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勇者にならない冒険者の物語 - ドラゴンクエスト10より -

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冒険者

 冒険者の酒場までは、二十分以上歩くことになった。
 ジュレットという町は段差が多く、何度も階段を上り下りする必要があったからだ。
 町の建物は丸みを帯びた構造が目立ち、貝殻を連想させる。
 道はよく整備されており、石畳で敷き詰められていて歩きやすい。
 道も建物も、白と青を基調に色付けされており、陽の光を反射して凄く明るい印象を受ける。
 時折すれ違うウェディ族の子供たちは皆笑顔を絶やさず、明るく幸せな町だというのが印象だった。
 上がったり下がったりしながら、最終的には最下層のビーチに面した半円形のとても大きな広場にたどり着く。
 冒険者の酒場は、その大きな広場を背にしたまるで断崖絶壁のような町を支える土台の中央に、ポツンと存在していた。
 道行く通行人に混じって、様々な装備に身を包んだ冒険者たちが行き交う広場を横切って、バルジェンはチョウキとジアーデの少し後ろを歩いて行った。
 途中、美しいウェディの娘が三人通りすがりに笑顔で手を振ってくると、反射的にぎこちないが手を振り返すと、チョウキに物凄い目で睨みつけられた。
 何はともあれ一途なんだにゃ、とはジアーデが含み笑いしながら言った言葉である。
 冒険者の酒場に入ると、昼にはまだ早い時間だからか客の姿は数人しかなかった。
 ジアーデは、酒場に入るやカウンターで帳簿と睨めっこしているウェディの女性にまっすぐと向かって行くと、腰につけたポーチから何やら小箱を取り出してカウンターに置いた。

「冒険者登録をお願いするにゃ!」

「ジアーデさんはすでに登録済みですが?」

「ごめんにゃ言葉が足りなかったにゃ、登録するのはこいつにゃ!」

 背後に右手を振って示して見せる。

「チョウキさんも登録済みですが?」

「間違えたにゃ、こいつにゃ!」

 ガッとジアーデがバルジェンの肩に腕を回してくる。
 予想以上の剛腕さにバルジェンはたたらを踏んだ。

「あらカワイイ男性ですね。ジアーデさんはウェディがお好みなのですか?」

「食べると美味しそうだからにゃ!あ、夜のお話だよ!?」

「誤解を招くこと口走らないでくれるかな!?」

 バルジェンが慌ててジアーデの腕を振りほどくと、カウンターの女性は微笑みながら帳簿の新しいページを開いてバルジェンに向ける。

「ジアーデさんは思いつきで生きてるような方ですから、食べられないように気をつけて下さいね」

(こんがり焼かれたりしないよな・・・)

 カウンターの女性に促されるまま、帳簿に記入をしていく。
 女性は、内容を確認すると満足げに頷いて分厚い日記帳のような本を後ろの棚から取り出して来た。

「こちらが、バルジェンさんの冒険の書になります。公認クエストや討伐の記録に使用するものなので、大切に持っていて下さいね。記録された内容を精査して、冒険者レベルを組合で付けますから、紛失した場合はまたレベル1からやり直しになってしまうので気をつけて下さい。毎週、レベルに応じて国から補助金が支払われますが、こちらも冒険の書が基準になりますので絶対に無くさないで下さいね」

 淡々と説明する女性に相槌を打ちながら、いまいち理解していないようなバルジェンに、チョウキが背後から抱きついて言った。

「要するに業務日報だな。冒険者は武官や文官の下に着く公務官という位置づけだ。なるのは簡単だが、レベルを上げるのは大変だぞ」

「業務日報・・・。納得。・・・所で暑いよ、なぜ抱きついてるのさ?」

「お前って本当に失礼なやつだな!」

「チョウキって本当に天然さんだにゃ。彼はあたしらの事覚えてにゃいんだからそんなにベタベタしたら逆に引かれるよ?」

「な、あ! どういう意味だ!?」

 バルジェンから離れて右拳を握りしめるチョウキに、ジアーデが肩をすくめて両掌を天に向けて首を左右に振った。

「とんだ無自覚天然淫乱女だにゃあ、チョウキは」

「い、淫乱ってどういう意味だ!?」

「彼氏でもにゃい男にベタベタするのはいい加減控えにゃよ。バルジェン困ってるにゃ」

 ジアーデの言葉にチョウキが振り向くと、バルジェンは困った顔で明後日の方向を見て首筋を左手で撫でていた。

「め、迷惑、か?」

「いやさチョウキみたいな美女に抱きつかれて喜ばない男はいないが、大概照れるでしょうよ・・・」

「迷惑ではないということだな!」

「いや、ごめん、訂正、迷惑です・・・」

 ショックを受けた様子で固まるチョウキ。
 それを他所に、カウンターの女性が背後のカウンターをバルジェンに指し示した。

「職業登録が次に必要になりますので、あちらのダーマ神官様に適性検査を受けて下さい」

「あー、はい」

 バルジェンが受け答えしていると、入口の方から女性二人が酒場に入るなりチョウキたちに声をかけて来た。

「おおい、ジアーデ! チョウキ! 討伐手伝ってよ!」

 はにゃ? という表情でジアーデが二人組の女性を振り返ると、紫のローブに身を包んで両手杖を持つエルフ族の女性と、身の丈をはるかに超えた大斧を背負うドワーフ族の女性が手招きしていた。
 ちょっとごめんにゃ、と言い残してジアーデとチョウキが二人に近ずいて何やら話し始める。
 手持ち無沙汰でしばらく眺めていたが、話が長そうだと判断したバルジェンは、一人でダーマ神官の座るカウンターに向かった。
 ダーマ神官は、彼を見るとゆっくりと立ち上がって両の手を広げて見せる。

「よくぞ来られました。新たなる冒険者よ。まずは冒険の書をこちらに。そして、この水晶球に両の手を添えて下さい。適性に応じていくつかの職業が示されるでしょう」

「あー、はい。コレですね?」

 バルジェンは素直に神官に冒険の書を手渡すと、早速両手でカウンターに備え付けられた水晶球に触れて見た。
 七色に輝き出す水晶球。

「もういいですよ」

 神官に促されて手を離すと、水晶球に見慣れない文字が浮かび上がっていた。

「ほほう、貴方には3つの適性があるようです。戦士か、武闘家か、旅芸人か。どれを選んでも差し支えはありませんが、強いていうなら得意な武器を基準に考えればよろしかろう。不得意な武器を主兵装にしても戦えなくては本末転倒ですからな。まずは、奥の部屋で武具を試して見るのがよろしかろう」

 ダーマの神官は、カウンターの奥に来るよう促す。
 バルジェンはそれに従い、カウンターの奥の通路を進み、二十畳はあろうかという広さの道場に通された。
 道場の中央には、四本脚・四つ手の身の丈2メートル超える鋼の人形が鎮座している。
 壁には、様々な武器を模した木製の訓練用具が飾られていた。
 神官はその中から、片手剣、両手剣、斧、爪、両手棍を取り上げてバルジェンの前に並べて見せる。

「では、バルジェン君。まずはこの中から武器を選んで、あの中央にいるモンスターを攻撃して見て下さい」

 え、あれモンスターなの!?
 仰天した表情で固まるバルジェンに、ダーマの神官は慌てて訂正を入れた。

「ああ、勘違いしないで下さい。あれは腕利きの冒険者が討伐したキラーマシーンをドワーフの技術者が改修して造った練習用モンスター、タメシマシーンです。武器に対して攻撃反応はしますが、人畜無害ですよ」

 にわかには信じられなかったが、とりあえず取り回しの簡単そうな片手剣を持つと腰だめに構えて恐る恐る近付く。
 振りかぶった途端、タメシマシーンが恐ろしく速い反応速度で鋼の腕を振り回し、バルジェンの片手剣を殴りつけた。
 あまりの衝撃に取り落としてしまう。

「ふむ、片手剣に適性は無いようですな。次はこちらはいかがでしょう」

 両手剣を渡されて再びタメシマシーンの前へ。
 下段から後ろに大きく振り回してぶった斬りをしようとしたが、再び鋼の腕に殴り飛ばされて取り落としてしまう。

「いやいや、適性云々って無理ですよ」

「適性があれば、無駄な力は入らないものです。タメシマシーンくんはそれ程力は無いので武器を取り落とすような事にはなりません」

 本当だろうか?
 半信半疑で両手棍を拾い上げて、さらに対峙する。
 無意識ではあるが、バルジェンは両手棍をリズム良く回転させながら近付き、遠心力を利用して大振りに、しかし素早く振りかぶる。
 やはりタメシマシーンはそれを叩き落とさんと反応して来たが、今度は鋼の衝撃に耐えることができた。
 手はビリビリと痛むが、落とさずに済んだ両手棍をしげしげと眺める。
 ダーマの神官が満足げに微笑んだ。

「どうやら棍に適性があるようですな。ならば、武闘家か旅芸人か、どちらかを名乗るとよろしかろう」

 バルジェンは神官に礼を言って訓練武器を返すと、ダーマの神官はひとつ頷いてカウンターの外に彼を案内した。 
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