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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百五十話 盾将軍雲水

 
前書き
はい、どうもです。

さて、今回からは、前回までの流れとは少し変わって、レクリエーション中心の日々をお送りしたいと思いますw

久々にALOを楽しむメンバーを、見守っていただければw

では、どうぞ!! 

 
アスナが一通りのメンバーにデザートをふるまい、女性陣だけでなく一部の男性メンバーも恍惚の表情でそれらを平らげる頃、少し離れたところで、何やらおかしな方向に盛り上がりを見せ始めるメンツがあった。

「なんならさ、この流れでボス攻略行っちまうかぁ!!」
「オォッ、良いなぁオイ!!」
スリーピングナイツの大剣使い、ジュンの言葉に、クラインが肩を組んで同意する。他のメンバーも遠巻きに眺めているものの、おおむね反対するような気配はない。傍らに居たユウキの隣に寄って、彼女に問い掛けた。

「なに?どうしたの?」
「あ、アスナ!それがさ、ジュンたちが、このメンバーなら階層ボスくらい余裕なんじゃない?って言いだしたみたいで」
「えぇ!?あー……」
言われて、改めて集まっているメンバーを見渡してみる。確かに、普段の物理に偏ったパーティトは違って中々にバランスが取れるメンバーがそろっているし、何より前衛メンバーの質の面での充実ぶりは異常だ。ALOの中で、それぞれの武器の使い手として最低でも五本の指には入るであろうプレイヤーがゴロゴロいるし、そうで無いとしても相当の実力者たちである。人数自体はフルレイドには及ばないとしても、このメンバーなら確かに階層ボスでも突破できる気がする……と、考えてしまうのは、少なからず気持ちが浮かれている所為なのか……あるいは……

「確かに、いけそうかも……」
「アスナもそう思う!?ジュン!アスナも賛成だってー!」
「お!アスナが言うなら間違いないな!」
「えぇっ!?」
いや、別に賛成票を投じたつもりはなかったのだが……そんな事を思いながら周囲を見ると、アスナの賛成を皮切りに、次々に賛成メンバーが増えて行く、と言うより、誰も初めから反対するつもりはない様子だ。こうなると、もう話の流れは決まってくる。

「よぉっし、んじゃ28層ボス攻略パーティ結成だぁ!」
「「「「「「おぉ~~ッ!!!」」」」」」
森の家の前に鬨の声が木霊する、即座に各メンバーが装備確認に入った。

「装備の耐久値不安な人―!こっちきて―!」
「お前らポーション揃ってるか?多少なら補給分あるぞー!お題は頂くがな!」
商人組が販売と整備を始める中、一部のメンバーが集まって一つの議題について話し合っていた。議題は全体のまとめ役、所謂、リーダーの決定である。今回のメンバーは異なる集団の集まりであるため、先ずリーダーとしては全体の戦力、何が出来るか、何が苦手化を把握できている人間が望ましい、次いで、それぞれのメンバーと十分に顔見知りである人間である事が望ましい、となると

「アスナだな」
「アスナだろ」
「アスナだねっ!」
「アスナさんが良いかと」
「アスナが良いだろう」
「ねぇこれ示し合わせたわけじゃないよね!?」
全会一致で指名された自分の名前に、ツッコむようにアスナが叫んだ。とはいえ言いたいことはわかるのだ。実際……

「でも、アスナさんなら、皆さんとお知り合いですし」
「うん、アスナ以上にこのメンバーの全体とコミュニケーションが取れている人間はいないだろう」
「シウネー!?サクヤさんまで……」
同調する二人の美女に、アスナは困ったように腕をブンブンとふる。しかし自惚れる訳では無いが実際の所、現状集まっているメンバー全体と平均的に一番コミュニケーションが取れているのはアスナだとは思う、だが、それを言うならキリトやリョウだって……

「アスナ!」
「ユウキ……」
「大丈夫!アスナなら出来るよ!」
「うぅ~~ん……」
そうだった、今回はスリーピングナイツのメンバーも居るのだ。ナイツはギルドとして一パーティでの連携は見事にこなすが、他のパーティとの合同、レイドでのパーティプレイとなると、まだ少し不慣れなところがあるのはアスナにも分かっている。そうなると……

「まぁ、俺たちもできる限りはサポートするからさ、やってみたらどうだ?」
止めとばかりにキリトにこういわれては、それ以上断ろうともできなかった

「うぅ……もう、しょうがない!やっちゃいましょう!」
「おぉ~、たのむぜぇ、騎士姫さん」
「からかわないで!!」
いつものやり取りをしながら、アスナはパーティ全体の戦力図を頭に思い描き始めた。

────

アスナはまず、パーティをそれぞれ役割ごとに分担し、それらをレイドとしてつなぐスタイルで攻略パーティを組んだ。一つ一つのパーティはバラバラのチームからの出向になるが、ある程度はそう言う要素がある方が、今回は「面白い」だろうとアスナは判断した。
そんなこんなで、完成した配置表がこちらである。


まず、総指揮官にアスナ、そして……

タンク隊:エギル リズ ジュン テッチ アイリ リョウ ノリ
「オイオイ、オレがリーダーで良いのか?」
「いいんじゃないの?エギルってあっちでボス戦タンク隊のリーダーやったこともあるんでしょ?」
「えっ、そーなの!?そう言えばエギルさんの向こうの頃の話ってあんまり聞いたことないけど……」
頭を掻いたエギルに対して指摘したリズの言葉に目を剥いて驚いたように聞き返したアイリにリョウが肩をすくめて答える。

「そりゃ初期の頃の話だけどな。けど信用はしていいと思うぜ?」
「おいおい、おだててもなにも出ねーぞ」
「エギル!」
頬を掻くエギルに、声を掛けるスプリガンの女性が居た、ノリだ。

「連れてきたよ、改めて紹介しとく。テッチと、ジュンだ」
「おぉ、改めて見るとデッケェなエギルさん!」
「よろしくっす!」
ノリの後ろからついてきたノームとサラマンダ―の男性が顔を出して次々にエギルと握手を交わす。大分背丈に差の有る二人だが、互いに優秀な

「あぁ、宜しく、まぁ俺もリーダーって柄じゃないんだが……なんとかやってやろう。お前ら頼むぞ!!」
「「「「「「オォッ!!!」」」」」」
どこか野太いタンク隊の声が森の家の前の一角に木霊した。


遊撃隊:キリト ユウキ リーファ レコン ヤミ クライン タルケン

「さて……」
「よろしくね、弟君……何?緊張してるの?」
アスナにリーダーを任されどうしたものかと唸るキリトに挨拶に来たヤミが、微笑みながら聞いた。

「いや、まぁ、あまりよく知らないメンバーもいるので多少は……」
「そこはドンと構えなさい。男子で、しかも彼女さんに任されたんでしょ?しっかりしないと格好悪いわよ」
「うぐ……ぜ、善処します」
首を縮めて言ったキリトに、やれやれと言った様子でヤミが肩をすくめる。正直、生徒会長である彼女からすると、ちょっと知らないメンバーが居る程度で尻込みしている自分は情けないだろうなと考えて、キリトは内心苦笑しつつ気を引き締めなおした。

「キリトさ~ん!」
「あぁ、ユウキ、えーっと、なんというか正直いきなりになったけど……よろしく頼む」
「うん、こちらこそ!あ、タルの事も宜しくねっ!」
「ちょ、ユウキ、子供ですかボクは……」
いきなり背中を押されたタルケンが、衝撃でずれた眼鏡を戻しながらため息がちにキリトに会釈する。

「すみません……よろしくお願いしますキリトさん」
「うん、タルケンは、両手槍なんだよな?」
「はい、敏捷にも多少振ってあるので、ある程度動けると思います」
エモノを取り出して説明するタルケンに、ざっとその槍の丈を確認してキリトが頷く。

「了解、片手剣とダガーが多いんで、足りないところのレンジをカバーしてもらう事になると思う。さて、あとは……」
「お兄ちゃーん!」
手を振りながら走り寄ってくるリーファを見て、キリトが軽く手を振り返す。

「お疲れ、時間かかったな?」
「主にレコンの所為よ!」
まったく!と言った風に腕を組んだリーファの後ろから、申し訳なさそうに頬を掻いたレコンが顔を出す。

「すみませんちょっと補充もしなくちゃいけなくて……」
「あぁ、良いよ。ちょうどこれで全員集まったところだ」
肩をすくめて答えながら、キリトは改めて全員を見渡す。少し普段とは違うメンバーに改めて緊張しつつも、コホンと咳ばらいを一つ。

「えーと、みんな分かっているとは思うけど、このパーティ全体の攻撃の要になるのは俺たちだ。なので要所要所で的確に、きっちり仕事をこなしていこう!よろしく頼む!」
「「「「「おーっ!!!」」」」」
威勢のいい声が弾ける。振り上げた拳が天を突き、キリトは早くも、「これなら何とかなりそうだ」と思え始めていた。


後方支援 アスナ サチ シノン シリカ シウネー サクヤ アリシャ

「一先ず何とか分けられたけど……」
「何とか、っていうか、割とバランスいいんじゃない?綺麗に7+7+7だし」
「あれ?でももう少し人数いませんでした?」
感心したように弓のテンションを確認しながらシノンが言うのを聞いて、シリカが首を傾げる。すると、不意にサクヤが困ったように苦笑して答えた。

「あぁ、ユージーンは先ほど帰っていったよ、やはり全員には挨拶できなかったか……」
「えっ?どうしてですか?だって……」
ボス戦と言うなら、普段は将軍と言う立場にあるユージーンはあまり参加できないイベントの筈だ。だというのにどうして帰ってしまうのかと、シリカが首を傾げると、サクヤは肩をすくめる

「なに、「完全に含むところが無いとは言えん相手と共に在っては、領主の立場では気が気ではあるまい」と、な。全く彼奴は……」
「変なところで気を効かせて来るんだよネー、余計気にするヨ~……」
「領主さん達って大変なんですね……」
「ふふ、そうだな……まぁ、態々あの男が慣れん気遣いまでしてくれたんだ。素直に楽しむとしよう」
「そうだネ!ボス攻略何て久しぶりだナ~!!」
身体を伸ばしながらそう言ったアリシャが目をキラキラと輝く、どうやら本当に楽しみにしているようだ。と……

「アスナ」
「サチ!おかえり。ごめんね?補充任せちゃって……」
「ううん、私もシウネーさんとお話しできたし、楽しかったよ?」
微笑んで答えたサチに、シウネーが楽しそうに笑う。

「はい!本当にサチさんは女性として魅力的な方なのですね……!」
「そうなの!」
「え、えぇ?」
何故か突然二人からほめたたえられた事に、困惑したようにサチがしどろもどろになる、

「アスナさんの言った通りの方でした……淑やかで上品、優しくとても温和で可愛らしく……」
「アスナ!?」
「あ、あははー……」
何処のお姫様だそれはと言いたくなるような印象の羅列に流石にサチが抗議の声を上げる。アスナも本気半分冗談半分みたいな感覚で言ったことだったのだが、シウネーはまともに受け取ってしまったらしい。まぁとはいえそれも無理からぬことというものだ。何しろすべてではないにしろ、一部の印象については割と本気で言ったのだし……まぁ、少しばかり親友としての贔屓目が入っていたのは認めるが。

「もう……あ、それよりもポーションの受け渡ししちゃうね?」
「「了解(です)!」」
「あはは……」
なんでそんなに息ぴったりなのと苦笑しながらサチは受け渡し作業を始める。一通りの作業が終わると、ちょうどメンバー全体の準備も終わり周囲に集まり始めている頃合いだった。
全員が注目する中、アスナが手近な切り株に上って全体を見回す。

「あー!えーっと、みんな、今回は急な話で、少し準備不足もあるかもしれないけど、でも、このメンバーなら階層ボスの攻略も十分に可能だと、私はそう思っています!なのでみんな、頑張って、それと何よりも……楽しんで!いい思い出になる討伐作戦にしましょう!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「オォ―――――ッ!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
掛け声と共に、総勢二十一人の妖精たちが、一斉に動き始めた。

────

通常のダンジョン探索であるならばともかくとして、21人の大所帯による進軍を阻めるMobというのは、流石にアインクラッドの迷宮区にも存在しない。そんなこんなで、ボス部屋の前までの道のりは、殆どノーストップで到達することが出来た。寧ろ前方を先行する遊撃隊パーティの進行が早すぎて、重装備や後方支援のメンバーが追いつくのが大変だった程だ。
そうしてたどり着いたボス部屋前で、メンバーは再び、装備チェックを行っていた。

後方から接敵してしまった時の為に備えておいたレイピアをワンドに切り替えつつ、アスナは装備とアイテムを確認する。と、そこに、何時の間にやら駆け寄ってきたユウキが声を掛けてきた。

「アスナアスナ!」
「?どうしたのユウキ」
「今キリトさんと話してきたんだけど、アスナとキリトさんってキスもしたりしたの!?」
「!?」
ぼぼぼっ、と急激に顔の温度が上がるのが分かった。殆ど手拍子で「え、なんで」と聞き返すと、ユウキは興味深々と言った様子で答えた。

「さっきキリトさんと一緒に走りながら話してて、聞いたら「アスナなら答えてくれるんじゃないかな」って!」
「キリト君!?」
即座に彼の方を向くと、キリトは慌てて目を逸らしつつ、ユイにそれを指摘されてあたふたとし始めた。まぁ、それは勿論男子である彼の口からこんなことをユウキに説明するのは流石に色々ととがめる者があるだろうが、だからと言って……

「?」
「(うぅ……)」
キラキラとした瞳で自分を見上げてくるユウキから、今度はアスナが目を逸らしたくなる。

「(悪気はないんだろうなぁ……)」
と言うかそもそもその手の話が色恋沙汰に関わる話であるという認識があるかどうか自体怪しい。彼女自身は多分全くの興味本位なのだ。いや、と言うかそもそも……

「どうして、急にそんなこと……?」
「うーん?」
中空に視線を彷徨わせるとユウキはこくんと頷いて答える。

「この前、アスナ達と結婚の話したでしょ?あの後小説とか読んでみたんだけど、それで、ちょっと気になっちゃって……」
「あー……」
原因自分だったかぁ、と思い当たって、その時その場に居たはずのサチを見る、が、顔を朱くした彼女に即座に目を逸らされてしまった。ダメだ完全に一人だ。

「え、えぇっと……した、よ?」
「やっぱりしたんだ!」
ユウキの声と共に、過去にしたキリトとの接吻を思い出して、ますます顔が朱くなる。耳まで朱くなっているのが自分でもわかる。こうなってみると、人前でいうには大分恥ずかしい事をしていたような気がしてくる。決して恥じることではないのだが……やはり、羞恥は消し難い

「ね、どんな風に……?」
「どんな!?え、えっと……それは、く、唇を……」
こう、と言って、両の人差し指を合わせる。と……

「……ぇ、ぁっ……」
「えっ?」
突然真っ赤になったユウキに、逆にアスナが驚く。するとうって変わって小さくなった声で、雪がぼそぼそと還した。

「あ、アスナ、ごめん……ボク、キスってほっぺか、お、おでこだって……」
「……あ、そっか……」
事此処に至って、アスナはようやくユウキが何故ここまで羞恥心無くこの質問をしてきたのかを察した。彼女の母親はクリスチャンであったし、恐らく日本ではメジャーではない日常的な愛情表現としてのキスにも明るい人物だったのだろう。ユウキもそう言う物だと思っていたに違いない。

「そ、そっか、キスって口……そ、そうだよね、恋人って、ぅわあぁ……」
「ど、どうしたの?」
突然妙な声を上げたユウキに、アスナが困ったように首を傾げる、と、彼女は尊敬と驚きと、後は羞恥が入り混じったような複雑な表情で、力の抜けた声を出す。

「あ、アスナって、大人だねぇ」
「……そ、そんなことないと思うけど……」
何故ボス部屋の前でこんな話をしているのだろうと、ほとほと疑問になりつつも、やや照れくさく想いながら、アスナはコホンと一度咳払いをする。

「で、でもね、ユウキ、いくら興味があっても、簡単にキスがしたいなんて思っちゃだめだよ?」
「わ、分かってるよ!!?」
今度はユウキが真っ赤になって頷く、そこに……

「お前ら偶に変に大胆になんのな……」
「「わぁぁぁあっ!!?」」
いきなり後ろから男の声がして、二人の背筋がピンと伸びる。跳ね上がった体で恐る恐る振り返ると、真後ろにリョウが立っていた。

「あのな、少しは周り見たほうが良いぞ」
「え……」
見ると、シウネーやシノンを初め、周りに居た後方組の面々がなんとも微笑ましそうにこちらを見ていて(シリカだけは顔を赤らめていた)、結局アスナとユウキは二人そろってうつむく羽目になってしまった。

「ったく、はよしろ、前衛の連中、扉の前に集まって先行きそうな勢いだぞ。嬢ちゃんもさっさと戻んな」
「あ、うん」
「は、はいっ!」
隣からやたらと緊張した声が聞こえて、アスナはユウキにヒソヒソと話しかける。

「ひょっとして、リョウの事怖い?」
「えっ?そ、そんなことないけど……ただボク、ちょっと……」
「?」
確かに、ユウキは恐れているような表情と言うよりも、もう少し違う、どこか不思議そうな、探るような、そんな視線をリョウに向けていた。これは、どういう感情だろう?とアスナが考えているウチにハッとしたようにユウキが駆け出す。

「戻らなきゃ!アスナ、援護よろしくね!」
「あ、うん!ユウキも頑張って!」
遊撃隊に戻るユウキを見ながら、アスナはよし、と腰に手を当てる。突発的だが、十分に戦力はある。ボスの特性もあるので何とも言えないが、勝てるか勝てないか、五部と言った所だが、楽しい攻略になりそうだ。

────

「後衛、空けるぞ、良いか!?」
「遅くなってごめん!了解、行こう!!」
「こっちも何時でも良いぞ!」
大声で前後衛の指揮を執る二人が声を交わし、続けて遊撃隊の指揮官であるキリトが続く。それをきいて大きくうなづいたエギルが、大股で扉の前に出た。

「よし……入室(はい)るぞ!!」
大きな金属の擦れるような音とかすかな風と共に大きく扉が開く。完全に開き切る寸前に、エギルを中心とした前衛が、それに続いて遊撃と後衛が一斉に鬨の声を上げて室内へと突撃した。


室内はやや水気の多い場所だった、と言っても蒸し暑いような湿気ではなく、ややひんやりとした空気が周囲を満たし、壁の所々が苔と蔓状の植物に覆われている。大きな円形の床にはどう言う訳か砂利が敷かれ、土がむき出しになり所々には枯れ葉が落ちている。そしてその部屋の中央に……

「なん、だ、あれ……?」
「建物、ッスか?」
ジュンとテッチが思わず戸惑ったような声を上げる。無理も無い、本来建物が存在しない筈のボス部屋のど真ん中に、見まごうこと無き建物が立っていた。

「ねぇお兄ちゃん、あれってもしかして……」
「あぁ、なんでこんなところに在るかは分からないけど……」
その建築物には、この場に居る殆どのメンバーが奇妙な見覚えがあった、どうしてかと言われれば単純な話、それによく似た作りの建物に、その場のメンバー全員が行った事があったからだ。柱が細く、それほど高くない天井と屋根、突きだした縁側、柱の補強用の長押と、見慣れた瓦の屋根、それはどう見ても……

「ありゃ、寺、じゃねぇか?」
「神社、かな……?」
クラインとユウキが言うと同時に、その建物が“動いた”。

「ぅわぁ!?」
「寺が動いてる……!?」
アイリとタルケンの声が殆ど同時に響き、その建物が横にスライドする……否、違う、あの動きは……

「っ、弟君、号令!構えたほうが良いわ!」
「ひえっ!?」
“振り向いている”のだあの大きな寺を“持ち上げた”さらに巨大な何かが、持ち上げたままこちらを向こうとしている……!

「ほう、これは中々……」
「すごーい!あんなの見た事無いヨ!!」
「わわわっ!!?」
振り向いたその巨大な体躯に似合わぬ小さな目が、こちらを捕える。せわしなく口元を動かす其れが、威嚇するように鋏を閉じて鋭い金属質な音を奏でる。

「これは……大きいわね」
「六メートル以上はありそうですね……」
感心したようにシノンとシウネーが呟く中……

「ってあれ……蟹じゃない!!?!?」
「ーーーーーーーーーッ!!!」
リズの声と共に、大きく両の鋏を振り上げたその巨大なシルエット……もとい、「寺を背負った蟹」が、泡を吐きながら甲高い声を上げた。

「ッ!みんな、気を付けて!」
サチの声と共に、全員が一斉に武器を構える、リョウが楽し気に斬馬刀を回した

「おぉ、BBQの後に蟹たぁ、随分とグルメじゃねぇか!!エギル!お前蟹捌けんだろ!」
「そりゃ普通の蟹の話だろうが!!あそこまでデカい蟹の調理なんぞしたこたぁねぇぞ!!?」
「アンタら、のんきな事言ってる場合かい!?」
風音を立てながら、その蟹は巨大な盾上の鋏を振り回す。再び鋏を鳴らしてこちらを睥睨し、次の瞬間……

「ッ、来るわ!!前衛隊!まずは全力で防いで!!」
「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」
怒鳴るようなタンク隊の応答と共に、新生アインクラッド第28層フロアボス《Unsui the shield general》との戦いが、幕を上げた。
 
 

 
後書き
はい、いかがだったでしょうか?

と言う訳で、次回からは新たなるオリジナルボス「Unsui the shield general」との戦闘になります。
一般的な知識で行けば、何かを「背負う」と言えばやどかりでは?と思われるかもしれませんが、実はカイメンなどを背負う蟹の仲間で、カイカムリと言う生き物が実在していたりしますw
ではなんで寺?(あれは寺です)と言う疑問が起こるかと思いますが……そこはぜひ、蟹に関する伝説を少し調べていただければw

ではっ! 
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