世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
聖杯怪獣/岩鉄巨人
今までのあらすじ
ついに翼刀と唯子、二人の戦いに決着がついた。
撃破されたのは、二人で合わせて計七騎。もはや彼等は現れない。
この時点で、セルトマンのサーヴァントは全滅した。
そして蒔風たちは知る由もないが、セルトマン自身にはこれ以上召喚するつもりはない。
戦場を駆け続けるショウは、この場からサーヴァントの全てが消失したことを感知していた。
近くはない場所で、他のメンバーがフォンを押し留めている。
今のセルトマンは剥きだし状態。
責めるなら、この時だ。
ショウはやる気を引き上げながら、「EARTH」ビルへと広い敷地内を再び向かっていた。
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「へぇ。また来るの?」
そしてその様子を、セルトマンは「EARTH」ビルの上部階――――蒔風の個室から眺めていた。
ここは局長室ではない、いわば彼の家なのだが、雑務用のデスクはある。
その椅子に座り、クルクルと回りながらモニターを表示してその様子を眺めるセルトマン。
コンソールに手を伸ばし、軽く触れて何かをオンにした。
「あーあー、ゴホン。ショウさーん?聞こえてますかー?」
おもむろに、少し張った声でセルトマンが語りかける。
その声は何らかの効果で伝達され、歩を進めるショウの元に届いていた。
『なんだ?』
「まだ挑んでくるのかい?」
『・・・それはこっちのセリフだ。新しいサーヴァントはどうした。まだ候補はいる筈だろ?』
特に視線の先を変えることもなく、ショウは普通に進んでいく。
そんな様子に「ノリ悪いなぁ」とセルトマンがため息をして呆れる。
「とにかく召喚すればいいものじゃないですー。やっぱりどうすれば面白いかが大切」
『蒔風みてぇなこと言ってんじゃねえよ。結論を言え、結論を』
少しイラついたのか、脚を止めてショウが急かす。
そして軽く視線を上げ、「EARTH」上階部にある蒔風の部屋に向いていた。
(気付いたか?)
こちらを向かれ、セルトマンが軽く振り返る。
リビングと言えるエリアのテーブルの上。
そこに、この大聖杯の核が安置されていた。
前に翼刀たちが攻め込んだのは局長室。「EARTH」ビルの15階だ。
だがすでに知られた位置では危険なのは明白。
そこで、局長室から蒔風の私室へと移動してきたのだ。
移動その物は問題ない。
「EARTH」内は現在、魔力の影響で多少磁場が歪んだ状態になっているので、離れた扉と扉を繋いで行くことは容易だ。
(サーヴァント出しまくって、あっちじゃ危ないと思って動かしたんだがな)
ここなら大丈夫、ということはないだろうが、巻き込まれる心配はないはず。
そう思って移したのだが。
少し焦りを見せるセルトマンだが、失敗と言う言葉は微塵も思いつかなかった。
それは彼が愚かだからという意味ではなく、彼の知るアーカイヴはそこで途切れていないからだ。
「まあいいや。こっちに来るならいらっしゃい。でも、ここまで来るのには苦労するよ?」
『だろうな』
モニターの向こうで、ショウの周囲を敵が蠢いていた。
四足であったり、人型であったり、翼があったり、異形であったりの、様々な形状をした魔物どもだ。
更にはその中に、チラホラとマジュウや魔化魍といった、自然発生するタイプのモンスターまで見える。
もとは貧弱なものであっただろうと推察されるが、大聖杯の魔力の影響で飛躍的に力は向上している。
それに加えて、この数だ。地面から湧き出るように現れるそれらは、黙って見ているだけでどんどん増えていく。
『まあショウならこれると思う。がんばってね』
ドコかから、カンラカンラと聞こえる声。
それに対し、ショウは軽く鼻で笑った。
「はぁ・・・・」
ジュゴァッッ!!と
ショウの溜息の直後、そんな音を立てて、魔物たちの一角が蒸発した。
更には無数のワイヤーが飛び交って、更に別の一角のマジュウをバラバラに切り裂く。
「俺はそれどころじゃないんだ。任せたぜ」
「任務じゃなきゃ、こんなとこまで来はしないのに」
「ぼやいても仕方がないです。やりますよ、ステイル」
「わかってるよ。ガミガミするなよ、神裂」
ショウの呼びかけに、新たな人影が現れた。
炎を操る、神父服のステイル=マヌグス。
刀を手にした、エロい恰好の神裂火織。
「何か今不当な説明があったような気が」
共に、必要悪の協会所属の魔術師である。
確かに、「EARTH」と彼等は協定は結んでいるが、あまりかかわってこなかった組織だ。
それなのに彼らが来た理由。
それは
「それよりも、本当にあいつの狙いはインデックスなのか?」
「そうだよー。あいつがホントのホントに目的達成したら、十万三千冊の魔導所が狙われるのは当然なんだよー」
「・・・・うそっぽいですね」
「全くだ」
「ここまで来てねちねち言わない」
だが、彼等だからこそショウの呼びかけに応じた、ともいえる。
もしも過去にショウと出会っているのであれば、それはおそらく敵同士だった時。出会っていたら、警戒心から来ることはなかったかもしれない。
「っても、警戒はあるよね」
「当然です」
「というか、なんだい?あのバカみたいな魔力の塊は」
「ありゃあんた等とはまた違う魔術系統だ。あんたらのは才能無き者の術かもしれないけど、あっちは立派な学問。才能も何もかもありきだ」
そういって、大聖杯を睨み付けるショウ。
周囲の獣どもは、彼等によって容易に撃破されている。
だが、あまりにも数が多い。
「このままでは進めませんよ?」
加えて
「ボクの魔術はルーンで陣地を張って起動する物だ。進撃するのは無理ってこと、知ってるかい?」
神裂ならば、これだけの魔獣を押し返すこともできる。
ステイルならば、これだけの魔獣でも焼き払うことができる。
だが、聖人と言えどもマジュウの精神干渉攻撃や、魔化魍の特殊攻撃には手を焼くし
ステイルの炎はルーンを布いた陣地内でないと万全の威力を発揮できない
「大丈夫だ。今からその全ての問題を解消する」
ブンッ、と
ショウが魔導八天を二本残して上に放る。
六本の剣は、ショウから均等の距離にはなれて落ちて、それぞれがラインを地面に敷いた。
三角形と逆三角形からなる六芒星の光の中心で、ショウが残った二本を地面に突き刺す。
握るとまるで、それは何かの操縦レバーのようにも見える。
「なにを・・・・・」
「EARTH」ビル内で、セルトマンはその様子を見ていた。
アーカイヴにはない行動だ。
ということは、取るに足らないものか、それともただ単に描写されていないだけなのか。
セルトマンは瞬間的に前者だけは無い、と感じ取っていた。
アーカイヴにその先が記されているため、これで終わり、ということにはならないと確信していている。しかし、ではこの悪寒は何か。
ズゥン――――という
重く、重い音が、彼等の足元からしてきた。
地震か。
ならば、ショウが起こして物に違いあるまい。
だが地面が揺れた程度のことではないはず。
この男がこれだけ言ったのだ、それだけで終わるなんてことは、絶対にない。
ズッ――――――
その瞬間。
――――――ッ轟ンッッ!!
地面が、浮いた。
「なッ!?」
「これは」
ステイルは驚き、神裂が感心する。
円形に、直径は20メートルか。
厚さ1メートルで、地面が浮き上がって行った。
プレート、と言ったら一言で済むだろう。
だが、この程度の大きさでは神裂は驚かない。
ステイルとて、いきなり足元が浮いたから驚いただけだ。
なにをやっているかがわかれば、そう驚くことはない。
そもそも、神裂はこれ以上に巨大な浮遊する土地を落したことだってあるのだから。
高度があがっていく。
今はせいぜい20メートルか。
その状態で、ショウがゆっくりと「EARTH」ビルへとプレートを進める。
「なるほど。そのまま魔力を吸い上げる、ってことか!!」
セルトマンがショウの魂胆を見抜き、そうはさせないと魔物どもを襲いっからせた。
翼がある物は当然、飛べない者はそれらに運搬されてプレートの上に落とされる。
「ほら。ルーンだって直で刻んであるんだ。怠けるなよ?」
「うるさい!!」
襲い掛かる脅威を、なんの苦も無く焼き払うステイル。
そうして、「EARTH」ビルとの距離が近づき、六芒星が淡い紫色に光り出した。
瞬間
「七閃――――!!!」
「イノケンティウス!!」
神裂の斬撃は前にもまして巨大に打ち出され、イノケンティウスの身長は4メートルにまで吹き上がった。
放った攻撃の、思っていた以上の威力に驚く。
「ちょ、ちょっとまて!!こんなにも膨大な魔力、送られまくったら・・・・」
「ああうん。破裂するだろうな。ボーン、って」
「な」
「だからどんどん使う!!あの魔力全部使えるんだから、手加減するなよ!!?」
「「アンタこれが狙いかよ!!」」
二人の怒声は背に、ペロッと舌を出しながらシレッとした顔をするショウ。
「大丈夫だ。呼んでいるのは」
ドォンッッッ!!
「お前らだけじゃない」
「うひゃあー。こりゃぁ凄いですね!!」
「なんださやか、怖気づいたか?」
「ケンカしないの。私たちも行くわよ!!」
黄色の弾丸が唸る。
紅色の槍が引き裂く。
青い刃が飛び出していく。
魔法少女であるさやか、杏子、マミの三人もまた、プレートの上に立ち、流れ来る膨大な魔力を消費して敵を迎え撃っていた。
「まさかこんな強引にするとは」
更には、先ほど別れたリィンフォース
「これならば、いくらでも私の宝具を撃てます!!」
剣の英霊。セイバーであるアルトリア・ペンドラゴン。
「オォッシャァ!!ドンドンぶっとばしてやるぜェ!!」
「行くぞ、賢久!!」
これまた、炎を操る田島賢久と、劫の目を持つ皐月駆までが集結している。
彼等は各個にして強力。
しかし、その魔力消費があまりにも大きい者たちが多い。
だが今はそれを気にする必要はない。
今その魔力元は、目の前の大聖杯―――――
「クッ・・・・」
「大丈夫か?」
「は、はい・・・・みんなががんばってるんです。私だって、やる時はやりますよ!!」
ショウの背後では、間桐桜がライダーと共に戦っていた。
もともと小聖杯としての能力を持っていた彼女は、その魔力の影響を最も受けやすいと言える。
彼女に関して、無理はするなとショウは言っていた。
だが士郎も凛も、冬木防衛戦で消耗している。彼女は戦闘が不得手なので後方支援だったため活躍できなかったが、聖杯が相手となれば、彼女の本分ともいえるだろう。
「さぁて・・・みんな。がんばってくれ」
これが、ショウの巻き込み方。
蒔風が「危ないからできれば止してほしい。でも来るならしょうがない」という感じで引き込むのに対し
ショウは「良いから来い。一緒に行くって言ってんだよ」と引っ張り込むのだ。
だが
「忘れたのか。使用可能魔力量はこっちの方が多いんだぞ!!」
そう。あちらが大元である以上、こちらの使える魔力はあちら以下。
つまりそれは、こちらの戦力以上に敵を生み出すことができると言うことだ。
「エクス、カリバァー!!!」
黄金の剣が唸り、空を行く大軍勢を一薙ぎで焼き払う。
そこに襲い掛かる翼竜の様な化け物だが、駆の持つ雷切からの雷に焼かれて消し飛んだ。
ステイルのイノケンティウスと賢久のパイロキネシスなど、炎の渦を巻き一切の敵を近づけない。
神裂、さやか、杏子は宙であるにもかかわらず化け物どもに切りかかっていき、ときには敵を、時にはお互いを足場にして飛び回っていた。
だが、一見優性に見えるのは勢いのため。
実際の敵の数は無尽蔵だし、このままではプレートも砕かれて落ちる。
だんだんとプレートの上で生き残っているマジュウや魔化魍と言った怪物の数も多くなってきていた。
ジリジリと中心部に下がらされていく。
すると
「ブォォォォオオオオオオオおオオオオオオ!!!」
息を吐き出したような、そんな咆哮がしてきた。
地面がら現れてきたにもかかわらず、そいつはプレートに届く巨大な図体をしていて――――
「魔化魍――――ヤマビコか」
一山もある、そんな巨体を持つ魔化魍もいる。
もしもコイツに体当たりでもされたら、このプレートは砕け散るだろう。
「吸血殺しの紅十字!!」
「ティロ・フィナーレ!!」
ステイルの炎剣と、マミの砲撃が直撃した。
揺れる巨体。確かな手ごたえ。
だが、本来ならば斃れたはずの魔化魍は、ブスブスと煙を上げながらもそこに存在していた。
むしろ下手な攻撃に、こちらへの怒りをあらわにしているようであり
「エクス――――クッ!!」
エクスカリバーなら葬れる。
だがしかし、振り返るとヤマビコはセイバーの正反対側だ。中心のショウが挟まっているこの立ち位置では、宝具を放つことはできない――――
「いや、いい。そのままだ」
だがショウは右拳を握って、正面を見たまま腕を真横に向けた。その先にはヤマビコが。
そして、その拳を上げ、振り下ろした。
ダゴンッッ!!!
「ブ―――」
ドォンッッッ!!
咆哮の第一声だけを残し、ヤマビコが粉砕された。
巨大な塊がヤマビコの真上から落下して、その巨体を押しつぶして塵へと変えたのだ。
「・・・・・・え?」
「悪い。時間かかった。ここからは―――――こっちの時間だ」
ショウが再び、拳を握る。
すると先ほどヤマビコを押しつぶした岩塊が浮き上がり、ショウの構えと連動して同じように動く。
更に左腕を構えると、そちら側にも同じように岩塊が。
わかるだろうか。
そう、実際には触れないものの、ショウの目の前にある二本の剣が「操縦桿のよう」というのは、あながち間違ってはいなかったのだ。
彼が立つのは、操縦席。
その動きに連動して、この岩石の巨人は敵を粉砕する。
「立て」
ガゴンッ、ガゴンッッ!!と、連続して足場から重々しい微振動と轟音がする。
上に立つ彼等からは見えないだろうが、離れて見ればはっきりとわかる。
いま、プレートの下に岩石などが宙を浮いては次々に引っ付いていき、その胴体を形成しているのだ。
それは宙に浮く巨椀と繋がり、次に脚を作り出して大地にその全体重をかけるべきそれを完成させ、構築を完了する。
同時、その全体重がついに大地へと掛けられ、ズゥンという地響きと、各箇所から煙が上がってガシュゥと息づくように身体を揺らす。
プレートの高度、つまりは身長も押し上げられるように上がっており、その大きさは「EARTH」ビルより少し高い。
頭はなく、首から上の部分にはプレートが乗っている。
「バカな・・・・」
これだけ巨大な物体を作り上げるのは解る。
これだけ巨大なものを動かすこともわかる。
だが、これだけ巨大なものを維持し、そして術者の行動とリンクさせるなど、狂気の沙汰ではない。
ただ巨像を組み上げるのや、方向を決めて移動させるのとは話が違う。
いくら膨大な魔力量があったところで、こんなことは――――――
「うるせぇ。出来るもんはしょうがないだろうが」
セルトマンの驚愕に、聞こえてもいないだろうにショウはつぶやく。
そうだ。こいつはそういうやつだ。
「蒔風」という存在は、いつだって常識で推し量るとこっちが痛い目を見るような奴だった――――
ゴ――――ゥン
一歩。
ただそれだけで、十分な攻撃と言える振動を起こし、ついにその巨人が動き出した。
周囲を飛び交う化け物など気にすることもなく、「EARTH」ビルに向かってその巨椀を突き出していく。
「まさか、こいつ!!?」
右手がビルに掛かり、次いで左手が掛けられる。
掴みかかった巨人は、そのまま「EARTH」ビルを引く抜くかのような。
「ようなっていうより、引き抜くつもりだろこれ―――――!!!」
驚愕するセルトマンが、思わず屋上への階段を掛ける。
このままへし折られては、大聖杯だとか核だとかいう問題以前に大破綻だ。
それよりも、そうなれば魔力があふれて「EARTH」ビル敷地内どころではない周囲が焼野原になることを承知してるんじゃなかったのかあいつらは―――――!!!
「気にするなよ、セルトマン。こっちには優秀な結界魔術師がいるんだ」
「はいはい。にしても、現場は久々だなぁ・・・・」
「なんだ、なまったか?ユーノ」
「まさか。これでも僕は、なのはの師匠だからねっ!!」
ユーノ・スクライアが、そこにいた。
彼の結界魔法が、「EARTH」ビルを取り囲んでその魔力の流れをシャットダウンする。
そう。
実を言うと、これはかなり有効な手だ。
外部への魔力流出を止めるとなれば、当然サーヴァントへの魔力供給も絶たれる。
もっと早くやっていれば、サーヴァント戦は容易に事が進んだだろう。
では、なぜやらなかったのか。
それはそうである。これだけの強大な魔力を抑えるだけの結界を作れる魔術師、魔道士など、存在するはずもない。
そう思っていた。
誰もが。
しかし
「このユーノ・スクライアはな、なのはの治療をしながらヴィータの攻撃を危なげなく防御するだけの結界を張り、更には闇の書の闇を葬る時の束縛結界においても、アルフ、ザフィーラの結界が砕けてた中ただ一つ最後まで砕けなかった結界を作っていた男だぞ?」
そう。
なのはやフェイトたちの派手さ、凄さに目が行きがちだが、彼とて非凡な才能の持ち主なのだ。
なのはに魔法を教えたのは彼だし、その上達を促したのも彼。
その彼が、なのはの砲撃を防げなかったことは一度もなかった。
特筆すべきは、その防護魔法、結界魔法。
なのはは一度も彼の防御を突破することはできなかったし、ショウの話の通りどんな攻撃だって耐えて見せる。
もっとも強いのはだれかと問われれば、なのはやフェイトが上がるかもしれない。
だが、最も倒せそうにないと思うのはだれか、と問われれば、彼等の内で言えばユーノの名が上がることは間違いあるまい。
「行くぞ。覚悟しろ」
ゴキンゴキンゴキンッッ!!!
ショウの右手が、改めて握り絞められる。
すると巨人の右腕が変形し、その内部から何やら砲口のようなものが現れてきた。
「バカ・・・・な・・・」
外部の非常階段を駆け上がるセルトマンは、それを見て思わず声を漏らす。
あの巨人の構成物質は主に岩石だ。熱で溶かせば、百歩譲って鉄は解る。だがあんなメカニックなどどこから引っ張ってきたのだ!?
「忘れたのかよ。時空管理局の置き土産だ!!!」
「ッ――!!あれか!!!」
ハッとしてセルトマンが振り返る。その視線の先には、巨大な鉄塊が。
巨大な鉄塊と化して、ガラクタとなっていた巨大戦艦アヴィルドムの残骸が、ほとんどなくなっている―――――!!!
「こんだけの質量、そうじゃなきゃ創れねぇよ」
もしすべてを地面からだったとすれば、足場を削って作ることになる。
そんなことになっては戦闘もままなるまい。だが、それを少しで済んだのは、これのためだった。
「だがまあ破損がひどくてな。そのまま武器は使えないんで、ちょいと劣化してるが――――喰らえ!!」
「クソッ!!」
「プラズマキャノンだ!!」
ドォンッ!!!という爆破音を、セルトマンは背中で聞いた。
最早階段を駆け昇るなどという悠長なことは言っていられない。
手すりに足を掛け、跳躍して屋上を目指す。
だが攻撃の振動で、想うように連続して跳んでいけない――――
「何が劣化だふざけんなよ・・・それだけでも十分に驚異だってンだよ!!」
大聖杯に大穴があき、ドロリと純魔力の塊がスライムのように流れ出る。
だがそれが地上に垂れ流されるよりも早く、巨人はそれを吸い上げていく。
ズッ、ガシュウ――――ブシッ、ガゴン!!
撃ち放たれたプラズマキャノンの砲口が回転しながら腕の中に飲み込まれていき、煙を上げながら消える。
肘を引き、リロードするかのようにガゴン、と揺らして体制を整える。
そして、岩石の両腕がビルの大穴の中に突っ込まれていく。
「おぉら!!」
大聖杯からの直接接種。
魔力の流れがさらに大きくなって行き、巨人の胸部へとそのエネルギーが充填されていっていた。
「それ以上させるか!!」
だが、同時に「EARTH」ビル屋上にセルトマンが到達した。
頭無き巨人を睨み付け、バチンと力強く指を鳴らした。
すると、大聖杯の――――「EARTH」物の上半身、ともいえる高さに、魔物どもが寄り集まってきた。
魔化魍やマジュウまでもが固まっていき、それらが融合して一つの肉へと形を変える。
「EARTH」ビルは39階建て。
その37階あたりから、頭部と思われる肉がせり上がってきた。
頭には大きく突き出した突起があり、まるでナイフのような形をしている。
やがてビルからは腕が生え、下半身はビル、上半身が怪獣というおかしな魔物が完成。
「行けェ!!」
「迎え撃て!!」
伸ばされる怪獣の腕を、巨人は右腕をビルから抜いて、真正面から受け止めた。
さらに突っ込んでくる頭部のナイフ部分を左腕でつかみ上げ、捻り千切ろうと万力が込められる。
だが、怪獣の左腕がまだ残っていた。
巨人の左脇腹を狙って振るわれた怪獣の巨椀が、見事にその部位を抉り取った。
ガクン!!と巨人が揺れた。
怪獣の頭を掴んでいた腕が離れ、再びナイフが襲い掛かってくる。
左足が浮き、しかしすぐに大地に踏みとどまる巨人。
突き出されたナイフを肩口で受け、空いた左腕が怪獣の顎を見事にアッパーで捉えた。
揺れる巨体。
同時、巨人は怪獣の腕を抑えていた右腕も離していた。
アヴィルドムのブースターだったものが肘の岩石を押しやって出現し、まるでその闘志を表すかのように、一気に点火して燃え盛る。
「うぉオオ、ダァッッ!!」
そしてその加速を得た右拳が、怪獣の顔面に真正面から重い一撃を叩き込んだ。
「ギュゥレエエエァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ゴォオオオオオオオオオオオオオッッッム!!!」
魔物の組み合わさった怪獣の悲鳴と、岩石の巨人の唸りがその空間を支配した。
怪獣の上半身が仰け反り、巨人が全身の関節部を動かしながらガシュウ!!と再び構える。
再び掴みかかる巨人。
いくら上半身が怪獣とはいえ、大元がビルでは相手も逃げられまい。
邪魔をしてくる左右の腕を、逆に掴み取ってグシャグシャに握り潰す。
痛覚でもあるのだろうか、怪獣が腕を振り回しながらその損失に悲鳴を上げる。
ボソボソと崩れ去っていく怪獣の腕。
その付け根部分に巨人が手を掛け、再び魔力を充填し始める。
腕が再生する気配はない。
これで行けるか。そう、ショウが安堵した瞬間。
ドリュッ!と、生々しい音がして、怪獣の背中から伸びてきた腕が、巨人の腹部を鷲掴みした。
俗に言うと、第三の腕、というものだ。
その腕は先ほどの二本よりもはるかに太く、それを証明するかのように巨人の身体をゆっくりと持ち上げはじめた。
更に左右の腕も即座に再生し、巨人の左腕と右足を掴み取って引っ張り始めた。
「うォォおお!?」
「おい落ちるぞ!!どうにかしろ!!」
「黙ってろ!!」
慌てる一同だが、ショウはそれを一喝する。
先ず、足場となるプレートに重力魔法をかける。
ひとまずはこれでメンバーが落ちるなどということはないはずだ。
そして、ショウが歯を食いしばって魔力をフル伝導させていく。
「はっは!!そうだ、引き千切ってしまえ!!」
「そうは問屋が卸さねぇっての、よぉおッ!!」
ガゴギンッ!!
何かが外れる音。
プレートの上の彼等は解らない。
いまショウは、巨人の腰回りをあえて緩くしたのだ。
そして、結合部を一点に集中。
その一点を軸に180°回転させ、下半身の動きが怪獣の左腕を捻り千切った。
「着地するぞ」
「え」
ドッ―――ゴゥッッ!!
緩慢な動きで落下し、そしてとんでもない振動を起こしながら、巨人が怪獣の真後ろへと着地した。
ブシュウ、と下半身部から煙が上がり、右足を一歩前に踏み出した。
それと同時、怪獣の上半身が一瞬崩れた。
そして―――まるで一度散らした砂鉄が、磁石でまた集まるかのように融合し、怪獣の正面がこちらに向く。
「チッ!!」
「方向転換できないとでも思ったか!!」
「だが――――!!」
ショウが踏ん張る。
その目はこれ以上ないほど開かれており、更にいうなれば充血もしている。
一方、対する怪獣の頭部の形は変わっていた。
ナイフがない。代わりに、背に当たる部分が滑らかな曲線を描いており、そこには背びれと言える突起がいくつも並んでおり
「喰らえ」
それが、今にも何かを発射するかのように青白く発光していた。
「喰らえ」
だが、思わぬ偶然か。
ショウが発した言葉もまた、それだった。
気付けば巨人の胸に溜まったエネルギーは、今にも吹き出しそうなほど滾って真っ赤に輝いていた。
巨人が胸前で拳を叩き合わせて、その隙間をゆっくりと開けていく。
それに合わせて、巨人の胸部がゆっくりと開かれていった。
半円を左右に合わせたような形の胸部のプレートが、カメラのシャッターの様に回転しながら開いていく。
そして
「「撃て!!」」
同時に叫び、同時に放たれた。
巨人の全身から煙が吹き出し、足が地面にめり込みながらも胸から放たれた熱線が怪獣へと向かっていく。
一方、首の動きで反動を緩和して放たれた青白い熱線は、怪獣の口から放たれて巨人へと向かっていく。
正面からぶつかり合う両者。
「うぉ―――――」
ショウが唸る。
喰いしばった歯は、このままでは砕けるのではないかというほど閉じられている。
「ウォぁぁアアアアアアアアアア!!!」
流石にショウとは言えども、これだけの膨大な魔力の運用は負担があまりにも大きかったのだ。
更には他のメンバーへと魔力が流れ過ぎないよう、その分は自分に廻していた。
「喰う」のであれば問題のない量。
だが、この巨人を動かしながらそんなことはできず、しかし巨人がいなければこのメンバーで攻め込めない。そしてメンバーがいなければ、彼が「喰う」等という行動をとるだけの余裕ができないのだから、ジレンマというほかない。
「ツ ラ ぬ ケェ アッッッ!!」
ついに、鼻血までもが流れ出す。
だがそこまでして踏ん張ったかいもあり、熱線対決はショウへと軍配が上がった。
怪獣の胸、つまるところ大聖杯を貫き、空へと伸びていく紅き熱線。
放ち続けられる熱線は、しかしそれ以上大聖杯を破壊することはなかった。
だが、いつまでも放たれる熱線。
セルトマンは気づく。この熱線は、大聖杯を通過するときに――――
「こっちの魔力、奪いながらぶっ放してんのか!!!」
故に、このままであれば大聖杯の魔力は枯渇する。
このような巨大熱線、あと30秒も放たれ続ければ彼の目的である「王」の召喚に支障が出てくる。
「それだけは絶対に阻止だ」
「うっ・・・せぇ。このまま耐えりゃ・・・・俺の、勝ちだ―――」
苦しそうに告げるショウ。
他のメンバーは、迫りくるマジュウや魔化魍、魔物を打ち払うのに、彼等の会話や様子など気に止める余裕はない。
だが、これで終わりかと思われたその瞬間
「ッッ―――フォォォオオオオオオンッッッ!!!」
「あァいよッッ!!!」
「何ッッ!?」
セルトマンの叫びに、応えるものがいた。
ショウがその方向―――右を見ると、飛来してくるのはキャッスルドラン。
フェイト、アリシアを足場にして跳躍したフォンが、デンライナーの線路を蹴り揺らし、脱線させたのがキャッスルドランに突っ込んだのだ。
そして押し出されたキャッスルドランの上部から、バランスを崩したキバがフォンに突き落とされてもはや止めようがなくなる。
「グッッ!!?」
その光景に顔を引きつらせるショウ。
だが、その原因はキャッスルドランではなく
「ランスタァーッッ!!」
フォンが放り投げてきた、ティアナを見てのことだった。
飛行能力を持たないティアナがこんなところにいては、キャッスルドランと巨人に挟まれて圧死する未来しかない――――
巨人がティアナをキャッチしようと、滑りこむように右腕を伸ばした。
傾いた身体は熱線を吐くことをやめ、代わりに怪獣から放たれた熱線が左腕を肩から粉砕して吹き飛ばした。
「がぁッ!!」
巨人が倒れると同時、ショウが全身を殴打されたかのような衝撃に襲われて身を投げ出された。
地面に倒れるショウだが、ヨロリと立ちあがって腕を広げる。すると、そこに杏子とさやかが落下してきた。
彼女らを置いて、次にステイルとマミをキャッチ。
神裂とセイバーが着地するのを見て、駆と賢久を掴み取った。
そして横目でチラリと、巨人の右腕を見た。
その隙間から、片腕を抑えながらティアナが出てくるのを見て、フゥ、と一息を突き
「ぐ、うッ!!!」
ビキンッッと脳が痛み、その場に膝をついて頭を抱える。
制御に全力を裂いてギリギリだったうえに、あんな不意打ちをされてはフィードバックあってもおかしくはない。
大聖杯の魔力、というものがいかに巨大なものかがよくわかる。
「ちくしょ・・・・」
「いやぁ、焦ったよ。いや、これはマジでさ」
「セルトマン―――ッ」
眼の前に、そう言って現れるセルトマン。
その少し後ろに、フォンが着地して並ぶ。
ショウは仁王立ちになって正面に向くが、満足に戦えそうにないのは確かだ。
だが、戦力には確実な差がある。
他のメンバーは皆、大聖杯から奪った魔力を使いまわして動いていたのだ。
体力はともかく、エネルギーに関しては問題など全くない。
「皐月、田島。テスタロッサの姉妹がどっかに落ちているだろうから、拾ってアリスんとこ連れてけ。ティアナも一緒にな」
「お、俺らか?」
「お前らは体力的には人間と変わらない。これ以上は危険だ。そういうわけでステイル、お前も任せたぞ」
「・・・・・チッ」
「野上と紅、って男もいるだろうから、そっちも」
「「EARTH」に貸しだからな」
「「EARTH」じゃなくて俺に、だ」
それだけ言って、ステイルが神父服を翻してその場から去る。
駆、賢久もティアナに手を貸して、その場から撤退していった。
「準備はいいかな?」
「待つ必要なんか、なかったんだぞ・・・・なあ?騎士王に、魔法少女さんよ」
「そうですね」
「私たちも問題ないよ!」
「・・・・あれ、私は?」
「お前も魔法少女っぽい服着るじゃねーか」
「あれは・・・って、なんであなたがあの服のこと知ってるんですかッッ!!!」
かつて着させられた露出の激しい「メイド服」を思い出し、神裂が顔を赤くして叫ぶ。
だがショウはそれをハッハッハと歩く流し、痛む頭を無視してセルトマンを指さした。
「思うようにはいかないなぁ・・・だがま、いつものことだ」
魔導八天を手元に。
そう、うまくいかないなんて、彼にとってはいくらでもあったことだ。
いまさらそれに、いちいち悔しがっていたらきりがない。
「そっちの残り戦力はお前とフォンのみ。決めさせてもらうぞ」
「さっすがぁ。今まで最後に逆転されて負け続けてきた男のセリフは違うねぇ~」
返事はない。
これ以上の語らいは無駄だ。
ショウとセイバーが、剣を構える。
さやかと神裂が、抜刀するような構えで手を掛ける。
杏子とマミが、魔法の起動を見計らう。
そして一瞬の後、振るわれた斬撃波が二人へと襲い掛かった。
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バサッ
「傷はもういいの?」
「ああ。こっち最優先で治してもらったからな」
そのせいでほかのみんなはまだだけど、と申し訳なさそうに言う。
だが、翼刀もショウも出ていると言うのに、自分だけというわけにはいくまい。
「私も行けるしね!!」
「ボクもいかせてください!!」
「あ、あの・・・私も大丈夫です!!」
「私も行くわ」
杖を手に
槍を握り
弓を携え
盾を構え
男の後を、四人がついていく。
「今日で終わりにするぞ、セルトマン――――!!」
扉を開け、向かう。
蒔風舜、再始動
ついにこの戦いも、最終局面へと突入していく。
to be continued
後書き
完全にあれですね、パシフィック・リムに影響されています。
映画見た後、このシーンが脳内でぐーるぐるぐーるぐる・・・・・
巨人のイメージはチェルノ・アルファ。
怪獣の頭部イメージはナイフヘッドさんです。
映画だとこの二体はぶつからないんだよなぁ。
とか言いながら、巨人の武装は丸々ジプシー・デンジャーの物。
もうごっちゃですね
というか、まさかアヴィルドムがここに生きてくるとは思いませんでした。
作者もびっくりです
蒔風
「次回。フォンとたった二人で、セルトマンはどうするのか?」
ではまた次回
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