真田十勇士
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巻ノ百十四 島津忠恒その八
「しかしな」
「天下はですな」
「興味がない」
そうした者だというのだ。
「あ奴の預かり知らぬところでじゃ」
「話が動いておった」
「そうじゃ」
こう言うのだった。
「だから断ずるのは」
「大久保殿だけですか」
「この度は最早な」
「徹底的に」
「断ずるしお主もじゃ」
服部にしてもというのだ。
「よいな」
「はい、我等も一切躊躇なく」
「お主達はいざとなればそうしてくれる」
家康もわかっている、そのことが。だからこそ彼等に対して強い声で今も命じたのである。
「忍としてな」
「その所存です」
「だから頼む、それではな」
「はい、これよりですな」
「春日局が来た」
この駿府にというのだ。
「他の用で駿府に寄ったついでの挨拶というが」
「実は」
「竹千代のことでな」
家康は既に呼んでいた、春日局が何故自分に会いたいのかを。
「だからな」
「はい、それでは」
「お主はすぐに戻れ」
その任を任されている場所にというのだ。
「よいな」
「はい、では」
服部は家康に応えすぐに風の様に姿を消した、そして。
家康は春日局と会った、あばたはあるが整った顔の女だ。秀忠の長男である家康の乳母を務めている。
その春日局がだ、家康に拝謁してから申し出たのだ。
「この度のことですが」
「駿府に来てじゃな」
「はい、大御所様にお会いしたのをお願いしたのは」
「竹千代か」
「はい、近頃上様も奥方様も」
二人共というのだ。
「ご次男の国松様を可愛がられ」
「そしてじゃな」
「ご嫡男の竹千代様はどうも」
「うむ、確かにな」
「大御所様から見ましても」
「確かにな」
どうにもとだ、家康も言うのだった。
「二人共国松の方を可愛がっておるな」
「どうにも。それで」
「やがては国松をか」
「私の考え過ぎであればいいですが」
「はっきりと言うが」
「やはり」
「それは杞憂じゃ」
家康は春日局に優しい笑顔で答えた。
「二人共それはな」
「はっきりとですか」
「わかっておるな」
「では竹千代様が」
「次の将軍じゃ」
秀忠のというのだ。
「三代目の将軍となる」
「上様も奥方様もそのことはですか」
「よくわかっておるわ」
「では国松様は」
「ただ可愛がっておるだけじゃ」
それに過ぎないというのだ。
「親というものは勝手じゃな」
「子でもですか」
「うむ、自分の子の間でも可愛い可愛くないがあってな」
情としてそれがあってというのだ。
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