね」と書かれていた。
仕方なくその日はかじられた残りのパンを食べて、あとは何もせずにひたすら眠った。
翌朝になると俺の懐に妙な感覚がある。
探るとパンが1つ入っていた。
俺は初め、理解が追い付かなかった。
だが地面には「お返し」と書かれていた。
俺は何を思ったのか、そのパンを食べると、地面に1つのメッセージを残した。
「ありがとう」
その次の日も目覚めると懐にパンが入れられていた。
俺はそのパンを食べて、今日は食べ物を奪いに行った。
その日の収穫は赤くてちょうど食べ頃だと思われるリンゴ2つだった。
俺は1つを食べて、もう1つは敢えて懐に入れた。
そして地面に「お返し」とだけ書いてその日は眠った。
翌朝になると、懐にはリンゴの代わりにパンがあった。
そして地面に「ありがとう」と書かれていた。
その時、俺は初めてこの何も知らない誰かとコミュニケーションをとったと実感した。
ある日のこと。
近くで物音がする。
ただの物音じゃない。
金属と金属がぶつかって弾き合う音。
近くで誰かが戦っているのか。
すると、頭上から人が一人落ちてきた。
随分鈍い音がして、多分首の骨辺りもやったのだろう。
落ちてきたソレを死体だと理解するのは案外早かった。
よく見るとソレにはナイフが2本突き立てられていた。
その刀身はまるで命を吸い取って、本来の鋭さを保っているように見える。
そのナイフからユラっと緑がかった瘴気が見える。
いや、この場合オーラと言ったほうがいいか。
不意にそのナイフが欲しくなった。
グサッと引き抜くと何だか妙な気分に陥る。
初めての得物に高揚感を隠せないからなのか、そんなことはどうでも良く、ただ夢中になって転がっている肉塊どもを解体していった。
今思えば、この時の俺の顔は正真正銘、獣のそれだっただろう。
俺は疲れきって眠りについた。
翌朝。
何だか今日の眠りはやけに深かったように感じた。
疲れ切って寝たからだろうか、いやそうじゃない。
本当は分かっていた。
ストレスを発散したからだ。
刃を突き立てる感覚があれほどまでに快感だったとは。
そう思った時、既に俺の中に巣食う鬼が今までの俺を掴み、飲み込もうとしていた。
そして、その鬼が俺にこう告げた。
『生きている人のほうがもっと楽しいぞ。』
その言葉を聞いて俺は引きつった狂気の笑みを浮かべ、ユラユラと路地裏から出てくる。
不意に目に入ったのはいつもいつもこの近辺でパンを売る悪徳商人だ。
俺はその後、しばらくの記憶がざっくりと飛び、次に記憶に焼き付いたのは辺り一面に広がるおびただしい量の血液と、元々は人だったであろう肉塊だった。
その時俺は悟った。
俺はもう普通の人でいられなくなってしまった。
だが、そんな後悔はすぐに消えた。
そして湧き上がった感情は......。
『どうせ壊れるなら、もっと無様になろうが同じだ。』
後書き
騎城、七草編は長くないので
2話、良くて3話くらいだと考えています。
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