世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
奪われたセルメダルと突進と目的
鴻上ファウンデーションは、コアメダル研究の第一線をゆく企業だ。
その職種ゆえ、セルメダルの消費は必要不可欠であり、その貯蔵量は「尋常ならざる」と言わざるを得ないほど。
そう
たとえどれだけ大量のメダルをつきごんで作りだした強力なヤミー一体をおとりとして犠牲にしても、そんなものは大した損失ではないと言えるほどの。
襲われたのは、鴻上ファウンデーション所有の巨大倉庫。
過去、火野映司に譲渡された億を超える枚数のセルメダルや、最終決戦時の暴走体による本社ビルの損壊といった消費や損失はあったが、それでもまだまだこの会社は多くのセルメダルを蓄えている。
ツキノワグマヤミーを生み出したトーチの思惑は、それによるセルメダルの確保でも、オーズたちを消耗させることでもなく
「セルメダルの奪取か!」
「でもなんでそいつが倉庫の場所知ってんだ!?」
「あいつはもともと鴻上んとこのセルメダルだろうが!!」
走り、バイクへと向かう一同。
跨り、踏み込み、一直線にその方向へと向かっていく。
一方、その襲われた鴻上ファウンデーション所有の倉庫は
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場所は臨海沿いの巨大倉庫。
いくつも並ぶ倉庫のうちの一つから煙が上がり、幾人もの警備員が転がっていた。
ライドベンダー隊でもない彼らはトーチの力に対抗できるはずもなく、ただ痛みに苦しんで転がるしかない。
一方、目の前のセルメダルの山を目に、満足そうに頷くトーチ。
ザラリとメダルを救い上げ、チャリチャリと落としてその音に満足する。
「いいぞ。これだけあればこの身体にも、そして・・・・俺の欲望にも」
バァッッ!!
「十分だッ!!」
腕を広げて、迎え入れるように胸を曝け出すトーチ。
そこに、一気になだれ込んでいくセルメダル。
まるで咀嚼するようにングングと胸を揺らして吸い上げるトーチ。
そして、それから数分後。
背後から、鉄製の扉がスライドされて差し込んできた日の光に、トーチの身体が照らされる頃には―――――――
「よく来たな。いや、よく来てくれた、というべきか・・・・」
その気配を感じ取り、振り返るトーチ。
そこにいたのは、扉を開く後藤と伊達。そして、飛び込んできて足を止めた映司だった。
「この倉庫に・・・・!!」
「まさか・・・こいつもう全部・・・!?」
「っと、こりゃぁやばいかもね・・・・」
グルリと、天井まで見回して驚愕する映司。
一番大きい、とはいかなくとも、学校の体育館くらいはある大きさの倉庫だ。
もしここに、山積みのセルメダルがあったとすれば・・・・・
ゴクリ、と映司の喉が緊張で唸る。
過去、彼自身もまたグリードとなりセルメダルを体内に蓄積、その力の凄まじさをその身をもって実感している。
そして今、午前に受けたトーチの力に、ここにあったであろうセルメダルの力を加えたとして鑑みるに―――――!!!
「伊達さん!!後藤さん!!!」
「遅い」
「早くこの場から――――」
「映司!!!」
言葉が飛び交う。
その一瞬のうちに、数回の攻防が行われていたのを生身の伊達、後藤は感知できなかった。
先ず、映司が二人の名を叫び
同時に、トーチの呟き
「この場から下がって」
振り返ってそう二人に警告をしようとする映司だが、その言葉に重なった形でトーチが一瞬で距離を詰めてきたのだ。
映司は、二人に叫びながら首だけでチラリと振り返っただけだった。
しかし、その一瞬が致命傷。
映司の眼球が再び正面に回ったときにはすでに、トーチの身体は映司の目の前1.5メートルにまで接近していた。
だが、それを当然見逃さないものもいる。
アンクが即座に映司の名を叫び、その襟を引いて、トーチの剛腕から映司の頭部を逃がしていた。
同時に、映司は崩れる体勢のままその腕を蹴りあげる。
リーチが足りないと悟り飛び出してきたグリズリークローが、前髪を二ミリほど切断した。
ゴロリと後ろに転がり下がる映司。
それを踏みつぶそうと、トーチの足が襲い掛かるが一発目は届かず空振りならぬ空踏み。
だが、二歩目は確実に映司の胴体に届くだろう。と、そこでアンクが全身を現した。
トーチの背中に回り込んだアンクは、その背中を思い切り蹴り飛ばし、倒れ込みながら向かってくるトーチを映司が足を上げ、巴投げのように自分を飛び越えさせたのだ。
結果、飛行能力も何もないトーチは抗うこともなく宙を飛び―――――
カシュン!!
「おい映司!!」
「大丈夫。わかってるから!!!」
キキキン!!
「変身!!」
バシャァ!!と、トーチの身体が海に落ちた。
そこで、後藤と伊達はようやく振り返り、音から海に落とされたのだと理解が追い付く。
そして次に見たものといえば、シャウタコンボに変身したオーズが海に向かって駆けていく姿だ。
「ハァっ!!」
トーチを追って飛び込むオーズ。
例え地上戦では相手に一利も二利もあろうとも、水中戦ならば互角以上に戦える。
そう考えてのシャウタコンボ。
そして実際、映司の読みは正しい。
「ああぁぁぁああああ!!!」
「ぐ・・・おぶっ・・・・!!」
無数の足に分裂したタコレッグによる水中連撃。
数の差も手に余るが、それ以上に水の抵抗というものがこれでなかなか厄介なもので。
純粋なステータスにおいて、すでにオーズを上回ったトーチが、この「水中」という条件ただ一つで、オーズの力と大きな差をつけられている。
トーチの力は減り、オーズの力は増加する。
その二重の効果により、すでに力関係は逆転していた。
このままでは負ける。
そう、そのトーチの推測は正しい。
焦りが次第に焦燥へと変化し、苛立ちを募らせていくトーチだが、彼のメダル生物ゆえの冷淡さが残る部分が、確実な未来を予測していた。
一方
このままならいけるのではないか。
そう思い始めたのは後藤に伊達だ。
水中戦となるなら、こちらもそれ相応の装備が必要になるが、この相手なら大丈夫かもしれない。
そう、やはりその考えは正しい。
だがそれら各々の読み、推測、考えは全て、アンクの不安要素一つで粉々に吹き飛んだ。
「アバババババババ!!ダッッ!!」
「ぐぉっ」
タコレッグによる連続の全身打撃。
無酸素状態は別に問題ではないが、そのダメージはトーチの体内に確実に響いていた。
オーズは大きくトーチを蹴り飛ばし、自身も距離をとって旋回し加速する。
そしてベルトにスキャナーを通し、エネルギーを足先に溜めてそれを一気に放出し
《スキャニングチャージ!!》
「ハッッ!!」
水流の動きに乗って、ウナギウィップが一直線にトーチへと伸び、その両手首に巻き付いて捕縛する。
そしてそれを引き付け、狙いを定め、タコレッグを回転させドリルのように貫くシャウタコンボのスキャニングチャージ・オクトバニッシュがトーチへと突っ込み
「ヌるいぞォオァ!!!」
グンッッ!!!とウナギウィップを、トーチは咆哮とともに捻りあげた。
トーチに向かって回転し、推進力を上げて突っ込んでいっていたオーズはそれでバランスを崩した。
ガクリと傾き、それでも止まらぬ勢いにトーチは
「ぬぅオ!!!」
オーズのタコレッグの一つを鷲掴み、掴み取ったその勢いで水上へとオーズを放り投げた。
「ぐワッ!?」
その動作は、まるでクマが鮭を獲るかのような、豪快なスウィングであった。
バシャァ!!と海面から飛び出してきたオーズを見て、アンクが舌打ちをして海から離れる。
その後を、ドシャ!と倒れこんだオーズを見て後藤と伊達が驚きながらついていく。
そしてその背後に、バンッ!!と海から跳び上がってきたトーチが着地。
即座に変身するバースの二人だが、トーチの目には二人は映っておらず。
「邪魔だどけぇ!!」
オーズへと向かって駆け出し、邪魔をするならばぶち殺すと言わんばかりの勢いで咆哮した。
すると、カシャンとベルトにカイゼルのコアメダルが出現し、それが通常の時よりも強く発光しエネルギーを放出する――――!!!
「ォォォオオオオ!!!」
「マズッ」
「チッ!!」
トーチの頭部に溜まったエネルギーは、巨大な矛を形成し、前へ前へと突き進む。
その鋭利な先端の角度は、目標に至るまでの一切の存在を突き殺すという明確な意思表示であり
その殺気は、目標であるオーズをとらえ、さらにはその延長線上にまで伸びていた。
それは、単にその先が本当の目的地だということではない。
一度刺し。
しかしそれでもなお引き摺り、突っ込み、抉り貫く。
そこまでせねば収まりつかぬと、いたぶられたこの男のプライドが叫ぶ殺意の直線疾走。
「グォッ!!」
プロトバースの肩の装甲を吹き飛ばし
「グ・・・ボァッ、が!!」
バースの腹部に命中、弾き飛ばし
「止ま・・・ギァッ!!」
炎弾と右手で刹那のみ留めたアンクを大地に叩き伏せ
「く・・・オ゛ォ゛ッッ!!」
無理やり身体を引き起こし、突進するトーチの二本の角を掴み取るオーズ。
瞬間、身の危険を察知してか紫のコアメダルが自動でベルトに装填、コンボチェンジを実行した。
だが
《プテラ!》
その音声は変身完了から鳴り始め
《トリケラ!!》
大地を抉りながら押し込まれていくオーズと
《ティラノ!!!》
トーチの高エネルギー音によって掻き消された後に
《プットッティラ~ノ》
「ガァアアアアォ!!」
「んグァッ・・・ガッ、だっ・・・!!!」
《ザゥッ―――――》
オーズが吹き飛ばされ、変身が強制解除されてしまい、最後までその仕事を全うすることはできなかった。
吹き飛ばされた映司は、すでに変身の溶けた状態で二度、三度と地面をバウンドし転がっていた。
コンクリートの地面にぶつかり跳ね、半開き状態だった倉庫の鉄門を、スライド式であったはずのそれを強引に開き突っ込み、倉庫の中の木箱に背中を打ち付けてその動きを止めた。
「ゲブ・・・ォ・・・・」
喉奥からこみあげる血の匂い。
それを必死にこらえようとするが、締めた喉の隙間から流れ、そして唇の端が決壊するとそこから一気に口内へと広がり勢いよくコンクリートを染めた。
まるで腹の中に直接手を突っ込まれ、内臓を掻き回されて気分だ。
身もだえ、転がる映司は、この瞬間にトーチに襲われたならば逃れることはできない状態。
そもそも、そんなことを気にできるのかどうかすら疑問である。
地面を這い、首を上げるアンク。
苦々しい顔をしながら、右拳を地面に叩き付ける。
不安が的中した、と。
仮面ライダーオーズ/火野映司は、その欲望の大きさから「オーズの器」にふさわしいとアンクからのお墨付きの人物である。
故に、コンボの消耗も初回は倒れたものの気を失うことなく耐え切り、その後はその使用にも体が慣れたのか、克服されていっていた。
だが、負担は負担である。
いくら映司がどれだけの適合をしていようとも、オーズのコンボから「疲弊、負担」の言葉が消えることはない。
午前
ラトラーターコンボでトーチとの戦闘。
正午過ぎ
サゴーゾコンボでツキノワグマヤミー撃破アシスト。
そして今、シャウタコンボでのトーチとの二度目の戦闘だ。
かつての強敵ポセイドンの時も、こんな短時間にコンボを多用はしなかった。
無論、ガタキリバコンボから全コンボ変身をやってのけた映司である。それだけならば倒れる道理はない。
だが相手がこれだけの力を持つのならば話は別だ。
変身・維持だけでも消費するコンボ。
戦闘が長引けばその分消耗は激しいのは当たり前。しかもその戦闘すべてでスキャニングチャージを実行していればなおさらのこと。
そして更に、負傷していればそれは一層加速する。
相手がヤミーや並の相手ならば、いくら変身しようとコンボを使用しようと映司には問題はない。
無理だ無理だと言いながらけしかければ、20回くらいは変身できるだけの度量がある、とアンクは思っている。
だが、やはりこれだけの、並大抵ではないこの相手では、もはや映司は変身維持すらままならないほどに消耗してしまったのだ―――――!!!
「グ・・・・!!!」
だが、それでも
(バカ・・・やめろ!!!)
「ガ・・・・あ・・・はは・・・・まだ、立でる・・・ゴホッ」
それでも自分の身体が動くのならば、立ち上がり続けるのが火野映司という男である。
自ら砕いた木箱の中に入っていたのか、メダジャリバーを杖のようにして立ち上がった。
持ち上がることもままならないのか、切っ先を地面に当ててジャリジャリと進む映司。
バァン!とスライド式の鉄門をついに押し倒し、トーチが倉庫内へと侵入してきた。
グラリと揺れる映司の頭。
ズルズルと引き摺る足だが、前に出ることはできる。
その姿を見て、トーチは意気揚々とでもなく、しかし蔑むようでもなく、告げる。
「なんだその姿は。それでよくも王であると名乗れたものだ」
「・・・・・」
「各生物の力を結集させし王・グリード。それらすら総べた絶対的王者。それこそがオーズではなかったのか?」
王's
そう、それがオーズの語源だ。
無限大(∞)にもう一つ円を加え、それを超えた者ともされる。
それを、トーチは笑う。
王にはまるで似つかわしくない。何ともみすぼらしい姿だと。
「王とは全てを総べる者。総ての頂点に君臨するもの。ただ一つのみの玉座を掴み取り、足元に這い寄ってくる他者を押しのけてそこに坐するもの。それこそが王だ!!」
「貴様とてそうだろう。様々な望みを抱えるグリード、若しくは人間から、そのメダルを奪い、得て、その力を手にした。自分自身の欲望を叶えるために!!」
「そのために総てを押しのけた。グリードからメダルを奪い、人間から渇望を引き裂き!!違うか?」
確かに、それは一理ある。
グリードは皆、なにかを欲していた。
あるものは力を
あるものは栄華を
あるものは愛情を
あるものは温もりを
あるものは命を
そしてある人間は、終焉を
「それらから貴様は奪い取ったのだ。それが善しであれ悪しであれ、そのものから貴様は光を奪い、踏み砕いた」
違う。
おそらく外にいる伊達も後藤も、そしてアンクまでもが、そう叫びたかったに違いない。
だが、映司はそうするだけの気力もない。
声は頭に届くが、その答えを導き出すだけの力が、脳みそにはなかった。
「グ・・・ォオ・・・・!!」
軋み、痛む身体を引っ張るように動かす映司。
メダジャリバーを振り上げ、トーチに切りかかる。
ガスッ
「・・・なるほど。確かに勝ち進んだだけのことはあり、王の器では一応あるようだな。だがな、それだけだ。王ではあっても、貴様は総べる器にはない!!」
パシッ、ドンッ!
肩に当てられたメダジャリバーを掴み、映司を押しのけるトーチ。
そう、彼のメダジャリバーの振り下ろしは、もはや攻撃といえるほどの威力を有していなかった。
そして、押しのけたそれをそのまま掴み、半笑いのように言い放つ。
「まあ、散々言ったが俺はお前のその手法を悪いというつもりはない。ただ、だから俺が同じようなことをして貴様から奪おうとも、貴様には文句のつけようもあるまい?というわけでな」
つまるところこいつが言いたいのは「俺もお前も奪う者、奪われる者。そして俺が勝者で、お前は弱者。恨むのはお門違いだからな」ということだ。
途中の、まるで映司の人となりを糾弾するような物言いは、この結論を気持ちよく言うための装飾に過ぎない。
掴んだメダジャリバーを軽くゆすると、それだけで映司が地面に倒れた。
手にしたメダジャリバーを眺めるトーチ。
これはいいな、と軽く振るトーチが、試し切りするか、とでも言わんばかりに今にも倒れそうな膝立ち状態の映司の首元に切っ先を当てる。
今の映司には、それを回避することも防ぐこともできない。
だから
ガシッ
「む?」
掴んだ。
そして、それを手すりか何かのようにして頭を上げた。
「じゃあ・・・・・聞かせてくれ・・・・お前の望みは・・・・?」
トーチの目的。
トーチの欲望。
それは一体何なのかと、映司は小さな声で尋ねた。
トーチはそんなことか、と肩を笑わせ、片手をひらひらと振りながら答える。
「無論、支配だ。力があればいいというものではない。どう使用するかだ。どのように支配するかだ!!俺はこの力を、総て支配へと使わせてもらう!!」
「何のために・・・・?」
「なんだと?俺が支配したいと思っているからだろう?」
「なんで支配したい?何が・・・・お前をそうさせる?」
「俺が支配したいのはなぜか?だと・・・・?それは」
「お前は支配したい、頂点に立ちたいとは言うけど、じゃあそれでどうするつもりなんだ?」
「俺は・・・俺は、支配し、統治し、そして・・・そして・・・・?」
トーチの動きが、徐々に揺さぶられていく。
それはまるで、心の動きをそのまま投影したかのような揺れ具合。
少し上を見上げて、考える動作。
んーと・・・としていくと、そのまま体がズリズリと後ろへと下がり、映司の首元からメダジャリバーの切っ先が離れていく。
「俺は支配したいんだよ。頂点に立ちたいんだよ。総て一切この世の万物を俺の下に置きたいんだよ」
「そして俺は・・おれは・・・・俺はどうしたいんだっけ?」
「いや、そんなことはどうでもいいんだ。俺はただ支配する。君臨する。蹂躙する。俺は人類の上に立つ」
「そう、そうだ、それだけだ。それだけでいい。それ以外はいらない。それ以外は不純。それ以外は不信。それ以外は不要。それ以外は不快―――――」
「何のためになどいらない。考える必要すら微塵もない。そうさ、そうだろ?・・・・ただ!俺は!!この世のすべてを統治するだけの存在であるのだからなぁァァアアアアああ!!!」
《トリプル!スキャニングチャージ!!》
「嗚呼ァアッッ!!」
「アブねぇっ!!」
トーチが叫ぶと、メダジャリバーのオーズバッシュが発せられた。
少しは動けるようになったアンクが映司に飛びつき、その体を倒すことで直撃を回避。
しかし、そのせいで倉庫は倒壊。その轟音と土煙の中で、トーチはその姿をくらませていた。
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「伊達さん!!後藤さんは!?」
「おう、火野。ってかお前よく動き回れんのな」
「前の時の伊達さんたちと同じですよ」
「ん?」
「痛み止めです」
「戻れ」
「ぎゃぁ!!!」
夜
日もとっぷりと沈んだ時間に映司は病室で目を覚まし、後藤の入っている集中治療室の前に駆け込んできていた。
あの時のトーチの突進攻撃は、スキャニングチャージに匹敵するモノだった。
つまりは必殺技である。
伊達は肩の装甲が弾け飛んでいたが、身体が回転していったことで衝撃が逃れたのか、骨が砕けただけ(それでも大怪我である)で済んだ。
アンクはわずかに残っていた他の倉庫のセルメダルで回復。
映司も、一度グリードになっていた肉体は強靭らしく、全身包帯でぐるぐる巻きだが松葉杖をついてえっちらおっちら動けるだけにはなっている。
だが、後藤はトーチの攻撃を真正面から受けてしまっていた。
力の逃げ場はなく、見事に腹に穴をあけられてしまったのだ。
映司が意識を取り戻すまでの時間、実に5時間近くにわたる大手術の末に、ようやく命を取り留めた形だ。
片腕を負傷しているとはいえ、そばに医者の伊達がいて、その彼の応急処置があったことも、生存の大きな一員であっただろうと、担当医は言っていた。
「んで。どうすんのよ火野。あいつ」
腕を組み、自販機コーナーに座り込んで話を切り出す伊達。
なぜかラインナップにならんでいたおでん缶をアンクに開けてもらい、メダルタンクの底に残っていたセルメダル2枚を報酬で受け渡す。
「アンク。お前手伝い一回10円の子供みたいだぞ」
「うるせぇ!今はこの程度でも必要なんだよ!」
「んで?どうするつもりだ」
「・・・・俺は、あいつを倒さないといけません」
「そっか。下手に悩んじゃいねーみたいだな」
「ええ。あの時は好き放題言われましたけど・・・・」
「頭ン中ドロドロで答えようにも答えらんなかっただろ、ありゃ」
「ははは。はい、そうですね」
そういって、フゥと溜息をもらす映司。
ただ問題なのは、あの相手に勝てるかどうか、ということだ。
「フン!こっちは本家本元のオーズだぞ。あんなぽっと出のガキに、やられてたまるか!!」
「ん?アンク、なんか勝算あるの?」
「最初は大したヤロウと思ってたがな・・・・ありゃあダメだ。グリードとしちゃ、落第点だな」
アンクが、映司や後藤に向けるような半笑いをするが、その微妙な差はよく伝わった。
こいつは口は悪いが、そういうところは素直な奴だ。
「自分の欲望が何のためにあるかもわかってないんじゃヤミーにも劣る。あのガメルだって何が何のために欲しかったのかわかってたってのに」
なるほど
そう独り言ちて、映司が頷く。
付け入るスキはあるということだ。
「それにまだ試して無いのもあるだろ」
「ああ」
オーズはまだ、そのすべての力を発揮していない。
それで勝ったつもりなのは、些か心外である。
「んじゃあオメーはとっとと寝ろ」
「え?でもだってまだジュース」
「いいから寝ろっつってんだろ!お前、今日の敗因なんだかわかってんだろうな?」
「だからちょっと、これだけでもうわこぼれる!!ってかこぼれたから!!」
アンクに引きずられて病室に押し込まれる映司。
彼らを見送りながら「病院では静かになー」と医者らしいことを言う伊達。
今日はとにかく惨敗もいいところだった。
だが明日は違う。
あいつは知らない。
その心の熱くなる、欲望の欲望たる原点の強さを。
欲望を満たすのと、心を満たすのは意味が異なる。
あいつは、それを知らない。
それを知る故に、人は本気を出せる。
本当の強さを発揮できる。
だから、グリードたちは強かったのだ。
そう、だから
それを知っている彼らはもう止まらない。止められない。
負ける気など、するわけがないのだ。
to be continued
後書き
トーチの攻撃力が信じられないくらい上がってる・・・・!!
まあウヴァさんや最終決戦の時のオーズとか見れば、納得の強さですね。
にしても鴻上さん、まだ隠し持ってたかセルメダル
まあ今回でガチにすっからかんだそうですけど。
残ってたの全部かき集めても、伊達のメダルタンク半分ほどとか。
トーチのあの突進攻撃は間違いなくスキャニングチャージ級の技です。
音声なかったけど。
あれがカイゼルコアメダルのスキャニングチャージ「ストレートクラッシュ」です。
ということは、あと二つ・・・?
ひえー!恐ろしいですねー!(棒)
ではそろそろ
映司
「次回。欲望の品質」
ではまた次回
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