NARUTO日向ネジ短篇
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【本当は、どうしたい】
(──ネジ……ネジ)
誰かが……呼んでいる……俺を───
(そろそろ、起きなさい……ネジ)
この優しい声は……そうか、父上……
迎えに、来てくれたのか……
「雪が積もったら、雪遊びをする約束だったろう? 昨日までは積もっていなかったが、今朝になっていっぱい雪が積もっているぞ。これなら大きな雪だるまも作れるだろうなぁ」
え、雪……? 父上と、雪遊び……懐かしいな……
「ほら、ちゃんと起きなさいネジ」
「!? あ、あの、父上……迎えに、来てくれたのでは──」
目を覚ますと父上が、目の前に居た。
俺の知っている生前と変わらぬ姿で。
──いや、変わっているとすれば額当てをしておらず、日向の分家の象徴たる呪印が、額に刻まれていない……
それも、そうか……父上は亡くなっているのだし、俺の額の呪印も消えている事だろう。
……それはそうと、自分の出した声に違和感を覚えた。
いつもよりとても高い声に感じる……まるで幼い頃に戻ったかのような……
「どうしたんだネジ、気難しい顔をして。まだ幼いお前にそんな顔は似合わないぞ?」
父上はそう言いながら、布団から体を起こした俺の頭に大きな片手のひらを軽く置いた。
──その温かな懐かしい感覚に、俺は思わず瞳を閉ざし頬が緩む。
「フフ……可愛らしい顔に戻ったな、ネジ。──しかしさっきは何故驚いたような顔で、“迎えに来てくれたのでは”と、私に聞いたんだ? おかしな夢でも見たのか?」
父上は、心配そうな面持ちで俺の顔を見つめてくる。
おかしな、夢……
夢じゃ、ない……確かに俺は、死んだはず──?
死んだ? 何の為に? ……思い、出せない。
それに俺は、父上が亡くなる前の幼い頃に戻っているかのようだ。
今のこの状況こそ、夢を見ているのでは──
「熱を出しているんじゃないだろうな……」
父上が俺の頭に置いていた手を、今度は額に宛がってくる。
そうだ……幼い頃風邪を引いた時、何度かこんなふうにされた事も覚えている。
俺の、好きな……大好きな、強くて優しい父上──
「熱は出ていないようだが……、大事をとって今日は雪遊びはやめておこうか」
「だ、大丈夫、です。父上と、雪遊びがしたい……!」
俺は気持ちが高揚するのを抑えきれず、そんな俺を見て父上は微笑んだ。
「フフ、そうか。じゃあまずは着替えて、朝ご飯をしっかり済ませてからだな」
── 一面真っ白に雪が積もった広い庭先で、俺は父上と雪遊びを楽しんだ。
本当に久し振りだった。とても懐かしい感覚だ。
幼い頃に戻った身体の違和感などすぐになくなって、思い切り雪遊びをした。
父上は俺の投げる柔らかい雪玉にわざわざ当たってくれるし、俺には避けやすいように雪玉を投げてきて、一緒になって笑ってくれる。
童心に帰るとは、この事だろうか。今の俺は幼い頃の姿なわけだし、童心も何も父上が遊び相手になってくれているのだから至極子供らしく振る舞える。──それが何より、嬉しくてたまらない。
雪まみれになりながら一緒に雪だるまも作った。
大きめの雪だるまは父上、それに寄り添うような小さめの雪だるまは俺に見立てて作った。
……俺はずっと、悪い夢を見ていただけかもしれない。
父上も、俺も死んでなんていないんだ。
日向の呪印も最初から刻まれてなんかいない。
自由……そう、父上と俺は自由なんだ、どこまでも。
こうしてずっと一緒に居られればいい、ただ、それだけで───
「……本当にそれでいいのか、ネジ」
「父上……?」
それまで楽しそうだった父上の表情が、曇った。
どこか、哀しそうだ。それでいて、微笑している。
──どうして、そんな顔するの。
まるで、あの時みたいな──
『ネジ、お前は生きろ。お前は一族の誰よりも日向の才に愛された男だ』
──・・・!
「ネジ……お前は、本当はどうしたい」
雪が音も無くひらひらと舞い降る中、父上は“おれ”と目線を合わせるように身を低めた。
「本当はどうしたいんだ、ネジ」
その声は、酷く優しかった。
やめてよ父上……思い出させないでよ……
おれは……俺は、本当は───
「自分自身に囚われるな。お前の心は、自由だ。決めるのは、自分だ。……だからこそ判っているだろう、“此処”にいるべきではないと」
・・・・・・────
「まだ……まだ、生きていたい…よ。みんなと……大切な仲間達と、一緒に。もっと……もっと、強くなりたいから」
熱いものが、頬に伝う。後から、後から、とめどなく溢れてくる。
「──それでいいんだ。今なら、まだ間に合う」
父上はまた、俺の頭にその大きく優しい手を置いた。
……その手が離れてゆく時に、確信した。
俺は……そう簡単には、死ねないのだと。
父上に、“お前は生きろ”と、言われているのだから。
『さあ、戻りなさいネジ。──お前の在るべき場所へ』
そう、まだまだ先があるはずだ。
それが、見えるまで……
《終》
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