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真田十勇士

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巻ノ百十二 熊本その五

「その時はな」
「熊本にですな」
「退くことを考えてな」 
 そのうえでというのだ。
「手を打っておくべきじゃ」
「では」
「関白様に言われた言葉果たしたいな」
「はい」
 即座にだ、幸村はまた父に答えた。
「そのことは」
「そう思うならばじゃ」
「熊本にですな」
「行くのじゃ、わかったな」
「いきなりでは、ですな」
「通る話も通らぬ」
 事前に話してこそというのだ。
「だからじゃ、わかったな」
「はい、すぐに熊本に行きまする」
「そうせよ、出来ればな」 
 ここでだ、昌幸は難しい顔にもなった。そうして幸村にこうしたことも話した。その話はというと。
「わしが行くべきじゃが」
「左様ですか」
「どうもな、ここに来てな」
 無念の顔で言うのだった。
「近頃身体がな」
「優れませぬな」
「急に衰えを感じてきた」
「だからですな」
「おそらく幾許もあるまい」
「それは弱気では」
「いや、事実じゃ」
 嘘ではないというのだ。
「身体の動きも急に悪くなってきた、どうもな」
「近いうちにですか」
「わしは世を去る、せめて次の戦までと思っておったが」
 それもというのだ。
「出来ぬ、無念じゃがな」
「お薬は」
「ははは、何を飲んでも天命には逆らえぬ」
「それには」
「わしの天命はこれまでだったということじゃ」
「だからですか」
「これでじゃ」
 言葉にも力がない、今もだ。
「わしも世を去る、だからな」
「後はそれがしがですな」
「頼んだぞ」
「出来れば」
「わかっておる、わしが主としてな」
「それがしも従えば」
「それで戦はかなり違う」
 徳川と豊臣が争ってもというのだ。
「わしなら茶々様の勝手もじゃ」
「止められますな」
「造作もないこと」
 それこそという返事だった。
「お止めして縦横に暴れもう一度天下を二つにしてな」
「そうしてですな」
「戦いにもって行けるが」
「それがしだけだと」
「茶々様はお主の言うことを聞かぬ」 
 そうだというのだ。
「お主の武名は知る者こそ知っておるが」
「茶々様はご存知ないので」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「お主ではな」
「止められませぬか」
「お主が言うことはとてもな」
「誰もですか」
「聞きませぬか」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「だからわしもおれば、しかしな」
「それでもですか」
「口惜しい」
 今度は苦り切った顔で幸村に話した。
「このままではな」
「どうしてもですな」
「そうじゃ、わしはどうもな」
 これでというのだ。
「世を去る、お主に後を託すが」
「若しも茶々様をお止め出来ぬなら」
「敗れる、そしてな」
「その時葉ですな」
「逃れよ」
 まさにというのだ。 
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