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真田十勇士

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巻ノ百十二 熊本その四

「どうしてもな」
「ご母堂であられる茶々様にですな」
「言えぬ、忠義も強いだけではなくな」
「勇がなくては」
「言えぬが孝は余計にじゃ」
「肉親の情も入り」
「並大抵な勇があっても言えぬ、ましてや箱入りの右大臣様では」
 例え家康が認めたまでの思慮分別があってもというのだ。
「それがあるか」
「ご母堂の茶々様に言えるだけの」
「やはりな」
「疑問ですか」
「疑問ではない」
「では」
「ある筈がない」
 こう言うのだった。
「到底な」
「左様ですか」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「だから大坂はな」
「あの茶々様が主のままですな」
「実はな」
 名目は秀頼が主でもというのだ。
「そうなのじゃ」
「では」
「うむ、加藤殿もそう思われ」
「そうして」
「過ちを犯され続ける」
 そうなるというのだ。
「やはりな、それとな」
「加藤殿がおられなくなっても」
「まだ頼る」
「他の豊臣恩顧の方々を」
「そうされるわ」
「しかし旧主では」
 幸村もこの立場を言った。
「やはり」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「それ以上のものではなくな」
「戦の時にですな」
「立ち上がられる筈もない」
「そうなりますな」
「加藤殿も心配であられよう」
「ご自身亡き後の豊臣家が」
「どうにかして残って欲しいであられよう」
「では」
「行けるか」
 幸村を見て問うた。
「これより」
「熊本にですな」
「十勇士を連れて行け」
「皆を」
「出来るか」
「すぐにでも」
 幸村は父にすぐに答えた。
「出来ます」
「そうか、ではな」
「今お話した通り」
「すぐにじゃ」
 まさにというのだ。
「熊本に行ってもらう」
「そうしてですな」
「然るべき時にはな」
「何かあれば」
「戦は必ず勝つとは限らぬ」
 敗れる時もある、昌幸は必ず勝つとは考えていない。どうした戦でもそれは同じである。だから敗れた時のことも考えているのだ。 
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