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提督はBarにいる。

作者:ごません
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風邪引き提督と艦娘達・3

「37度2分……やんなるくらい頑丈ですね、提督」

「丈夫に産んでくれた親に感謝してるよ」

 風邪でダウンした翌日。朝早くから検温と診察に来た明石に呆れられてしまった。日中騒がしい事もあったが、消化の良い食事と明石に処方された薬、それにぐっすり寝られたお陰で熱はほぼ引いた。まだ若干微熱だが、明日にでも業務復帰は出来そうだ。

「ダメですってば。熱が下がったって、体内に保菌してたら他の娘に移る可能性があるんですから!」

 最近の薬は効き目が強く、熱も下がりやすい。……が、体内にウィルスや菌が残っている場合が多い。熱が下がったからといって出勤して、周囲に菌をばら蒔くなんて悲惨な事をやらかしたりするらしい。現に、昔はインフルエンザにかかって熱が下がったら登校禁止が解かれていたが、体内の菌が減少する一週間は最低でも休まされるらしい。

「まぁ、提督の決済が無いと行けない書類が溜まっているらしいですから?無理をしない程度にならここで仕事していいですよ」

「へいへい、大人しくしてますよセンセイ」

「ならよろしい」

 満足げに頷いた明石が退室すると、入れ替わりに大淀と今日の秘書艦なのだろう、雷が書類を抱えて入ってきた。

「昨日よりも大分顔色が良いですね?」

「あぁ、お陰さまでな。軽くなら書類仕事も許可されたよ」

「では、決済が必要な書類に目を通して判をお願いします。雷ちゃん、お手伝いお願いね?」

「は~い!大淀さんは?」

「私は他の仕事を手伝って来るわ」

 そう言って大淀は書類を置くと部屋を出ていった。部屋には俺と雷の2人きりだ。

「さて、始めますかねぇ。雷……悪いがコーヒー淹れてくれ」

「だ、ダメよ司令官!まだちゃんと治ってないんだから!」

 オカンかよ。まぁ確かにまだ喉がイガイガするし、コーヒーは止めといた方が無難か。

「なら、生姜湯作ってきてくれるか?」

「生姜湯ね?まっかせて!」

 雷は任せておきなさい!とでも言うように胸をドンと叩くと、パタパタと部屋を出ていった。俺はその間に書類に目を通し、判を押していく。途中で何となく口寂しさを覚え、枕元を探る。

「お、あったあった」

 枕の下に隠してある煙草とライター、それに携帯灰皿。いつものように箱から1本加えて火を点け、ぷかりと紫煙を吐き出す。

「あ~っ!ダメじゃない司令官、煙草なんて吸っちゃ!」

 やれやれ、面倒なのに見つかった。生姜湯を淹れて来るように頼んでおいた雷が戻ってきて、煙草を吸っている所を見られてしまった。

「まだちゃんと治ってないんだからね!?まったくもう……」

 こんなに小さいのに、本当にオカンのようだ。思わず苦笑いを浮かべてしまった。生姜湯はハチミツとレモンが効いていて中々美味かったと書いておく。





 さて、昼飯を食いつつベッドの上で仕事を進めて、気付けば午後3時。そろそろ一服入れたい所だが……。そんな事を考えていると、誰かがノックする音が室内に響く。

『司令?早霜です』

「おぅ、入ってくれ」

「失礼します」

 部屋に入ってきた早霜の手には、お盆に載せられたマグカップが3つ。どうやら休憩時間なのを見越して、何かドリンクを作ってきたらしい。

「休憩時間かと思い、ドリンクをお持ちしました。司令の分は『ホット・エッグノック』、私と雷さんの分はホットチョコレートです」

「エッグノックをホットにしたのか。そりゃ身体が温まりそうだ」

 エッグノック、ってのは卵と牛乳を使って作るブランデーベースのカクテルの事だ。さしずめ洋酒版卵酒とでもいった所か。

《早霜特製・ホット・エッグノックのレシピ》

・ブランデー:30ml

・ホワイトラム:15ml

・卵:1個

・砂糖:小さじ2

・牛乳:適量

・ナツメグパウダー:お好みで



 まず、エッグノックを注ぐ器にお湯を注いで温めておく。これをしないとホットミルクを注いだ時に卵が冷やされていて急激に固まり、かき玉状態になってしまうからな。

 シェイカーにブランデー、ホワイトラム、卵、砂糖を入れてよくシェイクする。この時、シェイカーには氷を入れないように注意。

 酒と卵がよく混ざったら、お湯で温めておいた器に注ぎ、そこにホットミルクを適量注いでステア。仕上げにナツメグパウダーをお好みで散らせば完成。





「あ~……温まるぜ。ありがとな早霜」

「ふふっ、どういたしまして」

 牛乳と卵のクリーミーな味の中に、ブランデーとラムの酒精が顔を出す。酒が血の巡りを良くするから身体を温めると言われており、雪山の遭難者を助ける救助犬の首輪には昔、ウィスキーが付けられていたってのはそういう理由からだ。

「司令官、お仕事も終わった事だし、またゆっくり寝ててね?」

「へいへい」

「あ、子守唄でも歌ってあげましょうか?」

「いらんわ!」

 雷は俺をガキか何かと勘違いしていないだろうか?心外だぜ。





 その内また来るだろうとは思っていたが、やっぱりやって来た。金剛が夕食を持ってきたのだ。しかしその表情はぶすっとして、ご機嫌斜めの様子。

「おいおい、どうした?」

「…………………………」

 金剛はジト目に膨れっ面でこちらを睨むばかりで、答えようとしない。とりあえず、目の前に出された晩飯を食ってから話を聞くとしますかね。因みに晩飯は健康な人と何ら遜色のない和定食だった。

「ふぅ、ごちそうさん。美味かったぞ金剛」

 普段から食い慣れた嫁の料理を間違えるハズもない。この定食は全て、金剛が用意してくれた物だ。そうやって労いの言葉をかけても、金剛は俯いたままだ。

「……何でデスか」

「あん?何が」

「何でdarlingは私にお世話させてくれないデスか!もう私に飽きちゃったノ!?」

 金剛は目に涙を浮かべて、精一杯の抗議をしてきた。どうやら、正妻として寝込んでいた俺の世話を出来なかった事を気に病んでいたらしい。しかし俺の体調を考慮して殴りかかって来ない辺り、コイツの優しさが見てとれる。

「はぁ……バカだねお前は。俺ぁお前を信頼して、この鎮守府を任せたんだ。俺の優先すべき事は一刻も早く風邪を治す事だと肚に決めてな」

「浮気したいと思ったんじゃないの?」

「アホか、俺が惚れたのはお前なの。他の連中は来る者拒まずで受け入れちゃいるが、俺が求めたのはお前だけだ」

「じゃあ、何で最近構ってくれないデスか?」

「あ~……何というかな、金剛。俺にとっちゃお前は酸素みたいなモンなんだ」

「……それ空気みたいに存在感が薄いって事じゃ」

「違ぇよ。……酸素がなきゃ、生きてけねぇだろが」

 それに、酸素って奴は厄介で、濃度が濃すぎると中毒を引き起こす事もあるのだ。つまり金剛と過度にイチャつき過ぎると、そのままズルズルと堕落していってしまいそうで、それが怖くて過度なスキンシップは避けている節がある。それを聞いた金剛は赤面しつつも俺に抱き付いてきた。

「ンフフ~……でも、それはちょ~っと手遅れネ?」

「なんで」

「私、もうdarling中毒ですから」

 そう言って金剛は俺の唇に唇を重ねてきた。……やれやれ、病み上がりに激しい運動はしたくないんだがな。 
 

 
後書き
一言言いたい。

ど う し て こ う な っ た (-Д-;) 
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