没ストーリー倉庫
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ダン梨・Y
これでも実は、結構迷ったのである。
リリルカ・アーデというソレスタルビーイングにメガネのお兄ちゃんがいそうな少女を放置することによるメリットはあるからだ。
第一に、ベルをカモだと思った彼女はラファエルガンダムのバックパックみたいに大きなあの鞄を抱えてサポーターとして俺らにすり寄ってくる為、ねんがんの サポーター を てにいれたぞ!状態になる。あっちから来てくれるんなら説得の手間も省けるしね。
第二に、彼女は暫くすると裏切り、その裏切りがベルをまた一つ強くする上に彼女の正式なヘスティア・ファミリア加入フラグが建造される。所謂原作の流れだ。現状、この流れをイノベイダーの如く俺の手で変えられるかどうかはかなり微妙なところである。
第三は言わずもがな、ここで余計な事をすれば、騒ぎの裏にいるヤンデレメンヘラビッチ神ことフレイヤに悪い意味で目を付けられかねない。また、ソーマ・ファミリア側からも何らかの干渉、或いは嫌がらせを受ける可能性がある。俺は異能炭酸体ではないので結果的に自分の首を絞める真似をするのは避けたい。
対してデメリットはといえば、リリの裏切りの際に俺の身に何が起こるか分からん程度のもの。激流に身を任せ同化した方が無難な選択と言えよう。
駄菓子菓子、もとい、だがしかしである。俺には二つほど確認したい事があった。
一つ。何故ここにいるかも分からない我が身は、原作の流れという極めて強力な因果にどの程度抵抗することが出来るのか?
既にベルの性格を含めて細かい部分では原作を変えた俺ではあるが、それでも現状この世界は原作の大筋の流れを逸脱してはいない。それが抗いがたい世界の流れによってそうなっているのか、それとも蝶の羽ばたきが大きな嵐を世界のどこかで呼んでいるのか。これは俺が世界に対抗する為の試金石である。
そしてもう一つ。怪物祭で現れた謎の少女コルヌーのバックに「大きな存在」がいるかどうか――これはまぁ、正直不発に終わる可能性あるが――だ。こっちは合理性というよりは、カンに近しいのだが。
まず、コルヌーという名前の冒険者はエイナさんの調べた限りでは発見できなかった。また、ルーについても右に同じだ。で、学のあるエイナさんの調べによるとコルヌーとは「羊」、またルーとは「車輪」という、さほど使われない古めかしい言葉らしい。車輪………確かに彼女は俺の事を車輪と言ったこともあったような気がする。あんなチャランポランな顔して意外と学あるんだろうか、彼女は。
つまるところ、何も分からないことが分かったといったところだ。
ここから弾き出した答えは……単にコルヌーがアングラだったり余所者だったりな上に極めて変な子か、或いは本名を隠さなければいけない程度には本当の名前が知られているかのどちらかだと俺は思う。
じゃあそれと今回の件と何が関係あるかという話になるのだが、そこがカンなので説明しろと言われても困る。
あー、非常に感覚的な説明になるが……何だ。俺と言う存在について、という事を考えていると、こういう作戦を思いついた。
さて、俺とは何だ?ダンまちというラノベのストーリーを俯瞰的視点で捉えた記憶を以てして、この極めて歪な物語の登場人物に祭り上げられた俺という存在は、この世界からすれば何なのか?先程の話に戻るが、俺はこの世界で俺の成す事が見えざる世界の波なのか、それとも蝶の羽ばたきなのかが知りたい。
そしてもしもそれが「世界の波」だとした場合、俺はベル・クラネルという男のサクセスストーリーに付随するサブシナリオとなる。サブだってメイン程じゃあないが立派なシナリオだ。そこに物語が用意されているのなら、蝶の羽ばたきで残酷なる女神が矛先を変えた際に、それに対抗する手段或いは舞台が運命にお膳立てされているのではないかと思う。そして、力と力が衝突すれば波が発生し、どこかでその波が顕在化して目の前に現れる。
要するに、俺は今回自分自身をエサに釣りをしているのだ。あのコルヌーのバックについては色々と想像こそしたものの確信に至る情報など何一つない。ならばいっそ俺から表に出るよう促してみるのだ。何も出てこなければ俺の独り相撲で終わるが、それはそれで俺の在り方に一つ答えが出るから良しとする。あとは死なない程度に騒ぐぞー!である。
という訳で変な男をムチを使って全力でシバきあげた結果、色々と酷いことになった。
「………(自分の逃走計画がファミリアに見透かされていた事実に突っ伏すリリ)」
「………(余りにもソーマ・ファミリアの面々が屑過ぎてキレそうになっているベル)」
「………(立場上何とも言い難いのか気まずそうに身じろぎするリューさん)」
「………(ソーマ・ファミリアにどんな交渉を持ち掛けてリリを引っこ抜くか皮算用中の俺)」
「………(全身を鞭で打たれて切らす息すらなく床に倒れ伏している男)」
そういえば変なお兄さんだが、名前をゲドというらしい。竜と人の戦記に出てきそうだが、この人って確か仲間に裏切られてキラーアントに食われた間抜けじゃなかったっけ。ふむ……口車に乗せられやすい屑。ともすれば、条件次第では利用する方法もあるというものだ。
「まずはギルドに口利きしてソーマ・ファミリアを干上がらせるか。確かあそこの構成員は最高でレベル2、しかも仲間意識なんぞあったもんじゃないから連携はボロボロだ。主神もファミリア運営に消極的だし、多少吹っ掛けられるかもしれないがウンと言わせるのはそこまで難易度低くないかな……いや、そんな遠回しな事せんでもギルド通報の情報を盾に言質を取っちまえば手っ取り早いか?となるとレベル3くらいの護衛が一人欲しい所だな………さて、問題は現体制を作っている団長殿か。牢屋に入ってもらうのが手っ取り早いんだが、さてはてどうにか搦め手で落とせないかね?現体制に不満のあるファミリアで腕利きの奴をこっちに取り込めれば内乱を誘発できるし……そう難しくはないなぁ。情報源も手に入ったことだし」
「バミューダが加速度的にあくどい計画を組み立て始めた!?」
「べ、ベルさん。バミューダさんのコレはいつもの性質の悪いジョークですか?」
「いえ、見てくださいリューさんあのバミューダのあくどい悪魔の微笑みを!ジョークの時は真面目な面してふざけた事抜かすバミューダですけど、本気であくどい事考えている時は決まってあの笑みなんです!!」
流石俺の友達、良く分かっていらっしゃる。しかし聞き捨てならんなぁ、これはお前の為の計画でもあるんだぞ。将来の嫁さん候補は多い方がいいだろ?無論ついでの話であって俺が楽しむのが優先だけどね。
「あくどいだなんて酷いなぁ。俺はみんなの幸せを考えて計画を立ててるのに。ねーゲドくんにリリちゃんや………みんなで幸せになろうよ」
((((こいつ、どこまで本気なんだ!?))))
なんのことはない、原作通りならソーマ・ファミリアなんぞ空中分解してないのが不思議なくらいのスカスカファミリアだ。余りにも狙うメリットがなさ過ぎて誰にも喧嘩を吹っかけられていないだけのチーズの防壁など縫える穴はいくらでもある。
そしてその鍵となるのはリリルカ・アーデ!………ではなくゲドの方だ!!
「ふははは………さーてゲドくぅん?このまま神酒欲しさに泥船にしがみついて溺死するか、ちょいとアル中を我慢して可愛い女神の下に降りるか………選ばせてあげようじゃないか!!ただし俺の満足する選択じゃないと解放してやんねーんだけどねー!!ギャハハハハハハハハッ!!」
「邪悪!!吐き気を催す邪悪!!」
「これはギルドに通報待ったなしですわぁ」
「というか今は営業してないとはいえ店の中で騒がないでもらえますかね?」
「は?何言ってんですかリューさん。貴方も協力するんですよ、この計画に?レベル3以上ありそうな俺の知り合いって今のところリューさんとガネーシャ・ファミリアの黄金仮面さんくらいしかいないんですもん」
「………言い方は悪いですが、私はあくまでこの店の従業員であって戦いをする人間ではありません。貴方も身の程というものを考えて、無謀な計画に参加すべきではありません」
とりあえず流れで話は振ってみたが、やっぱりリューさんは協力してはくれなさそうだ。ま、最悪黄金仮面さんだけで行くつもりなのでいいのだが……どうもね。リューさんはそれでいいんだろうか。
リューさんから見ると、リリちゃんもゲドも「ごくありふれた、他人を貶めて利潤を得ようとする悪党」でしかなく、助ける義理も何もあったものではないのだろう。だけれども俺は思う。性善説でも性悪説でもない。人を悪に落とすのは環境である。悪の排除と無視は一番楽な対処でしかなく、それは悪に対して向き合っていないのと同じ事だ。
あー、またこの店の人にヘイト稼ぎそうだけどやっちゃうか。
「ふーん。自分の立場の為に知ってしまった悪事にシカト決め込みますか。ま、人間の正義なんてそんなもんか。大丈夫、俺も本気でアテにしちゃいませんので」
「……ッ!!」
リューさんから容赦のない殺気が放出された。まぁ意図してではあるが彼女の地雷とも言える部分を幾つか踏み抜いたのだ。怒るだろう。怒るだろうが、それに俺が慄いてやる道理などない。持ち前の器用さでガンスルーさせてもらう。
「ベル、行こう。これ以上『他人』に情報を漏らすのは良くない。ほれリリちゃんとゲドもそれでいいだろ?ブルってないでとっとと立ちなよ」
「ちょ、バミューダ………!今の言い方は!」
「リューさんはうちのファミリアじゃないしー、そもそもファミリアに入ってて戦えるか俺もよく知らないしー。仮にファミリアだったとしても主神同士で同盟の類の話がついてる訳でもないっしょ?」
「バミューダッ!!僕が言いたいのはそういう事じゃなくて――」
「勘違いすんなよベル」
今にも俺の胸倉をつかもうとしたベルに、俺は敢えて突き放すように言った。
「豊穣の女主人もギルドの人間も、隣人であって仲間じゃないんだ。俺たちが野垂れ死んだら『アラ悲しいわ』と涙をホロリするだろうが、そのうち悲しみを乗り越えてまた新しいお客さんに愛想振りまくのが自然な営みな訳。お前、その営みを崩すような事わざわざリューさんに聞かせて巻き込む気か?」
「………ッ!!でも、それは本当にバミューダが危ない計画を実行する時でしょ!!」
「俺は出来るだけ安全な計画を考えてるよ?ただ完璧じゃないだけだわな。でもよ、ベル。お前が本気で冒険者として大成したいんならこの手の話は将来的に必ずやってくるぞ」
「論点が違う!!僕は、君がリューさんを傷つけるような言い方したのが嫌なんだよ!!」
「そうだな、論点を戻すか。なぁベル。お前今の話聞いて、リリちゃん助けたいと思ったか?他人事のままいられんの?」
「――………」
そう、つまるところ最大の問題はそこだ。ベルが俺の計画にのるかそるかも、集約点はそれなのだ。俺がこんな計画立ててあくどいこと考えてるのも全部「ベルがリリを放っておけない」という前提に基づいて話している。
もしベルがここでノーと言ったり口ごもるようなら、俺とてこの計画は捨てる。やる気のない人間を計画に参加させても何も楽しくない。だからこそ――。
「助けたいよ。他人事のままいたくない」
――こういう面白いベルが、俺はお気に入りなのである。
なんの躊躇いも淀みもなく言い切った正直者くんは、遅れて特大のため息を吐くとともに目尻を吊り上げた。
「………はぁぁ~~~、バミューダ!まさか今までの話全部この一言言わせるために婉曲に回してたでしょ!?ホンットバミューダはぁ!!ああもう、僕がこう答える事分かってて言わせるんだからハラ立つッ!!」
「たっはははは!お前がノーっていう訳ない事ぐらいとうの昔に承知の上だっつーの!ったくぅ、リスク覚悟でお前の意地通す作戦立ててやってる俺に対する感謝はねぇ訳?」
「作戦立てながら個人的に楽しんでたくせに。ばーか!」
「黙ってたら『バミューダいい案ない?』って聞く気だったくせに。あーほ!」
「………ぷっ」
「………くふっ」
互いに互いの手の内が読め過ぎていると、なんだかおかしくなって俺とベルはなんとなくげんこつを突き合わせた。さーて、悪だくみの始まりだぁ!!
「……私はまんまとバミューダさんの話術に乗せられた訳ですか」
――と、うつむいたリューさんが呟いた。その気配に先程の殺気はなく、代わりに見えるは決意の瞳。敢えて多くは語らない彼女はどこか目が覚めたように顔を上げて恭しく一礼した。
「貴方たち常連はミアさんやシルのお気に入り。それを知っていて不幸にしたとあっては私も皆に顔向けできません。いいでしょう、ここはバミューダさんに乗せられて利用されます」
「え、リューさん……!」
「あ、いえ。そういうの結構です。ミアさんにバレたら互いにタダじゃ済まないしどうかご自愛ください。いいですか、絶対ですよ!!」
「……え!?今の流れでですか!?ちょ、ベルさんどういう事です!?」
「ああ、バミューダが『いいか絶対だぞ!』って言う時は大抵の場合『ウェルカム』に相当します。これバミューダとのコミュニケーションに於いては基礎の基礎ですので覚えていてください」
一方、嵐のような会話の中、二人だけ取り残されたソーマ・ファミリアは顔を突き合わせて青い顔をしていた。キチったガキ二人だと思っていた目の前の冒険者たちは、自分たちの所属するファミリアを何らかの方法で潰す気なのである。
「………もしかして、とんでもない人たちに捕まってしまったのでは?」
「お前のせいだろうがクソパルゥムッ!!」
「オラ言い訳してんじゃねえ!!俺の鞭でまた打たれてぇのかア゛アンッ!?」
「ひぃぃぃぃぃッ!?」
「………全く、穏やかではなさすぎでしょう貴方は」
しっぷうのリュー が なかまになった!!
「これ、お近づきの印の梨です」
「えっ。あ、どうも………指切らずに剥けるかな」
リューさんェ……とりあえず、今度皮むきピーラーを作ってプレゼントしたげようと思う俺であった。
後書き
Y=やったねヘスヘス!ファミリアが(勝手に)増えるよ!のY。
シリアスだと思ったか?馬鹿め!などと言いつつも、実はベルへの問いかけはそのままリューへの問いかけでもあったという話。それにしたって煽り方がヒドすぎる。エイナさん辺りが聞いたら泣きそう。
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