ナニイロセカイ
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*空想の世界
コンクリートジャングルという名の教室でやっと見つけた、魂で繋がる友人ソウルメイトと呼べそうな白兎)(スライム()
でも白うさぎは狩人の手によって生け捕りにされてしまいました。
――さようなら白うさぎ。こんにちは絶望の教室。
武器も楯も戦う気力すらも、何もかもを失ってしまったわたしにはもう、この教室に居続ける勇気はありませんでした。
瞼を閉じても
耳を塞いでも
机の上に俯せになっても
みんなはわたしの目の前から消えてはくれません。みんなのひそひそ話が聞こえなくなることがありません。
見ないように、聞こえないように、ってアイマスクしたり耳栓したり、色々試してみたけど頑張れば頑張る程、耳障りな雑音が増えて行くような気がするのはどうして?
冷たい異物を見る目がわたしの身体を汚します。
クスクスと笑う声がわたしの心を抉り傷つけます。
隠しているつもりなのか、隠すつもりなんてなくて聞こえるようにわざと大きな声で言っているのか、もうわたしには分からない。
感覚が麻痺してしまって分かりません。どうしてみんな畏敬の目でわたしをみるの?
どうしてみんな――
それを訊ねてみても答えてくれる人はいませんでした。誰も彼も見て見ぬふり。
もう疲れたよ。心の中で抱えている闇を吐き出すようにそう言うと、わたしはこれ見よがしに机の上をバンッと強く叩きました。
「それで……ハッ?」
当然そんな目立つことをしたら、楽しそうに雑談を楽しんでいたクラスメイトたちの視線を一身に集めることになります。
実際、獣たちがわたしを不審そうな目で見ています。でもそれも数分の我慢、だって……。
「……でさあ、龍馬がねー」
誰もわたしの事なんて興味ないんだから。
みんなすぐに友達との雑談に戻り満開の色とりどりのお花を咲かせています。
向日葵、百合、鈴蘭、紫陽花、金木犀、色とりどりの色々な花が教室咲いて綺麗……? 知っていますか? 綺麗な薔薇には棘があるんですよ。
すっごく痛い棘にはもしかしたら、毒があるかもしれませんね。致死量を軽く超えてしまう猛毒があるのかも。
楽しそうに話すお花さんたちの声に溶け消えるようにわたしは教室の中からそっと出て行きました。
ここはわたしの居場所ではないような気がしたから。マンドラゴラのわたしが綺麗なお花さんたちと一緒に居てはいけないような気がしたから。
でも教室の外だって同じ。似たようなもの。
休み時間だからみんな他の教室か廊下に集まって通行止め。ああ……邪魔だな。どけてくれないかな? そう思いながら楽しそうに喋る彼らの僅かな隙間をくぐり抜けて窮屈な校舎から脱出!
……と、思ったけど。
やっぱり校舎も校内もそう変わらなかった。邪魔な獣が同級生から上級生に変わっただけでした。
……なんだつまらない。
不意に零れた呟き。
どこかに行きたい。でも自分の教室以外良く知らない。
勝手に動いているわたしの足はどこへ向かって歩いているの? わたしはどこへ行きたいの? わたしの行きたい場所? それは――
――ここではないどこか遠くへ。
ミーンミーン。
元気に鳴いている蝉さんたちの声が頭上高くから聞こえて来ます。
ここはどこだろう?
意味もなく、あてもなく、彷徨歩き続けていると古びた校舎に辿り着きました。
古い木の香りがする木造校舎。窓ガラスはひび割れていて、所々ガタがきてそうで緑色の苔こけもあちらこちらに生えています。
校舎脇に置かれている鉢植えには、多分紫陽花が植えてあったんだと思われる鉢植えが置いてあって、その傍に茶色いカピカピになっている蔦が絡みついた棒と、網がかけられていました。
緑のカーテンじゃなくて、茶色いカーテン? ……ぷっ、と笑いがこみ上げてきました。
ぐるっと校舎の周りを一周して見てみたけどここはもう使われていない、旧校舎と呼ばれているみたいです。
耳を澄ましてみても聞こえてくるのは、遠くの方で楽しそうに笑っている獣(生徒)たちの声、蝉時雨只それだけ。
手入れがされていなくて、放置されている感があって、立入禁止と書かれた看板が落ちている、ボロボロの旧校舎。
やっと見つけたかもしれません。わたしの居場所。
躊躇ちゅうちょすることなく引き戸の出入り口を開けて中へと入ります。本当は運動靴から上履きに履き替えないといけないんだろうけど……床の木が腐り穴凹だらけで、割れたガラスが散乱している廊下を素足とか、底が薄い上履きで歩くのは危険だと思います。
足の裏が真っ赤になるだけじゃおさまらないかもです。
一歩踏み出すとキィと面白い音を鳴らす床。もう一歩足を踏み出せば、グダンッ。床が抜けます。思いっきり抜けて、転げてお尻を打ってすっごく痛いです。
これは……思っていた以上に慎重に歩かないといけないかもです。全身落ちてここでオワリを迎えて、さよならするのは嫌ですから。
奥へ行きすぎるのは危険と判断し、手短にすぐ傍にあった空き教室に入りました。
やっぱり窓ガラスは割れているし床は穴だらけだったけど、黒板には相合傘とか、文化祭楽しみとか、昔この教室を使っていた人達の楽しかった思い出の落書きが残してあって、机は教室の奥の方にきちんと積み重ねられていて頑丈そうな金具で縛られているから、落ちてくる心配はなさそうです。
机はきちんとしまわれているのになぜかセットの椅子が教室に無造作に放置されているのか、少し不思議だったけど今はそんなのどうでもいいです。
入口近くにあった椅子を手前に引き寄せて、よいしょっと座り一休憩です。
こんな誰からも忘れ去られてしまったような旧校舎の教室、やっとわたしだけの世界が創れました。一人の世界でぽつんと一人でいるのが一番楽でいい、ここならじゅっちゃんのような諸刃の剣に会わなくていい、まさかこんな寂れた場所なら誰かが来てこの世界を邪魔するなんてありえな……。
「先客ですか~。珍しいですね~」
……い。と、思っていたのに誰かが入って来ました。知らない男の子がわたしだけの世界に不法侵入してきました。
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