ガンダム00 SS
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ep7 the space's struggles (side B)
前書き
ep6に続き、空白の4年間を描いています。
反国連軍のメンバーとして戦うクラウス・グラード。彼が破壊された基地で出会った相手はガンダムだった。そして、コクピットから降りてきたパイロットは……。
中東アジアの砂漠地帯にある、GN粒子散布装置の群。これによる電波妨害で反国連勢力を分断するのが狙いだ。
だが、その区域を利用して、反国連の意志を掲げる者たちは隠れ処を作り、密かに活動を続けている。
クラウス・グラードもまた、その勢力に生きる男だった。元AEU軍のMSパイロットで、今は国連に仇なす者として戦っている。
基地はまだ作り出して間もなく、現時点で完成しているのはMS収容区画だけだった。まだまだ完成には遠い。
クラウスは自身の機体を見上げる。AEUイナクトとホバークラフト・サンドチャリオッド。砂漠での戦闘に特化した機体だ。
「国連のやり方はあまりにも強引だ。軍を1つにまとめるために各国の軍を掃討する。自分たち以外の存在を認めずに排除しようとしては、いずれ独裁的な軍が生まれてしまう。そんなやり方で世界がまとまるはずがない」
そのとき、クラウスは後ろから声をかけられた。振り向くと、偵察に出ていたジョージだった。
「何かあったのか?」
「ああ。さっきクウェートの方に国連軍のMS部隊が向かっていくのを見たんだ」
クラウスたちのいる基地から見て、クウェートは北東部に当たる。
クラウスはジョージの言葉が何を意味しているのかを察した。
「クウェートにある中継基地に国連軍が侵攻したかもしれないな」
「ああ。先を見越して基地から抜けた連中もいるらしいが……」
あの地域にはGN粒子散布装置がない。いずれは国連軍に潰される運命にあったのだ。それを理解していた者たちは基地を放棄しただろう。
だがその一方で、軍を追い払った戦果に溺れて基地でふんぞり返る連中もいた。彼らの戦力は確かにクラウスたちよりも上だが、擬似太陽炉搭載機からすれば容易く狩れる相手でしかない。
クラウスは少し考え、その場に仲間を集めた。
「私はクウェートの基地にいる同志たちを助けたいと考えている。みんなの意見を聞かせてほしい」
意見は賛成と反対がちょうど半分に分かれた。
同僚のシーリン・バフティヤールは反対の声を上げる。
「確かに仲間を助けたい気持ちはあるわ。けれど私たちはまだ万全じゃないし、今前に出ても国連軍に一掃されるだけじゃない?」
彼女の意見は最もだった。その言葉に頷く仲間もちらほらいる。
クラウスは彼らの賛否をまとめ、答えを出すことにした。
「分かった。こちらから増援を出すのは止めよう。だが、戦闘状況は偵察で確認しておきたい。国連軍の掃討作戦は基地の戦力を叩くだけで、人を拉致することはない。生き残った仲間をこちらで保護したいんだ」
その提案にシーリンたちは皆承諾する。クラウスは自身も強く頷き、すぐに準備に取り掛かった。
戦闘は滞ることなく終わった。イレギュラーだったのは、国連軍の機体が所属不明の擬似太陽炉搭載機と交戦したことくらいで、基地の制圧は国連軍の一方的な攻撃で完了した。
クラウスは自ら指揮を取り、偵察隊を基地に向けて進行させる。国連軍が撤退したのは確認済みだ。
砂漠地帯を越え、クウェートの領土に入る。その時点で、遠くに黒煙を上げている場所が視認できた。
バンを運転する仲間がクラウスに声をかける。
「生き残ってる奴ら、いるかな」
「どうだろう。ただ、私は少しでも期待したい」
やがて偵察隊は基地から500メートルほど離れた地点に着く。クラウスは望遠鏡を構え、基地内に敵がいないことを確認した。
「大丈夫そうだ。行こう」
バン3台の偵察隊は基地に進み、手近な施設に横づけする。
基地は遠くで見たよりも悲惨だった。主要施設は全て破壊され、MSの残骸があちこちに散らばっている。まるで生気の感じられない場所だった。
クラウスは仲間に指示を出した。
「片っ端から息のある人間を見つけ出すんだ。救助する」
仲間たちはクラウスの言葉を受けてバッと動き出す。こうした作業に慣れている足取りだった。
クラウスはバンの見張りを仲間に任せて、近くで大破しているフラッグに駆け寄る。
ーーコクピットはやられていないが、大丈夫だろうか?
フラッグにはコクピットが2つある。メインが胴体のドラムフレーム部分で、そこは被弾していない。
そのとき、無線機から仲間の慌てた声が発せられた。
『クラウス、こっちに向かって何かくる!2時の方向!』
仲間が示した方に望遠鏡を構える。何の特徴もない景色の中で、対象はすぐに見つかった。
クラウスはその『何か』を見て、怪訝な声を漏らす。
「あれは……ガンダム?」
2時の方向に現れた『ガンダム』はこちらに光通信を送り、クラウスの前に降り立った。
「攻撃の意思はないだと?」
国連軍が撤退した後ということもあり、偵察隊にMSをつけてこなかった。自身の甘い判断にクラウスは歯噛みする。
仲間たちがクラウスの元に集まる。ジョージがガンダムを指差して言った。
「おい、ハッチが開くぞ」
ガンダムの胴体部が前方向に開いた。カツ、カツという足音が聞こえ、中からパイロットが出てくる。
凶悪な顔つきをした、金髪の若い男だった。両手首には黒い手錠をつけており、男の首周りは爆発痕のような傷がある。
男は破壊された基地を見下ろし、愉快そうに笑った。
「あげゃ、ここにはねェな」
それから男はクラウスたちの方に目を移し、奇怪な笑い声と共に言った。
「あげゃげゃげゃ!お前らも反国連ってやつか?」
クラウスが代表して男との対話を試みる。
「ああ、そうだ。きみはソレスタルビーイングなのか?」
「いや、違うね。今はただのガンダムマイスターに過ぎねェ。ま、別に挨拶がしたくてきたわけじゃねェんだ、帰るぜ」
「ちょっと待ってくれ。きみはガンダムに乗っているのに、我々に対して武力介入をしないのか?」
男はまた楽しそうに笑いながら、言葉を返してくる。
「ハッ!何度も言わすな。俺は確かにガンダムに乗っているが、ソレスタルビーイングとして動いてはいないんだよ」
「じゃあ、何のために戦っているんだ?我々と同じ、国連軍打倒を目指しているのか?つまり……」
そこで男はクラウスの言葉を遮り、またもや喉を壊しそうな笑いを上げる。
「あげゃげゃ!戦う意味をあんたたちに話す必要はないね。ただ、あんたらを殺す気はないから安心しな」
武力介入ではなく、『殺す』という言葉を使ったその男に、彼の性質が窺える。
クラウスは男に言った。
「そうか。では、私たちは同志の救出を続けることにするよ」
「ああ。あんたは自分のやり方で戦いな。俺と手を組むには、あんたたちは条件を満たしていない」
「……その通りだな」
男はニッと口角を上げ、コクピットに戻った。やがてガンダムが起動し、基地から飛翔する。
機体が遠のいていくのを眺めながら、クラウスは低い声で呟いた。
「満たしていないのは戦力か、それとも彼の駒としてか……。何にせよ、味方にしなくて良かった」
ジョージが首を傾げる。
「どういうことだ?」
「彼の戦う意味は分からない。だが、彼の中で私たちは利用価値のない存在だったんだろう。私が協力関係を仰ごうとしていたのを読んで、殺すなんて言ってみせたんだ」
「ま、あんなヤバそうな奴は放っておいた方が良いだろ。例えガンダムの力を借りれるとしても」
ジョージが笑いながら元の場所に戻っていく。クラウスは苦笑いを浮かべて、彼に続いて歩き出した。
「全くもってその通りだ」
終
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