とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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second contact
ep.049 リーダーとNo.1
徐々に地面に近付いていくビル片の上で2人は向かい合っていた。空斗は勝哉に聞きたいことがあった。それはもちろん、あの襲撃の後のことだ。
「お前、あの時ビルごと沈んだんじゃなかったのか?」
おまけにJAM加工の入った弾丸まで受けていた。すべて勝哉の能力を理解した上での作戦だった。普通なら仕留められるプランだと思った。それでもこの男は生還してきたのだ。現に死んだと思っていた男は今、目の前で立ち塞がっている。
「なるほど。確かによく考えられた策だった。特別に君には僕の秘密の1つを教えてあげよう。」
「秘密だと?」
「僕は普段能力を防御に使っていてね。僕が操作できるのは生物以外のすべて、ならば空気だって僕が操作できるものの1つだ。戦闘以外は僕の体の周りに薄い空気の膜のようなものを展開して、見えない鎧を着ているような状態にしている。」
つまり、あの時勝哉の頬をかすめたと思われた弾丸は極薄の空気の膜に沿って通過していったのだ。勝哉は能力が使える状態だった。
だがもしそれが真実ならば別の問題が出てくる。なぜ能力が使える状態にも関わらず、あの沈むビルの中に残ったのかということだ。勝哉の能力なら幾らでもその場から撤退する手段があった。
それどころかビルが地面に飲まれるような事態がまず発生しなかっただろう。それでも万に一つ生きていた時のために、瓦礫の山をsubjectに見張らせていたんだが、昨日まで何者かがそこで目撃されたという情報は一切来なかった。
今日に至っては情報そのものが回ってこなかった。従順なsubject故にそれには理由があるんだろう。object以外にsubjectを動かせる奴はそう多くいない。objectの誰かが指示を出したのかあるいは他の組織に工作だの交渉だのをされたのか。
(僕の動きを完全に封じるためにsubjectを動かしていたのは知っていた。だが今日に限ってその見張りはいなかった。)
◆◆◆◆◆◆
ー同時刻ー
戦場となった館から数百メートルほど離れた地点では観測者が戦況を観察していた。勝哉が戦場に到着して戦況は大きく変化した。
「これで勝ちは決まったと見ても良い。ん?」
観測者の隣に時空の歪みのようなものが出現し、そこから一人の青年が現れる。もちろん観測者は青年の正体もすべて理解している。だがすべてを理解してもなお、この青年にはまだ底があると思えてしまう。
「やけに仕事熱心だ。この対決の結果を今度はどこの組織に伝えるんだい?君のことだから優秀な組織とのパイプは幾つもあるんだろう。」
「ハハッ...アナタも面白いことを言うんですね。てっきり観測者ばかりで中身の薄い人だと思ってました。」
青年の言葉にはその一音一音に闇よりももっとドス黒い何かが含まれているような感覚がする。それは『悪意』などで表せるほど単純ではなく、そもそも含まれているものが闇で済まされるかすら分からない。
「この情報は組織の規模の大小に拘らず、どの組織に対しても有効な情報になりますよ。何せどちらも第0学区において強力な組織の一角だ。負ければ他の組織は負けた方から強者の称号を奪うために戦争を仕掛ける。それに便乗して他の組織も動き出す。多くの組織が動けばより情報を売る機会が増え、こちらは情報という力を持って強者の一角を奪い取れる。」
観測者はそれを聞きながら半ば引いていた。つくづく善意のないこの青年が考えるのは治安も秩序もない荒廃した世界だ。
「まぁ、強いて言うならば野口くんには負けて欲しくないですかね。一応、ライバルみたいなものですから。」
「君が考えていることに私的な興味は示さないよ。あくまでも観測者だからそれに徹するまでた。」
自分の役割は自分が一番理解している。自分というシステムは抑止力として機能するわけではない。その本質はあくまで観測者。
「それは無関心な態度とも取れますね。確かにアナタは観測者としては一流だと思いますけど、観測ばかりで手を加えようとした時には既に手遅れになっている。なんてことにならないように注意してくださいね。」
青年のその言葉を聞いて少しばかりの沈黙が続く。そして再び観測者が沈黙を破る。無論青年も何について説明すべきなのかは理解していた。
「そう言えば野口くんは昨日までsubjectによって監視されていたと聞いていたが、君はどうしてだと思う?」
「あぁ、アレですか。俺が手を回したんですよ。あの組織とは割と長い間取引を続けています。objectという看板の下で独自にビジネスを進める。本当に彼らも狡猾だと思いましたよ。珍しくこっちから契約を申し出た。」
「その結果として今回も彼らを動かすことに成功したというわけかい?」
「まぁそういうわけです。長年取引を続けているから分かることですけどsubjectはobjectに100%従順なわけではない。『脳ある鷹は爪を隠す』っていうことわざの通りに、彼らは本領発揮していないだけ。」
そう告げるとさっきまでしゃがんでいた青年は立ち上がる。どうやらもうここに残る意味はないらしい。
「最後まで見届けないのかい?」
「観測者であるアナタならその意味はあるかも知れませんが、情報屋である俺には無意味ですね。結末が分かっているなら次の情報を探りに行きますよ。」
再び時空の歪みらしいものが現れ、青年はその中に飲み込まれていく。登場の時と言い二度もこの現象を見るということはそれが彼の能力なんだろう。
「たとえ求めていない情報であっても、俺の組織にやってくる。時間の問題ですよ。」
青年がそう言い残すと時空の歪みのようなものがピタリと閉じ、まるで彼が最初から居なかったかのような状況になった。
「はぁ....何が彼を突き動かすのかは、私情を挟んだ上での観測になる。それは私の役目には相応しくない考えなのかも知れない。どうであれ、君という存在とはいつか対峙する気がする。」
◆◆◆◆◆◆
「戦況は傾いた。戦うのではなく交渉によって決着をつけないかい?これ以上の被害はどちらにも無意味だ。」
「そいつは有益な話だな。けどな、もっと有益な話もあるんだぜ。なんだと思う?」
空斗はそう言うと拳を構えて戦闘態勢になる。勝哉もコートから取り出したハンドガン2丁の引き金に指をかけて呼吸を少しずつ弱くして、やがて呼吸が止まる。
集中力が絶頂に達した瞬間に勝哉は引き金を引いた。空斗は合図を受け取ったように銃声を聞くと走り出した。1発目の銃弾を挨拶代わりに回避して、速度をさらに上げて勝哉に向かってくる。
勝哉は冷静に銃をリロードして2丁のハンドガンからそれぞれ一発ずつ発砲する。空斗はそれを右に回避するとそのまま弧を描くように接近してくる。
勝哉は空斗の足を狙うように右手に持つハンドガンを続けて撃ち続けるがどれも当たる気配がない。そう判断した勝哉は右手のハンドガンを投げ捨て、コードの袖口からある物を取り出す。
空斗はあっという間に勝哉の目の前まで辿り着いた。走る際の速度を残したまま、蹴りを食らわせようとするが突然壁が出現して行く手を塞いだ。
(ちっ、面倒なことしやがって。)
空斗は勝哉にぶつけるつもりだった蹴りを壁の破壊に使った。壁は驚くほどあっさりと砕け去り、防御として展開したにしてはどこか違和感を感じた。
案の定、壁を破壊するとその奥からバチバチと音を立てながら何かが起こっていた。空斗はそれに異常な何かを感じて上体を大きく後ろに反った。
その直後に空斗の少し上を何かが凄まじい威力と速度で通過していく。直撃していれば良くて負傷、最悪の場合死んでいた。
「やっぱり簡単に倒れはしないか。」
(今のは地上の3位のやつか。しかも本物よりも撃つのに時間が掛かっていない。)
(まだ彼は能力を使っている感じがしない。神薙くんみたく感覚で戦える戦闘のセンスが高い相手だと苦戦せざるを得ないな。)
勝哉は右の袖口からサバイバルナイフを出すと、それを逆手に持って空斗に接近する。近接攻撃をメインとする空斗はナイフが届く間合いまで接近を待つと、ゼロ距離での肉弾戦が始まる。
空斗は次々にやってくるナイフをそれを持っている相手の手首から捌く。素早く的確にナイフを持つ手首を捌くその技量は悠持に引けを取っていない。
『コイツ振ってるだけで狙ってねぇな。』
『戦いながら動きを読んでいるようだね。神薙くんの身体能力に桐崎くんの頭脳が合わさった感じだ。』
勝哉はナイフのみの攻撃に見せかけて咄嗟にコートからハンドガンを取り出し、空斗の頭を至近距離で撃ち抜こうとする。
空斗は自分に銃口が向けられているのを瞬時に理解するとバランスを崩したかのように体を捻って、足をしなやかな鞭のように使って銃を手から弾き飛ばず。
空斗は次の相手の出方を見るために距離を取り、勝哉も等しく距離を取った。
「お前、俺を倒すために来たのか?」
「なぜそんな質問をするんだい?僕は普通に戦っているだけなんだが.........。」
「へぇ...さっきのナイフには殺気を感じなかった。足止めのつもりなら無意味だぜ。俺の能力は物体との位置関係を入れ替える能力。そこに人や物は関係しない。」
後書き
長く続きが出なくて申し訳なかったです。
なんとか更新出来ました。
次回もお楽しみに。
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