足のある幽霊
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第五章
「いい看板が出来まして」
「幽霊だね」
「はい、本当によかったです」
にこにことしての言葉だった。
「お陰で」
「そうだね、まさかね」
「幽霊が来るとは思いませんでした」
「全くだよ、しかしそこを売り上げに転じることはね」
幽霊が来た店とアピールすることでだ。
「君の手腕だよ」
「そうなりますか」
「いい腕だよ、お陰であの店はお客さんが増えたしね」
「売り上げも上がって」
「いいこと尽くしだよ、幽霊が来たのは偶然にしても」
それでもと言う上司だった。
「そこを売り上げに転じさせたのは君の手腕、社内での君の評価はさらに上がったよ」
「そうですか」
「まさにいいこと尽くしだよ」
見れば上司も笑顔になっていた、そのうえでの言葉だ。
「ではこれからもあのお店を頼むよ」
「わかりました、ただ」
「ただ?」
「あの幽霊が誰だったかはです」
千尋はここでその幽霊の話をした、表情も怪訝なものになっている。
「わからないですが」
「ボディコンの幽霊だね」
「あの駅で自殺の話は聞かないですし近くで事故の話もです」
「ないんだね」
「ですから何処の誰かはです」
その幽霊のことをさらに話すのだった。
「わからないのですが」
「ううん、お店に急に来たしね」
「影がなくガラスにも姿が映っていなかったので」
「幽霊なのは間違いないね」
「ですが誰かまではです」
「わからないんだね、そういえば大阪の幽霊の話だけれど」
上司は千尋に自分が知っている話をした。
「君もバイトの子に言ったらしいが」
「足のある幽霊ですね」
「その幽霊の足跡大阪のあるお寺にあったね」
「はい、その話です」
千尋は上司にその通りだと答えた、大学生に話した足のある幽霊の話はまさにその幽霊のことだったのだ。
「それなんですが」
「あの幽霊は江戸、東京から大阪に一瞬に来たらしいから」
「私のお店に来た幽霊もですか」
「東京から来たのかもね」
こう千尋に言うのだった。
「ひょっとしたら」
「東京から大阪にですか」
「来た理由はわからないけれどね」
「あの恰好はボディコンですし」
「昔ジュリアナ東京があったからね」
そのボディコンの女達が踊り狂っていた店である、かつては東京の名所として観光スポットにもなっていた。
「そこから来たのかな」
「そうですか」
「まあその辺りはわからないけれどね」
「そうですね、ただ幽霊が来て」
そしてその幽霊を店の宣伝、つまり看板にしてだ。
「お店の売り上げは伸びました」
「幸運をもたらしてくれた幽霊だね」
「その運と看板ですね」
千尋は笑って上司に話した。
「あの幽霊には感謝しています」
「全くだね、いい幽霊だったね」
「はい、本当に」
千尋は笑顔のままだった、そしてその笑顔でだった。彼女は店の経営を続けた。後に名店長と呼ばれる彼女の結婚する前のエピソードの一つでもある。店の経営の中にはこうしたこともあるということか。
足のある幽霊 完
2017・11・28
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