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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  Unknown/未知数

今までのあらすじ


戦いは続く。
全サーヴァント撃破という大きな戦力を失ってなお、終わりを見せないセルトマン。

そのころ、「EARTH」(仮)から、ついに蒔風舜が姿を現した。
数名の仲間と共に、彼は戦場へと向かっていた。


この戦いの根源・大聖杯をねらい、ショウは「大きく」賭けに出るも、その反動により手痛いダメージを負ってしまった。
だが戦力は尽きず、戦意も十分。元世界の暴食者は、今この世界を破壊しようとする魔術師に立ち向かう。



------------------------------------------------------------


魔導八天を握り駆けるショウ。
振り下ろされる刃はしかし、セルトマンよりも先にフォンの足によって止められてしまった。

真っ直ぐに突き出された足は、ショウの手首を狙ってカウンター気味に蹴り飛ばしていたのだ。


だが、それで剣を飛ばされるショウではない。
蹴りに合わせて体ごと回転し、今後は反対から刃を振るって襲い掛かった。


微動だにしないセルトマンへの一薙ぎ。
だが、彼の右から襲い掛かるそれもまた、フォンによって食い止められる。

今度は右手で。
更にフォンはそこを足場―――ならぬ手場にして跳躍、ショウの背後から飛び出してきた神裂を、両足で蹴り、跳ね上げた。

弾丸のように飛び出してきた彼女は、その勢いがあだとなって横からの衝撃に軽々と打ち上げられる。


その時点で、フォンの視線は上を向いていた。
そしてその視線のまま、ショウの肩に乗り右足を下斜め横に突き出し


「ぶわっ!!?」

パカンッ!!という小気味のいい音がして、その脚が、というよりはその脚に、美樹さやかが突っ込んだ。
そしてその脚をさやかの後頭部に回して引っ掻け、ショウの頭に手を当てて回転する。

そうして、反対側を駆けてきた杏子にさやかの身体を投げつけて、二人まとめて吹き飛ばす。


「ぐッ、らぁっ!!!」

「おっと」

ここに来てやっと―――とは言っても二秒にも満たない攻防だったが、そこでショウが頭上のフォンへと剣を振るって振り落とす。
頭から手を放し、ピョンとそこを退くフォン。

自分を足場にされたことか、仲間をやられたことか。
若しくはその両方かで、ショウのこめかみに青筋が走る。

「テメェ・・・・」

短い言葉。
だがそれを最後まで発しきる前に、上空から神裂が振ってきた。


「七閃ッ!!」

バゴゴゴッッ!!と、そんな轟音が地面を抉った。
このような轟音の発生源が細いワイヤーによるものだ、と説明されて「そうか」と納得する者はいまい。


しかし信じられないことに、それは事実である。

それを可能にするのが世界に20人といないとされる聖人の一人、神裂火織だ。
「人の子」と身体的特徴が似通っているために、莫大な力を得て行使することが可能な彼女からすれば、これですら力のほんの一端に過ぎない――――

その凄まじい轟音と爆ぜる地面に、ショウも思わず顔を覆って後ずさった。



だが、上空の神裂は目を見張る。
この無数のワイヤーによる猛攻の中、触れれば即切断という音反り射程の殺戮の世界の中―――唯一原形を崩されぬ存在が、踊るように全てを回避していたのだから。

「この男――――ッッ!!」

話には聞いていた。
セルトマン直属の配下五人は、それぞれが特化した能力持ちであったと。

彼等はそれを「完全」と名付け、その尖った才能一つで「EARTH」と戦っていた。
サーヴァントなど、彼等の後を埋める余興でしかなかった。

その完全とは、速度、再生、防御、攻撃。
だが神裂に言わせれば、それすら余興だったのかもしれない。この男はそれらを越えるものを感じる。


攻撃に使えそうにない。
防御としてもいまいち。
早さ、再生などは得られるはずもない。

一見そう思われるこの能力は、敵に回して初めてわかる最大の脅威。


「見極の、完全――――!!!」

「来なよ、おねーさん。あんたの攻撃は見えてる」

「――――Salvere000ッッ!!」


唱える。
我が名、存在はそのようにあるとの宣言。

彼等の魔法名は、絶対なる覚悟の元に叫ばれる全力の宣言。
魔術師ごとに名は違い、同じ語句でも意味は異なる。


彼女のその意は「救われぬ者に救いの手を」

皆を救って見せると宣言する彼女は、己の持つ攻撃に、一切の容赦を捨て去った。


「ッ、ユーノ!!」

「わかってる!!」

神裂の覚悟を聞き、ショウが叫んでユーノが応える。


刀を構える神裂は、その力すべてをその一撃にかける。
たとえ見極だろうとも、攻撃範囲内にいた時点で回避しようのない最大の一撃を――――!!


「結界展開!!」

「お前ら伏せろォッ!!」

「唯閃ッッッ!!!」


音が消える。
無音の中、めくれあがって吹き飛ぶ土砂だけが視界を覆っていく。


「――――――ッッッ!!!」

その土砂の勢いは、一部をユーノの結界展開の速度をくぐり抜けさせ、一気にショウへと圧し掛かるほど。
それがショウへと落ちてこようとしたところで


ォオ―――――ドンッッ!!!

どこかに行っていた音が帰って来たかのような、そんな風に聞こえる轟音。
その轟音が結界を揺さぶり、さらに衝撃でショウへと落ちる土砂をバラバラに吹き飛ばして霧散させる。


「ゥあっ!!」

思わず転がるショウ。
一瞬身体が地面から離れたので、吹き飛ばされたと言ってもいい。


「ユーノ、解け!!」

転がりながらのショウの叫び。
それに応じてユーノが結界を解くと、土砂が崩れてフォンの姿が見えてきた。


「回避していたか―――!!!」

「しかし、終わりです!!」

あの閉ざされた中で、一体どうやって回避しきったと言うのか。
直撃を避けたとはいえ、あの唯閃を多少汚れたくらいで済ますと言うのは余りにも常人離れすぎる。


それを終わらせようと、セイバーが宝具を滾らせて地を駆ける。
流石に唯閃の一撃は回避出来ようとも、その後にこの一撃では直撃を避けるのは至難の業。



(可能性は五分。喰らうか躱すかは二つに一つ――――ってところか)

よろける身体の体勢を整えようとするフォンは、しかし冷静に推察していた。
そして、彼の完全は目の前の状況から結果を導き出す。


(エクスカリバーは回避できるな。というか、このままこけて転がるか。まあでも)

「ティロ・フィナーレ!!」

「流石に簡単じゃないか!!」

解っていたからこそ、焦ることなく自分の詰みを自覚する。

真横から放たれたマミの砲弾。
崩れる体制を加速させて、それを回避する。

だが、そこまで。
地面に倒れかかっているこのままでは、エクスカリバーなど回避できるはずもない。


「エクス――――カリバァーッ!!」

放たれる黄金の輝き。
世界四剣の一、聖剣・エクスカリバーの砲撃ともいえる巨大な光の束の斬撃が、唯閃以上の轟音と共に空を行く。

唯閃によって積もっていた土砂はその轟音だけで吹き飛んだし、近くの太い木は仰け反ったように形を変えてしまう。


だが、ここまで言えば分るだろうか。
エクスカリバーは地面に、ではなく、空に向かって、放たれていた。

角度にすれば45度ほど。
その確度で、空へとエクスカリバーの光は伸びて行って見えなくなってしまう。

簡単にいうなれば――――エクスカリバーは、フォンには当たらなかったということだ。


「おいフォンよぉ。何でもかんでも紙一重で避けまくんな。もっと下がれってぇの」

ジュウ・・・という音。
エクスカリバーが、放った分だけの高熱を、煙として発している。

しかし、その音はそれだけだ。
それを掴んでいる男の掌は、焼けるどころか水ぶくれひとつ起こしていない――――


「聖人に、聖剣か・・・だが惜しい。俺は「それ以上」だ」

神裂の手首と、エクスカリバーの先端部を握りしめて止めているのは、他ならぬアーヴ・セルトマン。


ぞっとする。
この男の得体の知れなさに。

目の前の男はにやりと笑う。
だたそれだけの動作だというのに、この胸の奥から煮え立つような恐怖は、いったいなんだと言うのだろうか?


一方、セルトマンに助けてもらっていたフォンは、バックステップで後退していた。
片手ずつで神裂、セイバーの二人を抑えているセルトマンが、それを何とも思わせない軽い口調でフォンへと背中越しに語りかける。

「おいフォン。もういいぞ」

短く、一言。
ショウやセイバーたちが勘ぐるが、残念ながらこの言葉にそれ以上の意味はこめられてはいない。


「ご苦労だったな。ここからはおれ一人でいい」

「そうですか。じゃあ、こっちはここらで失礼します」

踵を返して背を向けるフォン。
本当にこの戦いから降りるというのか。

あまりにも前触れのない、あまりにも唐突な出来事に、ショウですら目を丸くした。


「おい・・・どういうことだ!!」

「どうもこもない。こっちの目的はセルトマンさんの手助け。それも自主的なもの。その当人がもういいと言ったんだから、これ以上の手出しは必要ないっしょ」


そう。このフォンをはじめ、セルトマンについてきた五人に、それ以上の感情はない。
ただ自分の恩人のために、手を貸してきただけのことだ。

故にセルトマンの目的や思惑には全く執着がない。
ただ、彼の助けになれればそれでよかったのだから。


「こっちは見させてもらうとします。あなたの、この戦いの顛末を」

「楽しみにしていろ。アーカイヴみたいなスカスカ中身ではなく、しっかりとした描写とともに送るさ」

「ええ。では」

「ああ。楽しかったぜ、フォン」

ザッ、と。
それだけの音を残してフォンは消えた。

あれだけ場を引っ掻き回していた男のものとは思えぬ、あっけない退場だった。


「ずいぶんと余裕じゃねぇか、セルトマン」

覚悟はできているのか。

そう問うかのように、ショウが睨みつけて漏らす。
対して、セルトマンの余裕な態度には微塵も変化はない。

「なに。ここまでくればあとやることは三つほど」

しかし、そこで


「不動拳――――!!」

「だっガウッ!?」


ドゴン!と、一発。
ショウとの会話中にもかかわらず、翼刀の不動拳がセルトマンの背後からぶち込まれた。

一気に吹っ飛ぶその体を、ショウがひらりと回避して翼刀へと視線を向ける。


「終わったか?」

「はい。あとはあいつだけですよ!!」


グッ、と拳を握り締めて答える翼刀。
後ろのほうでは、唯子がセイバーと神裂に手を貸していた。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

「しかし、エクスカリバーですら効かないとなるとあの男、本当に一体・・・」


顎に手を当て、一考するショウ。
たがそちらを考えても答えが出ないのは今更だ。


「いったん立て直す。退くぞ」

「そんな、ここまできて」

「ここまで来ても相手が未知数だから言ってるんだ」

そう。
ここまで攻撃し、相手の手を見せられても、セルトマンという男の無尽蔵さの答えが出ない。

それが一番怖かった。


大聖杯から汲み出した魔力を、何の反動も損傷もなく使いこなす魔術回路など聞いたことがない。


彼の持つ魔術系統では、それは学問だ。
そして、無から有は生まれない。

何かを成すには、それ相応の犠牲が必要なのだ。

魔術礼装を使っているわけでもない。
特殊な術を行使しているわけでもない。
この敷地内だけで発揮されるような、そんな能力設定ならばそんなものはとっくに発見している。


「なんなんだ。この違和感は」

グシャグシャと髪を引っ掻き回し、イラついたようにつぶやくショウ。
視線は、セルトマンの吹き飛んで行った方向を向いていた。


「来ますかね?」

「いや、来ない」

襲いかかってくるのか。
それを翼刀が聞くと、さっきまで疑問ばかりだったものとは違う、確信に満ちた答えが返ってきた。


「なぜに?」

「・・・・おせっかいな世界最強が相手をしているからだよ」

苦笑気味にそう告げ、行くぞと皆を率いてショウが下がる。

ここはいったん、戦線復帰したあいつに任せるとしようか。



------------------------------------------------------------



「いてて」

がさりと、茂みが揺れて声が漏れる。
頭をさすりながら出てくるセルトマンだが、少し土がついているくらいで外傷は見えない。

目を凝らし、手のひらを額に当てて遠くを見ようとする。
木々の隙間を超えて、その向こうにショウたちの姿をとらえて「んー」と唸りと漏らしの半々のような声を出す。


「追うかな?でも行くメリットないしそれに」

振り返る。
そこにいたのは、一人の男


「こっちの相手のほうが楽しそうだ♪」

「よう、セルトマン」

「直接戦うのは数週間ぶりだな。ミッドチルダでのあれ以来か」

「おう、あれ以来だ」


セルトマンが振り返ると、そこには仁王立ちした蒔風が、拳を握って睨みつけていた。
さらにはセルトマンの周囲を囲んで、なのは、エリオ、まどか、ほむらの四人が武器を向けていた。


「この状況なら、ふつうは投降するか何かを進めるもんなんだかな」

「冗談。ここまで遠くに来て、いまさら終わりにはできないって」


「ディバイン――――」

「スターライト――――」



「だが、お前の力はいまだにわからん。なぜこの時間のお前が、未来の時間軸のアーカイヴを覗けるのかもさっぱりだ」

「でもそれでも来たのか?」

「考えたんだよ。で、出た答えがだ」


「バスター!!」

「アロー!!」


「お前倒せば、関係ないってな」

「チッ!!」


放たれる砲撃魔法に射撃魔法。
図太い砲撃を、真上へのジャンプで回避して行くセルトマン。

だが、まどかの弓矢はそれを追って柔軟に軌道を変化させる。


「追っていくよ!!」

「うぜぇ!!」

真下から迫る弓矢。
セルトマンのそれぞれの指先に魔力がたまり、それをふるって弓矢を撃墜していく。

爆ぜる桃色の光。
だがその弓矢の後から、なのはの魔力スフィアが縦横無尽に軌道を変化させてセルトマンの全方位から飛び掛かっていった。


「手数勝負かよ、めんどくせぇ」

桜色の光弾が、一斉にセルトマンへと向かってく。
その二、三発を蹴り飛ばしたのち、魔力放出で一気に薙ぎ払う。


すると、空から落ちてくる雷撃にセルトマンの全身が硬直した。
確認する必要もなく、セルトマンはそれがエリオによる雷撃魔法だとわかっていた。

まともな体勢もとれず、地面に落下するセルトマン。


即座に全身のばねを使って跳ね起き、ストラーダによる槍撃を弾きあげて立ち上がった。

雷をまとったエリオのスピードは、フェイトには及ばないものの常人のそれをはるかに超えたものだ。
魔力探知ができるからと言って、それに反応することは不可能に近い。


ただし


「紫電一閃!!」

「ヅっ!!」

それは、相手も常人の域を超えていなければの話だ。


電撃に覆われたその槍の先端を、握りしめて止めるセルトマン。
全身を駆ける雷に顔をしかめながら、だがその程度の痛みで済ましてしまう。

それどころか、セルトマンの全身を走った雷は、槍を掴む左手から右手へと集約されていき

「ふんっ!」

「がっ!?」

雷撃をまとった横の手刀が、エリオの腹部に叩き込まれてしまう。

吹っ飛ぶエリオ。
だがそのエリオを蒔風がキャッチし、セルトマンにはなのはとまどかが連続射撃を繰り返していた。


「はっは!!その程度か、笑わせんなぁ!!」

とはいえ、セルトマンの言う通り。
手数勝負の連続攻撃では、この男を追い詰めることはできそうにない。


最初こそはガードしていたセルトマンだが、次第にそれも減っていき、ついには弾丸の中を悠々と歩み寄ってくるほどだった。


「どうした!!」

吠える。
もっと何かやって見せてくれと。


「そんな程度じゃなく、もっとすごいの来いよ!!」

「それには及ばないわ」

叫ぶセルトマンの背後。
そこから、そんな声とカチッという小さな音がした。


ドォンッッ!!

直後、セルトマンの視界とすべてが、紅蓮の赤に包まれた。

爆風を背に、暁美ほむらがフッと現れ、荒れる髪を軽く抑える。



「うわ、すご」

「私の魔法を駆使すればこれくらいはできるわ」

「ほむらちゃん」

「なんですか?なのはさん」

「武器のこと、あとでお話ね?」

「!?」


爆炎を眺める三人。
モウモウとあがる煙と炎は、ちょっとやそっとの爆発ではなかったことを表していた。

しかし、その炎の中にユラリと動くを見るまでは、だが。


「な」

「熱い。熱いなぁ。だが俺の身体は、そう簡単に壊れるもんじゃないんだよ」


ヒュッ、と
空気を切る音がしたと思うと、爆炎の中から炎の塊が飛んできた。


攻撃か
そう思い、ほむらは即座に盾の砂時計を消費する。

時が止まり、世界が変わる。

そして自分へと飛んできたそれを横に回り込んで回避、そして目を向けると、ほむらはその光景にぎょっとした。
これは、ただの炎の塊ではなかったのだ。

セルトマンだった。
炎の中から飛び出してきたこの男は、炎を全身を纏いながら突っ込んできたのだ――――


だが、反撃するなら今がチャンス。
盾の収納から銃を取出し、それを躊躇なくセルトマンの足に向けた。

そしてグッと歯をかみしめて引き金を引こうとすると

炎の中のセルトマンと目が合った。


「ひっ!?」

おかしい。
セルトマンは自分に向かってきていた。

そして自分は今、時を止めてその右側に回り込んでいるのだ。
ならば、この男と視線がぶつかるのは絶対にありえない―――――!!!


カチッ

「あ――――」

その一瞬の恐怖。
その間にほむらの魔法が解け――――


「ほむ」

「あぶな」

「もらっ」


時が動き出す。
セルトマンの身体は瞬時に方向を変え、まどかとなのはが呆気に取られる。

その各々の口から台詞が言い終わらないうちに


「紫電」

「雷旺」

「「双槍一閃!!!」」

「ゲブァッ!!!」

エリオと蒔風の、ストラーダと朱雀槍による二撃がセルトマンの腹部に突き出され命中した。

ドギャゥッッ!という凄まじい音が二度。

一度目は突貫してきた二人が地面を抉りながら踏み込み、そして攻撃でストップをかけたもの。
二度目は、吹っ飛んだセルトマンが空を切り、地面をはねて小さな盆地を作った音だ。



「フシュゥ・・・・」

「ハぁ――――」

短く息を漏らす二人。
ビッ、と槍を振るい、尻餅をついてしまっていたほむらを起こす。


「今の一撃でいけたでしょうか?」

「さあな。だが俺ら二人の雷アタックで無傷だったら・・・・・」

ガラガラ――――ザシィ


「ふいー・・・ぁ」

ゴキゴキと首を鳴らすセルトマン。
肩に手を当て、ぐるぐると回す。


「ちょっと傷つくなぁ」

はは、と薄ら笑いをした蒔風が次に聞いた音は、ガンッッ!!という、自分の頭が地面に叩き付けられる音だった。


「舜君!!」

「ハは!!」

なのはやエリオたちの間を抜けて、一直線に蒔風の顔面を踏みつけるように蹴り、地面に向かって落とすセルトマン。
二人は即座に振り返って武器を構えるが、セルトマンの蹴りがストラーダをはじいてレイジングハートとぶつける。

武器が絡まってしまった二人を援護しようと、まどかとほむらが動くが


「ガンド!!」

セルトマンの指先から発せられる黒弾。
指差しの呪いとされるガンドは、比較的ポピュラーな魔術だ。

通常ならば相手の具合や体調を悪くさせる程度だが、これを超一級の魔術師がやると物理攻撃も付与される。


それがもし、このセルトマンという莫大な魔力の塊で放たれるとすればそれは―――――


「グッ、きゃぁっ!!」

「あ、ぐぅっ!!」



弾丸というより、もはや砲弾だった。
真っ黒な塊がまどかとほむらの二人に命中し、あまりの勢いに二人は砲弾に張り付いたように吹き飛んでいく。

やがて砲弾は消えたものの、倒れた二人が立ち上がることはなく


「くそっ!!」

切りかかるエリオ。
セルトマンがほんの少しの体捌きで槍の先端を回避し、エリオの腹部へと蹴りを放った。

くの字になって弾かれるエリオ。
だが、セルトマンにはこれといった手ごたえはなく


「エクセリオン―――バスタァッッ!!」

バチィ!と、なのはのエクセリオンバスターとセルトマンの魔力障壁が正面からぶつかった。


桜色の火花を散らし、さらになのはは砲撃を放ちながら前進する。
そして障壁へとたどり着き、レイジングハート先端から突き出た魔力針でこじ開け

「フルドライブ!!!」

≪All Right.Wing program,ignition≫

展開される巨翼。
桜色の翼がレイジングハートから展開され、残りすべてのカートリッジが装填、排出される。

「スターライト――――ブレイカーーー!!!」

一瞬で収束される魔力。
ブラスタービット二機の展開も加え、放たれる桜の閃光。


その砲撃は、これまでも数ある強敵を打ち破ってきた最強砲撃。
はたして、この中で無事でいられる人間などいるはずも


「むぐっ!?」

いた



「はぁ、はぁ、はぁ・・・・イってぇぞこのアマァ!!!」

「ぐ・・・きゃ、あグゥッ!!?」

それだけの砲撃の中、セルトマンはなのはの顎を掴んでいた。
そして軽く持ち上げると手を放し、そのまま裏拳で彼女の横っ腹を思い切りなぐりつけた。


砲撃が切れ、吹き飛ぶなのは。
木に叩き付けられた彼女は血を流しながら呻き、しかしガクッと気絶して全身から力が抜けた。

ズゥン、とその木が折れて倒れ、なのはのバリアジャケットが解除されてしまった。


「なかなか・・・効いたぞ」

対して、セルトマンも無傷というわけではない。
口元から血は垂れているし、髪を書き上げるとぬるりとした血の感触が手に残る。

内臓は握り捻られているかのように痛むし、呼吸のたびに胸が痛む。
ゴホッ、とせき込み、それだけで痛む身体。


「いてて・・・あとは、と」

ザクッ!!

「いった!!」

「逃がさないぞ!!」

エリオのストラーダの先端が、セルトマンの太ももを切り裂いて血をしたたらせる。
あの時の手ごたえのなさは、エリオが自ら後ろに跳ねて回避したのだと、セルトマンは今更思い出した。


「ああ、おまえか」

だが目の前の青年を見て、セルトマンはそんな感想を漏らした。
ただ単に「そこにいたんだ」という、目の前の状況をそのまま洩らしたかのような、特に焦りも何もない表情。


「いや、お前を軽く見ているわけじゃないんだ。エリオ、お前の実力は相当高い。それはわかる」

「・・・・・」

セルトマンの言葉を、黙って聞いていくエリオ。
だが、彼はその言葉よりももっと目を見張るものが見えていた。


「いずれはフェイトをも超えるだろうな。っていうか、蒔風との連携で雷攻撃できるのお前くらいじゃね?」

「ばか・・・な・・・」

「あの連携雷攻撃だって、蒔風がお前に合わせていたわけじゃないだろ?そんななまっちょろい威力じゃなかったし」


エリオが見ていたのは、セルトマンの傷。

話していくうちにセルトマンの顔が、痛みで重くなっていたものから軽いものになっていく。
それどころか、血で汚れた部分がなくなっていてすらいた。

ザラリと血が落ち、しかもさっき切りつけたばかりの太ももの出血がもう治まっているではないか。



「だが残念だったな。お前ら人間じゃ俺には勝てん。人間の延長であるお前らには、な」

「なにを――――」

「科学の世界では、親は子に勝てない。そりゃそうだ。そっちのほうが最先端なんだし」

そう言っているうちに、太ももの傷が、ふさがっていく。
ならば攻撃の手を休めるべきではないというのに、目の前の不可解さにエリオの体は動かない。


「だが俺の系統の魔術では、古いほうが強いんだよ。子は親に勝てないってな。古い神秘のほうが、時を重ねた分強くなる」

(この男は―――まさか、あの五人すべての完全を手に入れているのか!)


「だから俺は・・・っておい、聞いてるか?」

エリオの思考。
それを察し、セルトマンが呼びかけ「ははぁ」と納得したような声を漏らす。


「ああ、俺の能力のこと考えてんのね?残念ながら、俺の能力はあの五人の複合では、ない」

「!!!」

「あれらは過程で生まれた余剰パーツみたいなもんでな。かわいそうな奴らがいたから、気まぐれでプレゼントしたんだ。まさか、あんなに手伝ってくれるとは思わなかったけど―――助かったし、楽しかったな」


セルトマンは言う。
自分の能力は、それらに縛られるものではない、と。

ではなにか。
この男の能力は何か。

そもそも、大聖杯の魔力を直接運用して、肉体も精神も無事な身体とはいったい―――――


「しいて言えば、俺は人間の完全、とでもいうのかね?」

「人間の・・・だと?」

「ま、これ以上はネタばれ厳禁ってことで」

ガシィ!!と
そこまで言って、セルトマンが手のひらを軽く出すとそこに刃が振るわれてきた。

組み上げた大剣・獅子天麟を叩き付けた蒔風が、セルトマンの動きを止めながらエリオに叫んだ。


「エリオ!!三人を連れて戻れ!!」

「舜さん!?」

「まどかとほむらがやばい。ガンドの呪いの進行が速すぎる!!急げ!!」

ハッとして振り返ると、地面に倒れている二人の息が荒い。

駆け寄って見ると、それがさらにわかる。
息は荒く、顔が赤い。額に触れようとすると、それだけでものすごい熱を感じた。

「ガンドの呪いは病魔に関するものだ。このままでは衰弱死する可能性もある!!」

「――――くっ、すぐに戻りますから!!」

まどかとほむらを背負い、さらになのはを抱えてその場を駆け去るエリオ。
うち二人が中学生だとしても、素晴らしい脚力である。



「さて。これで一騎打ちといったところかな」

「てめぇ、最初からそのつもりか」

「いやいや。俺が決めたわけじゃない。恨むならアーカイヴでも恨んでおけ」

「黙っとけ!!」

蹴り飛ばされるセルトマン。
地面を転がるが、しかしさしたるダメージはない。


にらみ合う両者。だが、その二人には差がありすぎる。

先に動いたのは


「楽しかった。本当に楽しかった」

ユラリと


「そしてお前たちのおかげで、俺の目的も達成できそうだ」

一歩


「あとやることは、ほんの少し。そんなに時間はかからない」

メモでも見るかのように掌を見て



「つまり、この世界の寿命は、ここでお前がどれだけ耐えるかで決まるんだ」

そして、指をさす。



終わりだと宣言する。

お前が耐えればその分伸びる。
しかし、伸びるのはそれだけだと。

この世界の終わりは、もはや確実だと。一切のためらいも疑問もなく、この世界の守護者へと告げた。


「せめて、最後まで楽しませてくれ。蒔風!!!」



------------------------------------------------------------



「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」



「ん、ありゃぁ・・・おーい!エリオさん!!」

「翼刀!!それに皆さんも――――」

「あれ、でもエリオさん確か・・・・ってまどかちゃんにほむらちゃん!!何があったんすか!?」


三人を抱えて走るエリオ。
そのエリオを見つけたのは、ショウの指示で撤退していた翼刀たちだった。

事の顛末を彼らに話し、まどかたちを預けて戻ろうとするエリオ。
だが、それをショウが止めた。


「エリオ、お前はこいつらを頼む」

「え?」

「確認するが、あいつは一人でセルトマンのところに残ったんだな?」

「え、ええ。そうだけど」


「―――――あのバカ!!!」

「あ、ちょっと俺も!!」

「まって翼刀!!」

歯ぎしりし、エリオの来た道を睨んで駆けだすショウ。
さらに、その後を追って走り出す翼刀と唯子。

その勢いにエリオは置いて行かれ、結局彼女たちを「EARTH」(仮)へと送ることになってしまった。



「セルトマン相手に一人で残って、何考えてんだあいつは!!」

「いやー、舜さんのことだからなんも考えてないのかも」

「ありえそうよね、あの人なら」

「くそっ!!手間増やさせやがって!!!」

駆ける。



セルトマンの見てきた、この世界のアーカイヴ。

それもついに、終盤へと差し掛かった。




はたして、未来はその通りに決まっているのだろうか。




to be continued
 
 

 
後書き

読み直して思ったけど、今回の話でショウに対して少しぶっきらぼうなエリオがお気に入りだったりして。

あとガンドやべぇ。



ではこの辺で

蒔風
「次回。ついに第六章、最終戦へ。セルトマンの謎スペックの根源とはいったい?」

ではまた次回
 
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