転生とらぶる
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ペルソナ3
番外編060話 その頃の技術班 中編
エピオン。
正確には、ガンダムエピオン。
W世界において、最高峰の性能を誇るMS……ではあるのだが、武器は通常よりも巨大な動力炉直結式のビームソードと、触れただけで敵を溶かし切る高熱を有するヒートロッドの2つのみ。
射撃武器は一切存在しないそのMSは、色々な意味で尖った機体だった。
「エピオンか。なんだってこんな尖った機体にアクセル代表は興味を持ったんだろうな? ゼロシステム……いや、エピオンシステムにも特に興味を持ってなかったみたいだし」
「となると、変形出来る事?」
「その可能性はあるけど……うーん、でも今更アクセル代表が変形する機体に興味を持つか?」
何気に、シャドウミラーに変形する機体というのはあまり多くない。
一応マクロス世界からVFの技術や、SEED世界から可変MSのデータ等はあるので、作ろうと思えば変形する機体も作れない訳ではないのだが……
「変形するのって、例えばスラスターを纏めて後方に配置して、機動力を高めるとか、そういうのが目的だろ? 正直なところ、シャドウにそういうのって必要か?」
技術者の1人が呟くと、他の者達も同様に頷く。
この中では善良派……そして技術班の多くが集まっているこの場で皆が暴走しないようにと場所を任されているセシルも、その言葉には異論がなかった。
「そうですね。そもそもシャドウミラーの機体はブラックホールエンジンによって有り余る出力があり、テスラ・ドライブとエナジーウィングの相乗効果によって非常に高い機動力と運動性を持ちます。ましてや、シャドウは拡張性こそ考慮された機体ですが、そこに変形機構を導入するのは無理がありますよね」
セシルの言葉が全てだった。
実際問題、シャドウというのは非常に高い性能を誇っている機体であり、いざとなればファブニールという簡易式のシステムXNが導入された外部武装追加ユニットもある。
わざわざ変形させるというのは、リスクは大きくてもリターンは非常に小さい。
その少ないリターンとしては、シャドウミラー製の可変システムを開発出来るといういところか。
「取りあえず新規設計で1機くらい作ってみないか? 技術的な蓄積はあればあった方がいいし」
「……俺はそっちにはあまり興味ないな」
シャドウミラーの技術班は、それぞれが他の世界に行けばすぐにでも研究を任せられるだけの技量を持った技術者達だ。
そうである以上、当然自分が得意なもの、興味のあるものといったものがそれぞれ違って同然だった。
だからこそ、可変システムに興味を示した者がいるのと同時に、そちらに興味を持たない者もいる。
「はいはい、そこまでにして下さい。今はエピオンをどうするか……あら?」
言い争いになりそうだった技術者を止めたセシルだったが、ふとメールが届いているのに気が付く。
普通のPDAではちょっと受け取るのが難しいだけの容量のメールだったが、シャドウミラー製のPDAであればその辺は全く問題はない。
それこそ数百テラのデータであっても、一瞬で受信する事が出来るのだから。
そしてデータを見たセシルは、まるで永久石化光線で石化されたかのように、ピキリと動きを止める。
そんなセシルを置いておき、技術者達はそれぞれが自分の意見を口にする。
「そう言えば、エピオンの変形した姿ってドラゴンみたいな感じだよな? どことなくファブニールに似てるし」
「あ、お前もそう思ったのか? 俺もだ、俺も。……けど、偶然にしてはかなり出来すぎっつーか……」
「もしかして、アクセル代表の念動力でこの世界に来る事が分かっていたとか?」
「それは……ないとは言いきれないのが、アクセル代表らしいんだよな」
「そうそう、正直なところアクセル代表って色々な意味で人間止めてるし」
「いや、そもそもアクセル代表は混沌精霊だから人間じゃないだろ」
「……普通の人間なら、恋人を10人以上も作って、その全員と同居して、しかも不満を抱かせないなんて真似は出来ないけどな。それこそ、普通なら腹上死していてもおかしくないし」
「あー。分かる。1人や2人だったら羨ましいと思うけど、あれだけの美人達と毎日一緒にいるとなると、俺だったらちょっと無理だな」
「もしかして、アクセル代表が自分だけで他の世界に行くのって、それが理由か?」
「いや、それはないだろ。でないと、他の世界に行く度に恋人を連れ帰ってる理由が分からん。……まぁ、アクセル代表が他に類を見ない程の女好きってのは間違いないんだが」
「それでいて、あのハーレムを崩壊させたりもしないんだから、凄いよな」
「その辺は、レモン様の実力なんじゃないか?」
「あー、まぁ、そうかも」
そんな会話がセシルの耳に入り、やがて急速に赤くなっていく。
ロイドと色々と微妙な関係ではあるが、まだ正式にくっついている訳ではないセシルにとって、その手の話は刺激が強い為だ。
それでも向こう側に行っていた意識が戻ってきたのだから、今の話が全く意味がなかった訳ではないのだが。
「……」
頬が赤く染まったままのセシルだったが、ともあれ今は自分のやるべき事をやろうと、送られてきたデータを空間に投影する。
そんなセシルの様子に、技術班の者達もそれぞれがそちらに目を向けた。
そこに映し出されているのは、ニーズヘッグ。
ただし、技術班の者達が知っているニーズヘッグとは形が違っている。
……具体的には、ニーズヘッグの腰の辺りから尻尾が生えているのだ。
そして、この場にいる全員がその尻尾がどのような存在であるのかをすぐに理解する。
何故なら、丁度話し合おうとしていた話題だったのだから、当然だろう。
「これは、レモンさんから送られてきた、ニーズヘッグの改修データです」
そう言うセシルだったが、ニーズヘッグの改修という行為自体はそこまで珍しいものではない。
そこれそ、バリオン創出ヘイロウやエナジーウイングを追加する時も改修をしているのだから。
それでも、やはり思うところがない訳ではなかった。
「さて、この尻尾ですが……もう皆さんこれが何なのか、分かってますね?」
「エピオンのヒートロッド」
「正解です。……正直、ただでさえラスボス感の漂っているニーズヘッグに、何故この上尻尾まで付ける必要があるのかは……いえ、まぁ、その辺りはアクセル代表やレモンさん達の趣味に近いんでしょうが」
はぁ、と苦労人らしく溜息を吐くセシル。
数百テラにも及ぶデータは、ニーズヘッグに関係するデータの殆どそのまま送られてきた代物だ。
言うまでもなく、そのデータはシャドウミラーの中でも最大級の機密データとなる。
そんなデータを、こうも軽々しく送ってこないで欲しいというのが、セシルの正直な気持ちだったが、レモンからの指示を考えるとそれもしょうがないのかという思いもあった。
「とにかく、レモンさん達はヒートロッドをニーズヘッグの尻尾として使う事にしたらしいです。それで、私達にはその尻尾に追加するシステムや機能を考えるように、と。ちなみに現在判明しているのは……」
どこからともなく取り出した指示棒を使い、セシルはヒートロッドを……いや、ニーズヘッグの尻尾を示す。
「基本的にこの尻尾はT-LINKシステムによる操作で動かすようにするらしいですね。それとこの先端ですが……分かりますか?」
次にセシルが示したのは、尻尾の先端。
エピオンが使っていたヒートロッドでは、その先端は特に何かがある訳ではなく、鞭の身体を維持している部品がそのままあるだけだった。
だが、ニーズヘッグの尻尾となっている部分には、かなり大きめな菱形のような何かがついている。
他の技術者達がその部分を見たのを確認すると、セシルは言葉を続ける。
「その先端部分には幾つかの機能があります。まず単純にT-LINKフレームによって出来ており、先端に念動フィールドによって鋭い刃となり、敵を物理的に刺すことが可能となります。勿論ヒートロッド全てがT-LINKフレームによって出来ている以上、T-LINKシステムによって本物の……いえ、それ以上に強力な尻尾として使用可能になっています。そして……」
一旦言葉を切ったセシルが手元の機械を操作すると、空中に浮かび上がっている映像が切り替わる。
今まではニーズヘッグ全体が映し出されていたのだが、次は尻尾の先端部分だけをアップして映し出したのだ。
数秒前の映像と違うのは、セシルの説明によると念動フィールドの刃を発生させると言われていた菱形の物体がまるで華が咲くかのように展開しており、その菱形の中に収納されていた何本もの細いケーブルを映している点か。
細いケーブルだけあって、菱形の内部に収まっていた割には1本1本、かなりの長さがある。
「これが、尻尾に隠されたもう一つの機能。仮の名ですが、ウルドの糸と呼ばれています」
ウルド。それは北欧神話に出てくる女神の1人で、運命の女神ノルン三姉妹のうちの長女として知られている。
編む者、織姫、運命、宿命、死を意味する女神と言われており、ニーズヘッグという機体名に相応しいと言えるかもしれない。
そんな意味ありげな名前を付けられた部位を見ながら、セシルの説明は続く。
「ここは皆さんも知ってる、ルリさん、ラピスさんの2人が開発に協力した代物で、言うなれば多用途用のツールとでも表現すべきものですね。例えば、電子的にロックされているところにハッキングしてそれを解除するとか、敵の機体に突き刺して電子的に動きを止めるとか。勿論ハッキングする以外にも悪質なウィルスを流す……といったような真似も出来ます」
おおー、と。
機体にハッキングやウィルスを流すといった機能を付けるというのは、この技術班だけに今までにも考える者はいた。
だが、そこには色々と難易度の高い問題もあった。
特に大きかったのが、素材の問題だ。
電子機器に対するハッキング能力を行うという事は、そのような機能を持つ素材や能力といった物が必要となる。
……それが可能となったのは、シャドウミラーであろうと容易に使う事が出来ない希少な素材……マブラヴ世界から得たG元素が使われたからだ。
もっとも、希少とは言ってもマブラヴ世界の火星からは未だに定期的にハイヴを襲っては、そこに眠っているG元素を入手してホワイトスターに送られてきているので、言葉程には貴重という訳ではないのだが。
それこそ、まるで養蜂のような真似がされているような状況だ。
だが、それでも幾らでも入手出来るCCやサクラダイトといった代物とは違い、それなりに入手に手間取る代物だ。
何より、魔法球と同じくらいの機密要素であるキブツでも生み出す事が出来ないというのが大きい。……キブツで生み出せないのは、CCやサクラダイトも同じなのだが。
ともあれ、G元素に関しては使用するのに上層部の許可が必要となる代物だ。
今回はその上層部が開発に動いたので、G元素の使用も許可されたのだろう。
「お静かに。……静かにして下さーい!」
ウルドの糸の機能にそれぞれ自分の感想を口にする技術者達を沈めるべく、セシルが大きく叫ぶ。
だが、それでも技術的に刺激する点があった為か、技術者の面々はそれぞれ大きく自分の意見を口にしていた。
静かに、静かにと叫んでいたセシルだったが、それでも皆が静かにならないのを確認すると……
「エキドナさんを呼びますよ。茶々丸さんも」
ボソリ、と小さく呟く。
だが、それだけで技術者達が静まるには十分だった。
この場にいる者は、全員がこれまで幾度となくエキドナや茶々丸に鎮圧された経験を持っているのだから。
技術班がふざけ……もしくは半ば暴走し、それを鎮圧するエキドナと茶々丸。
最近ではそこに応援として凛や綾子といった面子が追加される事や、木乃香に被害が及びそうになれば刹那や明日菜といった面々が鎮圧に回る事も多い。
そのような経験があるが故に、速やかに黙りこんだのだ。
そんな周囲の様子を見て、満足そうに頷き……セシルが改めて口を開く。
「さて、ではそれぞれで騒がずに、討論に入りましょう。議題は当然ニーズヘッグの尾に現在判明している以上にどのような機能を付けるか、となります」
セシルの言葉に、改めて技術者達がそれぞれに意見を交わす。
だが、そこには先程までのような、誰もが好き勝手に自分の意見を言うだけではなく、それをきちんと検討し、問題点を指摘するという真っ当な形の議論になっている。
(ふぅ、何とかなりましたね。……ロイドさんのようなトラブルメーカーがいなくて、良かったです)
上司以上恋人未満といった感じの、色々な意味で強烈な……それでいてシャドウミラーという集団の中ではそこまで目立つような事もない人物の顔を思い出しながら、セシルは安堵の息を吐くのだった。
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