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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第七章 C.D.の計略
  出会う絶鬼



ザフッ、と

ウォプタルの足が、草を踏みしめて停止する。
腰を下ろしたそれから、ハクオロとトウカが地面に降りた。

バイクに乗ったショウとヒビキが、その後ろでエンジンを切って停車させる。


「ここか」

「です、ね」


時刻は午後の三時。
彼らは目的地に到着した。


ヒビキとショウは、この先に何があるのかを知っている。
なまじ知っている分、緊張が高まっていく。

ハクオロとトウカは知らない。
知らないが、それでも予測することは容易だった。

それほどの魑魅魍魎の気配。
森の獣だとか、そういうものではない。生きて動いている姿形だというのにそれは、命を喰らい、否定し、滅ぼす存在。


それを察知して、ハクオロはかつての戦いを思い浮かべていた。
自らの半身である、もう一人のウィツァルネミテアとの戦いを。

あれもまた、命の繁栄のために戦いを求めた存在だ。



絶鬼も、この世界を救おうと立ち上がった人間なのだろう。
過去のオロチ現象に対し、自らの命を投げ打ってでも鎮めたところからして、その信念と覚悟はとても尊く、得難いものであることは想像に難くない。

だが、それはねじ曲がってしまった。
元々持っていた彼の悪寄りの正義感は、更生したとしても彼の根幹部分として根付いていたのである。

それが、200年間の悪気によって浸食され、復活した彼はあのような状態となってしまった。


今の世界は、確かに平和だ。
だが絶鬼が死んでから200年。人類にいったい何があったか。


侵略。戦争。弾圧。不況。

裕福。平和。自由。栄光。


片方が大きなほど、もう一方はまた多くなる。
誰かが得をすれば、損をする人が出てくるのだ。

彼はそれらの、被害者であるともいえる。



「でも、止めなきゃならないだろう」

「ああ。この世界はまだまだ、終わらせるわけにはいかないからね」



そう言って、木々を抜け、段々とそれが濃くなると森になる。
その中の獣道を通って行くと、その先に開けた場所に出た。


ススキの生えた草原、という感じか。実際の土の感じは岩山や荒野に近いが。
その中の、一段盛り上がった岩。それが大地の太鼓だ。

そしてその上に、一人の男が立っていた。



「絶鬼・・・・」

「来たか」


大地の太鼓。
その円盤状の岩の上に立つのは、トゥスクル城下町で見た侍の男だった。

だが今回は布が手に入らなかったのか全裸だ。
最も、下半身は真っ黒に染まっていてよくわからないことになっているが。


「下半身がすでに汚染されているな」

ショウの言葉にハクオロが目を凝らして見て見ると、何やら得体のしれないもので構成されていた。
しかも両足は左右へばり付いていて、もはや立っているというよりは「地面(太鼓)から生えている」というのが正しい表現だ。

グジュルグジュルとうごめくそれを見て、トウカの背筋がゾワッと震えた。
かつてオンカミヤムカイの地下で戦ったスライムを思い出したが、不定形というおぞましさ以上に生理的に受け付けない何かがあった。



「何故・・・邪魔を」

「鬼は人間を魔化魍から守るもんでしょ?」

絶鬼の絞り出すような、しかし苦しそうというものではない声に、ヒビキがさらりと即答した。

悩む必要もない。考えるなど無意味。そうあるのが当然だ。
自分たちの鍛えた体は、自分以外の人たちも救うために鍛えたのだから。


「自分を守るんなら、少し護身術を習えばいい。でも、オレ達はもっと多くの人を助けたかった。だから、そのために鍛えた。鍛えて、鬼になった。違うかい?」


元よりヒビキ――――日高仁志は、いじめられていた同級生を助けようとして、しかし何もできなかった自分に腹が立ち、もうあんなことにならないと猛士の門を叩いた男だ。
誰かの為、というのは、鬼になる以前に彼自身の願いであった。


それを聞いて、くつくつと笑う絶鬼。
ブチリと脚を開き、根付いていたような足の裏をも引きちぎって前に出る。


「某はな。もとより魔化魍という悪を滅するために鬼となったのよ」

絶鬼の魔化魍との初遭遇は、森の中でのことであった。
襲い掛かってきた山賊か何かを切り殺し、その怨嗟の力で魔化魍が生まれたのだ。

無論、一侍であった彼に敵うわけもなく、死の一歩手前まで行ったところを、鬼に助けられたという。


元より悪は許さぬと刀を振るった絶鬼―――絶之清は、より醜悪なる悪があると知り鬼になった。


あれから200年。
一度は、人を滅ぼすのは違うと思ったこともあった。

だが違う。
見よ、この化け物を。この醜悪さが、今の世がどのようなものかを表している。



人はより、賢くなった。狡猾になった。
人はより、強くなった。他者を制圧した。
人はより、多くなった。蔓延った。


人の悪性にキリはないのだ。
どこかで見切りをつけねば、この世界は悪に染まる。


「人々の悪意は消えぬ。ならば、某はそれを断絶する」

「う~ん・・・悪いところだけってわけじゃないんだけどね。人間も」

「一理ある。しかし考えて見よ。悪意なき人間が、この世に一人でも居るというのか?」


この男は、そこまで言うのか。


ハクオロやトウカ、ヒビキ一同が思ったことは、それだった。
確かに、人には悪意というものが必ずある。それはちょっとしたイタズラ心の時もあれば、とんでもない犯罪を企てることもある。

だが、それを理性で押さえ生きていけるのが人間だ。
それを止められなかったそんな人間に、負けてなるものかと立ち向かえるのが人間だ。


この男は、その改善すら待てぬという。
人が、わずかなりとも悪意を孕んでいるというのなら、そのほんのわずかなものが魔化魍となる。一片の欠片ほどの可能性だとしても、もはやそれは捨て置けぬということだ。



「まて!!お前はイブキという男と友だったはず。その男と共に過ごし、世界は滅するほどではないと思ったのではないか!?」

「イブキ・・・だと?」

そうだ。ショウの言う話では、この絶鬼という男はそれで丸くなったというのではないか。

だが話しておきながらなんだが、ショウ自身もよくその内容は把握していない。
何せ「奴」の時だったということもあるし、それに世界の情報を得てもせいぜいが「大半」である。つまり、得られない部分も存在するということ。


「お前はその、イブキとの約束も破る気か!!」

約束、というのはいわばハッタリだ。
だが、彼の生きていた時代性から考えて、そういった誓いの類は必ず交わしているはず。

そして、その見込みは当たっていた。
当たっていたが


「確かに、人は斬らぬと。某は懺悔し、イブキと杯を交わし誓った―――――」

「ならば」

「だが!!先に某を裏切ったのは奴である!!それをもって某は理解したのだ!!人は、どれほどの善であろうとも、容易に悪へと転がり落ちると!!」

キィ―――――ン・・・・・

「人は救いきれぬ・・・・悪は断じて許されぬ!!」

バシャバシャバシャバシャァ

「バァッ!!」

ドドンッ!!


「某は絶鬼。魔を、悪を、人の世を絶する鬼である!!」

絶鬼、変身。


それにこたえるように、ヒビキも前に進みながら指で音叉を弾く。

「でもそれだと、あんたも悪だけどなぁ」

「然り。故に世を浄化したのちに、某はこの命を絶する。それをもって、人の世の根絶と為す!!」


「そうか・・・じゃあもうこれ以上話すことはないな」

ボォッ!とヒビキの身体が炎に包まれる。
そしてその紫の炎をかき分け、当代において最強の鬼が顕現した。

「ハァっ!!」

ドドン!!

「さぁて、頑張っちゃおうかな!」

そして、気の抜けた掛け声。
それに合わせて、ズァズァズァ、と地面から魔化魍が、生えてくるように出現してきた。


周囲を囲まれる一同。
剣や武器を各々構え、背を預け合って中心に寄る。



「響鬼」

「おっと、あの絶鬼は俺に任せてもらうぜ?」

「・・・・・だが」

「あんたの責任だっていうんだろ?だけどな、ありゃほっておいても出てきたくちだ。それに、俺は一回やっこさんにブチのめされている」


借りを返したい。
つまりはそういうことだ。

ショウは引き分けのような形だったが、ヒビキは完封されていたのだ。

それに、相手は鬼。
ならば、自分が行くのがそれ相応というものだ。



「仕方ねぇな」

「ありがとさん。今度たちばなで何かおごるよ」

「・・・・甘いのは苦手だ」


それだけ言って、四人がぐるりと回って響鬼の正面に絶鬼を据える。


「オレ達はこの雑魚を屠る」

「腕が鳴りまする。聖上、ご無理をなさらぬよう!!」

「そうも言っていられる状況でもないがな」

西洋剣と、刀と、鉄扇を構えて打ち合わせる三人。
とはいっても、打ち合わせというほどの話し合いでもなかったが。


ザフッ、とススキの中に絶鬼が降りた。

そしてその中を掻き分けて、段々と加速してくる絶鬼に向かって響鬼が地を蹴った瞬間


「散!!」

ダッ!!と、ほかの三人も駆けだした。

敵は魑魅魍魎。
状況は悪霊跋扈。

しかし、その相手ならいくらでもしてきた。


「響鬼殿は大丈夫でしょうか!?」

「彼も最強の鬼だ。彼ならば、きっと」

「・・・・どちらが勝つにしろ、わかっていることは一つ」


両者ともに、大ベテラン。
熟練の技術を持った最強級の鬼。

ならば、そう手数の多い戦いにはならないはず。
戦いは短くなるだろう。


この戦いの要は、鬼の戦いに集約される。



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ガッ、ギぃ!!と、紫と濃群青の線がススキの中を駆け巡り、火花を散らして交錯する。

打ち合わされる音撃棒は、本来打ちだす厳かな音とは違い、重々しい剣戟に近い音を鳴らしていた。



「たァ!!」

「ハッ!!」

ドバシャァ!!と、お互いが放つ炎弾と水弾がぶつかり合って弾け飛ぶ。

さすがは両者とも、自然の中に発生する怪物を相手にしていることだけあって、その姿は完全にススキのなかに隠れている。
更に、その中を駆ける姿も獣のそれに近い。


おそらく戦場が森ならば、完全に姿を消していることだろう。

だが、二人はお互いに鬼である。
研ぎ澄まされた感覚は、なんとなくではあるが相手の位置を把握している。


打つ
捌く
流す
放つ

まるで蛇が張って動くかのように揺れるススキの中で、それらの行為が立て続けに行われた。


「響鬼、紅」

「絶鬼、蒼」


すると、そのススキのなかでボッという音とバシュッという音がした。
一点が強く光り、その中で響鬼と絶鬼がそれぞれ強化変身したことを思わせる。


重ねて言うが、二人の姿はススキに隠れて見えはしない。
ただ、二人は己の感性が命じるままに敵を狙っているのだ。


と、ススキの中の影がざわめき、その揺れが大きく回り込んで互いに駆けだすと、お互いに音撃棒を振り上げて同時に叩き付けた。


「「音撃打――――」」

「―――爆裂強打の型ァ!」
「―――水波剛滅の型」

ど、ドゴンッ!!


響鬼の強烈な音撃棒による強打。
右と左の、相互一回ずつの一撃が叩き込まれる。

同時に、絶鬼の水波剛滅も放たれる。
いわば絶鬼版「爆裂強打」だ。とはいえ、どちらが元ということになるとややこしい話ではあるが。


ともあれ、両者の強烈な一撃は、両者の同等の技がぶつかり合うことで相殺された。


静かにざわついていただけのススキ野原に、突如として出現した轟音と衝撃波。
響鬼と絶鬼を中心に15メートルは円形にススキが吹き飛び、ミステリーサークルのような跡になってしまった。


バリバリと、空間でも裂けそうなほどの衝撃波に、撃ち込んだままの姿勢で動けなくなって固まる響鬼と絶鬼。
下手にバランスを崩しては、吹き飛ばされるのは自分だからだ。


だが、そうしてその衝撃波も勢いを無くしていった瞬間。
最初に動いたのは、絶鬼だった。


膝の力を抜いて、がっくりと身体を落とす。
同時に響鬼の足を払い、崩れてくる響鬼に向かって墨を吐き出した。

顔面にへばりつけば、水で洗うなどしても容易には取れないものだ。
まず戦いの中では回復できまい。


だが、響鬼はそれに対して鬼火を放つことで打ち消した。
しかも絶鬼の墨に対し、響鬼の鬼火はわかるように炎だ。

つまり、弾丸である墨に対して、炎のほうは持続力があるというわけで


「グぅッッ!?」

墨を打ち消し、さらにその炎は絶鬼の顔面に届いた。
いきなりのその炎に、苦しそうな声を上げて転がる絶鬼。

だが、彼もそれだけで終わるわけがない。

転がりながら、音撃棒の先端から水を迸らせて水鞭とし、響鬼の腕へと振るったのだ。

ビャウッ!!という凄まじい音がして、響鬼の腕が千切れたかのような痛みに襲われた。



「―――――!!!」

一瞬本当に千切れたのではないかと思うほどの衝撃。
思わず斬られた左肩を抑えたのは、痛みのためというよりは腕が千切れていないかの確認だろう。

大丈夫。腕はある。
だがしかし、結構深く切られたようでそこそこの量の血が流れ出る。

鬼の状態であるならば、それなりに再生することはできる。
無論、それができる相手がどうかというのは、別問題だが。


「音撃打」

ザシィッ、と
地面に伏せたススキを踏みしめ、転がっていた絶鬼がその勢いの反動を使って踏み込んで響鬼へと向かった。


思わず避けようとする響鬼だが、投げ付けられた絶鬼の音撃鼓・水面鼓に身構えてしまった。


最初の夜に見たはずだ。
絶鬼の音撃鼓は、敵をしばりつけるのに自分たちとは違う手段もあるというのを。

ドンッ!!

絶鬼の一発が、音撃鼓に叩き込まれる。
すると、その面からブヨンと水があふれて飛び出し、響鬼の身体を包み込んだ。

ガボガボと暴れる響鬼だが、こうなってはこの水牢から出ることはできない。

これに包まれた敵は――――そう、あの時のウブメのように――――音撃鼓から伝って来る衝撃に、身を滅ぼされるだけなのだ。


「無想連打の型」

ドッ、ドン。ドドドドド。ドドッド ドドッド ドドンドドン―――――

一連の絶鬼の技とは違う、リズミカルな音撃が叩き込まれていく。
だがその派手さの足りない技とは裏腹に、響鬼の全身を襲う音撃の衝撃は、あの激流怒涛のそれをはるかに凌駕していたのだ。


(ガッ・・・グォォォォオぉおおおお!!!)

「ゴボゴ・・・ガボボォォォがぶぉ!!!」

鈍痛の叫びは、水泡となって消える。


どこが痛いなどと、考える暇もなかった。

頭は万力に絞められたよう。
内臓は中身が絡まって悶えているよう。
筋肉は内側から逆に吹き出そうとしているよう。

まるで皮膚一枚が、暴れだす中身が飛び散らないように必死になって耐えているかのような痛みだった。


だから、響鬼は考えなかった。
考えることができなかったというのが正しいのかもしれないが、とにかく動いた。

ジタバタともがいている様にしか見えないが、響鬼は彼なりに必死だ。
そして、そのうち腰のバックルに腕が当たった。

彼の音撃鼓・火炎包が展開され、響鬼の前に現れた。


本能か、それとも身体に染み込んだ反射運動か。
響鬼は音撃棒を取り出して、それを思い切り打ちならした。


響鬼の重々しい強烈な一撃は、絶鬼の音撃に負けることなく水中を走る。
そして絶鬼の音撃鼓にまで到達し、そこから空気を伝って銅鑼のように彼に音撃を伝えた。


「ムぉ!?」

驚いたのは絶鬼だろう。
こちら側から叩いていたと思ったら、いきなり自らの音撃鼓が振動してこちら側に音撃が流れてきたのだから。


しかし、驚いたのはそれ以上の事実。
絶鬼の全身を叩いた、響鬼の逆流音撃打。それに打たれた絶鬼は確かに感じたのだ。


彼の、咆哮を


『あんたイブキを信じてやらないのかよ!!!』

思えば、この時代にも当代のイブキがいるのだろう。
おそらく、この男は現代のイブキと友なのであろうな、と容易に推測した絶鬼。

ならば、と音撃棒を握り締め、彼もまた思いを音撃に乗せて叩き込んだ。


「信じるだと?先に裏切り折ったのは、あ奴の方よ!!」

『何がアンタをそうさせた!!イブキはあんたの考えを変えるほどの男だったんだろう!!』

帰ってくる返答。
全身を打たれているというにもかかわらず、よくもまあやるものだと絶鬼は皮肉を込めて笑う。


「我らは契りを交わした。我ら例え立場は違えど、久遠の友であると。決して見捨てぬ、時に血よりも強固な友情で繋がれた兄弟であると!!!」

「だが、某の提案を離したとき奴は何も言わなんだ。一言もだ!!何かを言おうとする素振りもなく、後々何かの説明もなく!!そして、某を捕えよという命のもとに、数人の鬼が某らを牢に送ろうとやってきた!!」

「某はその場を脱し、想いを共にする同志数名と共に儀式の場へと――――ここへと参った!!」

「その中で、某は見たのだ!!イブキは・・・・あの男は、某が逃げ惑う様を屋敷の上から見ておったのだ!!」

「奴は嗤っていたのだ!!友を信じ、うまくいくと話し合っていた某のことを、駆けまわる某を見て、嗤っていたに違いない!!」



『それは違うだろう。その時のイブキは、立場もあってあんたに協力したくてもできなかったんじゃないのかい?』

「それは後世に残った文献からの物だろう?そんなもの、奴らの都合のいいようにしか書かれていないに決まっておろうが!!」


確かに。
絶鬼の資料は、後半が破り捨てられて抹消されていた。
オロチ現象に関しても「公家の血が必要となる」とまで書いて、絶鬼の功績を奪い取った。


絶鬼は、あの地中にいながら知っていたのだ。
それが所詮、人という生き物の姿なのだと。

どんなものであろうとも、
行き詰めればその程度の浅ましさしか持ち合わせないのだと。


「人は救いきれぬ・・・・悪は断じて許されぬ!!」

『ふざけるなよ!!あんた、そういって自分の言い分だけで相手のこと全然わかろうとしていないだろう!!』

「至極当然!!相手を知ろうとし、あれほど親しかったイブキとて、その腹の一物を某は見抜けなんだ。ならば、一体誰のことをわかることができると申すのか!!!」




「絶鬼」




叫び、打ち、もはや響鬼の目も霞んできたころ。
静かな声が、疾風と共にやさしく絶鬼の耳に届いた。

誰だ!!と、絶鬼が振り返り腕を振るった。


水鞭が唸り、ススキを切り裂く。
ハラハラと散るススキの中が見え、そこから現れたのは一人の男性。


袴姿――――というには、少し厳かしい。
まるで昔の貴族のような正装だ。

烏帽子までかぶり、そのような仰々しい姿で現れたのは、イブキ――――公家の血を引く、彼だった。



「お主は・・・まさか・・・・」

絶鬼は頭を振る。
違う。あの男は、すでに200年前土に還ったはず。すでに死人のはずだ。

だが、そう思わせるにはあまりにも似ていた。
隔世遺伝という言葉はあるが、しかし、それを知っていてもなお似ている。


イブキを目の前にした瞬間から、絶鬼から周囲が消えた。
ススキのざわめく音も、周囲で暴れる魔化魍の咆哮や断末魔。爆発音。

それらすべてが消え去った。
彼の心はいま、200年前のあの時にあった。



今の彼には自分と、そして目の前の男だけが残っていた。


頭では当然、理解している
しかしそれでも、絶鬼はこみあげてくるものを抑えきれなくなりつつある。



絶鬼が目の前の状況と、おのれの中の何かと葛藤していると、イブキが何かを取り出した。

それは、何かの文か。
封筒ほどの大きさに畳まれたそれを、半ば投げるように広げて、それを読み上げていく。


「絶鬼よ。もはやお前はこの世になく、儂も間もなくこの世を去ろう。だが、たとえ主に届くとは限らぬとも、死ぬ前に儂はこの文を綴ることにした」

それは、懺悔の文。


煩いと叫んで、斬りかかることができた
黙れと吠えて、殴り飛ばすことができた
邪魔だと吐き、捻り潰すこともできた

だが、絶鬼は聞いた。
その言葉を聞かなければ、ならないと思った。


イブキの独白が始まる。



絶鬼はただ、それを黙って聞いていた。





to be continued
 
 

 
後書き

さすがに絶鬼は強かった。
ただ、負けられない意地っていうのは、多分響鬼さんのほうが上じゃないでしょうか。

蒔風
「あの状態で音撃叩き出すとかパネェな」


ここで彼の音撃紹介。

・無想連打の型
 一番最初に披露したモノですね。
 まあドコドコドコドコ叩いていくやつです。

・剛撃一破
 刀を振る要領で、音撃棒一本を音撃鼓に叩き込んで鳴らす技。
 ホームラーン!!もありですし、居合型や上段振り降ろしなど、振り方は様々。

・水波剛撃
 絶鬼版爆裂強打。以上。

・激流怒涛
 水波剛滅を、四連続で叩き込む大荒技。
 とはいえ、一発一発が敵が吹っ飛ぶ威力なので、一撃(左右だから二撃)ごとに追っては叩き、追っては叩きですので、かなりの距離を吹っ飛ばされます。

そしてこの中で地味に一番強いのが、音撃鼓からの水で敵を包んで放つ無想連打。
ぷくぅっ、と膨れた感じですので、音撃鼓と敵は、その水を伝って繋がっています。

中で反響して、音撃の威力がやばいらしいですよ。


響鬼
「次回。絶鬼、その魂の行方」

絶鬼
「ご期待ください」

ではまた次回 
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