世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
不撓不屈
今までのあらすじ
リィンフォースらの力を借り、ヴォルケンリッターのオリジナルと言える者たちを撃破したショウ。
その足と眼光は、真っ直ぐにセルトマンへと向けられる。
そして、その四騎の撃破によって空いた枠。
そこを用いて、セルトマンはとんでもないサーヴァントを四騎召喚した。
その全てが、翼刀に
その全てが、最強で
その全てが、翼人だ
そのころ
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「クッ・・・・・!!」
こちらの攻撃が当たらない。
全体を指揮しているティアナの額に、冷や汗が一筋流れ落ちる。
こちらの戦力は仮面ライダー三人に、Sランク魔導師二人。
フェイトを差し置いて自分が士気というのは恐れ多いが、託されたのだから仕方がない。
彼等に指示を出し、敵の動きを見極め、そのデータをクロスミラージュに蓄積していく。
そうすることでフォンという男の行動パターンを予測し、勝利に導く。
そんな詰将棋のような事をし始めて早数十分。
「クロスミラージュ」
《ダメです。あの男、行動を乱してきています》
愛機に語りかけるティアナ。
だが帰ってくるのは、確かな現実だけだ。
フォンのデータは確実に取れている。
行動パターンは確実に蓄積されているのだ。
だが、それが七割ほど溜まるとこの男はそれらを裏切って行動をする。
データに修正をかけて、また溜まったかと思うと別の行動。
(だんだんわかって来たわ・・・・)
ある種の不愉快をかみしめながら、ティアナはフォンを睨み付けて思考する。
この男の完全は「見極」
それは目に入った瞬間にそれを察知し、的確な行動をとるという「臨機応変の最終形」と言えるものだ。
つまり、こちらがこの男の行動パターンを読んでその場に攻撃しても当たらない。
普通なら動きを読まれて攻撃されたら目の前からの攻撃だろうと回避は困難。
しかし、この男の場合は視界に入りさえすればすべてに万能となる。
しかもその能力もだんだん成長しているらしく、自らに襲い掛かる攻撃ならば背後の物まで察知し始めている。
「やめよ、クロスミラージュ」
《諦めるので?》
「んなわけないでしょ。これ以上の収集はいいわ。私たちも出るわよ!!」
《了解》
このままいけば、この男の「完全」は視界を飛び出していくだろう。
見えない位置を察知し、現在の事象を見た瞬間にどういうことが起こるかを知る。
最終的には未来予測、予知の域に達するだろうそれを、このままにしておくわけにはいかないのだ。
「幸いフェイトさんたちの動きについてい行けているわけじゃないらしいから、このまま数でゴリ押しよ!!」
《了解しました》
そうして、猛攻の中にティアナも参加する。
その中で踊るように回避していくフォンはにやりと笑う。
「来た、か」
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「ヴァルクヴェインッッ!!」
「シッッ!!!」
ガィイン――――と、鉄の塊がぶつかり合った後に、独特の音が余韻で残る。
クラウドの横薙ぎの剣を、ヴァルクヴェインで咄嗟に受けた翼刀はそのまま弾かれるように後退する。
それと同時に剣身に手を当て、振ることなく刃を連続射出していき一斉に五人に攻撃を仕掛けた。
それを各々が弾き、躱し、いなしていく。
微動だにしなかったのは三人。
衝撃波で身を護り、バリアを張って身を護り、誰かの力で力場を張って身を護っていた三人だ。
そして残りの二人は、刃幕を強引に突き破って一気に翼刀の目の前へと到来する。
「ッ゛!!」
「死ね・・・」
クラウドの容赦のない剣撃に、翼刀が必死になって刃を合わせて弾いていく。
正面からの豪快なクラウドの剣撃に対し、翼刀の左右背後の三方向からちまちまと攻撃を仕掛けてくるのは蒔風だ。
その二人の攻撃を受けながら、翼刀がバックステップで下がっていく。
するとその背中がついに校舎に辿りつき、後退の先を失ってしまった。
追い詰めた、とばかりにクラウドの剣が翼刀へと叩き下ろされていき、いつの間にか校舎内に入り込んだ蒔風が、壁越しに突き刺してやろうと「火」を構えた。
「スゥ――――――」
と、そこで翼刀は深呼吸。
同時にヴァルクヴェインを上に放り、拳を斜め下に向けて腰を落とした。
「不ゥッッッ!!!」
一気に爆発。
ドゴン!!という擬音がそのまま体現された音がし、その場の地面と背後の壁を一気に吹き飛ばして粉々に打ち砕く。
翼刀は主に背中に向け、全身から不動拳を放ったのだ。
その一撃で背後に回した校舎の壁は砕けて蒔風ごと吹き飛ばし、正面のクラウドは直撃しなかったにもかかわらず、空気に弾かれて軽く下がったほどだ。
すると、クラウドの後方の土煙が晴れて三人の翼人が姿を現した。
フワリ、と観鈴が上空に浮き上がり、理樹と一刀がこちらに向かって来る。
歩き、だんだんと足早に。そしてついには駆け出し、猛ダッシュでこちらに。
その途中で手にした武器は、二人それぞれバリアブレードと青龍偃月刀。
後退したクラウドの脇を通り抜け、二人の剣が翼刀の腹部に向かって薙ぎ振るわれる。
だが
「そんな・・・」
「へえ」
その刃を、翼刀はいっぺんに止めていた。
左右から迫ってくる刃は、どちらも腹部へのもの。
それを翼刀は、左の肘と膝で挟んで、二つ同時にガッチリと止めていたのだ。
「なめ・・・・んなよ!!」
怒りにも似た叫び。
同時に両方から不動拳と叩き込み、一刀の横っ面に右拳で裏拳を叩き込んだ。
翼刀から見て、左が理樹で、右が一刀だ。
よって一刀がそのまま右へと弾き出され、さらに理樹の頭を掴んで膝蹴りをブチかます。
その理樹を追って行こうとする翼刀だが直後、上空から猛烈な衝撃に翼刀は全身を叩かれることになる。
「は?・・・・ギッッッ!?」
「ラ――――ァァァァアアアアアアアアアアア!!!!」
「観鈴さんの・・・衝撃波、かッ!!!」
まるで歌うかのように叫び、その衝撃波は翼刀の頭を締め付けるかのように襲い掛かってきた。
どうやらただの衝撃波ではなく、音に混ぜで放ってきている高周波のようだ。
思わず耳を押さえ、身体を丸めてしまう翼刀。
その翼刀の元に、放たれてきた十五天帝。
翼刀を襲う高周波エリアの外から、蒔風が剣を投擲して攻撃しているのだ。
一方向からではなく様々な方向から放たれるそれを、転がるように移動して回避する翼刀。
だがその行動範囲も狭められていき、ついにズボンの裾が地面と縫い付けられてしまった。
膝をつく翼刀。そこを狙って、「青龍」と「玄武」がブーメランのように湾曲を描いて襲い掛かっていく。
「クッッ、らァッ!!」
剣の到達に合わせて、翼刀が一瞬衝撃波を弾く。
そして裾が斬れるのも気にせず、一気に脚を振り上げていった。
その蹴り上げによって弾かれた二本の剣は上空へと向きを変え、観鈴へと一気に襲い掛かって行ったのだ。
「!!」
「させないよ・・・ハッッ!!」
そちらに気を取られる観鈴。
剣は理樹によって妨害され、さらにバリア片が雨のように降り注いで来たものの、翼刀は高周波からの回避に成功していた。
「焦土!!」
狙いも定めず、その場から走り出しながら焦土を放ってバリア片を弾き飛ばす翼刀。
ドォンッッ!!と上空で爆発が怒り、熱に背中が晒されるが気にしてなどいられない。
一気に駆け出していく翼刀のその後を、雨から切り替えて今度は機関銃のように連射されていくバリア片が襲い掛かってきているのだから。
学校の中庭部分を抜け、校庭部分へと抜けていく。
こちら側は「EARTH」ビルとは反対側。つまり学校は、「EARTH」ビルに背を向けていると言うことになる。
その校庭を駆けまわり、チラリと上空の理樹へと目をやる翼刀。
だが、そこに飛び込んできたシルエットは理樹の物だけではなく―――――
「クラウッッ!?」
ドォンッッ!!
爆撃か何かかのような音がして、翼刀のすぐ後ろにクラウドが大剣を叩きつけて落下してきた。
今まで見てきた剣とは違い、合体剣ではないようだ。
ずいぶん古めかしいバスターソードは、多様性は無いが一撃一撃の攻撃力が大きい。
クラウドはその一撃を外し、しかしそのまま翼刀を追って飛び出した。
漆黒の翼を開翼し、その加速能力を使って。
「まっ、加速開翼!?」
「喰らえ」
一気に翼刀の真横へとやってきて加速を止め、逃げ回る翼刀と並走しながら剣を交えるクラウド・ストライフ。
大振り、小振り、突きに石突、果てには打撃。
それらを回避、防御で駆け回り、更には後方から襲い掛かってくる理樹の銃撃にも気を配らねばらない。
と、そこで目の前に立つ男が
「一刀さんか!!!」
フワリ、と右手をッ真横に軽く振り、そこに小さな何かが十個浮遊する。
その浮遊した何か――――コインに向かって両手を開き、十の指先を向けて―――――
「おいマジか!?」
「超電磁砲」
十の熱線のようなものが、一斉に翼刀の方へと放たれた。
それぞれが指先から真っ直ぐに放たれたので、現実に翼刀を狙ってきたのは左右の中指から放たれた二本だけ。
だがその左右に二本ずつ、計八本のサブがあればそれは脅威だ。
クラウドの剣を回避し、バリア片掃射から逃げ、更にはこのレールガンからの回避。
「グッ―――――ォォおおおおお!!!」
だが、それでも翼刀は回避した。
その場を回転して最小限でレールガンを回避し、その回転からの蹴りでクラウドを押しのけ、襲い掛かる連射は刃の一列連射で凌いだ。
「ダァッッ!!」
そしてそれらを一気に弾き飛ばし、一番近くのクラウドの頭を掴み取った。
そしてヴァルクヴェインの刃がその命を霧散させようとしたところで
ドドドドドッッッ!!!
「な・・・・・!?」
地面から、十五天帝が突き出してきた。
その剣は翼刀に突き刺さりはしなかったが、その動きを制限する。
翼刀は取り囲むように出現したそれらに驚愕し、そして自分に向けられる脅威らに青ざめるしかない。
「混闇の元に、獄炎!土惺!!」
《All Zecter Combine――――》
「フゥゥウウウウ・・・・・」
蒔風の元には、獄炎と土惺が今まさに混ざり合っていて
一刀の手には、パーフェクトゼクターが握られていた
そして観鈴は、これから吐き出そうとしているのか大きく息を吸い込み――――
「獄惺竜!!」
「ハイパーマキシマムサイクロン」
「ラぁぁアアアアアアアアアア嗚呼!!!」
三方から、一気に翼刀の元へと三種の攻撃が迫ってきた。
マグマのように煮え滾る獄惺竜。
途方もないエネルギーが渦巻き、万物を砕かんとするハイパーマキシマムサイクロン。
そして、どこに逃げようともそれを逃さない広範囲の衝撃波。
「クソッッ!!!」
悪態を突き、その三種類の攻撃が眼前に迫って―――――
ドォオンッッ!!!
それらが正面から衝突し、爆心地には不壊である十五天帝だけが、煙の中に残されていた。
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薄暗闇の中。
フードをかぶったブレイカーの姿が、今にも溶け込みそうなほどユラユラと揺れてそこにあった。
その背後から、襲い掛かる影がある。
唯子がその背後から一気に飛び掛かり、パニッシャーキックを喰らわせようと突っ込んだ。
だがブレイカーは唯子が飛び上がったのを確認するとそこで反転、ぐるりとそちらに視線を向けて腕を伸ばしてきたではないか。
掴み取られるパニッシャーキック。
だが、これは不動を叩き込む二段構えの蹴り。捕まれたところで問題はない。それどころか、掴んできたその右腕が潰され
「るわけないでしょ」
バァンッッ!!!と掌で、何かが弾けた。
お互いに放った不動拳はぶつかり合い、脚と手を弾かせていく。
着地した唯子はそのまましゃがんで足払いを放ち、ブレイカーはそれを跳ねて回避する。
跳ねた状態から放たれたブレイカーの蹴りは、当然唯子の上から襲い掛かり肩に命中して鈍痛を引き起こす。
さらにはゴキン、という音がして肩まで外された。
痛みに思わず声を上げ、左腕で払い除けて後退する唯子。
「はぁ、はぁ・・・・」
「その程度?ホントに、なんであんたが生き残ったのか訳わかんないんだけど」
「ぐ・・・ォあっ!!ッ、うっさい!!」
「八つ当たり?自分ながら酷いわね」
強引に肩を入れ、黙れと叫ぶ唯子。
自分と同じ姿をしたこの女。
その出自は知らない。自分の記憶に彼女の存在はない。
でも、もしも
自分のこの想像が当たっているとしたら、それは最悪の現実だ。
「わ、私じゃダメってどういうこと!?なんであんたにとってかわられなきゃならないのよっ!!」
「わかるでしょ?わかってるでしょ?なんで聞くのよ。あんたと私の違いなんて「生き残った」か「死んだか」の違いに過ぎないのよ」
「でも、あんたじゃ」
「私が何?腕がない?目が潰れてる?関係ないわ。そんなのなんのハンデでもないし、そうだとしても、それこそ聖杯を手に入れればいい。それに・・・・」
「だ・・・黙れって言ってんでしょ!!!」
ブォッ!!と、ブレイカーに蹴りを放ってその口を閉ざそうとする唯子。
だがそれは軽く回避され、その口はなおも動き続ける。
「あなたも聞いてたんでしょ?実験が終わったとき、あなたの体はボロボロだったって」
「うるさいうるさい・・・・私が唯子だ!!綺堂唯子は私だ!!」
「その状態は、腕もなく、片目も潰れ、それでも生きていた―――――」
「黙れ!!!」
「私はその時の唯子。あなたは、私の細胞をもとに作られ、記憶を移し替えられた別の唯子。そうでしょ?」
唯子の言葉が止まる。
同時に、その攻撃も止まった。
だが動きは止まれども、呼吸は荒くなっていく。
「流石の機関も、ボロボロになった私を再生することは難しかった。でも、元に戻すと約束した以上、彼等のプライドが不備を許さない」
だったら、新しいのを作るしかない。
彼女の記憶を取りだして、植えつけた、新しい身体。
そうして「綺堂唯子」は生き延びた。
だが、そのとき死にかけていた彼女は、確かに死んでしまっていることに変わりない。
綺堂唯子
それが、この少女の存在の在り方。
つまり
「さあ。そこをどきなさい。そこはもともと私の場所。代わりはさっさといなくなれ」
「わ、私・・・は・・・・・」
「どうだと言うの?何だと言うの?今までいたのは私だから?それも、元は私の物。あなたの今にある物は、ひとつ残らず私の物よ。私の物に、なるはずの物よ。だから、返して」
「私は・・・・」
「返して」
「で、でも」
「返して」
「これは私の」
「返してよ!!!」
襲いくる亡霊。
その攻撃を回避し、しかし唯子に攻撃することなどできなかった。
「わ、私は私よ!!そうよ・・・・あんたがオリジナルである保障なんてないわ!!私がオリジナルで、あんたがクローンかもしれないじゃない!!」
「そう。それも一理あるわ。でも、そんなことはどうでもいいわ」
そう。
この際、どっちがオリジナルかどうかなど問題ではない。
そんなことは、自分の中でどう思っているかだし、確かめる術はないのだから。
「最初から言ってるでしょ。生き残ったのが、今の綺堂唯子。だったら、この戦いも――――生き残った方が、そうなればいい!!!」
どっちがオリジナルか、クローンかは関係ない。
どちらも自分がオリジナルで、相手がクローンだと。そう言い張っているのだからキリがない。
そして、仮にそれがはっきりしたところで譲る気などさらさらない。
だだひとつ確実なのは、この世界にいられる綺堂唯子はただ一人、ということ。
「私は胸を張って言うわよ。私がオリジナルの綺堂唯子だ!!だから、あんたみたいな代わりなんかに、私を渡しなんかしない!!」
「わ、私だって綺堂唯子よ!!!」
胸を張るブレイカー。
それに対し、怖気づきながら叫ぶ唯子。
当然だ。
だって、自分であると言う理由を説明できない。
あっちがオリジナルならば、話は簡単だ。
オリジナルは死に物狂いで生き延びて、でも身体が戻らないから私が用意された。いらない彼女は処分された。
若しくは、オリジナルである彼女は実験の途中で死んでしまって、クローンの私が次に投入された。
それなら順番も通るし、解る。
でも、私がオリジナルって言う説明は?
二つ目の説明があってるとして、オリジナルとクローンの順番を逆にした?そんなこと、するだろうか。
他にも理由は、無理矢理ならこじつけられるかもしれない。でも、それはあっちの話以上の説得力はない。
そして何より、自分自身が相手の話に納得してしまっている―――――
「う、うぅ・・・・!!!」
「どうしたの?言い返さないの?まあでもいいわ。だって、どっちがどっちなんて意味無いって言ってるんだし」
攻撃しているのは唯子だ。
だがブンブンと振られるその腕をヒョイヒョイと回避し、何でもないように語るブレイカー。
「どう説明しても、結論付けても、どっちも納得しないなら、結局生き残った方が、強きかった方が、私になる」
だが二人は同一人物だ。
その力に上下はない。
あるとすれば、身体の欠損のハンデ。
だが、それでもブレイカーの方が優位である。
なぜなら彼女には、その状態であの実験に耐えただけの記憶があるから。
唯子の中にも、それがある。
確かに、身体を負傷した記憶はある。
でも、こんな彼女を目の当たりにして――――それが本当に自分の記憶だったのかが不確かになる。
記憶が溶ける。
何が自分の記憶だったのかわからない。
トンッ
「え」
と、いつの間にか、ブレイカーの肩が唯子の胸に当たっていた。
肋骨と肋骨の間。胸の真ん中。そこに軽く当てられた、彼女の、腕のない左肩。
当てられた、というよりは添えられたところに自分から入って行ってしまったような感覚。
そして、そこに
「ヤァアッッ!!」
ドォンッッ!!!
不動拳が、叩き込まれる。
二人の力、実力に差はなく、そして戦い方まで似通うのであれば、勝敗を分けるのはただ一つ。
唯子の身体が吹き飛ぶ。
肩口が胸元にグポリとめり込み、それが抜けていく。
胸元に食らった衝撃は、一気に血管を通って全身へ。
唯子の身体が訓練場の暗闇を跳び、そして壁に激突するまでの時間があれば、全身傷だらけにするには十分な時間だった。
「ガハッッ!!!」
背中から叩きつけられ、ずるりと落ちる唯子。
膝は曲がり、崩して座っているような体勢に。
だがそこから上半身が落ち、床に右から倒れてしまった。
「う・・・ぐ・・・ぅ・・・・」
もし、二人の力量が全く互角だと言うのであれば、勝敗を分けるのは精神面だ。
ならば、動揺している唯子に、勝ち目などどうあがいても存在しなかったのである。
ゆっくりとこちらへと、向かってくる足音が。
ヒタヒタとした素足の音は、まさしく不気味な死の足音だと思った。
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爆心地の地面が、ドロドロと溶け始めている。
大きく陥没したその穴の淵で蒔風が足を止め、うんざりした顔でその中心を見る。
「十五天帝取りに行けねぇ。なんで事してくれたんだ」
覗き込む穴は、そう深いものではない。
だがゴポゴポと音を立てるマグマのような地面は、まるで地獄の窯を開いたよう。
他の四人はというと、翼刀を撃破したその地点で立ち止まっていた。
まるで、マスターからの命令を待っているかのように。
「あの男は死んだのか?」
「知らないよ・・・ほっといたってみんな死ぬんだし」
クラウドの、彼とも思えない口調の言葉に、理樹がボソボソと返答する。
その様子を一刀が腕を組んで眺め、観鈴はウロウロと徘徊していた。
マグマの中を眺めていた蒔風は、直接回収は不可能としていったんそれらを消してから再召喚することで手元に戻すことにした。
そこでふと、背後の四人を振り返ってみる。
瞬間
「ランサァッ!!!」
「わかってる」
ギィッッ!!!
一刀の背後に突如として出現した刃。
それをバルディッシュによって受け止め、チラリと振り返る一刀。
「クソッ!!」
「やっぱ生きてたか」
世界の外へといったん避難し、そして再び入ってきた翼刀が、一刀の背後に現れて一太刀浴びせようとしていたのだ。
ガキィ!とお互いの剣を弾き合い、翼刀が跳ねて後退する。
そして翼刀のバックステップの着地と同時に、一刀がトライデントスマッシャーを撃ち放った。
三又の砲撃魔法を、電火を纏わせた刃で方向を逸らして直撃を避ける翼刀。
直後、その背後から伸びてきた腕を察知し、頭を下げながら振り返りざまに切り付けた。
果たして腕に剣は命中し、しかしその腕は一切傷つくことがなく。
「硬ってぇ・・・」
ジィン、と痺れる掌を強引に握力で押さえつけ、尚も相手に切りかかっていく翼刀。
だが相手―――直枝理樹のバリアに包まれた腕はその攻撃を一切無効化し、面倒くさそうに受けていく。
「無駄なんだよ。こんなこと」
「無駄かどうかは――――」
コツッ
「―――結果を見て言え!!」
ドンッッ!!!
当てられた不動拳。
衝撃を打ち込む、というこの不動拳は、理樹のバリアに対して非常に有効だ。
なぜなら、理樹の能力は異常な硬度のバリアの生成と操作。
厄介な能力だが、それを突破するすべがあれば、理樹自身の耐久力はたかが知れているのだから。
「げっ、ハァッ!?」
「結論を急ぐからだっての――――ウぉッ!!」
吹き飛んだ理樹の身体に追い打ちをかけようとする翼刀だが、その進行をクラウドが立ちふさがって押し留める。
理樹に向かって進んだはずの翼刀は、その距離をだんだんと押し込まれて後退する。
上段振り降ろしを受け、そこからの振り上げ、突き、回転からの蹴りを捌いて―――
その一つ一つの動作のたびに、翼刀の足は後退を余儀なくされていく。
「グッ、この・・・」
「フッ!!」
しかし、防御には成功している。
それを見て痺れを切らしたのか、クラウドの目に蒼が灯る。
魔洸の光
その碧いエネルギーが全身から迸り、クラウドの剣に纏わされていく。
そして放たれる一撃に、ついに翼刀の腕が跳ね上げられて
「しま」
「凶――――斬り!!!」
「ヴァルクヴェイン、刃放出!!!」
クラウドから放たれた凶斬り。
跳ね上げられた腕では、もはや引き戻して防御は不可能。
故に、翼刀はヴァルクヴェインの刃を垂れ流しにさせた。
射出ではなく、放出。
ヴァルクヴェインから流れ出た刃は、ザラザラと勢いよくぶちまけられ、翼刀の前に一定の壁を作り出すことに成功していた。
その放出数は、クラウドの凶斬りが到達するまでに500を超える。
だが悲しいかな。
ただ並べられただけの刃で、クラウドの凶斬りが抑えられるはずなどなく。
三段階の強剣撃。
その圧倒的破壊力は、空間に「凶」の一文字を刻み付けるほどに強烈だ。
直撃は避けながらも、無数の刃ごと吹き飛ばされていく翼刀。
全身を鈍い痛みが襲い、それでも何とか距離をとれたと体勢を整えようとし
「破洸、撃!!」
それが甘かったことを痛感させた。
「ごッ―――――ぉ!!!」
翼刀と共に吹き飛ばされた無数の刃。
クラウドはそれを見た瞬間に、第二の攻撃準備をすでに終えていたのだ。
破洸撃。
魔洸を纏わせた斬撃波を敵に向かって射出するだけの技だが、その威力は推して知るべし。
あのクラウド・ストライフが放っている時点で、並みの威力ではないことは確かだ。
それをまともに喰らった翼刀。
刃の壁など霧散し、左肩から右腰にかけて破洸撃が直撃した。
着地などできるはずもなく、足の裏が地面を擦り、背中から落ちる。
そのままゴロゴロと身体の幾数か所を強打しながら、錐揉みの様に吹き飛ぶ。
ガシャァ!!と窓ガラスを砕き、校舎内に突っ込んでいく翼刀。
それを見て、やれやれと言った感じで蒔風と一刀が校舎に向かって掌を向けた。
蒔風の周囲に浮いた球体に、一刀の手に番えられる武将の誰かの弓。
それが構えられ、一斉に翼刀の吹き飛んだ方向へと発射された。
その一点に向けられて連続射出されていく絶光弾は、そのスピードをそのままに一斉射出され、一刀の発射した矢は、その力によって無数に分裂していた。
そしてその弾幕の中を理樹が悠々と走って翼刀の元へと駆けていく。
すると、着弾点から一気に刃幕が射出されてその攻撃を弾き飛ばしていった。
それを確認して理樹が弾幕の中で跳躍し、翼刀のいるであろう場所に向かって拳を振り下ろす。
拳によりバリアを纏わせて、その形をハンマー型にして叩きおろし―――――
ガンッッッ!!!
「――――いない・・・ね」
そのハンマーは、校舎の床を砕いただけの結果に終わった。
合図を出して弾幕を止めさせ、煙が晴れて周囲を見ると、点々と続く赤い物が。
「うん・・・・今度は、回避して、ない」
廊下に続く、紅い道標。
壁にはべったり、手形がつけられている。
追うのは、容易い。
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ヒタヒタと、自分に迫ってくる足音。
それを床に当てられている耳から聞いていた唯子は、言葉にできない恐怖感に襲われた。
死ぬ
殺される
奪われる
自分が自分ではないと言う感覚。
この記憶ですらも借り物、偽物。
それを実感した時、唯子は逆流してくるモノを抑えきれず、思わず口から吐き出していた。
うまく言葉が出てこない。
真っ直ぐ前を見られない。
ただ、死にたくないという恐怖が、彼女を立ち上がらせようと心臓をせっつく。
でも―――――立ち上がるって、どうやるんだっけ?
脚の力の入れ方がわからない。
上半身ですら起き上がらない。
呼吸をする程、息苦しくなる。
ヒタヒタという足音が、不意に止まった。
静寂に包まれる自分の周囲。背後は壁だと言うのに、360度すべてに脅威を感じるほどの。
なまじ薄暗闇だからこそ、見えるから余計に怖い。
そして、ヌぅと現れた脚が眼の前に現れ、その頭を踏みつぶそうと落ちてきた。
「う、うわぁッッッ!!」
さっきまで動き方がわからないなんて思っていたのが嘘のように、あっさりと体が動いてそれを回避する。
だが立ち上がることはできず、四つん這いで必死になってそこから逃げる。
壁伝いに、そこから少しでも距離をとろうと。
だが、背後に感じる気配は間違いなくブレイカーの物。
足音を聞くと、どうやらこっちと同じスピードで追っているらしい。
「ハァ、はぁ・・・はぁ・・・・」
ズルズルと、必死になって闇を進む唯子。
すると、当然部屋の隅に行きついた。
逃げ場はない。
振り返ると、浮き出る様に闇の中から現れるブレイカー。
「返して、貰うわよ」
「い・・・やだ・・・・」
「わかってるわよ。私だって言われたらいやだわ。でもしょうがないでしょ?どっちか一人しか、綺堂唯子は許されないのだから」
「いや・・・だよ・・・・」
「だったら勝ってみなさい。最初から言ってるでしょ。生き残った方が、綺堂唯子だって」
「私・・・翼刀から離れたくないよ・・・・」
「そうね」
唯子の言葉に、ブレイカーは頷く。
そして
「それは、私もよ」
ズイッと顔を近づけ、その頭を掴み取る。
そして持ち上げ、握力だけでギリギリと締め付けて行った。
「私の代わりに過ごした今までの記憶をもらうわ。そして、私はやっと、私になれる」
嫌だ嫌だと叫び、その腕をはがそうと暴れる唯子。
だが、その動きを見切ってブレイカーは巧みに腕を揺らしてその力を逃がす。
逃げ出そうにも逃げ出せず、涙をただ流しながら綺堂唯子はだんだんと力を失っていく。
「本当はね、翼刀のそばにいるべきは私なのよ。あなたじゃない。そんな綺麗なままのあなたがそばにいるなんて、そんなの、許さない」
綺堂唯子が、終わる。
そして、始まろうとする。
これは自分との戦い。
それは強さに関係なく
先に心が折れてしまった方がここから退場すると言う
残酷で、それでいて正しい淘汰の世界だ。
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「グッ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
抑圧をかけてなお、あの驚異的な力の差。
相手が五人なので苦戦するとは思っていたが、思っていたより抑圧が弱い。
というより、抑圧しても思っていたよりまだ強い。
最後の一斉掃射によって、翼刀は全身を強打していた。
刃を体に貼り付けるようにして防いだものの、それでも身体の軋むような痛みが残る。
更には破洸撃のダメ押しで吹っ飛んだ時、膝を強く校舎で打ったようだ。
折れてはいないが、骨がギチギチと言って痛む。
曲げると響くし、歩くのも正直キツイ。
「ヴァルクヴェイン、頼む・・・」
ヴァルクヴェインの力で少しずつ回復させていくが、本当に少しずつだ。
あまりに一気にしすぎると、せっかく隠れたのに察知されてしまう。
「にしても、とんでもないなやっぱり・・・・」
別可能性の、五人の翼人。
よく言われるのは、それは本来の強さを得たわけではない存在だから、だとかいって本人よりも弱いと言われやすいが、これは違う。
別の可能性の彼等、ということは、その道筋においてまたその強さを獲得した彼等だと言うことだ。
つまり、強さに強弱などありはしない。あの状態なりの彼らの強さを追求した以上、本来のだとかそんなことは差にならない。
「一歩間違えれば、翼人は世界を破壊する、か」
何処かで聞いた話を思い出し、五人がいい人たちで本当によかったと今更ながらに考える。
と、そこでふと思いいたる。
俺だって、一歩間違えればああだったんじゃないか―――と
いや、むしろ自分はあっち側の側面が大きかった方だ。
多くの人たちがいなければ、鉄翼刀は「悪」の存在だった。
「ッ・・・・」
頭を振り、その考えを払う。
そんなことを考えている場合ではない。
「集中・・・・!!」
目を閉じて、心を制御する。
大丈夫だ。自分は違う。
そうだ。
彼等は言わば「救われることのなかった存在」だ。
仲間の救いなく闇に堕ちた剣士。
救いなく、仲間を失い絶望した少年。
仲間を得ることなく、破滅の者となってしまった青年。
助け出されることなく、呪いに蝕まれた少女。
助けを拒み、救いを諦め、悪に手を伸ばした男。
ならば、自分は救われた存在だ。
仲間に救われ、その想いに助けられた。
反省することはあっても、後悔することなどありはしない。
ましてや、それを否定して自分もああだったなどと言い出すなど言語道断。
それは、自分を助けようと必死に戦い、そして手を伸ばしてきた彼女たちに対する冒涜だ。
「ウシ」
唸るように息を吐きだし、小さく気合を入れる。
救い出すと言うことはできない。
もうすでに、彼等はそうなってしまった存在だし、そうあるべきと固定された者たちだ。
ならば
自分が出来ることはただ一つ。
「俺の全てを以って・・・あの人たちを、倒す」
すでに迷いはない。
ダメージは気になるが、気が付くと痛みも引いている。
これなら何とか戦えそうだ。
そう。彼等に勝ち
そして、彼等に並び
更に、彼等を救う。
なんだかんだあったが、結局のところこれは試練だった。
アサシン・蒔風と最初に戦っていた時と、対して目的は変わらなかった。
「不動より始まる・・・・か。唯子、俺たち、がんばろうぜ」
そう、共に歩む彼女のことを想い
自分よりも遥かに強い彼女に勇気づけられ
そして、彼も次に進むために飛び出していく。
『それでこそだ』
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「本当は私の物よ。あなたの友達も、あなたの技も、あなたの心も、そして、翼刀も」
ギチリ、と
これ以上込める必要のない握力が、より一層込められていく。
「なんで?なんで私なの?あなたと私が同じなら、なんで私だけみんなと一緒にいられないのよ!!」
慟哭。
何に対する叫びとか、そう言ったものではない。
これは世界に対する恨み言。
特に、理由などないのだ。
特別理由もないのに、こうしてハズレを引く人間が生まれる。
そこから這いあがるかどうかが、と誰かは言う。
だが、這い上がるチャンスすら失った少女がいた。
それを跳ねのけてこそだ、と誰かは言う。
だが、跳ね除けた結果身体を損耗し失った少女がいた。
それをどう受け止めるかで変わる、と誰かは言う。
だが、どう受け止めようにも絶望以外にありはしない。
次にいいことがあるさ、と誰かは言う。
しかし、彼女に次はない。
だから叫ぶのだ。
誰に届くわけでもない。
誰に言っても仕様のない。
誰に知ってもらおうとかじゃない。
ただどうしようもなく吐き出し、呪い、恨み、妬み、憎む。
どこをどう取り繕ったところで、人間はその本質から逃れられない。
人間にはそう言ったどうしようもないところが存在する。
そして世界にも―――――そういった、どうしようもない不条理が存在するのだ。
「やだ・・・こんなの・・・私は・・・・」
最早、口しか動かない。
涙を流しながら、「自分」が消えていくのを嘆きながら、唯子は泣く。
「そんなの、私だって同じだったわ」
だが、そうだ。
この少女もまた、そんなことはすでに経験している。
「最初は私だった。じゃあ、今度はあなたの番でしょ?」
最早かける言葉に、感情はない。
彼女からそれが消えたのではない。
もう、ただ消えるだけの「自分の代わりだった人形」に、感情などかける必要はないからだ。
これはもうじき自分になる。
ならば、そこに同情など必要はない。
「せいぜい夢想してなさい。幻想を描きなさい。私も、あの地獄の中そうしたわ。でもね、そうしていると次の脅威がやって来るの」
街のみんなを思い出した。
模造兵士が、腹を殴りつけた。
楽しい街並みを思い描いた。
機械のアームが、頭を押さえつけた。
いつもの家族の風景が脳裏に浮かぶ。
獣が襲い掛かって、足にかみついた。
無事に明日が来ると夢を見た。
模造兵士が、容赦なく目を潰してきた。
そこに希望があると手を伸ばした。
腕を、模造兵士が斬り落とした。
大切な人の姿が浮かんだ。
全身を打ちつけられ、彼女は終わる。
「いい?あなたは都合よく覚えてないみたいだから教えてあげる。そんなのはね――――」
「・・・・・」
「そんな幻想、妄想、夢想はね、現実は乗り越えられないのよ」
ドクン
何かが、跳ね上がった。
心臓が痛む。
脳が軋む。
自分から何かが流れていく。
大切なことが、無くなっていく。
そのせいだろうか。
思い出が自分の中を渦巻いていく。
ふと、ある時のなんでもない会話が浮かんできた。
『ねね。戦いの中で、絶対に勝てないな、って思ったことありました?』
それは、誰と交わしたのかも思い出せない会話。
話している相手の顔もわからないし、顔を見ても判別できないだろう。
『そりゃ、あるさ』
相手の声が誰かもわからないが、それが答えた。
『相手は俺より強いなんてざらだったしな』
『でも勝ってんじゃん』
『そりゃ、いろいろなモノが味方してくれたからな』
『仲間?』
『まな。でも、仲間って言うのだけだと説明できないな』
『うん?どゆことです?』
『仲間の助けってのは重要だ。でも、その仲間がいてもどうしようもなかったとき、世界は応えてくれた。力を貸してくれたんだ』
『世界って残酷とか言ってなかったです?』
『そうさ。世界は残酷で過酷だ。でも、それに立ち向かおうとしたときに、仲間と一緒に必死になったとき、それは決して無視されない』
『そんなまたまたー。気持ち一つでそんな事が出来るなら、誰だって負けませんよ~』
『確かにそうだ。ただの気持ち―――幻想とか夢想なんかじゃ現実を変えることはできない。でもな』
そういうと、銀に輝く白の光の中、男はこう答えたのだ――――――
ガシッッ!!!
「な、ツゥッ!?」
ブレイカーの腕に、激痛が走る。
唯子の腕が伸び、その上腕を今にも潰さんがごとく握りしめている。
「放せ!」
その腕を、蹴りで払うブレイカー。
だが唯子の腕はあきらめず、弾かれてもなお、今度はブレイカーの頭を掴み取った。
「幻想や――――夢想なんかじゃ現実は乗り越えられない」
そんなことは知っている。嫌というほど経験した。
どれだけ自分が想っても届かず、結局故郷は壊滅した。
身体を張っても、想い人は直接、その時には自分の元に帰ってこなかった。
想いは儚い。
その場で砕けて、消えてしまうそうな程に儚い。
叫び、刻み、握りしめても、その気持ちは霧散していく。
それが心で、感情だ。
その場限りの起爆剤。そんなもので、強固な現実を乗り越えられるはずがない。
でも
「幻想や夢想は現実を変えられない。けど!!」
ブレイカーから、失われたモノが唯子へと再度流れていく。
戻っていく唯子は、涙声ながらに叫んだ。
「確かに現実は変えられる。変えることができる。その強固な現実を乗り越えるというそれは、人の想いがなければ始まらない」
『人の願いがなかったら、現実を乗り越える強さは絶対に生まれないから―――――』
「だから、私は・・・・・絶対に、諦めないんだ!!!」
「そんな・・・・吸い取ったモノが逆流して・・・私の域まで・・・!?」
ブレイカーの腕が降り、唯子の足が床に着く。
直後ブレイカーが思わず手を離す。
ユラリと立つ唯子を、ヨロリとしたブレイカーが睨んだ。
「どうして」
「・・・・・・・」
唯子は答えない。
体力がないからなのか、ただ黙っているのか。
その唯子に、繰り返しブレイカーが叫ぶ。
「どうしてだ・・・どうして、私から何も奪わなかった!!」
唯子の逆流は、そのままブレイカーの者を吸い取ることまで可能な域にまで達していた。
だが、そこに至ってそれを止めたのだ。
それはなぜだと、ブレイカーが叫ぶ。
これは椅子取りゲームだ。自分と奪い合う戦い。
ならば、ここで全てを吸い出せば唯子が残る。
それを止めたのは、なぜか。
「だって、私はもう貰ってるから」
「・・・・!!」
唯子はすでに貰っている。
ブレイカー・綺堂唯子が死んだときに、すでにその全てを。
だから、奪うわけにはいかない。
これ以上彼女から、奪うわけには。
「でも、奪わせるわけにいかない」
これは、わたしだから。
戦い、泣き、走り、叫び、眠り、目覚め、駆け抜けた。
何がどうであれ、これまで自分が経験してきたことは、間違いなく自分の物だ。
自分はクローンかもしれない。
いや、その可能性の方が高いだろう。
だがどちらが、などというのは本当に問題ではないのだ。
「私は、今までの戦いを」
身体が痛んだ。
「今までの、涙を」
胸が痛んだ。
「今までの、後悔を」
記憶が圧し掛かる。
「今までの、怒りを」
脳が破裂する。
「そして、今までの幸せを、諦められない」
全てが大切になった、あの瞬間を。
「一体どれだけのことがあったとしても、この道を歩いてきたのはこの私だ!!本来だとか元はだとか、そんなことじゃ諦められないことが、いっぱいあるんだ!!捨てたいことだってある、忘れたいことだってある。手放したくないことも、失くしたくないものも!!そのひとつ残らずが私の物だ。確かに、私がここにいるのは運かもしれない。本当は貴女がここにいるべきだったのかもしれない。でも、それを言うのなら私にだってその権利はある。私自身が歩いてきたんだから、それを奪わせるなんてことは絶対にできない!!!」
「・・・よく言ったわ」
唯子の叫び。
それは、ブレイカーを決心させるに十分すぎるものだった。
「あなたの分は、他でもないあなたが抱えて逝きなさい。私は、この先をここから歩む」
「そうね。でも、ここから先を行くのは私よ。私の道は、絶対に譲らない」
覚悟が宿る。
信念が立つ。
誇りが輝く。
これまでの、そして、これからの。
全てを賭けた、綺堂唯子の戦いが始まる。
『よく言うた』
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「おいおい・・・嘘だろ」
教室から顔をのぞかせ、窓から校庭を覗き見していた翼刀が冷や汗を垂らす。
校庭にいる人間は、五人だった。
今では、六人になっている。
六人目。
間違いなくサーヴァント。
翼刀は、そいつを知っている。顔を合わせたこともある。
だが、会ったことはあっても初対面だ。
その男は
「全身が影に覆われていて・・・・」
その男は
「顔が隠れるようにうすぼんやりと見えていて」
その男は
「自分も世界も失って彷徨う怪物」
その男は
「世界を喰らう・・・か」
《VOOOOOooooooooooooooooooooooooooRAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!》
大気が咆哮したかのような雄叫び。
ビリビリと窓ガラスが振動し、建物にヒビが入る。
思わず耳を抑えた翼刀だが、その男から目が離せない。
この男こそ、最強。
奇跡失くして、蒔風はこの男に勝てず。
破滅失くして、この男は語れない。
彼のものに名は無し。
しかし、誰もがそう言うとこの男のことを思い浮かべた。
故に、人々は男のことを―――――唯、「奴」とだけ呼んだ。
「マジかよ」
短く悪態。
だが、そうは言ってもしょうがないだろう。
パンパンと頬を叩き、教室から身を乗り出す翼刀。
「む」
それを見て、六人の視点がこちらに向く。
正直、怖い。
五人の翼人を抑圧してやっとなのに、そこに抑圧のきかない「奴」が現れては勝ち目がないかもしれない。
でも
「やるって、決めちまったんだよなぁ」
足を窓枠に乗せ、そこから自由落下して行く翼刀。
着地し、肩を鳴らしながら拳を締める。
「さて、と。親父の次は、かるぅ~く伝説、超えてみるか」
歩む。
向かうは、最強の六人。
ならば、こちらは
「かかって来いよ。今は・・・・俺が世界最強だ」
to be continued
後書き
最初にフォンをちょちょいと出して、後は唯子と翼刀の交互。
唯子の決心叫びシーンは、ずっとFate/Zeroの「rule the battlefield」流してました。
それにしても、唯子のダークさに比べると翼刀の方はまだマシですね。
結局、作者はどっちがクローンでどっちがオリジナルか決めてません。
ブレイカーオリジナル説は劇中通り。
唯子オリジナル説は、本編中で彼女は思いつかなかったようですが一応あります。
ようはボロボロになった身体を治すために、クローンを作ってそれを使って移植したってことです。
不動拳使えるのはサーヴァントとして召喚された際、現在の綺堂唯子と情報が混在したから。
どっちがいいかは、読者の皆様に任せます。
作者は明言いたしません。
にしても、フォン早く倒さないときりがないなぁ・・・・
「逆に考えるんだ。別に倒さなくってもいいさと。生き残りルート行っちゃいなよと・・・・」
ジョースター卿!!!
アリス
「いえ、私です」
おまえか
というわけで、この辺で
翼刀
「次回。俺と唯子の」
唯子
「妄信劇―――じゃなかった猛進撃!!」
翼刀
「そっちシャレにならねェから!!」
ではまた次回
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