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ガンダム00 SS

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ep5 世界の骨は狙われる

 
前書き
公式外伝『00V』に登場するティエレン軌道エレベーター守備型[ジィージュー]が主役のストーリーです。
今回は自分の書きたい欲求をフルパワーで発揮したため、かなりマイナーになってしまいました。このSSは基本的に1話完結なので、飛ばしていただいても問題ありません。

 

 
軌道エレベーター『天柱』下の地上軍事基地が慌ただしい空気を発している。私はそれを上空100メートルにいる作業用ワークローダーから見下ろしつつ、作業を再開した。隣にいる先輩技師の目が「作業を止めるな」と私を睨んでいたからだ。

私はエレベーター建設会社の宇宙技師だ。今日も施工表通りに、エレベーターを這うカーボンレールの取り替え作業に従事していた。だが、事態はいつもと違って切迫している。

「テロリストに軌道エレベーターの接地面が狙われるなんて。嫌な時代ですね」

私のぼやきを先輩は鼻で笑う。

「何も今に始まったことじゃない。軌道エレベーターがテロの標的になるのは珍しくないし、このご時世じゃ尚更だ」

「でも勘弁してほしくないですか?私ら今、戦争の真っ只中にいるんですよね。死んじゃうかもしれないんですよ?普通に仕事してるだけなのに。何なのこの仕打ち」

「そうなる前に、このレールを走るMSに潰されるかもしれないな。さあ、手を動かせ」

国連軍が各国軍の解体を推し進めている、西暦2311年。施設武装組織・ソレスタルビーイングが消滅したこの世界は、1つに収束される途中段階なんだろう。その中で、やはり反乱分子は出てくる。自分たちの正義を信じ、国連のやり方に抗う人たちが。

声を上げることは悪いことじゃない。でも、誰かに対する反発で、全く関係ない人たちを巻き込むのは本当に正義なんだろうか?私は戦争についてはっきりした答えを持っていないけど、労働者として言いたいことはある。

「とにかく、自分たちの都合で人に迷惑をかけないでほしいですね。平和ならそれで良いし」



軌道エレベーターを狙ったテロ行為に対して、国連軍のエレベーター防衛隊はMSのスクランブル発進をしている。私は豆粒みたいなMSが配置につくのを視界の隅に捉えた。

だが、防衛隊は地上だけではない。軌道エレベーターに設置されたカーボンレールをMSが走り回り、敵を迎撃するのだ。だから、私たちの作業は『いつもの仕事』から『一刻を争う仕事』へ勝手にシフトアップされた。

とはいえ、残り作業はそんなに多くない。15分もあれば終わる内容だ。

私がワークローダーの腕を使って古いレールを取り除き、先輩と他2人が新しいレールを敷設する。この仕事に就いてもう4年、私もベテランの人のペースに合わせられるようになった。

先輩が私に声をかける。

「よし、作業終了。中央室に連絡、俺たちは撤退だ」

「はい」

私は中央室のオペレーターに作業が終わった旨を報告し、ワークローダーをレールの外に移動させる。

ステンレス通路を歩いて作業用エレベーターの中に入る。そして、間を挟むことなく周囲にブザーがけたたましく鳴った。MSがエレベーターを上がってくる合図だ。

作業用エレベーターが下降を始める。するとちょうど、下方からMSがレールを伝って上がってきた。私は、すれ違いさまにMSを視認する。

ティエレン軌道エレベーター守備型。下半身がカーボンレールを駆け抜けるために改造されているのが特徴的だ。

「あのティエレン、この前やったエレベーター防衛のデモンストレーションで『鋼鉄のカウボーイ』に勝ちましたよね」

「レールがあるところならどこへでも行けるし、主武装のリニアカノンはエレベーターから直接エネルギー供給できる。太陽炉搭載機が普及してる今でも万能だろうよ」

先輩は独り言のように呟きながら、窓の向こうの戦闘を眺めていた。エレベーターに特攻をかけるヘリオンが地上部隊に落とされていた。

というか、もし落ちていなかったら完全に私たちが死んでいる。そう思うと、早くこの小さな箱から抜け出したくなった。

だが、そんな私の願いは届かず、突然の震動が作業用エレベーターを大きく揺らす。

「わっ!」

私たちは何にも掴まれず、エレベーター内でシェイクされてしまう。私は頭を抱えて身体を丸めていた。ふと、誰かの骨がポキッと折れる音が聞こえた気がした。

やがて勢いは収まり、私は恐る恐る周りを見回す。先輩たちも私と同じようにうずくまって耳を澄ませているようだった。

先輩が近くにいた仲間に声をかける。

「おい、さっき骨折ったのお前か?」

「お、う。つか、ホントいってぇ。労災、下りるかなッ……」

「認定されるに決まってんだろこんなの。もうちょっと我慢するんだ。頑張れ!」

何だか焦げ臭くて、私は窓枠から外を確認した。それから原因に気づき、先輩に伝える。

「先輩、上の方でさっきのティエレンがやられてます。ヘリオンっぽいのが刺さってる感じで」

「優秀なんじゃないのかよ!さっき新しいレールに変えたばっかだぞこの野郎!」

「いや、優秀でしょ。あのティエレンのパイロット、エレベーターを守るために自らクッション代わりになったんだから」

軌道エレベーターに一撃食らわされたのは事実だけど。

でも、それにしては衝撃が少ない。恐らく、敵は損傷して勢いがない状態でティエレンに衝突したのだろう。そうでなければ、今ごろ私たちはこの箱に閉じ込められたまま、地上まで自由落下していたに違いない。

「どっちにしろ、あの機体のパイロットに感謝ですね」

「いやいや、この後始末を誰がやると思ってる?エレベーター関係は俺たちの仕事だぞ」

「生きてるだけマシですよ。先輩、早く地上に行きましょう」

「分かってる。エレベーターの手動操作を使え。ボタンの下にあるから」

「分かりました」

私はいつも以上に冴えた頭で指示をこなしていく。エレベーターが再び下降し始める。

私は安堵し、もう一度上の方を見上げた。それから、敵の特攻を受け止めたティエレンとそのパイロットに向けて心中で呟いた。

ーーお勤めご苦労さま。それと、ありがとう。

ーー戦争は他人事じゃないよね。自分の命が危なくなってようやく理解するなんて……。

仕事ばかりで当たり前のことを忘れていた自分が恥ずかしい。けれど、今更でも気づけたのは本当に良かったと思う。

終 
 

 
後書き
第5話は00の世界観をテーマに書きました。太陽光発電システムを発端とする、エネルギー供給や生活水準の格差。軌道エレベーターの開発と運用によって化石燃料の有用性が完全に否定された世界……。良い方向に進んでいるのに誰かが損をするというのは、皮肉な話です。 
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